三宅貴夫著

 
(2017年2月4日改定)

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数字
略語英語




アミロイド・カスケード仮説
アルツハイマー病の発病過程で最も有力視されていう仮説。脳の神経細胞に遺伝要因や環境要因などによりアミロイド前駆体タンパク質(amyloid precursor protein=APP)が、αおよびβセクレターゼで切断されβアミロイドが産生、蓄積してアミロイド斑ができます。このアミロイド斑は毒性をもち神経細胞を死滅させ神経原繊維変化を生じさせることでアルツハイマー病が発症するとされる仮説です。
現在、この仮説に基づく薬がアルツハイマー病の根本治療薬として開発されていますが、まだ治療薬は見つかっていません。英語でamyloid cascade hypothesis といい、cascadeカスケードは滝の意味。(右図はclinician 2001 No498 26の田平武「アミロイド仮説」より)

アミロイドベータ蛋白
アミロイド蛋白は全身の臓器に蓄積されることがあるが、このうちアミロイドベータ蛋白(またはベータアミロイド蛋白)が脳の神経細胞外に蓄積してできるアミロイド斑が神経細胞の働きを阻害してアルツハイマー病が発症するとされます。

アミロイド斑
アルツハイマー病の脳に認められる病変で神経細胞外にアミロイドベータ蛋白が蓄積したもので「老人斑」とも呼ばれていました(写真右)。

アリセプト
アルツハイマー病の治療薬の「塩酸ドネペジル」の商品名。アルツハイマー病の脳にはいろいろな変化が起きていますが、そのひとつとして神経伝達物質のひとつであアセチルコリンが減少します。脳の神経細胞と神経細胞との刺激の橋渡しをするアセチルコリンを分解する酵素―酵素アセチルコリン分解酵素―の働きを抑え、アセチルコリンの働きを高めるものです。アルツハイマー病の軽度から重度の人に有効で、知的機能の改善が見られます。ただし、誰にも有効ではなく、また効果は一時的で平均6カ月から2年有効です。
保険診療が処方され保険薬で、副作用は比較的少なく主に嘔気や下痢あるいは興奮です。この副作用を少なくするため、当初効果のない3mgの薬を2週間服用した後、副作用がなことを確認し効果のある5mgの薬の服用し、さらに症状に応じて10mgに増量します。アリセプトはアルツハイマー病と診断された本人や家族に薬の利点、限界、副作用の説明を受けた後、服用します。「落ち着いてきた」「買い物ができるようになった」と驚くほど有効な場合もあります。
アリセプトは、我が国の製薬会社エーザイが開発した薬ですが、日本での臨床試験の条件が整わないため、先にアメリカで臨床試験が行われその有効性が確認され承認され、その後世界各国で承認されています。最後に1999年日本で承認されました。アリセプトの利点は、1日1回の服用でよいことと副作用が少ないことなどから、他の同種の薬より群を抜いて世界的に広く使われています。
効果が限定的で安価でない薬(2007年12月現在アリセプト錠10mgが792.70円/錠)でその費用対効果も考え感がなければなりません。現に、イギリスでは高価な薬の割りは効果が限られていると国民保健サービス制度(NHS)で使用が制限されています。
アリセプトは過渡的な薬として位置づけ、アルツハイマー病の根本的治療薬の開発を期待したものです。

アルコール性認知症 
長期に多量の飲酒を続けていると認知症の状態になり、物質起因性持続性認知症の一つとであるアルコール性認知症になることがあります。アルコールそのもの影響かビタミンB1の欠乏によるとも考えられています。ビタミンB1の補給や断酒すれば認知症が改善することがらいます。

アルツハイマー病
わが国では認知症の原因のおおよそ60%を占める進行性の中枢神経の疾患です。1906年にドイツの精神科医アロイス・アルツハイマー(Aois Alzheimer)(写真右上)がこの病気の経過と脳の顕微鏡的変化などを初めて報告したので彼の名前がつけられました。当初は65歳未満の比較的まれな病気と考えられていたが、高齢者に多い「老年痴呆」と呼ばれる病気と基本的には同じものであるとみなされ、現在は年齢に関係なくアルツハイマー病と呼ばれ、これによる認知症をアルツハイマー型認知症といいます。
アルツハイマー病は、年齢と共に有病率が高くなりますが、症状はいつとはなしに発病し、進行します。進行の仕方はさまざまで急速に進むアルツハイマー病もあれば、あまり進行しないアルツハイマー病もあります。その経過の多くは5年から10年ですが、20年間近く生きる人もいます。症状は、通常記憶障害で始まり、判断が障害され、失禁や失語が現れ、末期になると行動が緩慢となり、横になることが多くなります。感情も乏しくなり、喜怒哀楽の表情もなくなり、嚥下障害が現れ食べたり飲み込みができなくなります。こうした状態のままでは衰弱死します。アメリカでは死因の第7位です(2009年)                                                                               
1)原因
原因は不明です。アルツハイマー病の人の脳にはアミロイド斑(写真右中)や神経原線維性変化(写真右下)とよばれる変化を認められ、前者にはアミロイド前駆蛋白から生成されるアミロイドベータ蛋白が、後者には異常タウ蛋白が関与しているという説(アミロイドカスケード仮説:アミロイド蓄積→神経原変化線維→神経細胞死)が有力です。また遺伝、活性酸素、炎症、ホルモンなどが複合的な要因として絡んで発病、進行させるとも考えられています。さらにアルツハイマー病では脳の神経伝達物質が減少し、また神経細胞の働きが衰え細胞数が減少し脳萎縮が起こります。
2)診断
診断はDSM−Wのアルツハイマー型認知症に診断基準による。その概要は以下のとおりです。
 @記憶障害がある
 A失語、失認、失行、実行機能障害のどれかがある
 B@とAのために職業や社会生活に支障をきたす
 Cいつとはなしに発病し進行性である                                                        
 D脳血管障害などの他の脳の疾患によらない
 E意識ははっきりしている
この診断基準のD以外は症状や状態だけで判断できますが、Dについては医学的な診察診断が必要となります。具体的にはCTやMMRIなどの画像検査や血液検査を行い、他の疾患によらないと除外診断します。また長谷川式スケールなどの心理テストを行います。しかしもっとも重要なことは経過と現在の状態を正確に把握することです。死後解剖の脳の所見のほかアルツハイマー病を確定診断できる方法は現在はなく、症状と検査から総合的に診断します。脳脊髄液中のアミロイドベータ蛋白やタウ蛋白がアルツハイマー病の指標(アルツハイマー病マーカー)として注目されてはいますが、まだ診断の補助です。
3)危険因子と予防
欧米および日本でのアルツハイマー病の疫学的調査結果によると、危険因子として@年齢 A性別 B遺伝 Cアポリポ蛋白E4 C高血圧 D高脂血症 E糖尿病 E肥満 Fホモシスティン Gタバコ H頭部外傷などが認められ、保護因子として @魚 Aビタミン(C、E、葉酸、ニコチン酸) B抗炎症剤 C女性ホルモン D飲酒(適量) E運動 F趣味などが認められています(ただし否定する報告もある)。これらはすべて非介入の追跡調査による結果で介入追跡調査ではなく、どの程度コントロールしたらアルツハイマー病が防げるかどうかよくわかっていませんが、危険因子を減らし、保護因子を増やすことでアルツハイマー病の一部を予防することができそうです。
4)遺伝
最近病気の遺伝についての研究が広く行われ、アルツハイマー病も例外ではありません。その結果、アルツハイマー病の遺伝についていくつかのことが解明されています。しかしその多くは65才未満で発病する若年期アルツハイマー病についてです。確かに、若年期のアルツハイマー病は兄弟の間で発症しやすいなど「家族性アルツハイマー病」と呼ばれる疾患があり、遺伝的な関係は以前から指摘されていました。
現在4つの遺伝子が確認されておりますが、これはわが国でもアルツハイマー病のごく一部で数%です。ただしアルツハイマー病になりやすい因子であると言われているアポリポ蛋白E4については高齢期のアルツハイマー病の要因として無視できないと言われています。こうした病気の遺伝の研究は今後もどんどん進んでいくでしょう。
これは遺伝の最も基本となる核酸(DNA)の研究技術が開発されたことが背景にあります。これによっていろいろな病気の遺伝的背景が明らかにされつつありますが、その結果が治療につながることはごく一部でほとんどは原因の解明や診断に役立っているだけです。その結果、家族内に若年期アルツハイマー病が出た場合の他の家族への発病の心配、社会的な偏見や差別の助長など研究が進むことの不利益と思われることも少なくありません。しかしアルツハイマー病の遺伝の研究は今後とも進み、原因究明や治療につながる可能性があるので、研究と同時に患者や家族への「遺伝相談」などの体制をつくることも同時に進めて行くべきでしょう。
5)治療
@薬物療法
アルツハイマー病の薬による治療は、ドネペジル(商品名:アリセプト)、リバスチグミン(同イクセロン)、ガランタミン(同レミニール)があり、これはどれも脳内の神経伝達物質であるアセチルコリンを補なうものです。軽度から重度のアルツハイマー病に有効です。服用方法、効果、副作用において最も優れている薬はアリセプトと考えます。
この他に、アルツハイマー病の薬として前期の薬と作用が異なり対象を中程度から重度のアルツハイマー病とするメマンチン(商品名:メマリー)があります。
いずれもアルツハイマー病の進行を抑えたり治すものではなく、症状を一時的に改善するだけで効果期間も限られています。アミロイド蛋白の産生を阻害する作用のある根本的治療薬と思われる薬の臨床試験が行われています。
A非薬物療法
音楽療法回想法リアリティーオリエンテーション、ガーデン療法、ペット療法、芸術療法、アロマテラピーなど試みられていますが、アルツハイマー病の症状を軽快する効果はあると言われていますが、科学的に証明されたものではありません。

アポリポ蛋白E
アポリポ蛋白Eは、肝臓や脳の神経細胞を取り巻く細胞(グリア細胞、シュワン細胞)で産生される蛋白の一種です。この蛋白には、3つタイプ(E2、E3,E4)があり、これに対する遺伝子が第19番目に染色体にそれぞれε2,ε3,ε4としてあります。この遺伝子のなかでε4が家族性アルツハイマー病に多くみられ、また家族性でないアルツハイマー病にも認められアルツハイマー病の診断指標また発病の危険因子として注目されています。しかしε4も持たないアルツハイマー病の人もあり、ε4はアルツハイマー病の原因というよりは発病を促進さる働きがあると理解されています。

ルツハイマー病協会
世界各国にあるアルツハイマー病認知症に関わる介護者中心の民間団体の名称です。英語ではAlzheimer's Associationnoの名称が一般的ですが「アルツハイマー病と関連疾患の協会」などと呼んでいる団体の国もあります。活動目的や内容は、似通っており、アルツハイマー病等の認知症の人と家族への支援と啓発を主な目的とし、目的にそって介護家族の集い、相談、会報発行、政府への要望、研究への補助、デイケアの運営などが活動内容です。組織は、本部と地域別の支部および小地域の小規模は自助グループなどから成っています。
このような国レベルのアルツハイマー病協会ができたのは1978年カナダが最初で、その後1980年にアメリカ、イギリス、日本で結成されました。さらにヨーロッパ、南北アメリカ、アジア、アフリカ、中近東で国レベルのアルツハイマー病協会が77以上活動しており、こうした団体が集まって国際アルツハイマー病協会Alzheimer’s Disease International(ADI)が成り立っています。団体の目的や活動は同じでも我が国の「認知症の人と家族の会」の名称は唯一でユニークです。

アルツハイマー病協会のロゴマーク例

オーストラリア        イギリス            アメリカ                             フィンランド        




ンフォームド・コンセント 
英語のInformed consentの音訳語で、「説明と同意」と一般に訳されています。胃がんと診断されたとき、医師がその結果を患者または家族に説明し手術で治すか、薬だけで治療するか、なにもしないで様子をみるかなどの治療方針について説明し同意を得ることをいいます。この場合、「説明と同意」では医師の決めた方針について説明しそれに同意を得ることになり、医師主導になってしまいがちなので、「説明と選択」の方がよりよい用語と思います。さらに最近はがんの告知だけでなく死の告知をも含めた「真実を告げる」という言い方をすることもあります。医師がいろいろな病気の説明と治療方法がありそれぞれについて利点と欠点を説明し患者・家族が選択して同意することになり、より患者・家族主導に近くなります。
認知症の場合、アルツハイマー病など認知症について患者自身にインフォド・コンセントを行っているのはまだ少ないが、もの忘れ外来などが普及するなかで本人に告げることが増えています。しかし、多くの場合はそれに代わる者として家族にインフォームド・コンセントを行っています。しかし認知症にも初期あるいは軽度の人もあり、進んでいてもまだら認知症でも認知機能がよく保たれていることもあり、がんと同様に基本的には患者自身に行うべきものと考えます。この際、何時、何処でどのように行うか、また告知下の後のケアについてよく考えなければなりません。しかし認知症が進行してしまうと本人への説明は理解が断片的ななったり不可能になり持続性もなくなり、インフォームド・コンセンは不可となります。この場合、代替として家族へのインフォームド・コンセントとなりますが、家族の誰に、何時、何処でどのように行うかを考えて行わなければなりません。特にアルツハイマー病の末期などの認知症の状態の際の医療方針、延命医療の有無や選択についてインフォームド・コンセントが欠かせません。また認知症の人が進行がんになった場合のインフォームド・コンセントも難しい課題です。

異常行動 
介護家族が「姑の異常行動には困り果てました」と言われことがあります。「異常」という言葉にはいろいろな意味が込められています。「夜、舅が部屋に入ってくると大声をあげる」、「昔、夫が住んでいて今はもうない家に帰ろうとする」といった場合、あるいは入院中の認知症の人が点滴チューブを抜こうとする場合も「異常行動」と言うかもしれません。介護者が使う異常行動というときに「訳がわからない」「理解できない」さらには「正常でないおかしい行動」という意味で使われているようです。
このことは、異常行動とみている介護者が認知症の人の行動を理解しているためかもしれません。しかし認知症の人の行動をみていると、その多くは理解でき、認知症であればこのように思うだろうとその言動の背景が理解できることがあり、そうして行動が「異常」ではなく認知症の人にしてみれば「正常」と思えることもあります。
「異常行動」に近い用語として「問題行動」があります。これは介護する側にとって問題な行動という意味で使われることが多いようです。

「家へ帰る」  
症状
認知症の人が病院や介護施設に居て「家に帰る」と言うだけでなく、住み慣れた家にいても「家に帰る」と言い張ることがあります。夕方になると「お世話になりました.家に帰らせていただきます」と他人行儀な丁寧な言い方で既に存在しなり自分が生まれた「幻の家」に帰ろうとします。その後、外出して道に迷うこともあり危険です。これを「徘徊」と呼ぶことがありますが、適切な表現とは言えません。
背景
自分の家にいると思いつつも雰囲気や居心地が悪くて「家に帰る」と言いたくなるようです。病院に入院したり高齢者ホームに入居している場合、何のためにそこに居るのかと抽象的な判断ができず家へ帰ろうという気持ちになるようです。住み慣れた家にいても家に帰ろうとするのは、過去に生きるという心理状態から生じるようです。たとえば80歳の認知症高齢者が過去30年の記憶がなくなるか曖昧になると記憶の確かな50歳の過去に生きることになります。生きている過去と現実が合わなくなり、幻の自分の家に帰りたくなるようです。
対応
認知症高齢者を説得したり叱ったりすると居心地がよくなるようで容易ではありませんができるだけ居心地がよい雰囲気作りや気を紛らわせるようなことをしてみます。家にいても「家から帰る」と言う時は過去の世界に生けている高齢者を説得しようとしても困難でしょう。むしろ高齢者の世界を受け入れざるをえません。「家に帰る」と言ったら外出してもらい,介護者は後をついて歩いてみます。高齢者が歩き疲れた頃を見計らって「今夜は遅いから私の家に泊まりませんか」と誘ってみます。高齢者は歩き疲れているので誘いに従い、夜はよく休むでしょう。しかし同じ行動を毎日毎日繰り返すことになり家族は疲れて家に閉じ込めざるをえない場合もあります。こうした外出が頻繁になる、外出感知機を設定したり、高齢者のプライドに配慮し小さいが他人の目につくように「迷子札」を衣服に縫っていたり、履物の横に自宅の電話番号を書いておくのもよいでしょう。また地域に「徘徊高齢者早期発見システム」があれば登録したり、地元の警察署に連絡しておきましょう。介護施設でも同じような対応で「家に帰る」ということは少なくなるかもしれません。

イクセロンパッチ
リバスチグミン

意味性認知症
語義性失語症




うつ状態
うつ状態とは、気分が落ち込んでいるという抑うつ感情、だるい、頭が重い、食欲がないなどの身体的症状、および不眠のある状態で、考えがまとまらない、もの覚えが悪いと認知症と見間違いことがあります。もっとも認知症の人がうつ状態になることもあります。
うつ状態を便宜的に、躁うつ病としてうつ状態、神経症としてのうつ状態、日常的な心理反応と3つのタイプに分けることができます。
第1のタイプは以前から周期的にうつ状態になる傾向があり、本人もそれとなく状態の変化に気づいていることが少なくありません。このうつ状態には抗うつ剤が有効のことが多い。
第2のタイプは、最近は精神医学では使われなくなった疾患名である「神経症」によるうつ状態(抑うつ神経症)は、出来事をきっかけに性格的な反応があり持続的で生活に支障をある状態で、高齢者では発病、障害、子供や配偶者との離別や死別、転居、施設への入所などがきっかけとなって起こることが多い。このタイプの抗うつ剤と精神療法とを併用する治療がよい。
第3のタイプの日常的に経験する心理反応としてうつ状態は、配偶者の死亡や本人の失禁など神経症の場合ときっかけは同じですが、数時間または数日で改善するものです。多くは「日にち薬」でよくなることが多い。うつ状態の人に接するさいの注意は決して激励しないことです。初めは、共感と受容の姿勢で話に耳を傾けて聴きます。「それは辛いですね」「心配ですね」と相槌をうちます。「そんなことでくよくよしてはだめ。もっと元気をだして」とか「がんばりましょう」とは決して言わないことです。うつ状態が少しよくなれば本人が心配していることは必ず解決する、よくなると保障します。こうして本人が自らの状態について理解し整理ができるのを待ちますが、うつ状態の人には自殺が少なくないので見守りが必要です。
認知症の人もうつ状態になります。もの忘れがひどく情けない、考えがまとまらなく仕事もできないと自分を責めてうつ状態になる事もあります。また、うつ状態はアルツハイマー病など認知症の危険因子とする報告もあります

運転
認知症の人は認知機能が低下しているので自動車の運転には危険を伴います。わが国では2002年の改正道路交通法で認知症が運転の欠格条項とされ、認知症の人は運転免許の取得ができなく、また免許更新もできなくなりました。しかしこれは本人または家族らが警察署または運転免許センターに報告した場合のことであり、実際にこの条項が適応される例は少ないといわれています。しかし認知症の人によると思われる交通事故が後を絶たない現状から、警察庁は免許更新の再に75歳以上の高齢者について運転機能に加え認知機能テストを行い認知症の疑いのある人については医師の診断を求め、認知症と診断されると更新を認めないことになりました。
「認知症高齢者の自動車運転を考える家族介護者のための支援マニュアル」(pdf3M)
海外において認知症の人への運転免許の扱いはまちまちで広く認められた運転免許の許可基準、免許不許可基準はありません。特にアメリカやオーストラリアなど車社会では運転免許証を取り上げられることが市民権の侵害に当たり、生活が成り立たなくる恐れもあり、認知障害の程度臭い応じ、個別的で条件付きの運転制限で対応をしている州もあります。

「運転する」
認知症の人が「運転する」と言い張るときに介護者は対応に苦慮します。認知症の程度に応じて運転機能は異なりますので、最初から鍵を取り上げたりしないで、同乗して危険かどうか判断してみます。限られた地域では、安全に運転できる認知症の人もいます。さらに「運転する」と言い張るが、運転が明らかに危険であると、本人に説明したうえで運転免許証を警察署に提出して運転を辞める方法があります。また改正道路交通法では認知症の人であると免許の更新ができないことになっています。この方法で免許証を所持できないようにする方法もあります。こうして運転しなくなる認知症の人もいます。しかし、免許証をなくても「運転する」という場合もあり、車の鍵を取り上げるか、バッテリーを外して運転できなくする方法もあります。これでも自動車修理に頼む認知症の人もいるので対応は容易ではありません。認知症の人に運転以外の楽しみを見つけて運転のことにこだわらなくなるような工夫も試みてよいでしょう。




