認知症の人の介護の基本(編者の考え)

認知症の多くは治癒しにくく、アルツハイマー病のように進行性の疾患も少なくありません。このため認知症の人の介護ですが、「証拠に基づいた介護」は少なく、在宅、介護施設、医療機関での介護について編者の「経験に基づく介護」によりその基本を述べます。

しかし日々の介護は介護者も人間です、健康状態、人間関係、経済状態などによって分かっていてもできないことがあります。

 

A.認知症の状態を知る

認知症の基本的な状態は記憶障害を中心とした認知機能の低下です。認知症と診断の人の認知機能の程度とその内容を知る。認知機能のなかで低下した機能と残存している機能とを把握します。認知症の人の言動は、認知機能の低下に加え、その人の性格、生活習慣、生活暦が反映されるので、これらについても知っておくことは認知症の人の言動を理解し適切な介護を行ううえで大切です。

 

B.残存能力に働きかける

低下した機能ではなく、残存している機能に働きかけます。認知症の人にとって困難なまたは不可能な機能についてはできないこととしてそのつど着替え、排泄の援助、食事の介助、「火の用心」の張り紙をするなどして機能低下を補います。残存している古い記憶、歌、書画、編み物、掃除などに積極的に働きかけます。こうすることで認知症の人が自己評価を高め精神的に安定することが少なくありません。

 

C.感情に配慮する

認知症の人は、認知機能が低下していても人間として感情は豊かに残っています。この感情に注意深く配慮します。プライドを傷つけない言葉使い、失敗しても注意はするが叱らないなどの対応をします。感情が残っている認知症の人は、生活の場の「雰囲気」という環境に敏感です。情報が乏しく判断に迷う殺風景な環境でなく、認知症の人にとって「馴染みの環境」を作ることも重要です。

 

D.「生けている世界」を受け入れる

認知症の人のなかには記憶が遡って失われ「昔の世界」に生きているような状態になることがあります。朝起きると「会社に行く」と言い張る退職して久しい元会社員、夕方に子供が帰ってくると夕食を用意しようとする高齢の女性がいます。現在生きている現実を説明する試みもよいが、「会社に行く」と言う場合「もう会社に行かなくてもよい」と言うのではなく「今日、会社は休みです」と言うことで認知症の人の「生きている世界」を受け入れることで精神的な安定がえら得ることが多い。

 

E.環境を整える

認知症の人の残存した認知機能、感情および「生きている世界」に合わせた環境と整えます。その時々に簡単に判断できるように病室、便所、食堂などと書いた紙を貼り、「生きている世界」に相応しい昔の民家風の住環境、私服の医療職など認知症の人に相応しい環境を整えます。

 

F.個別的な介護をする

認知機能、感情、「生きている世界」、性格、生活習慣、生活暦および身体状態は、個々の認知症の人によって異なる。認知症の人のこうした状態に基づいた個別的な介護をすることが基本ですが、施設では集団的な介護と個別的な介護を組み合わせるのが実際的でしょう。

 

G.身体状態を把握する

認知症の人は自らの身体状態を的確に訴えることは少ない。「元気がない」「食べる量が少ない」「歩きたがらない」などの状態が、肺炎、重度の貧血、骨折のことがあります。「どうですか」ではなく、「息苦しいですか」「吐き気がしますか」「右足が痛いですか」など「はい」または「いいえ」で答えられる問いかけをすることで早期に身体状態を把握します。

また認知症、特に脳血管性認知症の危険因子をもっている認知症の人では高血圧、糖尿病、高コレステロール血症などの管理および脱水の予防や治療も認知症の介護の一部として忘れてはなりません。

 

H.身の安全に守る

認知症の人は自分から身の安全を守ることができにくくなります。廊下での転倒、階段での転落、浴槽での溺水、道路での追突事故などによる時に致命的な外傷も少なくありません。物理的バリアーが少なく、注意書きの貼り紙をするなど安全な住環境の整備、ベッド横の「セッサーマット」、出入り口の「「徘徊探知機」の使用などで身の安全を守ることも重要な介護です。但し、「安全のため」にと身体拘束につながらないような工夫、容易ではありませんが、身の安全と身体拘束の禁止を両立させる工夫をしましょう。

 

I.周囲の理解を得て、地域のサービスを利用する

在宅介護は家族一人で続けられるものではありません。親族、近所の人たちの理解を得ることだ支援をしてくれるでしょう。また地域にある介護保険サービスなどを利用しながら無理のなり介護を続けましょう。在宅で看続けると決め付けないで、余裕があれば在宅で、余裕がないとサービスを利用してと柔軟な介護がよい。

 

J.介護者自身を介護する

認知症の人の介護は試行錯誤の連続で対応が困難なことも多く、また報われないことが少なくありません。このため介護者は心身の疲労が募り、時に「燃えつき状態」になることも稀ではありません。その結果、介護に余裕がなくなり、認知症の人への不適切な介護や虐待が生じやすくなります。「介護者を介護する」ことは認知症の人の介護を進めるうえで重要です、デイサービスやショートステイを利用したり、介護者がチームで相互に支援する体制が必要です。

 

K.人権を守る

認知症の人は法的に十分守られているとはいえません。介護施設や医療機関での身体拘束の廃止は容易ではありません。また暴力、無視などの虐待もあります。在宅でも同じような状況や事件が起っています。成年後見制度や地域福祉権利擁護事業を利用しながら、介護のなかで認知症の人の人権を守ってゆきたいものです。