アピール 教科書に真実と自由を
一,日本が過去の侵略戦争のなかでおかした犯罪行為については,すでに戦後の歴史学の研究によって数々の事実が明らかになっています。ところが,いま教科書を誹謗攻撃している人々は,これらの事実をなんの学問的証明もなしに否定しようとしています。こうして日本の戦争犯罪を否定するだけでなく,日本のアジア諸国にたいする侵略と植民地支配を自衛のためとして正当化しようとするものだけに,ことは重大です。戦後の歴史学研究の蓄積と,教科書検定批判の世論の高まりによってようやく教科書にも書かれるようになった諸事実を,教科書から消し去り,子どもたちの目から蔽い隠そうとするならば,侵略戦争への反省は行われなくなり,ふたたび過ちを犯すことにつながるでしょう。そして,アジアをはじめとする諸外国の信頼を失い,将来にわたって真の平和的な友好関係を損なうことになるでしょう。
二,教科書を攻撃する人々は,「従軍慰安婦」問題の全体を,用語の問題や徴募のさいの強制連行の有無の問題に小さく限定し,この問題の全体を示す多くの証拠や証言を無視したり,根拠もなしに否定しています。さらに,元「慰安婦」の方々にたいし,「商行為」だった,証言は信用できない,補償要求は金もうけ目当てだ,などの暴言を吐きつづけています。これは許しがたい人権蹂躙の行為です。日本国憲法が明確に規定し,今日国際的にも最重要の価値基準とされている基本的人権についての認識を,かれらがまったく欠いていることを示しています。とくに第四回国連世界女性会議で採択された「北京宣言」に照らしても,これらの暴言は女性の人権に敵対するものであることは明らかです。
三,これらの誤った主張に呼応し,それをひろげるために,右翼団体は,文部省や教科書会社にしばしば押しかけて脅迫的言辞をあびせてきましたが,その後,教科書執筆者や教科書会社社長の自宅に,家族までも対象にしたテロ行為を暗示する脅迫状を送りつけるまでにいたっています。このように,言論・出版の自由を暴力によって脅かし,筆をまげることを強制することは,民主主義社会において断じて許すことができない行為です。
四,昨年末以来,各地の自治体議会で,「従軍慰安婦」などの教科書記述の削除を求める意見書を採択させる運動がはじまり,そこでは自民党・新進党議員がそれを積極的に推進する役割をはたしています。教育内容は,学校現場で教育にたずさわるものを中心に,学習すべき事実と教育実践についての自主的な研究にもとづき決められるべきものです。議会決議のような政治的圧力によって教育・教科書の内容に干渉することは許されません。まして,文部省の検定強化によって教科書の内容を変えさせようとすることは,教育の自由を侵し,時の政府の意向によって教育をゆがめるものです。
五,教科書を攻撃する人々は,軍隊も戦争も否定すべきではないと主張しています。戦後つちかわれてきた日本国民の平和意識を敵視し,国のために戦って命を犠牲にすることは意義のあることだとさえ言いはじめています。かれらが侵略戦争を正当化し戦争犯罪を抹殺することに執念を燃やしている真の目的はここにあります。かれらは,「国益」を強調するのみで,世界の平和のためにこそ貢献しようとする考え方がありません。これは日本国憲法の平和原則のあからさまな否定であり,世界をふたたび戦争の惨禍へと導きかねない,きわめて危険なうごきといわなければなりません。
私たちは,国民のみなさんに訴えます。
教科書の執筆・編集の自由が守られ,真実が隠されることなく記述されるようにしましょう。
侵略戦争への反省から生まれた日本国憲法の平和原則が,これからもますます輝きを増し,それによって世界に永続する平和を実現するようにしましょう。
そのために,最近の教科書にたいする誹謗攻撃のうごきの危険な実態をみきわめ,これを批判する世論をさらに大きくしましょう。
1997年3月25日
「教科書に真実と自由を」連絡会
ご意見をお待ちしています
take0164@mxh.mesh.ne.jp
ご意見をお待ちしています
take0164@mxh.mesh.ne.jp