嚥下障害
嚥下障害とは広義には口腔から胃まで食物を送り込みことが困難か出来ない状態、狭義には咽頭部にある食塊を胃ま送ることが困難か出来ない状態です。さらに食べ物を口腔の入れるのが困難な場合も含めることがあります。嚥下障害は、脳血管障害で起こることが多いが、アルツハイマー病の末期でもこの状態になることがあります。
身体の仕組みには無意識に働いている部分が多くあります。歩く、つかむ、呼吸する、排泄するなどですが、嚥下もその一つです。
嚥下は口腔内の物が安全で無害でありそうだと神経と筋肉が無意識に働いてスムーズに胃まで送り込みようにできているのです。この際、食魂が咽頭部から食道を通過するときは気管への入り口にある喉頭蓋が連携的に塞がるようになっています。
脳血管障害などではでこうした働きに関係した神経の働きが障害されると嚥下がうまくできなくなります。その結果、食事に時間がかかり、食事量が少なくなり、食魂が食道ではんく気管を通って気管支の方に移動し、ひどくむせたり、肺炎(誤嚥性肺炎)を起こすことがあります。あるいは気管を塞いでします窒息死することもあります。
こうした嚥下障害のある人については、まずどの程度の障害なのか、何が飲み込めてどのような物が飲み込みにくいのかを観察します。一般的に水やお茶などさらさらした物や固い物も嚥下しにくく、半流動物がのみ込みやすい。従ってプリン、ゼリーは比較的よく飲み込めます。調理の面でも工夫して通常食べ物を刻んでゼリーで固めて食べさせる方法もあります。この際注意しておくことが認知症の人に食べ物の好みもあり、味覚は残っていることが多いので、ヨーグルトの嫌いな老人に無理やり食べさせることは避けます。半流動の食物をお粥に全部混ぜてさらに薬まで一緒に入れた物を食べさせるのは控えたいものです。次に食べる場所ですが、居室や病室がよいか、食堂があれば食堂が良いかも考えておきます。また食べる時の姿勢も大切です。仰向けのままでは食べにくく椅子に座るか、ベッドの上で上体を起こして少しで物をのみ込みやすいようにします。また食物は口の少し奥の方に運んだ方が飲み込みやすい。決して急いで食べさせるようなことがないようにします。とはいえ、在宅でも病院でも施設でも限られた人数で限られた時間のなかで食事介助がどこまでできるのかという問題もあります。一人の認知症の人に1回1時間もかかっていては在宅では可能かもしれないが施設では難しくなるでしょう。そこで経管栄養や点滴による栄養補給を始めるかどうかを検討せざるとえないこともあります

エイズ 
後天性免疫不全疾患(Acquired Immune Deficiency Syndrome)の英語略諸語AIDSの音訳語。エイズウイルス(Human Immunodeficiency Virus :HIV)に感染して発病し病気の進行に伴い脳の神経細胞が侵され認知症を示すことがあります。性的接触などによる「伝染する認知症」といえます。最近は薬剤で進行を止めることも可能となりエイズによる認知症は少なくなっていると言われている。

MRI
Magnetic Resonance Imaging(磁気共鳴イメージング)の略称。強力な電磁場の中に身体を置き磁場に対する身体成分の原子核が特定の電波に共鳴して発する電波を検知しそのデーターをコンピューターで処理して断層面の画像として示すのがMRIです。脳などの身体の細部の状態を把握することができCT以上にアルツハイマー病の初期の局所的な脳萎縮や小さい脳梗塞などの把握に優れています。身体にほとんど負担をかけないでできる検査で、CTより少し時間がかかりますが15分ほどの短時間で行えます。認知症の人でも受けやすいが、検査中に安静にできないと検査はできません。わが国ではほとんどの総合病院に導入されている検査機械であり頻繁に行われている画像検査です。




音楽療法
認知症の人が、なじみのある音楽を聞いたり、歌ったり、あるいは楽器を演奏することで精神的安定を図ろうとする療法です。音楽は、人の脳機能の認知面よりむしろ情緒面に働きかけるもので、認知機能の低下した認知症の人にも、影響し、精神的安定な安定が期待され、さらにBPSDの軽減なども意図されます。音楽療法に使われる音楽は、昔の歌謡曲、唱歌、童謡、軍歌、民謡、クラッシックなど特に決まった範疇の音楽はありませんが、一般的には認知症の人が、若い頃親しんだ音楽、あるいは現在聞いても心和む音楽が選ばれます。ある認知症の人にある音楽は相応しく心和むが、別の人には不愉快なこともあります。
このため多くの認知症の人に一律な音楽を聞かせたり、あるいは楽器を使って合奏することは好ましいことではありません。個別的にその人にふさわしい音楽を、本人から聞いたり、家族らから聞いたりします。この音楽療法も効果は一時的で音楽を聴き終わってしばらく穏やかなこともありますが、その後は元の状態に戻ることも少なくありません。このためこうした能動的音楽療法と別に、食事や休憩時に音楽をバックグランドミュージックとして流して聞かす受動的音楽療法もあります。
なお、日本音楽療法学会では音楽療法士を認定し、この療法士は認知症の人らを対象に療法を行っています。同学会では音楽療法を「音楽の持つ生理的、心理的、社会的な働きを用いて、心身の障害の回復、機能の維持改善、生活の質の向上、行動の変容などに音楽を意図的、計画的に使用すること」と定義しています。

往診
患者や家族からの依頼により臨時に患者宅を訪問して診療する行為です。1960年代までは日常的に行われていたが、その後衰退しました。しかし地域医療、在宅医療の重要性が再認識され、また保険診療上の後押しもあり全国的に普及しています。認知症の人の通院は認知症のため困難なことが多く、認知症の人の発熱、腹痛など緊急を要する身体疾患の発病の場合、医師の往診は家族には助かります。このため介護家族は、往診を依頼できる医師を確保しておくのがよい。訪問診療は医師が計画にそって行う定期に訪問する診療であるが、往診と内容的な違いは少なく、保険診療上の扱いの違いです。

オンブズマン
代理人を意味するスウェーデン語(Ombudsman)の音訳語です。スウェーデンでは1809年に世界で初めてオンブズマン制度を設けられました。現在、この制度は行政の違法・不当な活動に国民や市民からの苦情を中立的な立場から調査、勧告することを任務とした代理人の制度とされています。
わが国では、国の制度としては未だなく、地方自治体で1990年に神奈川県川崎市に「市民オンブズマン条例」が制定され、その後いくつかの市、区に制度化が広がっています。これとは別に、各地で民間団体の任意のオンブズマン活動があり、自治体、医療・福祉関係の情報公開や内容の改善を要求したりしています。
福祉オンブズマンとしては、福祉施設のサービス内容の情報公開を求め、サービスを監視する民間団体のオンブズマンの活動が全国各地に広がりつつあります。その一つとして、「あいち福祉オンブズマン」があります。この団体は、愛知県内の弁護士、大学教授、社会福祉士らで構成されています。この団体が、同県の特別養護老人ホーム、ケアハウス、保育園などで組織する「愛知・名古屋ふくしネットワーク」と契約し、定期的にネットワーク加盟価施設を訪問しその運営を評価する他に、相談電話を設置し週2回の加盟施設の利用者や家族からの苦情を受け付け、問題があれば施設に勧告します。
わが国の多くの介護保険施設等の利用者とその家族は、福祉施設に不満や希望があっても直接には言いにくいことが多く、こうした第3者機関があることのよって利用者・家族と施設の平等な関係が保障されると共にサービスの質の向上が期待できます。
介護保険導入後、オンブズマンではありませんが、施設のサービスの質について第3者評価が進められ、施設における介護サービスの向上に寄与しています。

「お金がない、盗まれた」
症状
認知症が軽度で記憶障害が比較的少ないときに多くい症状です。「お金がない」「通帳がない」などと一日中家のなかを探し回り,夜でも家族を起こして「お金はどこだ」と問いつめることもあります。そのうち「嫁が盗んだ」「孫が取った」と言い張り交番に行くこともあります。
背景
認知症の人にとってもお金や通帳は大切な物です。大切な物だからこそ他人にわかりにくいところにしまおうと考えるようです。しかしもの忘れが進んでわかりにくい所にしまうと結果どうなるかとの判断ができにくくなります。結果的に、置いた場所がわからなくなってしまうのです。これにくわえ、大切な物が見つからないのは自分のもの忘れのためとは認めたくないとの心理が働き、「見つからない」のではなく「なくなった」ととらえ、さらには「盗まれた」と解釈したくなります。もの忘れが比較的少なくても、認知症の人の性格が絡む行動です。
対応
基本は逆らわないことです。認知症の人の気持ちをくんで、「そうですか.困りましたね」と対応するのがよいでしょう。「そんなこと絶対にありません」と直接的に否定し説得しようとしたくなりますが、認知症の人をますます困惑し混乱に追い込むかもしれません。
簡単ではありませんが、「そんなことをしたような覚えはありませんが」とやや婉曲な言い方で否定するのがよいでしょう。また見つかった時には「よかったですね」と一緒に喜んであげたいものです。お金への執着が強いと、小額の紙幣を渡すか、認知症の人の判断をみながら玩具用の紙幣を渡してもよいかもしれません。

「同じこをくりかえし話す、聞かれる」
症状
健康な人でも一度話したことを繰り返し話すことはありますが、認知症の人ではその回数が多くなります。話し終わった途端また同じことを話します。「ここはどこ」「今何時」「食事終わったの」「お金はどこ」など同じ質問を何度となく聞くこともあります。昼間だけでなく深夜にも同じことを話して聞きます。「もうこれで3回目ですよ」「さっき説明したでしょう」と言いたくなります。
背景
認知症の人の記憶障害は、古いことは比較的よく覚えていても新しいこと、しかも、直前のことが覚えにくくなっています。さっき話した、聞いたという事実をすっかり忘れてしまっていることが多い。認知症の人自身、何度も同じことを話したとの思いは少なく、たとえ話したかと思っていてもはっきりしないので、確かめるためにも、もう一度話しておきたい、聞いておきたいという心境になるようです。
対応
介護者は、「さっき聞きましたよ」とか「何度言わせるの。これで5回目ですよ」とは避けましょう。認知症の人は、初めてのつもりで話し聞いてくるので、認知症の人とって5度目ということはないなのです。また初めてのつもりで聞いたことを否定されると混乱しらい、怒ったり、気持ちが落ち込むかもしれません。介護者は、何度聞かされていても初めてのつもりで聞き答えるのが基本です。とはいえこうしたことを1日中何度となく繰り返されうると疲れます。「一寸買物に行ってきます」とその場は離れるしかないかもしれません。

「落ち着きがない」
症状 
昼間も夜間も認知症の人が家のなかを動き回ったり、大声をあげたり、壁をどんどんたたくといいた不穏な状態になることがおります。
背景
認知症の人は見当識障害が強く、今、何のために、ここにいるのかわからなく、漠然とした不安感が高まるようです。これから自分がどうなるのか心配にもなってきます。さらに難聴や視力障害のよって情報を不正確にして、ますます不安な状態になるようです。大声をあげ、壁をたたいて自分を守ろうとしていると考えられます。
対応
どうして落ち着きがないが観察します。ゆっくり話を聞いて不安や心配を取り除ければ落ち着くことがあります。原因がわからにようであれば、気をまぎらわせるのも一つの方法です。日課を決めレクレーションや簡単な作業をしてもらい、不安な気持ちになる機会をできるだけ少なくするようにします。聴力や視力の状態に応じて、少し大きな声で話かけ、大きな字を紙に書いて張っておくことも有効なことがある。状態によっては向精神薬を使うことで落ち着きくこともあります。もっとも大声を上げる、壁をたたいてうるさいからの理由だけでこうした薬を使うことが避けたい。

オレンジプラン
「認知症施策推進5か年計画」

お泊りデイサービス
「お泊りデイ」ともいう。昼間のデイサービスの後、同じ施設が翌朝まで比較的廉価な料金で提供する宿泊サービスをいう。公的介護保険制度外のサービスで、対象者、施設、職員、介護など施設によってまちまちである。劣悪な居住環境のなかで劣悪な介護が提供されていることもある。都道府県によっては基準を設けているが、法的強制力はなく、実態は必ずしも明らかではない。




介護

「心身の障害のある人への日常的で直接的な支援」と定義します。介護保険法では介護について「要介護状態とは、身体上又は精神上の障害があるために、入浴、排せつ、食事等の日常生活における基本的な動作の全部又は一部について継続して常時介護を要すると見込まれる状態」と記されています。日本語の「ケア」と同じ意味でつかわれることもあり、ケアの一部を意味することもあります。

介護者 
心身の障害のある人に介護を行う人のことです。在宅で介護する家族(介護家族)と介護を仕事とする介護専門職または介護職に分けることができます。後者は、介護保険施設などや訪問看護に従事する人で、多くは介護福祉士およびホームヘルパー養成講座受講者の有資格者です。

介護福祉士
社会福祉士及び介護福祉士法による国家資格の専門職で、「専門的知識及び技術をもって、身体上又は精神上の障害があることにより日常生活を営むのに支障がある者につき心身の状況に応じた介護を行い、並びにその者及びその介護者に対して介護に関する指導を行うことを業とする者」とされています。特別養護老人ホームなど介護保険施設に多く勤務し、介護保険制度の要的な専門職です。登録者数は72万9700人(2009年2月現在)社団法人全国介護福祉士協会

介護手当
寝たきり様状態や認知症の高齢者などを常時介護している家族に対して市町村が支給する手当で、支給条件があり月額は5000円あるいは1万円などです。支給している市町村は限られています。
富山市の場合

介護休暇
介護休業ともいうが、家族―親、配偶者、子供―が身体疾患、精神疾患等で常時介護が必要な状態になった時、介護を行うため労働者が取得できる休暇です。

介護休業給付金
介護休暇中に、雇用保険に加入している場合、3カ月間を限度として収入のおおよそ40%程度を上限として給付される。ただし限度額は163,800円(2010年8月現在)です。

介護家族 
在宅で介護をしている家族のこと。在宅介護では家族内の特定の人が介護しているか、せざると得ないか、強制されていることが多く、狭義には家族内の特定の人を介護家族といいますが、家族内で分担し協力しあっている家族全体を介護家族とよぶこともあります。
わが国の認知症の人−おおよそ3分の2−は在宅で介護家族に介護を受けて生活しています(健康保険組合連合会「痴呆性(ぼけ)老人を抱える家族全国実態調査報告」2000よる)。これは日本だけでなく欧米でも多くの認知症の人は家族の介護を受けながら在宅で生活しています。中低所得国では認知症の人のほとんどは家族の介護を受けています。したがって認知症の人がどのような生活を送れるかは介護家族にようって左右されます。さらに介護家族への支援を通して認知症の人を支援することになります。
しかし昨今、介護家族は核家族化のなかで2人暮らしのなかで一人で認知症の人を介護している家族も増えており、さらに高齢者夫婦世帯では認知症高齢者を高齢者がみている(「老老介護」ともいう)、あるいは病気をもった家族が認知症の人をみている(「病病介護」ともいう)、さらには軽度の認知症の家族が重い認知症の人をみている(「認認介護」ともいう)の介護家族がふえています。
在宅で認知症の人は介護家族からの強く影響を受けるため、介護家族の心理と行動の理解をすることを通して介護家族へ適切な支援ができます。以下のそのいくつかを列記しますが、介護家族の全てがこうした状態にあるわけではありません。
介護家族の心の動き
○判断の遅れ
家族が認知症に気づくのに遅れることがあります.この遅れの背景には,認知症について間違った知識をもって病気ではなく老化による現象と思い込んでいる場合があり、また「親が認知症になってもらっては困る」と拒否したい心の動きがある場合があり、また「あのしっかりした親が認知症なるはずはない」という否認する心の動きによると考えられます。認知症に気づくのに遅れることで、治る認知症の治療が遅れたり、認知症の人へ不適切な介護を続けて悪化させたりすることになります。これにたいして早期に認知症に気づくことで生活の予定が立てられ介護の方法も新たまるかもしれません。
○落胆
アルツハイマー病と診断されると,介護家族は落胆し悲しみ情けなく思います。と同時に「これからどのような生活が始まるのか」「どのように介護したらよいのか」と不安にもなります.うつ状態になるかもしれません。この落胆は認知症の変化に従い、また懸命に介護していていもかかわらず認知症が悪くなったりする場合にも抱く気持ちでしょう。
○期待
介護家族のなかには,アルツハイマー病と診断されたにもかかわらず,「診断が間違ってはいないか」「治るのではないか」と治癒への期待を抱く人は少なくありません。これは家族の心とて自然であり当然です。この期待をもって治る治療、良くなる治療を求めて病院や医師を転々とすることになります.さらにはいろいろな民間療法を試みたりもします.このことは結果的よりよい医療や介護を受ける機会を得ることがあるなるかもしれませんが、むしろ期待を裏切られてしまうことの方が多いと思われ、この間、間違った介護をしてしまうことになるかもしれません。良くならないと言われた認知症に期待をもつことを否定すべきではありませんが、認知症を受け入れることもまた大切です。
○悲嘆
落胆と似ている心の状態ですが介護家族は認知症の親や配偶者の姿を毎日見ることは辛い寂しいことです。尊敬していた親や配偶者の発病した認知症になった姿を見ることの悲しみは深く,癒し難いものでしょう.このため家族が介護の意欲をなくしたり、施設へ入居させることを考えたり、無理心中を思ったりすることになります。この悲嘆の気持ちを癒す方法の一つが同じような経験をしている介護家族同士が話し合い、思いを共有することでしょう。
○不安
認知症の人の在宅介護が長くなると将来へのいろいろな不安が介護家族の心をよぎります。家族の生活を犠牲にして認知症の人を中心にした生活がいつまで続くのだろうか、もっと認知症がひどくなったら家でみれるのだろうか、また家族が病気になって介護できなくなった時にどうなるのだろういかといった不安です。介護家族は、医師らから具体的に認知症に将来予測されることの説明を受け、地域で利用できるデイサービスやショートステイなどの社会資源を利用することを介護計画のなかに入れて少しでも将来への不安を和らげたいものです。
○怒り
介護家族は、「認知症てしまってどうしてこんなに私を困らせるのだろう」と認知症の人が病気であることを忘れ,被害者意識が強くなり怒りの気持ちが生まれることもあります。この気持ちが高じて認知症の人への暴力,さらには殺人や心中にいたる状況に追いやられることもあります.特に介護家族が孤立した密室の介護のなかで起こりやすい気持ちでしょう。気軽に相談できる人や電話相談を早め利用したいものです。
○孤立感 
介護家族のなかには,自分の生活を犠牲にしてまで苦労が多い介護しているのは自分一人だろう,誰も理解してくれないし助けてもくれないと孤立感を抱くことがあります.この孤立感は被害意識を強め、認知症の人への不適な介護、虐待へつながりかねません。家族や周囲の人たちに介護の苦労を理解してもらい、家族の集いなどに出席してみるともっと困難な状況のなかで適切な介護を続けている家族を知るかもしれません。
○自責
認知症が悪化するのは自分の介護の方法がよくないからだと自分を責める介護家族がいます.直接介護してない認知症に理解のない周囲の人から指摘をされると、ますます自責の念にかられることがあります。たしかに不適切な介護で認知症が悪くすることもありますが、適切に介護してもアルツハイマー病による認知症では疾患そのものが進んで悪くなることもあります。介護について周囲の人に認知症を理解してもらい、デイサービスやショートステイも利用して余裕のある介護のなかで自らを責めることは避けたいものです。
○後悔
特別養護老人ホームや精神科病院に認知症の人を入所・入院させたこと、あるいはデイサービスを利用していることに対して、何か自分が楽になるため認知症の人を犠牲にしたのではないかと後悔する介護家族がいます。在宅で条件が整わない場合には認知症の人にとって在宅介護より施設介護の方がよい場合があります。後悔の気持ちで悩むより頻回に面会にゆき認知症の人の生活を見て納得するかもしれませんし、そうでなければ別な方法を考えたい。
この後悔は、介護が終わった家族が抱くことが少なくありません。「あの時もったやさしく声をかけてみてあげればよかったのに」「経管栄養をしてまで長生きさせたのは本人によかったのだろうか」など思い出とともに後悔の気持ちがわくことは珍しくありません。家族の集いや電話相談などで介護を経験した者どうしが語り合ってその思いが和らぐでしょう。
○喜び
介護家族のなかには、医師からは良くならない、治らないと言われたが、介護の工夫をして認知症の人と話が通じるようになった,表情が穏やかになったと介護のやりがい,自分の努力が報われたという喜びを抱く介護家族がいます。共に喜びたいものです。介護は失うものばかりではなく得るものもあるのです。
○精神疾患・心身症
介護の疲労、不安、孤立感などが続くと介護家族は、うつ状態になったり、頭痛、肩こり、胃潰瘍、過敏性腸症といった心身症になったり、不眠になったりすることが少なくありません。デイサービスセンターやショートステイを利用したりして心身の休養をとり、買い物をしたり、小旅行をしたり、理解ある友人知人と語り合うのもよいでしょう。介護家族の症状が重いと通院したり入院しなければならないこともあります。

家族関係 
認知症が進行して認知症の人の意思が確認できないことが多くなると家族の意思がこれに代わることが多くなります。この際考慮しなければならないことは認知症の人と家族―認知症の人も家族ではあるが―との人間関係です。その家族関係にはいくつかの関係が複合的に関与しています。
○理性的関係
理性的関係とは、家族が理性的な判断ができる状態での患者との関係をいいます。たとえばアルツハイマー病の告知を医師からされたばあい、その内容を理性的に理解し認知症の人のことも考え理性的な判断ができる関係でもあります。しかしこの理性的関係のみということはなく情緒的関係に絡むことが多い。
○情緒的関係
情緒的関係のなかで家族はたとえアルツハイマー病が不治の病と知り、再び会話ができることはないと知り、その姿を悲しく思いつつも、できるだけ生き続けてほしいと願うでしょう。
○倫理的関係
家族のなかで唯一の介護者である妻が自らの強い倫理観から認知症の夫を介護していることがあり、人間の尊厳を尊重し、できるだけその人らしく最期を迎えさせたいと思うでしょう。
○法的関係
家族は民法による扶養義務を法的に負っています。必ずしも意識的でないかもしれないが法的家族関係のなかで夫は認知症の妻の在宅を続けている場合もあります。
○経済的関係
介護には経済的負担が常に伴います。長期入院医療あるはグループホームの入居を家族が拒むことが経済的家族関係になかから生まれるかもしれない。あるいは親の年金が生活の糧の場合、長生きしてほしいとの息子の希望は経済的関係からの期待かもしれない。
○文化的関係
地域的な違いはあるとはいえ比較的単一文化の日本人どうしではあまり問題とならないかも知れないが、多民族国家では文化的な背景が異なるなかで文化的背景をもった家族関係のなから介護のあり様がきめられることもあります。
○宗教的関係
家族の信仰する宗教から認知症の姿をとらえ、介護の方法が決められていることもあります。

