小中学校教職員の勤務時間に関する見解
 
 教職員は今、教育困難の広がりと深まりの中で一層の長時間・過密労働を余儀なくされ、休息も休憩も犠牲にしなければならない状況におかれています。さらに、慢性的な人員不足の中で、年休権もほとんど行使できず、通院をはばかり、病状を悪化させたり、死亡したりするなど、健康破壊がすすみ、命さえおびやかされる事態となっています。
 学校は、子どもたちが在校し、学び、生活している時間のすべてが教育活動として展開されています。そして、この教育活動は学校に働く全ての教職員によって組織的に行われています。この意味で、教職員の勤務時間の問題は、子どもたちの学校生活全般と密接・不可分のものであり、子どもたちにとっては重要な教育条件となっています。この教職員の勤務時間については、学校という特別な勤務条件のもとで、30年もの間にわたって、現行の勤務時間の割り振りが全ての学校に定着してきました。ところが今、その勤務時間をめぐって、文科省の指摘・指導のもとでいくつかの重大な問題が浮上しています。
 一つは、教職員の休息・休憩時間をめぐる問題です。いうまでもなく、教職員は子どもの在校時間には本来の休息も休憩もとれないという特別な勤務条件のもとにおかれているのが現状です。自身の昼食すら、給食指導をしながらとるという、他の職種には類のない状況でとっているのが現状です。さらに、子どもの安全等を考えれば、授業中、放課中を問わず、15分間の休息すら本来の意味でとることは不可能というのが現状です。このように、昼の時間帯に休憩時間が自由利用の原則通りにとれる職場での休息時間を含めた勤務条件と、市町村立小中学校における休息・休憩時間を含めた勤務条件は、そもそもの前提が全く違うことは誰の目にも明らかです。それを同列で論じることは許されません。したがって、30年間にわたって全ての学校に定着してきた現行の勤務時間の割り振りには、学校現場の独自の歴史があります。学校現場の休息・休憩のあり方について考えるとき、この独自の歴史と学校という職場がもつ勤務条件の特殊性に基づいたものでなければなりません。仮に、子どものいる時間帯に新たに教職員の休息や休憩時間を入れるとすれば、学校の教育活動に重大な支障をきたすことになります。教職員は、そのしわよせを子どもに向けることはできないため、結果として休息・休憩時間をとることなく、連続した勤務を強いられることになります。今でも健康破壊が深刻な教職員の勤務環境はますます悪化することになります。そして、その結果のしわ寄せは、結局子どもたちにも及ぶことになり、教育条件の悪化につながることになります。また、自己の時間として自由に利用できる休憩時間は、労働基準法で必ず与えなければならない時間として、使用者(校長)が義務づけられている時間です。労働基準法のこの規定は、違反に対する罰則規定も定められている重い規定です。だから、割り振られた休憩時間にやむを得ず休憩がとれなかった場合は、必ず、他の時間に休憩時間が与えられなければなりません。そして、休憩時間は原則として一斉に与えられなければなりません。他の人が働いているときに休憩を割り振られても現実にとりにくく、確実に休憩を与える保障にならないことからこの規定があります。特に学校現場においては、子どもたちが休憩中の教職員とそうでない教職員を見分けることは不可能なことからも、重要な原則として受け止める必要があります。例外として一斉に与えないことができるようにした条例改正の際の説明会において、県当局が「一斉付与が原則」と説明したことは至極当然のことです。
 二つは、長時間・過密労働の問題です。今日、教職員の労働時間の実態は、さまざまな調査によっても、一日平均9時間を大きく上回り、家への持ち帰り仕事も増えつつあります。しかし、労働基準法は32条2項において、「使用者は、休憩時間をのぞき1日につき8時間をこえて労働させてはならない」とし、同法119条で「6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金」という違反した場合の罰則を付けて、8時間をこえる労働を厳しく禁止しています。こうした中で、「教員には、給特法(給特条例)よって4%の教職調整額が出ているのだから、超過勤務は当然」という誤った解釈をする管理職がいます。しかし、給特法第7条は、教員の超過勤務を原則として禁止しています。そして、4%の教職調整額を支給する代わりに、労働基準法37条の時間外勤務割増賃金の適用外とされましたが、同時に超過勤務を命ずることのできる範囲を4項目に厳しく限定しました。つまり、給特法は、超過勤務を厳密に規定し、原則として8時間を超える労働を禁じている法律であることはよく知られていることです。このことは、給特条例に基づいて校長の管理義務を位置づけた全国初の判決として注目を集めている、愛知県と大府市に対して損害賠償を求めた「時間外勤務強要深谷訴訟」の名古屋高裁控訴審判決(2002.1.23)において、「ところで、昭和46年に給特条例が制定され、愛知県下の公立学校の教職員については、それまで適用されていた労働基準法37条の時間外、休日及び深夜勤務による割増賃金に関する規定は適用されないものとされ、これに代えて、新たに、俸給月額の4%に相当する額の教職調整額が支給されることになった。しかし、これにより、教員が本来の勤務時間を超えて勤務することが当然であるとされたというような運用をすることは、同条例7条2項が時間外勤務を命ずることができる場合を、@生徒の実習に関する業務、A学校行事に関する業務、B教職員会議に関する業務及びC非常災害等やむを得ない場合に必要な業務、の各業務に従事する場合で臨時又は緊急にやむを得ない必要があるときに限った趣旨を没却するものとして、許されるものではないというべきである。」(判決文15ページ)と断じていることからも、明々白々です。
 このような重大且つ深刻な問題を含む市町村立学校教職員(県費負担職員)の勤務時間の割り振りについて、権限と責任を持つのは市町村教委です。市町村教委はこの権限を各校長に委任し、各校長はこの権限委任にもとづいて、各学校の実態をふまえて、勤務時間の割り振りを定めることになります。2000年4月の地方分権改革で、県教委と市町村教委が対等自立の立場に立ち、それまで県教委が指揮監督してきた権限を再配分し、市町村教委の自主性・自立性を保障しました。これにより、市町村立学校教職員の勤務時間の割り振り権限を拘束する県教委の指揮監督等の権限はなくなりました。しかし、県教委には、給与の支出権者の立場から、勤務時間が適正なものになるようつとめる重要な責任があると考えます。
           愛教労「小中学校教職員の勤務時間に関する申し入れ」(2002.3.7)より
 
 以上のことをふまえて、全ての教職員のいのちと健康を守り、より文化的で豊かな生活をめざし、子どもたちにゆきとどいた教育を保障していく立場から、以下のことを県教委に対して、愛教労を通して申し入れしています。
 
1.休息・休憩は一斉付与を原則とすべきことを明確にし、誰もがきちんととることができる条件整備をはかること。また、割り振られた休息・休憩時間にやむを得ず休息・休憩がとれなかった場合、使用者(校長)は必ず、他の時間に休息・休憩時間を与えなければならないことを明確にすること。
 
2.1日につき8時間をこえる勤務は違法であることを明確にし、そのための条件整備をはかること。また、やむを得ず8時間を超えた場合は、使用者(校長)は必ず勤務時間の割り振りを行い、解消しなければならないことを明確にすること。
 
3.学校現場における勤務の特殊性と30年にわたって定着してきた勤務時間の割り振りをふまえつつ、教職員の長時間過密労働を解消していくための条件整備をはかること。
 
4.1,2,3のことが実現できるよう、文部科学省に改善を求めること。
以上