介護保険 
心身の障害があり介護を要する基本的には65才以上の高齢者を対象として介護サービスを提供する公的保険制度で2000年に導入されました。公的介護保険は、オランダ、ドイツにありますが、制度的の最も充実した公的介護保険と考えます。なお民間の介護保険は以前からわが国にもアメリカにもあります。
介護保険法では、介護サービスを受けることができるのは65才以上の高齢者、および40歳から6歳未満で16の特定疾病に該当する人です。サービス受ける手続きは、本人または家族らによる市区町村へ介護認定の申請、訪問調査およびかかりつけ医師の意見書、介護認定委員会による要介護認定および決定、介護支援専門員(ケアマネジャー)による認定された要介護度に応じた介護サービス計画作成そしてサービスの利用となっています。さらに要介護認定への不服申し立て認定制度、サービス計画への家族等の意見の反映が盛り込まれています。
利用できるサービスは、在宅介護サービスとして、訪問介護、訪問看護、通所介護、通所リハビリテーション、短期介護入所生活介護、福祉用具の貸与、認知症対応型共同生活介護などであり、施設介護サービスとして、介護老人福祉施設介護、介護老人保健施設介護、療養型医療施設介護などがあります。利用者は介護に要する全費用の1割を負担します。
介護保険制度に要する金の流れは、65才以上の高齢者(1号被保険者)および40才から64才までの国民(2号被保険者)からの保険料および国・都道府県・市区町村の公費を併せた資金は、決められた介護報酬に従って請求に応じて介護サービス提供者に支払われます。あわせて提供者は利用者からの自己負担も受け取ります。
以下、認知症の人と家族からみた介護保険について説明します。
申請
通常、本人または家族が行いますが、居宅介護支援業者、介護保険施設長も行えます。認知症の場合、本人が申請をすることは極めて稀です。初期で家族が気づかなかったり、あるいは気づいていても家族内で意見が分かれたり、恥ずかしいと周囲に隠したりして要介護認定の申請する時期が遅れることが考えられます。このため、介護サービスが早期に適切な時期受けることができるよう適宜に申請ができるようにする必要があります。また1人暮らしの認知症高齢者では、成年後見制度日常生活自立支援事業がありますが、実態として申請は困難で地域包括支援センターの支援が必要です。
調査
認知症は、原因疾患、進行度、あるいは時間帯などで症状が変化するので、1回の短時間の訪問面接調査では把握できない状態や介護の困難さがあります。認知症は、軽度でもそれなりに介護は困難であり、重度でも重度なりの困難さがあります。認知症による認知機能の低下と介護の困難さとは並行関係にはないのです。従って、目の前にいる認知症の人の状態だけでなく、一緒に生活しながら常時介護を続けている家族から状態を詳しく聞き出す配慮が欠かせません。また認定に必要な診断書(「かかりつけ医の意見書」ともいう)を書く医師も認知症と認知症の人の介護の困難さについての理解が望まれます。
認定
判定委員会での認定ではなお認知症は軽度に判定される傾向がありましたが、制度導入時とくらべると改善されているようです。
計画
介護支援専門員による介護サービス計画の作成にあっては、個々の認知症の人の状態にふさわしい計画を立てなければなりません。ここに計画作成する人が認知症について正しく理解しておく必要があります。認知症の人は、認知症に加え、その人の生活歴、生活環境、性格が症状や状態に影響します。従って計画は個別的なものでなければなりません。
提供
認知症の人への介護サービスのメニュ−は多様になりましたが、サービスの量、質ともにいまだ十分とは言えません。特に認知症の人を対象としたグループホームは増加してはいますがまだ十分ではなく、利用料が高くて実際に利用できない人も少なくありません。さらに少人数の介護による利点もありますが、密室の介護に陥り虐待が起こることも懸念されます。認知症の人へのデイサービスは量的に多くなり、また認知症に特定したデイサービスも増えてはいますが、より一層認知症の人の特性に配慮が望まれます。また特別養護老人ホームや老人保健施設などの施設介護は大規模で画一的な介護になることが多く、それを改めるものとしてユニットケアが導入されつつありますが、認知症の特性に配慮した施設介護の質の向上が期待されます。また個室化の動きも促進されるべきでしょすが、経済的な差別は認められません。介護サービスで大きな課題は、若年期認知症の人が実際に利用できるサービスが少ないことです。現行のデイサービス、グループ、特別養護老人ホームのなかで若年期認知症の人を適切にみている体制整備が急務です。

  

介護老人保健施設 
旧老人保健法の制定により入院から在宅への中間施設の役割を期待された「老人保健施設」が1988年に導入されたが、介護保険度の導入により同法の「介護老人保健施設」となりました。2008年10月現在で施設数は3,500施設で(入所者数は約29万人)です。医療職は、常勤の医師1名、看護師および理学療法士または作業療法士です。施設は、通常平均3か月から6カ月の中期入所、1,2週間程度の短期入所およびデイケアの3つの機能を併せもつ施設が多く、在宅の高齢者の日常生活機能を維持・向上に図り、リハビリテーションと家庭復帰を図っています。しかし多くの介護老人保健施設は、介護と医療が混在し介護老人福祉施設と療養型医療施設の中間的な機能をもつい役割が曖昧な施設と考えられます。実際、介護老人保健施設の入所者のなかには在宅へ退所できない高齢者も多く、介護老人保健施設を転々としたり特別養護老人ホームへの入居所待している高齢者も少なくありません。認知症については、介護老人保健施設の入所者に認知症は少なくなく、こうしたなか介護保険で認められた認知症の中核症状やBPSD(認知症の行動心理症状)の改善に有効とされる「認知症短期集中リハビリテーション」が介護保険給付として提供する施設が増えています。

介護予防事業
65歳以上の高齢者の方を対象に介護が必要となる状態にならないように予防することを目的とした事業で、事業の内容は介護予防の講演会、専門職による訪問指導・相談などです。
介護予防事業は、65歳以上の高齢者全員を対象とする事業(一般高齢者向け事業)と65歳以上で介護保険を利用するほどではないものの介護が必要となる可能性の高い高齢者を対象とする事業(特定高齢者向け事業)があります。後者は、介護保険の認定で「非該当」になった人のうち「介護予防が必要」と判断された高齢者、または健診の結果「介護予防が必要」と判断された高齢者です。
一般高齢者向け事業としては、介護予防の講座や講演会などがあり、特定高齢者向け事業としては「運動器の機能向上」「栄養改善」「口腔機能の向上」などを図るための教室、閉じこもり予防通所事業、保健師、栄養士、歯科衛生士等による訪問指導や個別相談などがあります。
また介護保険の認定で「要支援1」または「要支援2」と判定された高齢者を対象に予防給付として以下のサービスがあります。
介護予防訪問介護・介護予防訪問看護・介護予防通所介護・介護予防通所リハビリテーション・介護予防短期入所生活介護・介護予防短期入所療養介護・介護予防特定施設入居者生活介護
この予防給付のケアプランの作成は地域包括支援センターのケアマネージャーが行います。
しかしこの事業は要介護の高齢者を少なくしたり、その状態を遅くすることを目的としていますが、事業の実施方法、効果の判定など制度はあってもその有効性は未だ不明と考えます。

回想法 
認知症高齢者は、新しい記憶は失われても古い記憶はよく保持され、2,3十年さかのぼって記憶の世界に生きている状態になることが少なくありません。こうした認知症高齢者の昔の記憶や「生きている世界」のなかで語り合い、残存した機能を発揮し、精神的安定を図り、ひいては認知機能の改善につなげようとする療法です。
実際の方法は、数人から10人以内のグループで、あるいは個別に、認知症高齢者に対して、昔の若い時代を象徴するような一般的な写真、歴史的事件、さらには日常的な記事が載っている古い新聞、昔よく使った身の回りの品々―家具、食器、化粧品、道具など―などを見たり読んだり触りながら、それについて話し合い、思い出を語り合います。療法を行う人は、グループの場合、各認知症高齢者の記憶など認知機能を知りながら共感的に接して各人の話を引き出します。また個々の認知症高齢者の生活歴をおおよそ知り、それに合った資料や材料―結婚写真や子供の写真など―を用意します。一概に昔の記憶といっても楽しい記憶もあれば悲しい記憶や思い出したくない記憶もあり、このうちできるだけ後者の思いでは避け、楽しい思い出を中心にして認知症高齢者が精神的に混乱しないような配慮も必要です。
なお、最近は回想法の意図した施設―「龍ヶ崎市回想法センター」(茨城県)、回想法センター(愛知県北名古屋市)など―では、回想法の普及、研修、研究を行っています。
このような回想法は高齢者向けに取り組まれ、若年期認知症の人についてはその試みも少なく、方法や有効性は確認されていない。

海馬
大脳の側頭葉の奥にある新しいことを覚える記憶に関わる重要な組織です。形がタツノオトシゴに似ているので海馬(英語:Hippocampus)と名付けられた。アルツハイマー病ではMRIで早期に萎縮を認めることが多い。

画像検査
認知症は主に脳の器質的な変化による疾患が原因で生じる状態で、その診断には脳の画像検査はきわめて重要です。脳の画像検査としてはCT,MRI,PET, SPECTがありますが、このうち基本的に重要で負担の少ないCTとMRIは、通常、病院で受けることができ、負担をかけるPETとSPECTは一部の病院でしか受けることができません。ほとんどの病院で受けることができます。
CT(コンピューター断層撮影法)
 最も一般的に広く行われている簡便で負担の少ない放射線を使った検査で認知症の診断には基本的に必ず行われるべきものです。この検査で、脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血、慢性硬膜下出血、脳腫瘍などがおおよそ判断できます。
MRI(磁気共鳴イメージング)
 磁気を使った検査で、脳の細部までの変化を把握でき、小さい脳梗塞やアルツハイマー病で特徴的な海馬の委縮も判定ができます。多くの病院で受けることができます。
PET(ポジトロン断層法)
放射性糖を含む注射液を静脈に投与し、放出される陽電子を検出して脳などの代謝や血流を調べる検査です。アルツハイマー病では脳の代謝が減少しているのでより正確な診断ができます。この検査を行っている病院が限られています。
SPECT(単一光子放射断層撮影)
 放射性同位体と含む注射液を静脈に放出されるガンマ線を検出し、脳などの血流などを調べる検査です。脳血管障害による認知症では血流の低下があり、よい正確な診断ができます。限られた病院でしか受けることができません。
                                                                      
家族会                                                                        
認知症にかかわる当事者団体としての家族会は、全国団体としては公益社団法人「認知症の人と家族の会」があり、また若年期認知症に関係する任意団体「全国若年認知症の家族会・支援者連絡協議会」がありますが、地域、施設単位の家族会も数多くあります。その実態はよくわかっていませんが、認知症の人と家族の会が1995年に行った全国調査では、その数は466団体でしたが、実数は1000を越えると同調査報告書では推計しています。運営主体は、病院、老人保健施設、老人福祉施設など施設、市町村、社会福祉協議会、保健所などで、主な活動は家族の集いでその他に、会報の発行、各種行事などでした。運営に当事者が中心となっている家族会は少なかった。
家族会の中心となる家族の集いは、介護経験した家族ではわからない介護の辛さや悩みを語り合い共感し、互いに慰め励ますことに意義があり、さらに介護の工夫や会議に関わるさまさま情報を共有することも家族会の目的です。さらに認知症の人と家族の会では、啓発、要望、活動交流、国際交流まで活動の幅を広げているといえます。
しかし規模の大小の差はあれ、多くの家族会は会員が少ない、会員が固定化し活動が停滞する、活動資金が乏しいなどの問題を抱えていますが、認知症に関わる当事者団体としての役割を発揮しながら活動を続けているところも少なくありません。
なお欧米では家族会という名称の団体は少なく、アルツハイマー病協会とかSelf-Support Group(自助団体)と呼ぶことが多い。

柄澤式老人知能スケール
正式には「柄澤式老人知能の臨床的判断基準」とよび、1981年に柄澤昭秀医師が開発したものです。認知症の人の日常生活能力と日常会話・意思疎通のついて6段階に分類し知能状態を判定するものです。基準には認知症の判定を目的にしているとは明記されてはいませんが、認知症の人の重症度を判定するに優れ、わが国で広く使われていましたが、厚生労働省の「認知症高齢者の日常生活自立度判定基準」に活かされ、以後使われることは少なくなりました。

介護支援専門員
介護保険制度とともに導入されたわが国独自の国家資格専門職です。通称「ケアマネジャー」で、単に「ケアマネ」と呼ばれています。介護保険サービスの介護プランの作成と給付管理が主な業務です。さらにサービスの調整、要介護者の調査などを行います。専門員一人が担当するケースが多くニードにあったきめ細かいプランが立てられない、施設、団体、会社から独立していない、報酬が十分でないなどの問題はありますが、介護保険制度の要となる重要な職種です。実際、業務外に要介護者や家族の日常的な支援も行っています。日本介護支援専門員協会があります。

学習療法
読み・書き・計算を中心とする教材を用い、学習者(認知症の人)と支援者(学習療法スタッフ)がコミュニケーションを取りながら行う学習によって大脳の前頭前野を活性化し認知症の人の認知機能やコミュニケーションを改善させるとされる療法で、川島隆太医師らが開発したものです。認知機能を短期的に改善する効果はあると思われるが、認知症の予防、治療効果については証拠が乏しい。
学習療法研究会

加齢関連認知低下
主に加齢に伴う認知機能の低下で、軽度認知障害でも認知症でもない状態です。英語でAging-associated Cognitive Decline(略称:AACD)といい、国際老年医学会(IPA)では以下の診断基準を示しています
○本人または信頼できる他者から認知的低下が報告されること
○始まりが緩徐で6 ヶ月以上継続していること
○認知的障害が、以下のいずれかの領域での問題によって特徴づけられること。
(a)記憶・学習、(b)注意・集中、(c)思考、(d)言語、(e)視空間認知
○比較的健康な個人に対して適応可能な年齢と教育規準が作られている認知評価おいて異常があること。
○除外規準
上にあげた異常の程度がMCI または認知症には該当しないこと。
身体的検査や神経学的検査や臨床検査から、脳の機能低下を引き起こすとされる脳の疾患、損傷、機能不全、または全身的な身体疾患を示す客観的な証拠がないこと。
この障害の概念は主にヨーロッパで使われているようで、最近はもっぱら軽度認知障害(MCI)にとってかわられているようです。

ガランタミン
Galantamineはアリセプトと同じアセチルコリン分解酵素阻害剤で、軽度から中程度のアルツハイマー病に有効とされています。日本では商品名レミニールとして使用されてています。




記憶
記憶は人の精神活動の中核的機能の一つです。記憶は、記憶期間から短期記憶、中期記憶、長期記憶などに、記憶のあり様から陳述記憶(言葉による記憶)、エピソード記憶(ある出来事についての記憶)、意味記憶(ある言葉の意味に関する記憶)、手続き記憶(料理など一連の作業の記憶)などに、記憶の感覚により視覚記憶、触覚記憶、嗅覚記憶など分類できます。また記憶機能として新しい情報を覚え込む「記銘」、覚えた情報を持ち続ける「保持」、保持した情報を表現する「想起」に分けることもできます。このうち加齢とともに低下しやすいのは新しい記憶である短期記憶であり、機能的には記銘で、次に想起の能が低下し、さらに保持能力も低下します。通常20才代をピークに発達し、その後低下するのは記銘の能力であり、保持はかなり高齢まで保たれています。認知症では、新しくて大切なことを記銘することが出来にくくなります。特にアルツハイマー病ではこれが最も初期に現れます。その後想起、保持が低下しやすく、昔の記憶である長期記憶も失われてゆきます。

記憶障害 
記憶障害 
記憶障害は認知症の中心的な症状ですが、以下のとおり記憶障害を示すその他の疾患や状態があります。
○生理的記憶障害
高齢者によくみかける記憶障害で疾患ではなく加齢に伴う生理的といえる記憶障害で日常生活におおきな支障はありません。もの忘れを自覚しており、を紙に書くなどして補うことができます。
軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment略語MCI)
次の以下の状態をすべて満たす状態です。自分の記憶障害を自覚する/客観的に記憶障害がある/記憶障害による日常生活のおおきな支障はない/認知症でない。
健忘症  
記憶障害だけの状態で頭部外傷や脳血管障害の後遺症として急に現れます。日常生活に支障はありますが、自分のもの忘れについて理解し注意ができ紙に書くなどして障害を補うことができます。
高次脳機能障害
次の状態をすべて満たす状態です。受傷や疾患の既往がある/記憶力や集中力の低下、感情抑制困難などの症状により生活に支障がある/原因と思われる状態がMRI,CT、脳波で確認できる/受傷・発病前からの症状ではない。

虐待
高齢者への虐待については法的に規定されています。2006年に施行された「高齢者虐待防止法」では、虐待を「身体的虐待」「無視または放置という虐待」「心理的虐待」「性的虐待」「経済的虐待」の5つを高齢者虐待として以下のとおり定義しています。
○身体的虐待
高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること
○無視または放置という虐待
高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置
○心理的虐待
高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと
○性的虐待
高齢者にわいせつな行為をすること又は高齢者をしてわいせつな行為をさせること
○経済的虐待
高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること
なお高齢者のなかには自分の生活や生命に対して無関心、無視などにより状態を悪化させる「セルフネグレクト(自己無視)」を虐待に含める場合があります。
こうした虐待は、自らの身を守ることがもっとも苦手な認知症高齢者が最も受けやすいのです。虐待は認知症高齢者の人間性と人権を踏みにじるものであり、加害者になりかねない介護者の自覚が求められるものです。

居宅介護サービス
介護保険では居宅介護サービスとして次のサービスが提供されます。グループホーム、ケアハウス、有用老人ホームは居宅介護サービスに含まれます。
訪問介護(ホームヘルプ)、○訪問入浴介護、○訪問看護(訪問看護は基本的には医療保険ではなく介護保険で支給される)、○訪問リハビリテーション、○通所リハビリテーション(介護老人保健施設と療養型医療施設のデイケア)、○通所介護(特別養護老人ホームなどのデイサービス)、○短期入所生活介護(特別養護老人ホームのショートステイ)、○短期入所療養介護(介護老人保健施設や療養型医療施設のショートステイ)○認知症対応型共同生活介護(グループホームでの介護)、○小規模多機能型居宅介護、○特定施設入所者生活介護(有料老人ホームやケアハウスでの介護)、J福祉用具の貸与・購入、K住宅改善費の支給

休息ケア
英語のRespite Care(レスパイトケア)の訳語。介護家族の介護休養のため家族に代わって介護するケアのことで。具体的には3つの方法があり、第1は、在宅介護している家にホームヘルパーが訪れ、一定時間、家族に代わって介護します。この間、家族はショッピングなどができるでしょう。ただし日本の訪問介護にはこの役割は明らかでありません。第2は、家族に代わって昼間に通所介護施設などで介護を受け、同様に、介護家族は介護から離れることができます。通所介護はなかばこの役割を担っています。第3は、数日間あるいは数週間、介護施設での短期入所介護を受けることです。日本の介護施設での短期入所はこの役割をもっています。家族が在宅介護を続けるためにはこの休養ケアは不可欠な条件です。しかし介護保険制度上、あくまでも介護サービスは本人へのサービスであり、介護家族へのサービスは無いことになっています。

共想法
テーマを決めて写真などの素材と共に話題を持ち寄り、話し手と聞き手が交互に交代しながら、会話する手法で、テーマは、好きなものごと、健康、食べ物、笑い、失敗談など、多岐にわたり、認知症予防に目指すとされるものです。「ほのぼの研究所」が普及を図っています。




クロイツフェルト・ヤコブ病 
異常プリオンによる伝染性疾患で歩行障害などの神経障害と認知症が現れ、進行が極めて早い。最近、わが国では、脳外科手術で使う硬膜、またいわゆる「狂牛病」(牛海綿状脳症:英語Bovine Spongiform Encephalopathy 略称BSE)の牛の肉によるクロイツフェルトヤコブ病が注目されましたが、きわめて稀は疾患です。なおクロイツフェルトCreutzfeldtとヤコブJakobはこの疾患を報告したドイツ医師の名前です。
歩行障害、視覚障害、性格の変化、認知機能の低下などの症状が現れ、数カ月して認知症が急速に悪化します。四肢のけいれんも起こり、発症して1年以内にねたきり様状態になり、肺炎などで死亡する。治療法はありません。
プリオンは、ウイルスより小さい異常な蛋白で自ら増殖することはありませんが、細胞内で毒性を示す感染性蛋白です。このプリオンによる疾患群をプリオン病といい、そのうちの一つがクロイツフェルト・ヤコブ病です。この疾患も以下の4つに分類します。
クロイツフェルト・ヤコブ病は、原因により以下のような分類することができる。
○散発性(または孤発性):クロイツフェルト・ヤコブ病というとこの疾患を指す、中高年に発症する。
○遺伝性(または家族性):プリオンの蛋白の遺伝子の変異による疾患。
○変異型:牛海綿状脳症[3]の牛の肉を食べた人に感染したもの。 イギリスで多発したが、わが国では1例のみであった。
○医原性:クロイツフェルト・ヤコブ病の患者の硬膜などの組織の移植により感染する。我が国では薬害として認定されたが、感染の実態は不明のまま現在は根絶されているはずである。
 

グループホーム                                                        
特別養護老人ホームように多人数の高齢者を一律の日課で介護する施設が認知症高齢者にも好ましくないとの反省から1980年代後半にスウェーデンから導入されたタイプの施設である。当初、認知症高齢者向けに民間で試験的に導入され、その意義が認識されて「認知症対応型共同生活施設」として高齢者福祉制度のなかで取りいれられました。さらに介護保険の導入と同時に「認知症対応型共同生活介護施設」として在学介護サービスの一つとして位置づけれら、急速に普及しています(2012年10月現在、11,770施設)。
グループホームの構造は個室と共同スペースからなり、通常9人限度とした定員で小規模で家庭的な雰囲気を創り、できるだけ「普通の生活」を保障しようと様々な工夫がなされています。このグループホームがすべての認知症の人に相応しいわけではないが、認知症の人にとってより安心した生活を営むことができBPSDが軽快することも少なくありません。
グループホームは小規模のため、利用できる認知症の人は限られており、また介護保険による自己負担以外の自己負担が高額な施設もあり認知症の人が利用しやすいわけではありません。また急速に施設数が増えたにもかかわらず相応しい介護職の対応が追いつかず、小規模施設に伴う密室性のため介護の質で問題を起こしたり、また民家を改造した施設もあり防火上の問題もあります。このためグループホームの施設長は一定の認知症介護の研修が義務付けられ防火対策の強化が指導されています。
日本認知症グループホーム協会 全国グループホーム団体連合会





健忘症
健忘症は、文字通りもの記憶障害だけの状態です。交通事故による頭部外傷や脳血管障害に伴って、急に記憶障害が生じ、さっき聞いたこと、したこと、行ったことが覚えにくくなります。生理的記憶障害(これを「良性健忘症」ということがある)より多く日常生活に支障をきたすほどの記憶障害ですが、自分の記憶障害を理解できており、かつ注意ができます。メモ用紙やカレンダーに書いて記憶障害を補うことができます。困難なことではありますが健忘症で一人暮らしはできますが、頭部外傷によるため、通常、良くなることも進行することもありません。

ケア
英語のCareの音訳。Oxford dictionariesによれば名詞では「ある人あるいはある物の健康、福祉、維持、保護に必要なものを提供すること」を意味し、動詞では「関心をもつ」「愛情を抱く」などを意味します。日本語のケアはサービスなどと同様に、介護を同じ意味でつかわれりしますが、その意味が曖昧なまま使われているようです。ユニットケアは介護に近い意味で、インテンシブ・ケア・ユニット(ICU)では治療に近い用語です。なお三宅はケアを「直接的日常的な生活支援」と定義し、世話、介助、介護、医療など患者や障害者への日常的で直接的なさまざまな支援をケアとします。介護より広い概念です。

ケアマネージャー
介護支援専門員

軽度認知障害
進行性認知症であるアルツハイマー病を早期に発見し早期に対応することの重要性が認識されるようになりました。さらにアルツハイマー病を発病してはいるが症状が出る前に病気を確かめ発症を予防できないかということに研究が進められています。こうしたなかで認知症でもない正常なでもないという状態―軽度認知障害―への関心が高まっています。英語のMild Cognitive Impairment(略称MCI)の訳語ですが,次の5つをすべて満たす状態です。
○もの忘れの自覚がある。
○客観的に記憶障害がある。
○認知機能全般に大きな障害はない。
○日常生活に基本的な支障はない。
○認知症ではない。
認知症との違いは、もの忘れがひどいと本人が思っていてもまた客観的にそうであっても一人で生活を営むことはできる状態です。軽度認知障害については、判断基準が曖昧である、障害があると病人のように扱うのはよくないとの批判もありますが、軽度認知障害の人のなかから毎年10〜15%の人がアルツハイマー病になるという報告もあり、アルツハイマー病の予防に関係する状態としても無視できないとされています。

幻覚
幻覚には、見えないはずの物が見えたり(幻視)と、聞こえない音や声が聞こえる(幻聴)が多い。認知症に限らず高齢者に生じやすいのは幻視で、ふとんの上に猫がいる、壁に虫がはっているといった症状です。認知症に伴って現れることがありますが、せん妄やパーキンソン病の薬の副作用として生じることがあります。

幻覚妄想状態
幻覚妄想状態とは,幻覚または妄想、あるいは両方がある状態をいいます。「誰か外で私を呼んでいる」「ふとんの上に猫がいる」「夫は隣の女と仲がよい」などとありありとした幻覚や妄想が持った高齢者がいます。この幻覚や妄想は,認知症、せん妄、妄想症などでも見られる症状ですが、ここでいう幻覚妄想状態は、記憶障害もなく、意識障害もなく比較的短期間の幻覚や妄想を認めます。ときに高齢者自身も「おかしい」と自覚していることがあります。
症状
錯覚は、実際に見えるものを間違って判断する状態―たとえば、ポストを人と見間違える―をいいます。幻覚は、実際に見えたり聞こえないものが見える、聞こえる症状―たとえば、居ない無数の蟻が壁を這いあがっていると見えるーを言います。さらに妄想は、ありもしないことを現実のように思い込んでいる状態―たとえば、現場をみたことはないが、毎晩、知らない人が勝手に家に入りおお金を盗む―といいます。しかし、錯覚と幻覚と妄想とは一線を画して区別できるものではなく、こうした状態が混在し、どの状態がよい強いで判定するのが現実的と考えます。高齢者の幻覚妄想状態もこうした状態です。したがって、幻覚がより強い場合、妄想がより強い場合、あるいは両者が同じようにあるという場合もあります。こうしたなかで、高齢者の幻覚は一般的、幻聴より幻視が多く、「壁の上に虫がいる」「ベッドの下に子供がいる」「柱の後ろからに人が覗いている」などと幻覚が中心で、「夫の声が聞こえる」「子供がよんでいる」「誰かが私に話をして指示している」といった幻聴は少ない傾向にあります。こうした幻覚や妄想は、比較的短期間で現れ,日内で内容が変動しやすく,1週間以上の長期にわたって症状が持続することは稀です。また幻覚妄想状態について高齢者自身が、おかしい,不思議だと思うことがあります。また意識障害も、記憶障害も、認知機能の低下もなくて日常生活を送れるがときに幻覚妄想状態のために生活が混乱することもあります。ただし、認知症高齢者が幻覚妄想状態を併発することがあります。
原因
幻覚妄想状態の原因の多くは薬物です。抗精神病薬、胃潰瘍薬―とくにH2ブロッカー[1]―睡眠導入剤,抗パーキンソン薬あるいは麻薬性鎮痛剤の塩酸モルヒネなどです。とりわけ、高齢者に多い抗パーキンソン薬では幻覚妄想状態が起こりやすい。この場合も高齢者自身が幻覚をみながら、それが不自然と客観的に見ていることもあります。
高齢者に幻覚妄想が起こりやすい要因として、脳の動脈硬化が関与していると考えられ、さらに聴力や視力の低下が状況判断をしにくくし、結果的に幻覚妄想状態を起こしやすいとも考えられます。
検査と診断
 症状から幻覚妄想状態から診断は困難ではないでしょう。その原因が何かと判定するのがときに困難です。このため高齢者の身体状態を把握するため負担の少ない基本的検査―胸部単純レントゲン撮影,心電図,血液検査、頭部CTなど―を行うことが望ましい。しかし、高齢者の幻覚妄想状態とみたとき、かならずどのような薬を服用しているか調べます。とくに抗パーキンソン剤を服用していると幻覚妄想状態の原因と診断しても間違いはないでしょう。そのほかの疑わしい薬は、治療上の必要性をみながら減らすか、止めてみます。それで幻覚妄想状態が軽減すれば薬剤によると診断します。なおDSM-Wには幻覚妄想状態に似た精神疾患は見当たらない。
鑑別すべき精神疾患としては,認知症、せん妄,妄想症があります。もっとも認知症高齢者が服薬している薬剤で幻覚妄想状態を併発することもあると診断することもあります。
治療
幻覚妄想状態にある高齢者は,幻覚や妄想を訴えてもそれを否定したり説得することは避けます。「猫なんかいませんよ.何を言っているのですか」「玄関に誰もいませんよ、思い違いですよ」など直接的な否定は避け、むしろ「そうですか.猫がいますか,私にはよく見えませんが」とか「玄関に出ていましたが,そのような人はいませんでした.もう帰られたのではないでしょうか」と婉曲に否定しながら,高齢者の不愉快や不安に共感して接し方ことが望ましい。また聴力障害や視力障害のある高齢者では幻覚や妄想が生じやすいので耳もとでゆっくり話しかけたりすることが大切です。こうした接し方をしながら、原因と思われる疑わしいと思われる薬物を中止するか減らしてみます。欠かすことができない薬以外であれば、止めるか、減らしてみます。通常、薬剤によるものであれば2,3日で幻覚妄想状態は消退します。その後、原因と判定された薬物を続けるか減量するか,中断するか、他の薬物に変えるか決めます。抗パーキンソン剤では止めると運動障害が悪化することも稀ではなく、高齢者自身、幻覚妄想があっても服薬を続けたいということもあります。

見当識
狭義には、時、所に関する判断能力のことですが、広義には周囲の人との関係などの判断や状況判断を含めます。認知症で障害されやすい認知機能で見当識障害が現れます。また認知症の非薬物療法のひとつで

見当識療法
→リアリティーオリエンテーション

結晶性機能
人の知的機能のなかで比較的若い頃から長期かつ持続的に形成された機能のことを言います。人の知的機能を便宜的に流動性機能と結晶性機能との分けることができます。このうち結晶性機能とは、生後間もない時期から、あるいは長期にわたって、あるいは持続的に獲得した知的機能のとして「結晶化」され減退、消失しにくい機能です。
 例えば、幼少時から覚えた日本語、青年期に覚えた歌、茶碗と箸の使い方、職人として培われた技能などは高齢になっても維持され容易にはなくならない機能です。認知症が進むなかでこうした結晶性機能はかなり保持されますが、次第に衰え失われてゆきまる。まとまりのある絵が書けなくなり、歌を忘れ、箸の持ち方もわからなくなり、最期に日本語も乏しくなってしまうようになります。

原発性進行性失語症
英語でPrimary Progressive Aphasia (PPA)といい、進行性非流暢性失語症progressive non-fluent aphasia(PA)ともいい前頭側頭葉変性症のひとつです。若年期に発症する失語症で認知症を併発することが多く進行性で脳細胞の変性が原因です。頭部CTでは側頭葉の萎縮を認めます(写真)。




行動評価
認知症の人の行動や疾患の進行程度を判定する行動評価の基準として、わが国では「柄澤式老人知能の臨床的判定基準」や厚生労働省の「認知症性老人の日常生活自立度判定基準」などがありますが、世界的には「アルツハイマー病機能評価ステージ(Functional Assessment Staging:FAST)」、「臨床認知症基準(Clinical Dementia Rate:CDR)、「アルツハイマー病評価スケール(Alzheimer’s Disease Assessment Scale:ADAS)」、「認知症行動障害スケール(Dementia Behaviour Disturbance scale)」などがあります。日本語版FAST(300Kpdf) 日本語版CDR(300Kpdf) 日本語版DBD(pdf 70K)

行動観察方式
玉井顕医師が開発した認知症の重症度判定方式。主たる介護者が数値化された47項目の日常生活状態などから判定する。「生活支援アンケート」(pdf1M)とも呼ぶ。

行動障害
行動障害とは、主に介護分野の用語として使われていますが、広く認められた定義はなく、以前から使われていた主に介護する側からの「問題行動」と同じ意味で使われる場合と、「行動の障害」として認知障害に伴う日常生活上の行動の障害―たとえば、失認、失禁など―を意味して使われる場合、あるいはこの両者を意味している場合とがあります。また、認知症による記憶障害などの認知機能の障害などの「中核症状」と、幻覚、妄想、失禁、暴力などを「随伴症状」と認知症の状態を分けることがありますが、行動障害は、随伴症状のうち行動面に関する用語とも考えられる。以下、本論では、介護する側からの認知症の人の問題行動と同じ意味で行動障害を使います。
認知症の人の行動障害は、認知障害などに原因して生じる多様な行動の状態をいい、「同じことを繰り返す」「食べれない物を口にする」「暴力的になる」などがあります。こうした行動障害は認知症の経過のなかで認知症の人だれにも、なんらかの形で認められるものです。
問題行動、行動障害、随伴症状を包括する用語として「認知症の行動心理症状」(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia、略語:BPSD)という用語がよく使われますなお、小児精神医学では、「行動障害(Behavior Disorder)は、一般的に「状況にそぐわない不適切で他人や本人に害をおよぼす行動」とされ、このうち、てんかんなど本人の意思に関係なく生じる行動障害と、本人がある程度、状況判断できている場合に起こす行動障害―これを「行為障害(Conduct Disorder)」いう―とに分けることがあります。

国際アルツハイマー病協会
アルツハイマー病など認知症に関わる各国の全国組織のアルツハイマー病協会からなる世界的な民間の連合組織で、英語表記はAlzheimer's Disease International:略称ADI)です。1984年にアメリカのワシントンDCにアメリカ、カナダ、オーストラリアらの代表が集まり国際アルツハイマー病協会の発足について話し合われ結成されました。その後、毎年国際会議を開催し地球規模の活動を続け、2010年3月現在加盟する国と地域は74となり、また世界保健機関(WHO)の公式の非政府団体(NGO)となっています。
国際アルツハイマー病協会の主な目的は、各国のアルツハイマー病協会の支援と新しい協会結成の支援、認知症に関する情報の提供、国際会議の開催、同様の目的をもった他の国際団体との連携、研究の促進、認知症の社会的啓蒙です。このため国際会議の他、機関誌の発行、啓蒙用冊子の配布、世界アルツハイマーデーの活動などを行っています。特に国際会議はユニークで、介護家族から基礎研究者まで幅広い職種の参加があり世界最先端の報告から介護家族やアルツハイマー病の人の交流など多様多彩な内容の会議を毎年開催しています。
事務局の連絡先は、64 Great Suffolk Street, London SE1 0BL UK tel: +44 20 79810880 fax: +44 20 79282357 E-mail: info@alz.co.uk ウェブサイト:www.alz.co.uk
加盟国と地域
アルゼンチン、アルメニア、アルバ、オーストラリア、オーストリア、バミューダ、バルバドス、ベルギー、ブラジル、ブルガリア、バングラデッシュ、カナダ、チェコ、チリ、中国、コロンビア、コスタリカ、クロアチア、キューバ、キプロス、デンマーク、ドミニカ共和国、エルサルバドル、エジプト、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ガテマラ、香港、ホンジュラス、ハンガリー、インド、アイルランド、イラン、インドネシア、イスラエル、イタリア、ジャマイカ、日本、韓国、レバノン、マルタ、マレーシア、メキシコ、モーリシャス、オランダ、ニュージーランド、ナイジェリア、パキスタン、パナマ、ペルー、フイリッピン、ポーランド、ポルトガル、プエルトリコ、ルーマニア、スコットランド、シンガポール、南アフリカ、スペイン、スリランカ、スウェーデン、スイス、シリア、台湾、タイ、トリニダドトバゴ、トルコ、イギリス、アメリカ、ウルグアイ、ベネズエラ、ジンバブエ(74の国と地域 2010/3/10現在)

国際認知症擁護支援ネットワーク
アルツハイマー病など認知症の人本人を中心とした国際団体で、英語でDementia Advocacy and Support Network International(略称:DASNI)と称します。主にインターネットと通して認知症の人同士の支援、情報交換、国際的啓発などを行っています。サイト:DASNI

国際老年精神医学会
英語名をInternational Psychogeriatric Association(略称IPA)といい、老年精神科医らの国際的な団体で、毎年、国際会議が開催し、事務局はアメリカにある。日本の会員も多く、過去2回、日本で国際会議を開催している。

高齢者 
高齢者とは65才以上の人で、「老人」と同義語とされる場合があるが、三宅は、高齢者は暦年齢による65才以上のすべての人であるのに対して、老人は加齢による機能低下のために自立生活が困難な人と機能面で高齢者と区別します。なお高齢者を分けて65才から74才までを前期高齢者、75才以上を後期高齢者と呼びます。高齢者と65歳以上とすることは便宜的なものであるが、退職、年金などと関係して社会的に決めたことで、医学的根拠があるわけではありません。

高齢者虐待防止法
2006年4月から施行された法律で、正式名称は「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」です。目的は、高齢者虐待の防止、高齢者の保護、養護者の支援と負担軽減で、虐待した人を罰するための法律ではありません。同法では虐待を「身体的虐待」「無視または放置という虐待」「心理的虐待」「性的虐待」「経済的虐待」の5つとしています。この法律では一般国民の責務として虐待の事例の市町村への通報があります。市町村の責務は、相談、指導および助言、立ち入り調査などの措置、居室の確保、警察署への要請、専門的な従事者の配置、連携協力体制、財産被害の防止です。養介護施設における虐待については、予防、早期発見、保護を挙げています。なお医療機関は対象となっていません。

向精神薬 
認知症の人の不安、うつ状態、不穏、幻覚、妄想、さらに不眠、あるいは暴力、徘徊など「認知症の心理行動症状BPSD」に対して薬物療法として向精神薬があります。向精神薬は、抗精神病薬、抗不安薬、抗うつ薬、抗躁薬、睡眠導入薬の総称です。認知症の人の不安や幻覚などの精神症状に使われるのは当然としても、暴力、徘徊など認知症の人の介護上問題となる行動に対しても向精神薬、とくに抗精神病薬が広く使われています。しかし、本当に有効なのかどうかの明確な証拠があるわけではなく、ときに行動を抑えるという「管的目的」で使われることも少なくありません。
向精神薬は認知症の人、とくに認知症高齢者では眠気や転倒など副作用が起こりやすいので使う場合、少量から始めるなどの注意が必要です。
○抗精神病薬
 統合失調症の治療薬として使われています。この抗精神病薬には、以前から使われていた「定型抗精神病薬」と比較的最近使われ始めた「非定型抗精神病薬」とがあります。
○抗うつ薬
 うつ状態の治療薬として以前から多種、使われてきましたが、近年、副作用が少ない抗うつ剤が高齢者にも使われています。認知症の人がうつ状態になることは少なくありません。
○抗不安薬
 不安障害、パニック障害、心理的外傷後ストレス障害(PTSD)などに使われる薬です。認知症の人の不安などにも有効なことがあります。
○睡眠導入剤
 不眠症によく使われる睡眠導入薬の多いくは抗不安薬と同類の薬です。効果時間によって使い分けます。
動と心理症状)に無効であるだけでなく、脳血管障害の発病を増やすなど認知症への処方を控えるべきとの提言を出しています。

混合型認知症
通常は、アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症との両方がある認知症のことで後期高齢者に多い。

ゴールドプラン21
1999年、当時の厚生省、大蔵省、自治省の間で「今後5か年間の高齢者保健福祉施策の方向」として合意された施策を「ゴールドプラン21」と呼ばれています。介護保険導入前の高齢者保健福祉計画にかかわる国の計画として示された「ゴールドプラン」「新ゴールドプラン」に続くもので、2000年以降のわがくにの高齢者対策の柱と位置づけられいます。
ゴールドプラン21は、「プランの基本方向」と4つの目標をあげています。@活力ある高齢者像の構築A高齢者の尊厳の確保と自立援助B支え合う地域社会の形成C利用者から信頼される介護サービスの確立です。
この目標にそって「今後取り組むべき具体的施策」として6つの施策を提示しています。
○介護サービスの基盤の整備−いつでもどこでも介護サービス−
○痴呆性高齢者支援対策の推進−高齢者が尊厳を保ちながら暮らせる社会づくり−
○元気高齢者づくり対策の推進−ヤング・オールド作戦の推進−
○地域生活支援体制の整備−支え合うあたたかな地域づくり−
○利用者保護と信頼できる介護サービスの育成−安心して選べるサービスづくり−
○高齢者の保健福祉を支える社会的基盤の確立−保健福祉を支える基盤づくり−
このプランでは「痴呆性高齢者支援対策の推進」として具体的な5つの推進項目をあげています。
○痴呆に関する医学的研究の推進
○グループホームの整備等介護サービスの充実
○痴呆介護の質的向上
○早期相談・診断体制の充実
○権利擁護体制の充実

高次脳機能障害
厚生労働省の2005年の診断基準によれば高次脳機能障害の基準は以下のとおりです。
○事故による受傷や病気の事実が確認できる。
○記憶力、集中力の低下、感情抑制の困難などの症状があり、日常生活や社会生活に支障がある。
○原因と考えられる異常がMRI,CT、脳波などで確認できる。但し、脳の損傷などが時間的に消滅する場合は受傷当時の診断書で確認できればよい。
○受傷・発病前からの症状や発達障害・進行性疾患などが原因の場合は除く。
新しいことが覚えにくい、会話ができにくく、仕事がうまくはかどらないなどの日常生活、仕事上の支障があり、正常でもなく認知症でもない状態であり、一見正常にみえ、怠けている、うつ病と間違って受け取られ、労働災害補償や交通事故の損害補償を受けられないなど社会的な理解を支援が得にくかったが、改善が図られつつあります。 
なお、高次脳機能障害という障害概念は日本独自のものです。また高次というからには「低次脳機能障害」についての概念は曖昧なままです。
東京高次脳機能障害協議会

後期高齢者医療制度
「高齢者の医療の確保に関する法律」により2008年4月から施行される高齢者の新しい医療保険制度です。医療費の抑制と財源の確保を目的とし、75歳以上の高齢者を対象としています(身体障害などのある65歳から74歳までの高齢者も含む)。「登録医制度」や「包括医療費」などで医療給付の制限が行われ、保険料は高齢者個人が払い、年金から天引きされます。保険者は、市町村からなる「後期高齢者医療広域連合」で、都道府県ごとに保険料や医療給付が異なることが生じます。この制度の導入と同時に、40〜74歳の保険加入者を対象とし「特定健康診査」と「特定保健指導」が行われ、後期高齢者医療制度の対象者の75歳以上は原則、健診の対象となりません。

告知
認知症の告知
認知症と診断したことについて医師から本人にその結果を告げる「告知」についての議論は、以前のがんと同じような経過をたどっているようです。がんの告知の場合、本人に生きる意欲を失わせ、自殺に追い込む危険性があるからと家族には告げて本人には隠しておいた方がよいと多くの人が思っていた時期がありました。しかし今日がんの告知は日常的に行われています。
認知症の告知もそれと同じ経過をたどると思われます。しかし、認知症の告知には、認知症であるがためのいくつかの異なる課題があります。まず、進行性神経疾患であるアルツハイマー病による認知症と、かならずしも進行はしない脳血管障害による認知症では告知の内容が異なります。後者はむしろ告げることで高血圧の治療を受けることで認知症の進行予防になることが多いからです。しかし、現在、根本的な治療法がないアルツハイマー病では話は別です。しかしこの場合でも告げた方がよいと考えます。しかも早期であればあるほど、本人が、今やっておきたいことや、病気が進んだときのことについて自己決定する機会が持てるからです。もっともアルツハイマー病は早期であればあるほど診断が難しいという問題もかかえています。
記憶障害がある認知症の人本人が、病気について受けた説明を正確に覚え理解していない可能性があります。このため医師は何度も同じことを説明したり、その度に本人の意思が変わることもありうるのです。判断力が比較的保たれている時期に書面で意思を表示しておくこと―たとえば事前意思表示―も一つの方法です。さらに家族も含め一緒に本人へ告知を行い、家族への支援と本人への家族の支援が期待できます。もっとも「告知のしっぱなし」は避けなければなりません。

語義性失語症
英語でsemantic aphasiaといい、意味性認知症semantic dementia(SD)ともいい、前頭側頭葉変性症のひとつです。左脳が侵されると単語理解力が進行性に低下し、発話は流暢でも意味を欠く(対象物の名称ではなく総称や関連語を言う)。右脳が侵されると,進行性の失名詞(物の名前が言えない)、相貌失認馴(染みのある顔を認識できない)が起こる。




在宅介護 
在宅介護とは自宅あるいは家族らの住居での介護をいいますが、グループホームや有料老人ホームは認知症の人には自宅のようなものですが、在宅介護とは言いません。
認知症の人と家族の会の1999年の調査によると認知症の人のおおよそ3分の2分は在宅介護を受けながら生活しています。同調査でも明らかにした認知症の人の家族による在宅介護は多くの困難を伴います。例えば、自分の時間がもてない、24時間の介護で心身ともに疲れる、特定の人に介護が強いられ交代してくれる人がいない、介護の苦労を理解してくれる人が少ない、同居の家族も含め周囲の人の理解が乏しい、家を開けられない、いつもで在宅介護が続くのか不安であえるなどです。
在宅介護は認知症の人にとって最も好ましいと言われることがありますが、在宅介護の条件が整ってのことであり、以下の条件が考えられます。
○認知症の状態
認知症が軽度でも困難と思う介護家族がいます。ほとんどの家族は、在宅で認知症の人を介護するのは始めての経験で、当初、戸惑うことが少なくありません。どうした同じことを何度も聞くのだろう、明らかに自分が置き忘れたのに、「なくなった嫁が盗んだ」と言い張る認知症の人を理解できません。この状態は認知症としては軽度ですが、初めて介護する家族にとっては耐え難いこともあり、疲労困憊し在宅介護を放棄したくなることもあります。逆に、アルツハイマー病の末期で寝たきり状態になり、胃瘻による経管栄養を行っている場合は、認知症として重度ですが、BPSDは少なく、主に身体介護が中心であり在宅介護を続ける家族もいます。しかし、家族に理解し難い言動、幻覚、妄想、不穏、暴力あるいは外出して行方不明になる状態が多くなると在宅介護は困難となるでしょう。
○認知症の人の身体状態
認知症の人が、肺炎、心筋梗塞、骨折などの重い身体疾患になると在宅介護は続けることはできません。身体疾患が軽症の場合、通院あるいは訪問診療、往診、訪問看護が利用できれば在宅介護は続けられるでしょう。同じ身体疾患でも脳血管性認知症の人が肺がんの末期で身体状態は重度であっても24時間体制の医療の支援を受けることができれば、在宅介護を続けることは不可能ではありません。
○宅介護できる家族がいる
認知症の人の在宅介護は、基本的に、少なくとも常時、見守りはできる家族が居ることが条件です。しかし、特に、介護保険が始まってからは、介護する家族が勤めのため昼間一人になる場合、さらには、ほとんど一人暮らしの状態の認知症の人でも在宅での生活ができないことはなくなっています。
○介護家族の理解と能力
介護家族が認知症と認知症の人を正しく理解しておくことは在宅介護の基本です。現在、テレビ、新聞、雑誌などの認知症および介護の情報は、あふれているように思われますが、介護を始めた家族は、かならずしも正しい知識をもち理解ができているとは限りません。誤解に基づく介護は認知症の人にも好ましくなく、BPSDが多くなり介護する家族も心身ともに疲れやすくなるでしょう。「こんなに一生懸命みているのに、どうして認知症の人がわかってくれないのか、よくならないのか」と、認知症の人を責めることに陥るかもしれません。また、正しい理解ができていたとしても、介護する家族が、その知識に基づきて実際に介護できるかどうかは別問題なのです。たとえば、夕方から出歩いて行方不明になることがあると、家族は一緒に歩くか、少し離れて後をつけ、頃合い見計らって「私の家に泊まりませんか」と話かけると納得することが多いのですが、これが毎日毎日、繰り返されるとできなくなるでしょう。
○介護家族の心身の健康状態
在宅介護は、日々の介護も困難なうえに、子供を育てるのとは違い、先が見えにくく、将来への不安が募ります。このため、介護家族は心身ともに疲れ果て、疲労感が増す不健康な状態、あるいは、うつ状態になってしまうこともあります。さらに介護家族が、狭心症、変形性膝関節症などの身体疾患を持っていると、認知症の人をたとえ理解していても、それにもとづく適切な介護は難しいでしょう。また実際、入院治療が必要な疾患を発病すると、在宅介護は続けられなくなります。こうした疾患にもちながら介護を続け介護家族が在宅で急変、死亡するという痛ましい事件も起こっています。
○認知症の人と家族の人間関係
認知症の人の在宅介護で、家族以外の人には見えにくいのが、介護に重要なことが認知症の人と介護家族の人間関係です。認知症になる前から人間関係がよく保たれていると、認知症になっても家族は介護する意欲が生まれ適切な介護が続けられることが多い。しかし、認知症になる前からの人間関係が好ましくないと、介護家族はそれまでの人間関係を引きずるなかで、認知症になった本人の立場になって介護しようという気持ちは湧きにくいでしょう。この人間関係が、最後まで続き、お互いに不幸な生活を送るってしまうことになるかもしれません。こうした人間関係は、見えにくく、変えにくく、こうした状況にある在宅介護は、介護家族を代えるか施設介護に切り替えるべきかもしれません。
○住居環境と経済状態
狭いアパートで認知症の人を介護することは適切な介護環境とはいえません。認知症の人が自由に歩け、介護家族もゆったりできるスペースがあれば望ましい。
経済状態も在宅介護を左右します。仕事を辞めるわけにもいかない経済状態にあると、認知症の人を昼間一人にしておく家族もあります。在宅介護ではありますが危険で、好ましくもありません。ホームヘルパーやデイサービスを利用することで、在宅介護は続けられるでしょう。しかし経済的問題として無視できないのが、自己負担です。介護報酬の1割負担や食事代などが介護家族に重い負担となり払えなく、やむなく必要な介護サービスを制限することにもなります。あるいは給付外のサービスを利用せざるとえない場合はいっそう経済的な負担が重く在宅介護が続けられなくなることもあります。
○G家族・周囲の理解と協力
認知症の人の在宅介護は一人で続けることはできません。周囲に理解してくれる人、実際に協力してくれる人がいなければなりません。まず家族内で認知症の人への理解を共有し、近隣の人たちにも理解してもらうようにすることが望ましい。さらに、理解だけでなく、なんらかの協力や支援をえることができると、こうしたインフォーマルな支援が介護サービスと相まって介護家族の大きな支えとなります。家族内で認知症の理解が異なったり、近隣に隠そうとすると在宅介護は困難なるでしょう。
○地域で利用できる社会的サービス
介護保険導入後、地域で利用できる社会的サービスは、量的にもサービスの種類でも格段に増えました。介護家族が、こうしたサービス―ホームヘルプ、デイサービス、ショートステイなど―が地域にあることを知り、認知症の人と家族にふさわしいサービスの組み合わせで在宅介護がより長く続けることができるでしょう。

在宅医療 
患者の主たる生活の場である在宅で提供する医療のことです。
高齢者の多くは家族と,あるいは一人で在宅で生活しています。疾患や障害を持って通院している高齢者,デイサービスに通っている高齢者,そして訪問診療や訪問看護を受けている高齢者も居ます。条件が整えば高齢者にとって在宅で生活をしながら医療を受けることが望ましいと考えますが、現実は、条件が整わないまま行われていることが多い。
病院でもなく,老人ホームでもなく,在宅という高齢者が生活している場で疾患や障害を持つために医療を提供されながら療養しているのが在宅医療です。介護施設である老人ホーム,グループホーム,ケアハウスは高齢者の生活の場ではありますが,ここでの医療は在宅医療とはいいません。
在宅医療を受けている高齢者は多く,医療といっても中心は高齢者であることはいうまでもありません。つまり,24時間管理され適宜医療を提供される安心感があっても日常生活と社会から隔離されプライバシーの乏しい入院医療と比べ,住み慣れた家や地域で家族と共に―一人暮らしの高齢者も居るが―生活しながら医療を受けることは,高齢者が中心の医療であり,高齢者の生活の質を高める医療ともいえます。在宅医療を提供する医療者は,この高齢者中心,生活重視の視点を常に持っておきたいものです。
在宅医療の条件
○高齢者や家族が在宅医療を望んでいる
在宅医療は,高齢者や家族が在宅での医療を望んで初めて提供されるものです。しかし,高齢者や家族は,生活する地域で在宅医療が提供されているのか,また,どのような医療が提供されるのかという情報を持っているとは限りません。また,在宅より病院や介護施設での医療や生活を望んでいるかもしれません。こうしたことについての的確な情報を基に,高齢者本人が,そして家族が選択して,その結果として在宅医療が始められるべきです。
○介護者が居る
在宅医療は,生活が成り立って初めて行えるものです。食事,睡眠,排泄,入浴など基本的な生活が保障されていなければなりません。それを担っているのは家族という介護者です。その介護者は必ずしも同居している必要はありません。高齢者の状態によっては週1回高齢者の状態を見て,必要な支援をすることでも構いません。さらに,介護保険での訪問介護を行うホームヘルパーという,高齢者の生活を支援する介護者が居ることでも構いません。すなわち,生活があっての在宅医療なのです。
○介護者が健康である
介護者が居ても,高齢で病弱の配偶者では高齢夫婦の生活も不安定であり,在宅医療を続けるのは難しいことがあります。また2世代,3世代同居でも特定の人に介護が強いられていることが多く,その介護者はできれば心身ともに健康であることが望ましいです。そのことで安定した介護ができ,在宅医療も適切に効果的に提供できるでしょう。
○介護者が介護と医療の正しい知識と技術を持っている
介護者は,高齢者の疾患や障害について,必要な介護方法,さらには提供される在宅医療についての知識を持ち,関連した技術を身につけていることが望ましいです。例えば,経管栄養を行っている高齢者に対し,介護者がその知識,処置の技術を持っていないことには,在宅で経管栄養を行うことは誤嚥性肺炎を頻繁に起こすという危険を伴うことになります。
このために,医師や看護師は介護者に合った方法で,行っている医療の意義,技術,危険性,変化時の対応などを,理解するまで分かりやすく説明する役割があります。
○高齢者と介護者との人間関係が良好である
高齢者が介護を受け,生活を支えてくれる介護者との人間関係は,できれば好ましいことが高齢者の生活の質を高めます。また,よりよい人間関係のなかでこそ在宅医療も適切に提供されます。
好ましくない人間関係のなかでは,基本的な生活さえ保障されず,医療も不適切にしか行われなくなり,時に高齢者虐待になりかねないような状況が生まれる可能性もあります。
もっとも人間関係は両者の関係ですから,介護者だけを責めることは避けなければならないでしょう。
○ふさわしい住居環境である
高齢者の住居環境は在宅医療には重要です。何らかの身体障害を持っている高齢者にとって,段差が多く滑りやすい床,手すりのない廊下,急な階段,使いにくいトイレや浴室などは好ましい住居環境ではなく,適切な在宅医療を困難にすることがあります。そのような場合は,介護保険での住宅改修を利用することはいうまでもありませんが,多くの高齢者は適切とはいい難い住居環境のなかで生活し,在宅医療を受けていることも事実です。
○医療の24時間提供体制がある
高齢者の状態が安定していれば定期の訪問診療や訪問看護で対応できますが,状態が不安定では,いつ状態の変化があり急変するかもしれません。そのような時に医師や看護師の援助が得られないのでは,高齢者も介護者も在宅医療を望まないでしょう。
 昼夜,休日を問わず適宜いつでも訪問する体制を備えておくことは在宅医療の条件です。特にターミナルケアを在宅で希望する場合に,このことがいえます。さもなければ最期を望まない病院で送ることになるかもしれないからです。
○必要な在宅介護サービスを受けている
基本となる生活が保障されてこそ在宅医療が提供できるのです。このため家族による自助的な努力と,必要な介護保険のサービスなどを受けることでふさわしい生活が送れていることが,在宅医療には欠かせません。

在宅介護支援センター 
在宅の高齢者の家族らに在宅介護に関する総合的な相談に応じ、ニーズに対応した各種の福祉サービスなどを総合的に受けられるように市町村等関係行政機関、サービス実施機関などとの連絡調整等を行います。より広域での支援は地域包括支援センターが行っています。
○実施施設
常時、機能している医療や福祉の実施機関で特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、病院等の在宅介護支援センターで行います。
○利用対象者
おおむね65歳以上の要援護高齢者またはその家族らです。
○サービス内容
家族らからの各種の相談に応じ、指導・助言を行う/必要なサービスが受けられるよう関係機関との連絡・調整を行い、介護機器を展示し、その使用方法を指導します。





若年期認知症 
○若年期認知症とは
若年期認知症は、文字どおり若年期の認知症のことですが、この若年期とは40歳以上65歳未満までとする場合と、18歳以上65歳未満までとする場合があります。医学的には後者が妥当ですが、介護保険では制度上、「特定疾病」の「初老期における認知症」として前者の年齢層に限定しています[1]。なお、介護保険の「特定疾病」では、法的に「初老期における認知症」という用語が使われていますが、「初老」とは40歳のことを意味する現代では半ば死語で「若年期の認知症」とすべきでしょう。
また、「若年期認知症」に似た用語として「若年性認知症」があります、これは若年期認知症と同じ意味で使われているかはっきりしませんが、若年期に特徴的に多い認知症と理解し、その代表的な疾患は前頭側頭型認知症のピック病などが該当するでしょう。若年性認知症は若年期認知症の一部ととらえます。また、単に「若年認知症」という用語も使われていますが、これも概念がはっきりしません。これら3種類の用語が曖昧なまま使われているようですが、本書では若年期認知症とします。
○若年期認知症の人の数
高齢期認知症の人とくらべ若年期認知症の人の数は少なく、その有病率あるいは人数を把握することは容易でなく、これまでのいくつかの調査によって有病率や人数はまちまちです。わが国での調査によると、たとえば「認知症の人と家族の会」が1991年に行った調査では40歳から64歳までの若年期認知症の人を約8.3万人と推計しました。その後、1998年、当時の厚生省の研究班による実態調査では18才から64才までで全国で少なくとも2万6000人の若年期認知症の人がいると報告されました。さらに最近、2009年に厚生労働省の「若年性認知症の実態と対応の基盤整備に関する研究」の研究班が全国的に行った調査では、18歳から64歳までで全国に3万7800人いると推計しています。なお若年期認知症が増えているかどうかについては医学的な証拠はなく、この問題が社会的に顕在化して増えたような印象を与えていると考えます。表は厚生労働省研究班報告(2009年)より。
○若年期認知症の特徴
若年期認知症は、高齢期認知症と同じ課題があると同時に、異なる課題も少なくありません。
原因疾患が多様である。
高齢期認知症は、その原因疾患のほとんどがアルツハイマー病と脳血管障害です。しかし、若年期認知症の原因疾患は多様です。上記の2009年の研究班の報告によると、脳血管障害(39.8%)、アルツハイマー病(25.4%)、頭部外傷(7.7%)、前頭側頭葉変性症(3.7%)、アルコール性脳症(3.5%)、レビー小体病(3.0%)となっています。

年齢 人口10万人当たり
有病率(人)
推定
患者数
(万人)
総数
18-19 1.6 0.0 0.8 0.002
20-24 7.8 2.2 5.1 0.037
25-29 8.3 3.1 5.8 0.045
30-34 9.2 2.5 5.9 0.055
35-39 11.3 6.5 8.9 0.084
40-44 18.5 11.2 14.8 0.122
45-49 33.6 20.6 27.1 0.209
50-54 68.1 34.9 51.7 0.416
55-59 144.5 85.2 115.1 1.201
60-64 222.1 155.2 189.3 1.604
18-64 57.8 36.7 47.6 3.775

原因が多様であることが、その症状、経過、治療、介護も異なってきます。多様な疾患に多様な対応が求められるが若年期認知症なのです。
所得が減少する
「認知症の人と家族の会」が1992年に行った調査などによると、若年期認知症の大きな問題が発病による家族の所得の減少です。40歳、50歳代で認知症になると仕事ができにくくなり解雇され、自営業を辞めせざるをえないことになります。また、配偶者が認知症になっても介護のために仕事を辞めることで所得が減少し、家族は経済的に大きな影響を受けます。収入の減少に対しては、障害者年金の給付である程度補えることができる人もいますが、多くの家族は経済的に困窮し、大学生の子どもが退学しなければならないこと起こっています。こうしたことは高齢期認知症ではありえません。
子供らに精神的社会的影響を与える
成人していない子供が、家で一緒に生活してきた認知症の父親や母親の姿を見ること、その訳を理解しがたく、また辛いことです。不登校になったり、家出する子供もいます。若年期認知症の親がいることが子供の結婚に影響したという話を聞いたことがあります。若年期認知症については子供へのケアも忘れてはなりません。
介護保険サービスを利用しにくい
すべての若年期認知症が介護保険の対象にはなっているわけではありません。脳腫瘍や頭部外傷による認知症は要介護認定を受けることができません。さらにたとえ介護認定を受けたとしても、実際に介護保険サービスが利用できるとは限りません。デイサービスやショートステイを利用しようと思っても、介護施設では高齢者ばかりで利用を躊躇したり、サービスを提供する側も体制が整っていないと利用を拒むこともあり、介護保険サービスの利用が制限されているのが現状です。

心理テスト 
認知症の診断の補助として記憶能力を中心とした認知機能に関する心理テストがあります。日本では長谷川式簡易知能評価ステール改訂版(HDS−R)ミニメンタルステート検査(Mini Mental State Examination:MMSE)が汎用されています。極めて簡単なテストとして「三宅式簡易認知症判定テスト」があります。これは年齢を聞くだけでよく、年齢が言えるとほぼ認知症ではない、言えないとほぼ認知症であると判定します。認知機能に関する心理テストは被験者が調べられているという緊張感、不快感を与えかねません。テストを行うに際しては、わかりやすい説明、時期、場所、方法に配慮したい。
認知症の心理テストについては、早期に発見するためのテスト、補助的な検査ではなく認知症と確定できるテストの開発も進められています。

失禁 
○症状 
認知症が進むと失禁が多くなります。尿意をもようしてもトイレに行くまでに下着を汚したり、間に合わないと部屋のゴミ箱に排泄したり、トイレでしても汚してしもうことが頻繁になります。また認知症の人によっては汚れた下着を始末しようとタンスなどにしまいこむという行動も見受けられます。
○背景
認知症の人は失禁は判断の障害や実行機能障害によると考えらます。人の排泄行為には、尿意による判断、トイレの確認、排泄までの抑制、排泄、元の状態に戻すといった一連の作業からなっています。たとえば、排尿を我慢できるか我慢できないか、我慢できなければ何処のトイレで排泄を行うか、そのトイレの場所の確認と距離の判断あんどが求められるのです。認知機能の低下によってそれまでなかば無意識に行ってきた一連の排泄行為がうまくできなくなり、失敗が増え、そのことを恥ずかしいと思い、隠そうとする行動もあるのです。
○対応
 尿意がもよおした時に速やかにトイレに行けるようにトイレの近くの部屋で生活するのがよい。トイレの位置がわかりやすいように「便所」と書いた紙を貼っておくのもよいでしょう。夜、トイレの場所が確認しやすいように廊下を余り暗くしない方がよい。あるいは時間を決めてトイレに連れてゆく試み、不快感の少ないパンツ型おむつを使ってみるのもよいかもしれません。

CT
コンピューター断層撮影法(Computer Tomography)の略称。エックス線撮影で得られたデータをコンピューターで処理して人体の輪切りの画像を作る検査技術です。1970年代にイギリスで発明され改良を重ね、現在、身体のあらゆる部分を短時間に撮影できるようになり、さらに造影剤を投与しながらの造影CTでより身体の細部にわたる画像化や3次元画像が可能となりました。認知症の診断には欠かせない基本的検査です。短時間で放射線の被爆量も比較的少なく認知症の人に簡便な検査です。日本ではほとんどの病院には設置されておりMRIが導入されてもCTの役割は減ずることはありません。


重症度
認知症の重症度という場合、認知症による認知機能障害や日常生活面での障害の重症度と、介護の困難さの重症度を指すことが多い。このふたつの重症度は必ずしも平行関係にはなく、介護の重症度は認知障害が軽度でも中程度でも重症でもそれぞれの困難さがあります。
重症度の基準として認知機能障害については、改訂版長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)、ミニメンタルステート検査(Mini Mental State Examination:MMSE)などがあります。行動面による認知症高齢者の日常生活自立度臨床認知症評価(Clinical Dementia Rate:CDR)、アルツハイマー病の機能的段階評価(Functional Assessment Staging:FAST)、アルツハイマー病評価スケール(Alzheimer’s Disease Assessment Scale:ADAS)、認知症行動障害スケール(Dementia Behaviour Disturbance scale)などがあり、簡便なものとして三宅の分類があります(表)。介護負担度を示す基準として、Zarit 介護負担尺度(Zarit Caregiver Burden Interview;ZBI)の日本語版があります。

軽度 記憶障害、判断の障害など認知機能の障害を認めるのみの状態
中等度 知的機能の障害に加え、失語、失認、失行、失禁など行動の障害が目立つ状態、
重度 乏しい感情、無関心など感情活動の低下および歩行障害や嚥下障害など神経症状を認める状態

重度認知症患者デイケア
BPSDの著しい認知症の人の精神症状の軽快、心身機能の回復・維持を図るため精神科医が作成された個別のプログラムにそって行われる医療保険による医療である。重度とは「認知症高齢者の日常生活自立度判定基準」でランクMに該当する。施設基準としては、選任の精神科医、看護師、作業療法士、精神保健福祉士、臨床心理担当者を置くことになっている。このデイケアは認知症対応型通所介護の施設よりBPSDが著しい認知症の人が対象となっているが、実態としては通所者やサービス内容に大きな違いはないようである。

施設介護
施設介護とは、広義には施設が提供する長期入居・入所・入院(以下入所とする)介護、短期入所介護および通所介護をいいます。狭義には長期入所による介護によるものです。
認知症の人が長期に入所して介護を受ける施設として特別養護老人ホーム介護老人保健施設療養型医療施設、ケアハウス、グループホーム、養護老人ホーム、経費老人ホームがありますが、代表的な施設介護を提供する3つの施設は以下のとおりです。
○特別養護老人ホーム
老人福祉法に基づく福祉施設で介護保険では「介護老人福祉施設」と呼ぶ生活を重視した介護施設であり、2008年10月現在、全国に6,015施設(入居者数は約42万人)である[1]。入居対象者は介護保険で要介護認定を受けた人で、施設の定員は通常50人ほどだが、過疎地などでは30人規模の小規模の施設もある。医療職は非常勤でよいが、常勤の看護師が置かれているが夜間、休日は不在のことが多く医療面での対応が十分ではない。介護老人福祉施設は、長期入居の他に短期入所生活介護(ショートステイ)や通所介護(デイサービス)、さらに訪問介護、在宅介護支援センター、配食サービスなど総合的な地域的生活支援を進めているところがある。集団的画一的管理的な介護から、高齢者の個々の生活を尊重した介護が重視され、少人数グループの分けた「ユニットケア」を取り入れる施設も増えている。さらに個々の入居者の生活とプライバシーを尊重して「個室」も増え、将来的にすべての特別養護老人ホームの全室個室化も目指している。また施設でのターミナルケアも取り入れているなど医療管理が必要な高齢者が増え医療の拡充が求められている。
認知症については認知症棟を設けたり、認知症高齢者のユニットケアの試みも広がっている。
A介護老人保健施設
旧老人保健法の制定により入院から在宅への中間施設の役割を期待された「老人保健施設」が1988年に導入されたが、介護保険制の導入により同法の「介護老人保健施設」となる。2008年10月現在で施設数は3,5001施設で(入所者数は約29万人)である[1]。医療職は、常勤の医師1名、看護師および理学療法士または作業療法士である。施設は、通常平均3か月から6カ月の中期入所、1,2週間程度の短期入所およびデイケアの3つの機能を併せもつ施設が多く、在宅の高齢者の日常生活機能を維持・向上に図り、リハビリテーションと家庭復帰を図っている。しかし多くの介護老人保健施設は、介護と医療が混在し介護老人福祉施設と療養型医療施設の中間的な機能をもつい役割が曖昧な施設と考えられる。実際、介護老人保健施設の入所者のなかには在宅へ退所できない高齢者も多く、介護老人保健施設を転々としたり特別養護老人ホームへの入居所待している高齢者も少なくない。
認知症については、介護老人保健施設の入所者に認知症は少なくなく、こうしたなか介護保険で認められた認知症の中核症状やBPSD(認知症の行動心理症状)の改善に有効とされる「認知症短期集中リハビリテーション」が介護保険給付として提供する施設が増えている。
 ○療養型医療施設
 医療保険の養型医療施設と介護保険の療養型医療施設があり、後者を「介護療養型医療施設」と称する医療機関で、2008年10月現在、施設数は2252施設(入院者数約99万人)である[1]。医療職は常勤で複数の医師および看護師らである。この施設には、身体疾患や精神疾患で状態が比較的安定しているが医療的対応が必要な要介護認定を受けた入院するが、医療の必要性が曖昧で高齢者の社会的入院が少なくないと思われる。また医療保険によるものと介護保険によるものとの区分も曖昧である。
認知症については、老人性認知症患者療養病棟以外の施設では特別な取り組みは少ないようだ。
ショートステイ
短期入所

小規模多機能型居宅介護施設
2006年に導入された介護保険法による地域密着型の介護施設で、「デイサービス」「ホームヘルプ」「ショートステイ」の3つのサービスを提供しながら地域在住の高齢者を24時間、365日の体制で支援します。デイサービスは15名までとし、ショートステイは9名までであるがこの施設に登録した利用者最大25名に限定され、「小規模多機能型居宅介護」として介護保険の給付の対象となっています。2011年6月現在で全国に約3000カ所在ります。。質の高いサービスを提供している施設で認知症の人の利用も多いが、全国的に施設数が少ない。またこのサービスを利用者は同時に他の介護保険サービスは利用できないという制限があります。

進行性核上麻痺(進行性核上性麻痺)
進行性核上麻痺は、眼球運動障害、歩行障害、構音障害を主な症状とする進行性の神経疾患です。英語ではprogressive supranuclear palsyといい、略称PSP。特定疾患(いわゆる難病)の、また介護保険の特定疾病の「パーキンソン病関連疾患」の一つでもあります。疾患の進行とともに認知症が現れることがあります。
脳の特定の部位― 基底核、脳幹、小脳―の神経細胞が減少し、転びやすい、下方が見にくい、認知症、話しにくい、飲み込みにくいといった症状がある進行性の神経疾患です。発病時には、パーキンソン病とよく似た緩慢な動作や歩行障害などを示します。発症は若年期に多いのですが、高齢期でも発症します。
○症状
いくつかの特徴的な症状―眼球運動障害、歩行障害、構音障害、嚥下障害、認知症などーがあります。全経過は4,5年、長くて10年と言われています。
眼球運動障害
この疾患にかなり特徴的な症状で、発病初期からみられ、上方向や下方向、特に下向きの眼球運動が制限され、下の方を見ることが困難になります。病気が進行すると左右方向の眼球運動も制限され、最終的に眼球は中央で固定して動かなくなります。
歩行障害
歩行障害、特に転びやすいという症状が初期から現れます。歩行時の姿勢が不安定で、さらに転倒予防や転倒時の注意ができにくくなることも転倒しやすい原因と考えられます。歩行障害は、さらに足が前に出しにくい、歩きだすと早くなって止りにくくなるといたパーキンソン病にた運動障害がみられます。さらに進むと、頚部が後ろにそり、動作が緩慢になり四肢の関節が固くなって「寝たきり様状態」になります。
構音障害、
言葉が次第に不明瞭になり聞き取りにくくなります。
嚥下障害
食べるとむせやすく、飲み込みにくくなります。飲み込まないで食物を口のなかで貯めこんでしまうこともあります。このため嚥下性肺炎になりやすくなり、経管栄養を考えなければならなくなります。
認知症
初期は認知症はあまり目立ちませんが、病気の進行とともに認知機能も低下してきます。ゆっくり会話をすればかなりコミュニケーションはよくとれます。
その他の症状
進行するとうつ症状が現れることがあります。
○原因
脳内の特定の部位―黒質、中脳上丘、淡蒼球、視床下核、小脳歯状核など―の神経細胞が減少します、アルツハイマー病にみられるタウに似た蛋白が見られますが、原因はよくわかっていません。遺伝する疾患ではありません。
○治療
現在、根本的な治療法や症状を改善する治療法もなく、対症療法的に 抗パーキンソン剤が使われることがありますが、効果は不確かです。

進行性非流暢性失語症
原発性進行性失語症

身体拘束

介護保険制度の導入に伴い介護保険施設での身体拘束は基本的に禁止されました。1999年の厚生省令で身体拘束禁止を規定では以下のとおりです。
○身体拘束禁止の省令
「サービスの提供にあたっては、当該入所者(利用者)またはその他入所者等の生命または身体を保護するため緊急やむをえない場合を除き、身体的拘束その他入所者(利用者)の行動を制限する行為を行ってはならない」
○対象施設
介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護療養型医療施設、短期入所生活介護施設、短期入所療養介護施設、痴呆対応型生活介護施設、特定施設入所者生活介護施設です。介護保険施設以外の医療機関は対象外です。
厚生労働省の身体拘束ゼロ作戦推進会議の「身体拘束ゼロの手引き」によると、
○身体拘束の具体的な範囲
車椅子やベッドに紐等で縛る。
ベッドを柵で囲む。
手足を紐で縛る。
手指の機能を制限するミトン型手袋等をつける。
立ち上がれないような椅子を使う。
立ち上がれないように椅子にテーブルを取り付ける。
つなぎ服を着せる。
行動を落ち着かせるため向精神薬を過剰に服用させる。
自分の意思で開けることができない居室等に隔離する。
○身体拘束の弊害
弊害は、身体的、精神的、社会的なものがある。さらに拘束することで認知症が進み、ますます身体拘束をしなければならなくなったり、一時的な拘束が常時の拘束するようになるといった悪循環が生じやすくなる。
身体的弊害:関節の拘縮、筋力の低下、褥創の発生、食欲の低下、心肺機能の低下、拘束されることによる転落や窒息事故など。
精神的弊害:本人の不安、怒り、屈辱、あきらめ、認知症の進行など。家族の混乱、後悔、罪悪感など。介護者のケアに対する誇りの喪失と士気の低下など。
社会的弊害:介護保険施設に対する社会的な不信や偏見の助長。
○身体拘束廃止のための基本
トップが決意し施設が一丸となって取り組む
施設長、介護部長などの責任者が身体拘束廃止を決意し現場をバックアップする方針を徹底し、施設の全部門からなる「身体拘束廃止委員会」を設け、施設全体で取り組むようにする。
みんなで議論し共通の意識を持つ
身体拘束は個々の職員の意識の問題ではあるが、職員間で十分に議論し意識を共有化する。家族との話い合いの場も設け、身体拘束廃止への理解を得るようにする。
身体拘束を必要としない状態の実現を目指す
個々の高齢者の状態を把握し身体拘束を必要としない状態を作る。このため問題行動の原因を理解するように努め、それにあったケアの工夫を検討し実行する。
事故の起きないような環境を整備し柔軟な応援態勢を確保する
転倒、転落を起きないような環境を整備する。手すりを取り付ける、足元に物を置かない、ベッドを低くするなど。職員全員で助け合える柔軟な態勢をとり事故の防止に努める。
代替的な方法を考え、身体拘束する場合は極めて限定的とする
身体拘束をしなければならないような場合も本当に代替の方法がないのかを検討する。漫然と拘束している場合は直ちに拘束を解除する。ケアの方法の改善、環境の整備など創意工夫を重ねる。省令にある「緊急やむをえない場合」の身体拘束は極めて限定的に考える。
○緊急やむをえない場合の対応
3つの条件をすべて満たす必要がある
切迫性:利用者本人または他の利用者等の生命または身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと
非代替性:身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する介護方法がないこと
一時性:身体拘束その他の行動制限が一時的なものであること
慎重な手続きを行うことが求められる
身体拘束は職員個人で行なわず、施設全体として判断するようにルールを決めておく。また家族に対しての身体拘束の理由、内容を説明し十分な理解を得る。緊急やむをえない身体拘束としても常時観察し要件に該当しなくなれば直ちに解除する。
身体拘束に関する記録を義務づける
身体拘束を行う場合の理由、方法、期間等について記録しなければならない。
認知症の人の身体拘束を全面的になくすことは容易ではなく、身の安全を両立させなければなりません。しかし身体拘束は人権侵害にかかわることであり、介護職の人権意識、介護上の工夫、施設整備、職員の十分な配置などが必要です。

終末期ケア
ターミナルケア

事前意思表示(事前指示)
判断や意思表示ができるときに、前以て意識障害や認知症など意思表示ができないまたはできにくくなったとき、医療、介護、生活などについての自分の意思表示または指示を文章などで明示しておくことです。わが国では法的な根拠はありませんが、医療などの方針を決める時の重要な情報になりえます。英語でAdvance directiveという。

神経原線維変化
アルツハイマー病の脳に多く見られる変化で異常タウ蛋白が神経細胞内に蓄積した状態です(写真)。

神経精神性ループス
自己免疫疾患である全身性のループスエリテマトーデスの類似疾患で、脳の血管変性により幻覚妄想、認知障害などの精神症状、けいれんなどの神経症状が多彩な症状が現れ稀な疾患です。

自己免疫性脳症
自己免疫疾患による脳症で、代表的なものとして橋本脳症があります。甲状腺の自己免疫疾患である橋本病(別称:慢性甲状腺炎)に伴って現れることが多く、混乱、見当識障害、記憶障害などとともに認知症を呈することもあります。橋本病は稀ではなく治療可能な疾患であり、脳症は稀な疾患です。

自立支援医療
2006年4月から、従来の「精神通院医療」、「更生医療」、「育成医療」の3つの制度を統合したもので、障害に係る公費負担医療制度が各種法律により別々な制度であったものを手続きや負担の仕組み等を共通化したものです。利用者負担は、原則、医療費の10%を負担しますが、所得の低い人には月あたりの負担上減額が設定されます。
障害者自立支援法

周辺症状
随伴症状」あるいはBPSDと同じ意味で使われ、認知症に伴う幻覚、妄想、徘徊、暴力行為などを指します。

障害年金
年金制度のひとつで障害者への年金で、おおきく「障害基礎年金」と「障害厚生年金」がありあます。支給要件は、障害基礎年金では20歳未満で初診で20歳のとき障害の状態になった場合、または20歳に達した後60歳未満で障害の状態となった場合、障害厚生年金では厚生年金に加入中で60歳未満で初めて受診し障害の状態になった場合です。対象となる障害の原因傷病に「若年期認知症」が含まれ、精神の障害の程度は常時介護を要する重度の精神障害、あるいは身体障害と精神障害とが合わさって重度である場合です。しかし障害年金は支給額だけで家族が生活するには十分が額ではありません。

ショートステイ
短期入所

社会福祉士
社会福祉士及び介護福祉士法による国家資格の専門職で「専門的知識及び技術をもって、身体上若しくは精神上の障害があること又は環境上の理由により日常生活を営むのに支障がある者の福祉に関する相談に応じ、助言、指導、福祉サービスを提供する者又は医師その他の保健医療サービスを提供する者その他の関係者との連絡及び調整その他の援助を行うことを業とする者」とされています。介護施設以外に医療機関などにも勤務しています。登録者数は10万9158人(2009年2月現在) 社団法人日本社会福祉士会

新オレンジプラン
認知症施策推進総合戦略




睡眠導入剤 
現在、使われている不眠症に多く使われている睡眠導入剤で、自然な睡眠の状態になるのを助ける薬です。主に有効時間の長さによって使い分けますが、朝まで効くわけではありません。副作用として、うとうとしたり、不穏になったり、このため転倒する危険があります。認知症の人が不眠の場合はその理由や背景を観察して、薬によらないで対応することが望ましい。


随伴症状
周辺症状」あるいはBPSDと同じ意味で使われ、認知症に伴う幻覚、妄想、徘徊、暴力行為などを指します。




せん妄 
せん妄(譫妄)は高齢者に多い急性に発症し多くは治る精神疾患です。肺炎や手術後などにみられます。
○症状
せん妄は,外的刺激への反応や注意が低下し意識の低下した状態です。意識レベルは、呼べば答えるがすぐうとうとしてしまう軽度から反応が乏しくなる状態までさまざまです。軽度の意識障害のとき、記憶障害や見当識障害も目立ち、認知症と見間違うこともありますが、意識障害があるので認知症とは診断できません。意識低下で精神的な活動が低下していることもあれば,逆に活発になり幻覚や妄想が強く.布団のうえに虫がいると騒いだり、ベッドから離れようとし、治療のための点滴の針やカテーテルを抜去したりもします。せん妄は、一般に発症が急でその持続時間は短く,数時間から2、3日続くこともあります。多くの認知症と異なり症状は可逆的です。もっとも認知症高齢者がせん妄になることもありますが、経過から二つの疾患が併発したと判断できるでしょう。
せん妄の多くは治りますが、身体疾患でもせん妄がある場合が死亡する割合が高い。
○原因
せん妄の原因は多様です。主に身体疾患−肺炎,脱水症,脳血管障害,心不全,腎不全など−よる場合と,集中治療室(ICU)や病室など不適切な環境、急激な環境の変化,長期の安静や抑制などでもしょうます。せん妄は高齢者の多くみられる要因として、加齢あるいは疾患により脳の動脈硬化性の変化や認知機能の低下といった状態が背景にあると考えられます。
せん妄を起こす主な身体要因として以下ことがあります。
髄膜炎,脳炎、肺炎、尿路感染症,かぜ症候群、低血糖、甲状腺機能亢進症、高カリウム血症、脳外傷、一過性脳虚血発作、脳梗塞、脳出血、低酸素状態および薬物―抗ヒスタミン剤、抗パーキンソン剤、抗精神病薬、抗不安剤、降圧剤―やアルコールなどです。
○検査と診断
せん妄の診断は発症の仕方と症状から診断は困難ではありません。診断はDSM-Wによります。しかし単に早期にせん妄と診断しただけでは不十分でその原因を把握する必要があります。せん妄は身体疾患により、身体疾患の初発症状とうことも少なくないの、原因と思われる身体疾患の基本的検査は不可欠です。すなわち、胸部単純レントゲン撮影,血液検査,心電図、頭部CTです。しかし、せん妄の高齢者は不穏のため安静を要するCTなどが行えない場合もありますが、状態をみながら適宜行うことが望ましい。
診断については、認知症、幻覚妄想状態との鑑別を行いますが,意識障害の有無が鑑別の決め手となります。しかし、認知症高齢者がせん妄になることもあり、これは症状の経過からふたつの状態が併発したと判断することも困難ではないでしょう。
○治療
せん妄の治療の基本は原因となっている身体疾患の治療です。その身体疾患の治療を速やかに始め、必要におじて解熱薬,補液だけでせん妄が消退することもあります。また服用している薬物を中断できないものは除いてできるだけ中心します。同時に高齢者の置かれている療養環境に配慮し,見当識を低下させないため暗すぎない照明,騒がしすぎず静かすぎずが、よいようです。また各種のカテーテルやチューブによる制限,拘束はできるだけ避けるようにします。また患者は意識低下があるにしても,そのときどきの話かけには反応することがあり、ゆっくりわかりやすく耳もとで話しかけるように努める.
せん妄の治療の基本は身体治療と環境の改善であるが,これだけではせん妄の改善が遅く,また治療中に不穏のため補液の針や導尿チューブを抜いたり,酸素吸入のマスクを外したりして身体面の治療が計画どおりに進まないことがあり、結果的にせん妄も改善しないという悪循環に陥ってしまうことが起こりえます。こうした精神状態には向精神薬を投与してみます、向精神薬を少量から投与―筋肉注射―しています。また身体拘束も必要なこともあります。

性格 
性格の概念や定義はいろいろありますが,「人間の心理的反応の様式」と筆者は簡単に定義します。家庭生活で,部屋の整理整頓しておかないと気が済まない「几帳面な性格」もあれば,散らかっていてもあまり気にならない「ずぼらな性格」があります。あまり自分という人間を外に表したがらない「内向的性格」もあれば、自分をどんどの外に出して関わってゆこうとする「外交的性格」もあります。
こうしたなかで高齢者の性格の一般的で多くかつ好ましくない性格として指摘されるのが「粘着質」,「自己中心的」,「非妥協的」なとだありますが、とりわけ強調されるのが「頑固」という性格でしょう。環境の変化への適応能力が低下しやすい精神機能の高齢者にとって,「頑固」になること、すなわち自己中心的で変化を好まないことで自分を守ろうとする「自己防衛」と見ることができます。したがって「頑固」を一概に悪い性格とみなすのではなく「頑固」にならざるをえない高齢者の特性への理解が必要と考えます。
性格は認知症の人の言動に影響します。「几帳面」と言われる性格の人は物事をきちんとしなければ気が済まないのだが知的機能が低下しているためにそれが出来にくく混乱し情けなく思い、ますます混乱することが起こることがあります。他方、「ずぼらな」と言われる性格であると細かいことにあまり拘らないので知的機能が低下していても精神的な混乱は少なく、介護しやすいかもしれません。認知症の人の言動の背景に性格があることも理解しておくよい。なお性格が認知症の危険因子か否かについては、「悲観的な性格」の人は認知症になりやすいという研究報告があります。

性格障害 
性格による障害―性格障害―は「家庭、職場、施設、地域での生活に支障をきたすような障害が生じるような性格」と定義することができます。あまりに頑なな性格によって家庭内での生活を乱させる高齢者,あまりに依存的な性格によって自立的な生活が送れない高齢者もいます。
なお,性格障害に似た用語としてより広く使われる用語として「人格障害」がありますが,人格は人のあり様にすべてにかかわることで、人格障害というとその人となりすべてが否定いるかのような印象を与える用語なので,意味は同じで筆者は「性格障害」という用語を使います。
また性格障害は、精神疾患の背景となる心理的な状態であり,精神疾患とは別に扱う考え方もあります[1]が、本書では精神疾患として扱います。
さらに,性格障害は、時代の価値観や社会状況で異なるものであることも知っておきたいところです。例えば,戦時中には好戦的な行動をとる性格の人は性格障害とは見なされなくても,戦後にも同じ行動をとると性格障害と診断されるかもしれないのです。
この性格障害をDSM-Wでは表のように分類しています。こうした分類は便宜的なもので、各性格を明確に分類できるものではなく混在していることが多く、どの傾向がより強いかによって決まるものです。
○症状
性格障害の種類によって思考や行動といった面での症状は多様です。たとえばDSM-Wの「人格障害」の「依存性人格障害」では、「過剰に面倒をみてもらいたい欲求があり、まとわり付く行動を取り、分離することを恐れる」と定義し、いくつかの心理状態があると列記しています。
○原因
性格障害は先天的な要因と後天的な要因で生じると考えます。さら高齢者でも置かれている生活環境によってその現れ方も異なるものです。
ところで、「高齢者は頑固だ」という性格傾向を指摘されることがよくあります。「頑固」とは,言い換えると,「変化を好まない」「自分を中心に物事が動いて欲しい」ことです。高齢者は老いのなかで変化に適応したり順応する機能が低下する傾向があり、自分にとって不利な変化を好まず適応しにくくなります。このため、頑固であることによって高齢者が「自己防衛」していると考えることもできます。性格障害にはこうした高齢者の一面があることも理解しておきたいものです。
○検査と診断
性格を判定するさまざまな心理テストあるいは性格テスト―Y-G性格検査(矢田部-ギルフォード性格検査)、ロールシャッハテスト、バウムテスト(描いた木から判定する)など―がありますが、あくまでも参考とし、精神状態、人間関係、生活状態などから診断します。妄想症との区別も必要であり、また認知症になることである性格傾向がより強くなり、認知症と性格障害とを判定することが必要なこともあります。
○治療
高齢者の性格障害の治療とは何かを考える必要があります。性格、とくに高齢者の性格を変えることは、ほとんど不可能でしょう。説明や説得して変わるものでもありません。家庭や施設で問題となるような性格傾向―性格障害―を持ちながら、その高齢者が置かれている状況を変えることで高齢者の性格障害の現れ方をより少なくすることをあえて性格障害の治療と呼びます。
例えば,在宅では頑固すぎて家庭内のトラブルの絶えない高齢者が,デイサービスや介護施設に居るとき頑固さはあまり現れなくて,どちらかいうと温和で物わかりのよい高齢者に変わることもあります。長男の妻との家庭では自己中心的な性格障害が顕著な高齢者が,娘と生活するなかでは性格障害的な傾向はあまり現れず協調的な家庭生活を続けることができること場合もあります。同じ性格障害があっても生活環境を変えることが基本的な「治療」と考えます。
表 人格障害の分類(DSM-W)
妄想性人格障害 /統合失調質人格障害/統合失調型人格障害/反社会性人格障害/境界性人格障害/演技性人格障害/自己愛性人格障害/回避性人格障害/依存性人格障害/強迫性人格障害/抑うつ性人格障害/受動攻撃性人格障害

正常圧水頭症 
正常圧水頭症(Normal Pressure Hydrocephalus:NPH)は「治る認知症」の代表的な疾患です。脳脊髄は脳脊髄液になかに浮いているような状態です。この脳脊髄液は脳の中心にある脳室から浸出し、脳や脊髄の周りをゆっくり流れ最終的に静脈に吸収されとう循環をしています。何らかの原因でこの循環が滞ると脳を圧迫し脳の機能に影響を与え、認知症が現れることが少なくありません。この脳脊髄液の循環の停滞を治すことで認知症も治るのです。
○症状
典型的な場合の症状は3症状で認知症、歩行障害、尿失禁ですがすべての症状がそろうとは限りません。記憶障害など認知機能の低下にくわえ、集中力や自発性て低下し、ぼんやりしていることもあります。
○原因
原因は脳脊髄液の循環障害ですが、この変化が起こる原因はよくわかっていません。加齢に伴い脳脊髄液の吸収が悪くなるとも考えられ、これによる場合を「特発性正常圧水頭症」と呼びます。他方、くも膜下出血、頭部外傷、髄膜炎、脳外科手術などの後に起こる脳脊髄液の循環障害の場合を「続発性正常圧水頭症」と呼びます。
○検査と診断
頭部CTやMRIの画像検査で、脳の中心部にある脳室の拡大が確認されれば正常圧水頭症が疑います。疑われると腰部で腰椎骨の間に皮膚から針を刺して20〜40mlのほどの脳髄液を吸入して1日ほど認知症などの症状が改善するかどうかを観察します。これを髄液排除試験と言い外来でも可能な検査です。症状が改善すれば正常圧水頭症と診断してほぼ間違いなくしかも手術による改善も大いに期待できます。検査はラジオアイソトープを使ったI脳脊髄液の循環を観察する検査(RI脳槽造影)などを追加して行い脳脊髄液の循環の状態を把握する検査を行う場合もあります。
○治療
「髄液シャント術」と呼ばれる手術が行われます。これは、停滞し脳脊髄液の流れを細い管(カテーテル)を脳室から腹腔(脳室−腹腔シャント)あるいは脊髄腔から腹腔(腰椎−腹腔シャント)までの間に皮膚の下に埋め込んで脳脊髄液の流れを正常化しようとするものです。この結果、停滞していた脳脊髄液による脳への圧迫が軽減し脳の働きが正常のもどす治療方法です(図)。手術は全身麻酔で行われますが、頭蓋骨の小さな穴を開けカテーテルの脳室まで通し、高齢者でも比較的負担の少ない手術といえます。こうした治療法も症状が現れてから長期間経過していると、脳脊髄液の脳への圧迫も長期に及んでおり、脳脊髄液の流れが改善しても脳機能がもとにもどりにくく治療効果は期待できません。
特発性正常圧水頭症(iNPH)

成年後見制度
わが国の法制度では成人になると本人の自己決定権が尊重され保護されていますが、判断能力が低下した成人についてその人に代わり財産等を保護しようとする新しい制度―成年後見制度が民法の改正に伴い2000年に導入された。この制度の、対象となる人は、知的障害者、精神障害者、認知症などにより判断力が低下した成人ですが、新しく制度が導入されたねらい、判断力は低下していても、その残存能力と自己決定権を尊重しようとするものです。
成年後見制度のうちの法定後見制度では、本人や家族などが家庭裁判所に申請し、裁判所が判断能力など障害の程度によって、「補助」「保佐」「後見」の3つに区分し、それぞれに「補助人」「保佐人」「後見人」に当たる後見する人を決め、本人の主に財産と権利を保護します。このほか、成年後見制度では、判断能力がしっかりしている時期に後見する人を決めておく任意後見制度も同時に導入されました。2012年末現在で成年後見制度の利用者数は約16万6000人です。    
成年後見制度の後見する人は、家族がなれるとは限らず、弁護士、司法書士、社会福祉士など相応しい人が家庭裁判所が指定されます。しかし、制度を利用する人が増えるに従い、後見する人が不足し、一般市民が研修を受けて後見する人に育成しようとの試みも始まっています。
後見する人がその責務を十分に果たしているか、申請から後見する人の決定まで時間と費用がかかりすぎる、医療、介護、終末期などその人の生活については後見の対象外とされているなだおの課題があります。
成年後見制度(法務省)
リーガルサポート

精神保健福祉センタ
都道府県に設置されている精神保健福祉に関する施設です。精神保健、精神障害者の福祉に関する知識普及、調査研究、相談及び指導のうち複雑困難な事例を扱うことを役割としています。これにそって、保健所や市町村への支援、指導、病院職員らの教育研修、心の健康などの普及啓発、調査研究、団体等の組織育成、さらに精神保健福祉相談を行っています。認知症への取り組みはセンターによってばらつきがあるようです。

精神保健福祉士
精神保健福祉士法による国家資格の専門職で、「精神障害者の保健及び福祉に関する専門的知識及び技術をもって、精神科病院その他の医療施設において精神障害の医療を受け、又は精神障害者の社会復帰の促進を図ることを目的とする施設を利用している者の社会復帰に関する相談に応じ、助言、指導、日常生活への適応のために必要な訓練その他の援助を行うことを業とする者」とされています。保健所、精神保健福祉センター、精神科病院などに勤務しています。精神科ソーシャルワーカー(Psychiatric Social Worker)の略称PSWと呼ばれることが多い。登録者数は4万7715人(2010年6月現在) 社団法人日本精神保健福祉士協会

精神障害者保健福祉手帳  
「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(略称:精神保健福祉法)」により1995年に導入されたによる制度で、統合失調症などにより社会生活に支障をきたした精神障害者に支給される手帳であり、認知症も対象です。身体障害者手帳と異なり、納税控除など手帳による特典は限られ、取得することによるメリットは少ない。

生前遺言
リビングウイル(Living Will)とも言います。判断力などがしっかしている時期に、死亡前に本人の判断力が低下した時、意識低下した時にその後の治療、延命処置などについての意思を表明して文書です。事前意思表示(事前指示)よりは表明内容が生死に関わることに限定されたものと考えられます。法的な拘束力はありませんが、延命処置を行うかいなかの重要な参考になります。なお「日本尊厳死協会」は会員に延命治療の拒否など尊厳死にかかわる生前遺言にかわるものとして証明書を発行しています。

性的行動
認知症の人の性的行動は介護者を困惑させることが少なくありません。とかく避けたい行動あるいはBPSDですが、その背景を理解しながら適切な対応をしたいものです。
○症状
男性の認知症の人が拒む妻に頑なに性的交渉を求める、長男の妻の臀部をさわる、抱きついたり、風呂場を覗く、介護施設で人前で性器を露出するといった性的な行動をみることがあります。こうした行動は女性の認知症の人では一般に稀のようです。
○背景
性的欲求が加齢とともに減退しますがなくなるわけではありません。性欲があっても多くの高齢者は、その表わし方、欲求の仕方、処理方法を理性的にコントロールしています。しかし認知機能が低下した高齢者ではそれが難しくなり、状況、人間関係にかかわりなく性的欲求の直接的な行動が生ずることがあります。認知症の人の性的行動はたんに性欲を満足させるというだけでなく、その行動をとおして人としての接触を求めているという側面もあります。また女性の認知症高齢者でも「性的恥じらい」が残っていること覚えておきたい。
○対応
男性の認知症の人の性的行動に直面すると家族も介護職も驚き。戸惑い、嫌悪感をおぼえるでしょう。それが人間的な行為と受けれるのは難しいかもしれません。つぎのような婉曲な拒否を行うがよいでしょう。女性の臀部をさわろうとする認知症高齢者の手を軽くしりぞけながら「また後で」と感情を害さないように配慮する。手を握る、家抱くっといた行為で性的欲求を満足するかもしれません。入浴や排泄時など女性の認知症の人への性的配慮も行っておきたい。  

前頭側頭葉変性症
大脳の前頭葉や側頭葉の変化がみられる前頭側頭葉変性症(frontotemporal lobar degeneration: FTLD)と呼ぶ疾患群で、これには若年期に発症することが多い前頭側頭型認知症(「ピック病」に該当する)、原発性進行性失語症(または進行性非流暢性失語症)および語義性失語(または意味性認知症)を含みます。

前頭側頭型認知症
ピック病(Pick’s Disease)と呼ばれていた認知症で、現在は前頭側頭型認知症(Front Temporal Dementia:FTD)と呼ぶようになりました。
○症状
発病初期から記憶障害など認知症症状はなく、 無頓着なるといった性格の変化やずぼらな生活になるといった生活面の変化が目立ちます。また「まんびき」といった社会生活での変化も起こります。さらにこうした変化は、自分のことや周囲への関心が低下し身だしなみに頓着になります、万引きのような反社会的行為を起こすこともあります。これは自分で抑えるということができにくくなり落ち着きがない、暴力的になるということもあります。また同じことを繰り返すことも目立ち、いつの同じ道を歩く、家のなかで同じことを繰り返すよにもなり(常同的行為)、こだわりも強くなります。感情面でも自発性が乏しく、感情的反応も少なくなりますが、ときに興奮したりします。言葉も乏しくなり、同じ言葉を繰り返すこともあります。こうした状態についての認識が乏しいのも特徴な症状です。進行性の疾患で前頭側頭型認知症と呼ばれていますが、記憶障害など認知症の症状は比較的後になってから目立つようになります。末期には、歩行障害など神経症状も目立ち、最後は「ねたきり」になります。全経過は10年ほどと言われています。
○原因
大脳の前頭葉と側頭葉との委縮がみられる原因不明の進行性神経疾患です。神経細胞内の特別な物質―ピック球―がみられるが病気とどのような県警にあるかよくわかっていません。また特殊な蛋白が原因として関係しているという説もあります。
○検査と診断
症状の発症とその経過からおよび頭部CTの画像検査、さらに脳血流やPETによる検査で前頭葉や側頭葉の血流や代謝の低下を認めます。おおよそ診断できますが、広く認められた診断基準はなく、1998年に国際的な作業グループによる診断基準は以下のとおりです。
以下のすべての状態を認めること
潜行性の発症と緩やかな進行
早期からの社会的対人行動の障害
早期からの自己行動の統制の障害
早期からの情動鈍磨
早期からの病識欠如
○介護
前頭側頭型認知症に人の介護はきわめて困難です。まだ介護方法も確立していません。アルツハイマー病の人に行われるケアが前頭側頭型認知症には必ずしも有効ではありません。BPSDを抑えるために抗精神病薬を使うことがありますが、必ずしも有効ではありません。また介護施設での共同生活になじめず集団生活を混乱させ施設介護を続けるのが難しくなります。
困難ではあるが次のことがケアが基本と考えます。
言い分にさからわないが、婉曲に訂正してみる。
できるだけ規則的な日常生活を送るが、無理に矯正はしない。
社会生活の面で常軌を外れたことをしないように、見守る。
若年期認知症の介護者の集いに参加し介護方法や介護の苦労を共有する
イギリスではピック病支援グループ( Pick's Disease Support Group) があり、家族らに情報提供、電話相談、専門職への紹介、デイケアの試みなどが進められています。

センター方式
認知症の人のためのケアマネジメントセンター方式

全国若年認知症の家族会・支援者連絡協議会
全国各地にある若年期認知症の人の家族会や支援組織の23団体が2010年5月に結成した全国的な連合組織です。本人や家族への社会的支援を求める活動をするとしています。事務局の「若年認知症サポートセンター」(メール:supportcenter@star2003.jp ,電話:03−5919-4186,ファックス:03-5368-1956)




尊厳死
尊厳ある死のことですが、死にいたる尊厳ある生でもあります。近年、医療技術、特に延命技術の進歩により治癒できないが延命させることがますます可能になっています。意識が回復する可能性のないかなで人工呼吸器、IVH、あるいは経管栄養などで延命されているだけの状態を拒み、尊厳ある死を迎えたいと思う人がいます。わが国では「日本尊厳死協会」が中心となってこの尊厳死を受け入れる運動を行っています。
 しかしこうした尊厳死を支えるための本人の意思確認、家族の意思、法的裏付けなど検討すべき課題は多いのが現状です。こうしたなかで認知症について、日本尊厳死協会が、一時、認知症が尊厳死を行うに該当する状態あるとの見解を表明したことがあり、これに対して認知症の人と家族の会が抗議してその見解を撤回した経過があります。他方、オランダなどでは認知症が尊厳死を望む状態にあたるとされています。




ダイバージョナルセラピー
「各個人が、いかなる状態にあっても自分らしくよりよく生きたいという願望を実現する機会を持てるよう、その独自性と個性を尊重し、援助するために、「事前調査→計画→実施→事後評価」のプロセスに基づいて、各個人の“楽しみ”と“ライフスタイル”に焦点をあてた全人的アプローチの思想と実践である」(日本ダイバージョナルセラピー協会)。オーストラリアで開発された考え方と方法で、英語表記はdiversional therapy。

第3者評価
介護保険サービスについてサービス提供者でもなく利用者でもない独立した団体―第3者―が行う評価で、その結果は公表されます。介護保険法では「事業所は自ら提供するサービスの質の評価を行い、常に良質かつ適切な介護・福祉サービスを提供するよう努めなければならない」とされており、公正・中立な第三者が専門的かつ客観的な立場から評価することで、サービス提供者がサービスの質の向上を図ると同時に、利用者は介護サービスの選択に役立てることができます。第3者評価は「利用者調査」と「事業評価」で行われます。評価機関は自治体が一定要件―法人である、介護サービスを提供していない、評価者が3人以上など―を満たした団体を認定します。

タウ蛋白
タウ蛋白は神経細胞を構成する蛋白ですが、アルツハイマー病の脳に認められる神経原線維変化を構成するのが異常なタウ蛋白です。この蛋白はアルツハイマー病以外の神経疾患でも認められます。

ダウン症 
染色体異常に伴う先天的に知的障害のある疾患です。この疾患の人が40才代にアルツハイマー病に似た症状を示すことがあります。このことからアルツハイマー病の遺伝の研究のきっかになったと言われています。また先天的な知的障害と新たに加わった認知症による認知機能の状態をどのように診断するか、また知的障害と認知症とを併せ持つ人をどのようなケアが望ましのか今後の課題です。

ターミナルケア
認知症高齢者の終末期(ターミナル)は多様であり、その終末期ケア―ターミナルケア―は認知症のない高齢者と比べ多くの困難が伴います。その困難さとは、認知症高齢者の終末期であるとの判断、ターミナルケアに関する本人の意思確認、あるいは認知症を伴いながら高齢者のQOLを高める心身面のケアが求められるからです。
○認知症高齢者の終末期とは
ターミナルケアの前提となる認知症高齢者の終末期の判断は重要です。悪性腫瘍の場合と異なり認知症に関する終末期について広く認められた定義や基準はありません。この定義や基準にもとづかないと認知症高齢者のターミナルケアを議論したり実施することはできないでしょう。
しかし筆者は認知症の終末期とは、狭義には認知症そのものが終末期状態であり、広義には狭義の状態に加え認知症があり他の身体疾患−例えば悪性腫瘍−による終末期を含めた状態としています(表)。より具体的には、狭義の認知症終末期とは、以下の4つの条件を満たす状態と定義します。@認知症があり、A認知症の人との意思疎通が極めて困難か不可能な状態であり、B認知症の原因疾患による神経症状として嚥下が困難か不可能な状態にあり、Cこれらの3つの状態が非可逆的であることです。広義の認知症終末期とは、狭義の状態および認知症−その程度は問わない−があり、認知症の人の身体疾患が終末期にある状態をいいます。
狭義の認知症終末期について、認知症が重度で意思疎通が困難でも、介助による嚥下が可能であれば終末期とは言わない。介助しても食べ飲むことがほとんど不可能な状態とは自らの生命を維持することが不可能になった状態であり、終末期と考えます。いうまでもなくこの状態でも医療上は、点滴補液や経管栄養によって延命は可能ですが、しかし嚥下ができないという状態は医療的介入の方針が決定されなければならない状態であり、延命医療を選択しなければ短期間のうちに死に至るという意味でも認知症終末期とみなすのが妥当と考えます。  認知症高齢者の場合その終末期の判断は慎重でなければなりません。当然のことですが認知症であるとの診断が不可欠です。せん妄やうつ状態などとの鑑別診断を行います。意思疎通については、意識障害のないことを確認したうえで期間をあけて判断します。嚥下障害については、食道など上部消化管の器質的あるいは機能的な通過障害の有無などの検査を行います。同時にさまざま経口での食物嚥下を試み、嚥下障害があるとすればアルツハイマー病あるいは脳血管障害など認知症の原因疾患からによることを確かめ、さらにこの状態が非可逆的であることも一定の期間をおいて確認します。 
広義の認知症終末期の他の身体疾患についても一定の間隔を開けて終末期であるか否かの判断をします。
○認知症高齢者の意思確認
認知症高齢者のターミナルケアの方針を決めるに際して認知症高齢者自身およびその家族の意思確認は重要です。どのようなターミナルケアを本人が望んでいるのか、望んでいないか、また家族は何を望んでいるのか、いないのかを確かめる必要があります。しかし我が国では軽度あるいは初期の認知症の人への疾患の告知、あるいは「真実を告げる」ことが、特に高齢者において、少ないなかで本人の意思を確認することは困難である。このため家族へのインフォームドコンセント(説明と同意)で確認することになり、それに沿ったターミナルケアが進められることが多のです。
しかしこれには、認知症高齢者とキーパーソンとなる中心的な家族およびその他の家族との人間関係、さらに医療・介護専門職―特に医師―との人間関係が関わる。認知症高齢者と家族との人間関係は、単純ではなく理性的、情緒的、倫理的、法的、経済的、文化的、宗教的など多様な関係のなかで形成されています。したがってキーパーパーソン的な家族の意思がどの程度本人の意思を反映しているかはターミナルケアを進めるに際して医療・介護職は慎重に考慮しなければなりません。またターミナルケアはチームで行われるものであり、医療・介護職で中心的な役割の担わされることが多い医師は個人的な考えや独断を家族や専門職に押しつけることを避け、できるだけ家族を中心としながら医療・介護職らの間での合意の上で進められるべきです。また一度決めたことも本人の状態の変化や揺れ動く家族の思いに合わせて、弾力的に変更されてもよいでしょう。
認知症高齢者に関わるインフォームドコンセントで最も重要な事項は、嚥下困難になった場合の医療の選択でしょう。口から摂れるだけ摂ってもらい後は見守ることにするのか、末梢血管からの栄養的には不完全な補液をするのか、栄養的に十分な中心静脈栄養法を行うのか、あるいは経管栄養を始めるのか、医師は具体的にわかりやすく家族に説明して意思を確かめます。また心肺停止時またはそれに近い状態の時に蘇生術の行為の有無についても確認しておく。この場合も家族が完全に理解しているわけではなく思いも変動しているので、質問に適宜答え意思確認も繰り返しておきたいものです。この際に忘れてはならないことは、単に意思確認をするというに止まらず、判断に迷い家族への後悔が少ないように心身のケアも同時に進めることです。

表 認知症終末期の定義(三宅)

狭義
(次の@ABCすべての状態を認める)
@認知症である。
A意志疎通が困難か不可能な状態である。
B認知症の原因疾患に伴い嚥下が困難か不可能な状態である。
C上記@ABの状態が非可逆的である。
広義
(次の@かAを認める)
@狭義の状態である。
A可逆的な認知症であり、認知症とは直接関係ない身体疾患が終末期状態である。


「食べれない物を口にする」
認知症の人が石鹸、花弁、鉛筆、壁紙など食べれない物を口にすることがあります。さらには飲み込んでしまい生命に危険なことも生じます。  
○背景
物の認識機能が低下したことによるものと思われますが、実際に空腹で何か食べて空腹感を紛らわせようとしていることもあります。  
○対応
3度の食事、間食、必要によっては夜食を用意します。空腹感が少なければ、それだけこうした行動は少なくなります。これでも実際に空腹であれば食事をとってもらいます。石鹸や鉛筆といった危険な物は認知症の人の目につくところから遠ざけておきます。

「食べていない、食べさせてくれ、と繰り返す」
○症状
認知症高齢者は食事が終わってしばらくして「食事まだ!」と食べたことを忘れ、満腹感もあるはずなのだが、食物を欲求することがあります。家族が「さっき食べたでしょう」と説明しても納得せず、「食べてない」と言い張り、さらに、「食べさせないのか!」と怒ることもあります。食べることの訴えは深夜のおよぶこともあり、自分から冷蔵庫を開けて、大量に食べてしまうこともあります。
○背景
認知症の基本症状は記憶障害ですが、この障害が食べる事についても起こります。健康な高齢者は夕食に何を食べたからは一つや二つ思いだせなくても、食べたこと自体を忘れることはありません。しかし認知症でない人は食べたことそれ自体を忘れてしまうのです。しかも、認知症高齢者は物へのこだわり―とくにお金と食べ物―へのこだわりが強くて、それが自分の記憶のなかで曖昧か無いに等しいと、食べ終わってしばらくすると「食べてない、食べさせて」と言いたくなるようです。
○対応
食事にこだわりが強い認知症高齢者には、まず食べたことを、ゆっくり、丁寧に説明します。「朝ごはんは食べたと思いますが」と認知症高齢者の訴えを受け入れながら婉曲に否定し訂正してみます。これでも「食べてない」と言い張るようであれば、「あと30分待ってください。昼食の用意します」と次に食べることに話題を変えると納得するかもしれません。しかし、これでも数分後、また食卓に座り「食事まだ」と言い張るかもしれません。

大脳皮質基底核変性症
左右で違うぎこちない運動や震戦を認める進行性の神経疾患(英語でCortico-Basal Degeneration:略称CBD英語用語にあわせ「皮質基底核変性症」ともいいます。)で、特定疾患および特定疾病の「パーキンソン病関連疾患」の一つでもあります。疾患の進行とともに認知症が現れます。大脳の前頭葉や頭頂葉の皮質及び皮質下のいくつかの基底核と呼ばれる一群の組織の神経細胞が侵される。若年期に発病することが多く、高齢期の発病もありますが、全体に稀な疾患です。介護保険の特定疾患では「パーキンソン病関連疾患」のひとつです。
○症状
右または左の一方の上肢が思うように動かない、緩慢な運動、さらに進むと歩行困難になります。また失語症、空間の一方が見えない、また認知症がみるようになりまし。腕を動かすと筋肉は小刻みに動くこともあります。こうした症状が左右どちらかに強くみられるのがこの疾患の特徴です。さらに進行すると嚥下障害も現れ、最終的に「寝たきり様状態」になります。経過は長くて10年ほどと言われています。
○原因
大脳皮質と皮質下神経核―黒質、淡蒼球などーの神経細胞が脱落して、神経細胞に異常なタウ蛋白が蓄積しますが、原因はよくわかっていません。遺伝することはありません。
○検査と診断
症状およびMRIなどの画像検査で大脳―前頭葉、頭頂葉―の萎縮の左右差を認める。ただし左右さがない場合もある。また前頭側頭型変性症、進行性核上麻痺、パーキンソン病との鑑別を行う。
○治療
治療薬はありませんが、パーキンソン病様症状に抗パーキンソン剤を使うことがありますが、効果は不確かです。

単一光子放射断層撮影
英語のSingle photon emission computed tomographyの略称でSPECTとも呼びます。
静脈注射で投与した放射性同位体から放出されるガンマ線を検出し、脳などの血流などを調べる画像検査の一つです。脳血管障害による認知症では、血流の低下を把握できます。

男性介護者
認知症の人の男性介護者は以前からいましたが、嫁、娘、妻が主な女性介護者が多い時期と比べ、介護にかかわる家族構成の変化により男性介護者が増えていると考えます。高齢者夫婦世帯が増えるなかで妻が認知症になると夫が介護をすることになり、2世代世帯で未婚の息子が増えるなかで片方しかいない親が認知症になると息子が介護することになるという状況が増えています。認知症にかかわる男性介護者独自の問題があるわけではありませんが、仕事と介護の両立の困難から介護離職による収入の減少、仕事中心の生活を送ってきた男性が料理、洗濯、掃除、さらに排泄介助といった能力は女性とくらべ一般に劣り、介護負担が一層重く感じる傾向にあります。また仕事中心で生きてきた男性は、地域的な人間関係が希薄になりがちで地域から孤立した在宅介護を行うことが少なくありません。さらにこうした背景に加え、力がある男性は女性介護者より認知症の人への暴力など虐待を起こしやすく、実際、介護殺人や介護心中は男性介護者に多く起こっています。こうした傾向にある男性介護者が連携してゆこうという活動も始まりました。
全国的な任意団体である「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」があり、各自に男性介護者の集まりがあります。

短期入所
介護保険で特別養護老人ホームでの「短期入所生活介護」、老人保健施設や療養型医療施設での「短期入所療養介護」が給付され、単に「短期入所」あるいは「ショートステイ」ともよばれます。1週間から1月程度の期間、認知症の人などが入居して介護を受けます。これは介護家族の介護休養、入院治療、あるいは冠婚葬祭などのために認知症の人などを施設が代行して介護するものです。認知症の人にとっては環境が急変する、施設の介護職は認知症の人への理解が短期間で不十分なため対応に困惑することの問題はあるが、短期入所を繰り返し利用するなかで認知症の人も環境になじみ、職員もよりよく認知症の人を理解し適切な介護ができるようになることが多い。ここのサービスは介護者の休息のためであり「レスパイトケア(Respite Care)」にあたり、認知症の人などの在宅介護には不可欠な支援です。もっとも、定期に利用している介護家族が多く、緊急時の利用できないという課題を抱えています。




中核症状 
認知症の知的機能の低下である記憶障害、判断の障害、見当識障害などの症状のことで、これに伴う幻覚、妄想、不穏、徘徊などを随伴症状などと言います。

地域福祉権利擁護事業  
2007年4月より日常生活自立支援事業」に名称変更しました。

地域包括支援センター
2005年の介護保険の改定に伴い「地域住民の保健医療の向上及び福祉の増進を包括的に支援すること」を目的として導入された以下の事業を行う施設です。
○ 介護予防事業のマネジメント
○ 介護保険外のサービスを含む、高齢者や家族に対する総合的な相談・支援
○ 介護保険の被保険者への虐待の防止、早期発見等の権利擁護事業
○ 支援困難ケースへの対応など介護支援専門員(ケアマネジャー)への支援
事業主体は、市区町村または包括的支援事業の実施を市区町村から委託された事業者で、人口2から3万人程度(中学校区)に1箇所置かれます。センターは、保健師(または地域ケア、地域保健等に関する経験のある看護師)、社会福祉士(または福祉事務所で業務経験がある物または介護支援専門員の業務経験があり高齢者の保健福祉に関する相談援助業務に従事した経験のある者)、主任介護支援専門員(または介護支援専門員としての実務経験を有し、相談や介護支援専門員への支援等に関する知識及び能力を有している者)とされています。2012年4月現在、全国に約4300カ所あります。介護予防、多面的な高齢者や家族への支援、虐待の防止などを業務としているが、地域住民にまだあまり知られておらず、職員も少なくセンターに与えられた役割を十分に発揮するにいたっていないようです。認知症については特に決められた業務はないがセンターが関わる事例は少なくありません。

地域密着型特別養護老人ホーム
「地域密着型介護老人福祉施」、「小規模特別養護老人ホーム」、「ミニ特養」とも呼ばれます。要介護の認知症高齢者や独居高齢者ができる限り住み慣れた自宅や地域での生活を継続できるようにする意図から2006年に介護保険施設として導入されました。定員は29人以下とし、利用者は原則として事業所の所在する市町村のみです。入浴、排泄、食事等の介護、相談及び援助、機能訓練、健康管理及び療養上の世話などが提供されます。

治験
臨床試験




通所介護
介護保険による通所介護は「デイサービス」とも呼ばれ、昼間、デイサービスセンターに定期に通い、健康状態の確認、入浴、食事、レクレーションなどで過ごします(2008年10月現在、22 366施設)。職員は介護職が中心であるが、看護師を置いている施設もあります。特別養護老人ホームの併設したデイサービスセンターが多く、また独立したデイサービスセンターで認知症の人らを介護している。認知症の人に限定した「認知症対応型通所介護」を行っている通所施設もあります(2008年10月現在、3 ,139施設)。

通所リハビリテーション
 介護保険の通所サービスのひとつで「デイケア」ともいい、その施設を「デイケアセンター」と言いことが多い。センターには、介護職のほかに理学療法士や作業療法士が置かれます。デイサービスとの違いは専門職によるリハビリテーションを受けることができることであり、それ以外はサービスの内容で大きな違いはなく認知症の人もそのなかで対応されています。デイケアセンターは老人保健施設や療養型医療施設に併設されたものが多い(2008年10月現在、6, 426施設)。このデイケアもレスパイトケアの役割を担っています。




DSM−W 
Diagnostic and Statisitical Manual of Mental Disorders , 4th edition(精神障害の診断と統計の手引き、第4版)の略称です。アメリカ精神医学会American Psychiatric Association(APA)は、以前より精神障害の診断基準は改訂、提唱してきましたが、1994年の第4版の診断基準が最も新しいものです。この診断基準は小児と成人に分けて精神障害について原因ではなく症状を重視した比較的簡便で実用的な基準を示しています。この基準にあるアルツハイマー型認知症、血管性認知症などの診断基準が世界的にも日本でも最も広く使われています。DSM-Wでは、認知症そのものの基準はありませんが、アルツハイマー型認知症、血管性認知症などに共通する基準を認知症の診断基準と便宜的に使われています。なおアメリカ精神医学会は2000年にDSM-W-TRを公表しましたが、おおきな基準の変更はなくDSM-Wがなお一般的に使われています。同学会は第5版の改訂版について検討中で2013年に発表される予定ですが、認知症については用語も含め、大幅な改訂になる模様です。DSM-Wの日本語版は医学書院から発行されています。

低酸素脳症 
脳細胞は酸素に極めて依存したデリケートな細胞です。ごく短時間の血流の途絶および酸素の供給の途絶が脳細胞の機能低下や死滅しやすい。窒息や心筋梗塞による心停止などにより脳への酸素供給の低下または途絶による状態が低酸素脳症または無酸素脳症です。この二つの状態は明確に区分できるものでなく連続的な脳症です。
○症状
脳の酸素状態の程度により脳症の症状はさまざまです。短時間の低酸素状態では後遺症がない場合もあり、長時間の無酸素状態では遷延性意識障害になるなど多様です。四肢の運動麻痺、筋肉の付随運動、健忘症、認知機能低下、認知症、せん妄などがあります。低酸素脳症・無酸素脳症の後遺症としての認知症は進行性ではありません。
○原因
食べ物による窒息、浴室での溺水、心筋梗塞による心停止などによります。これは酸素の供給の低下または途絶あるいは血液の流れの低下または途絶によります。さらに、低酸素脳症の原因として、重度の貧血や心不全、また低酸素脳症・無酸素脳症として一酸化炭素中毒があります。
○検査と診断
神経学的診察と頭部CTやMRIの画像検査を組み合わせて診断を行います。画像検査では広範囲の無酸素脳症では変化を認めますが、変化を把握するのに必ずしも有効ではありません。脳波は脳機能の状態を時系列的に把握するのに有効です。
○治療
低酸素脳症・無酸素脳症の治療は、早期にこうした状態を可能な限り短くし脳細胞に十分な有酸素状態にもってゆくことが治療の基本です。いったん脳症の症状が固定すると治療は難しい。

デイケア
通所リハビリテーション
重度認知症患者デイケア

デイサービス 
通所介護

電話相談
認知症の人自身あるいは介護家族にとって相談は重要な支えです。認知症の人自身あるいは介護家族が、家に居ながらにして匿名でも相談できる電話相談は貴重です。わが国で最初に電話相談を始めたのは公益社団法人「認知症の人と家族の会」で1980年に始め、その後、都道府県、市区町村、医療機関、介護施設、あるいは民団団体が行っています。さらに2009年からは国の施策として都道府県および政令市に「認知症コールセンター」が設けられました。このセンターでは認知症介護の経験者や専門職らが、認知症に関する質問や介護の相談に電話で応じています。また同じ2009年から若年期認知症を対象とした「若年性認知症コールセンター」(電話:0800-100-2707)が認知症介護研究・研修大府センターに開設され全国からの相談に応じています。
こうした電話相談がまだ知られておらず、疑いある人が早期に受診したり、家族が早期に適切な介護知識を得るのにまだ役立っているとは言い難いようです。認知症の人の介護に関して全国を対象とした無料の電話相談には以下のものがあります。
「認知症の電話相談」電話:0120-294456 実施:認知症の人と家族の会
「認知症110番」電話:0120-654874 実施:認知症予防協会
「介護支え合い電話相談」電話:0120-070-608 実施:社会福祉法人浴風会




頭部外傷
頭部外傷は頭部に力が加わって起こる状態のことですが、頭蓋内に血腫を形成する場合は硬膜下血腫―急性硬膜下血腫と慢性硬膜下血腫―としない場合、頭蓋骨の骨折がある場合とない場合、折れたが脳を損傷させる場合とさせない場合、さらに強い外圧より外見上脳の損傷を認めない場合―脳震盪―などさまざまな頭部外傷があります。外傷の程度で下や認知症や認知機能低下を認める場合もあり、まったく無い場合もあります。しかし脳震盪でも長期的にみるとアルツハイマー病に危険因子と見られています。
○症状
症状は急に現れる場合と徐々に現れる場合など発症の下がはまちまつであり、また症状も多彩です。頭重、頭痛、めまい、嘔気、記憶障害、認知機能低下、健忘症、認知症などのほかに、高次脳機能障害などの症状があります。骨折による脳挫傷など明らかな損傷を伴う場合は、脳膿瘍、頭蓋内出血や血腫、脳神経損傷などによる認知症、てんかん、視力障害などを行うことがあります。高次脳機能障害になることもあります。
○検査と診断
外傷歴、症状、頭部CTやMRIなどの検査を行いますが、頭蓋骨骨折などを伴う場合は診断は容易ですが、外見上損傷を伴わないような頭部外傷ではCTやMRIに異常がなく症状あるいは自覚症状だけで診断をしなければなりません。外傷歴との関連性が疑われれば頭部外傷によるものと通常みなします。
○治療
骨折で脳挫傷を起こしている場合はその骨折部を除去する、血腫を除去するなど脳外科的治療を行いますが、多くの頭部外傷は治療方法はなく安静が中心となります。

特定疾病
介護保険制度では,原則,65歳以上の高齢者なら原因は何であれ身体的、精神的障害により,要介護の認定を受ければ必要な介護が受けられます。さらに40歳以上65歳未満の人については「特定疾病」による場合に限り,要介護認定を受ければ必要な介護が受けられます。この特定疾病は,2006年に,新たに「がん末期」が加わり,さらに一部の疾病の用語が整理されました。
これらの特定疾病のなかには,40歳以上65歳未満の年齢層で較的多い疾患から,極めてまれな疾患まであります。
なお医療保険で医療費の自己負担軽減のための制度として3つ「特定疾病」―血液透析を受けている慢性腎不全、血液製剤の治療を受けている血友病および血液凝固因子製剤の投与による後天性免疫不全症候群―が指定されていますが、介護保険とは別の疾患群です。
また、特定疾病と紛らわしい用語として「特定疾患」があります。これは,1972年から国の制度として始まった「難病事業」として「難治性疾患克服研究事業(特定疾患治療研究事業)」に2010年4月現在,130疾患が研究対象として指定され、このうち「特定疾患治療研究事業」に56疾患が指定され治療については公的補助を受けることができます。介護保険の特定疾病の一部はこの「特定疾患」でもあります。

がん末期
関節リウマチ
筋萎縮性側索硬化症
後縦靱帯骨化症
骨折を伴う骨粗鬆症
初老期における認知症
パーキンソン病関連疾患:パーキンソン病進行性核上性麻痺大脳皮質基底核変性症
脊髄小脳変性症
脊柱管狭窄症
早老症
多系統萎縮症:シャイ・ドレーガー症候群、線条体黒質変性症、オリーブ橋小脳萎縮症
糖尿病性神経障害
糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症
脳血管疾患
閉塞性動脈硬化症
慢性閉塞性肺疾患
両側の膝関節又は股関節に著しい変形を伴う変形性関節症

なお「 初老期における認知症」については初老期とは,40歳以上65歳未満の若年期であり,「初老期における認知症」とは若年期認知症と同じ意味です。アルツハイマー病、前頭側頭型変性症,脳血管障害などによる加齢に関係する認知症が対象ですが,外傷性疾患(頭部外傷など)、中毒性疾患(アルコール症など)、内分性疾患(甲状腺機能低下症など)、栄養障害(ビタミンB12欠乏症など)は対象としないことになっています。

特別障害者手当 
国の制度で身体又は精神に著しい重度の障害がある人に支給される手当です(2008年4月以降、月額 26,440円)。支給を受ける条件は、20歳以上で、おおむね、身体障害者手帳1、2級程度、もしくはそれと同等の身体疾患と精神障害を有する状態であり、認知症の場合では全介助を要する重度の状態に該当します。

特別養護老人ホーム
老人福祉法に基づく福祉施設で介護保険では「介護老人福祉施設」と呼ぶ生活を重視した介護施設であり、2008年10月現在、全国に6,015施設(入居者数は約42万人)である[1]。入居対象者は介護保険で要介護認定を受けた人で、施設の定員は通常50人ほどだが、過疎地などでは30人規模の小規模の施設もある。医療職は非常勤でよいが、常勤の看護師が置かれているが夜間、休日は不在のことが多く医療面での対応が十分ではない。介護老人福祉施設は、長期入居の他に短期入所生活介護(ショートステイ)や通所介護(デイサービス)、さらに訪問介護、在宅介護支援センター、配食サービスなど総合的な地域的生活支援を進めているところがある。集団的画一的管理的な介護から、高齢者の個々の生活を尊重した介護が重視され、少人数グループの分けた「ユニットケア」を取り入れる施設も増えている。さらに個々の入居者の生活とプライバシーを尊重して「個室」も増え、将来的にすべての特別養護老人ホームの全室個室化も目指している。また施設でのターミナルケアも取り入れているなど医療管理が必要な高齢者が増え医療の拡充が求められている。
認知症については認知症棟を設けたり、認知症高齢者のユニットケアの試みも広がっている。

富山型デイサービス
惣万佳代子(イラスト)ら看護師3人が、高齢者、子供、障害者を分けずに一か所でケアを提供したいと1993年に富山で「このゆびとまーれ」を開所しました。世代や障害を越えて人が共に過ごすことのメリットを引出そうとするものです。この取り組みが地方行政の補助金を得ることができ「富山型デイサービス」と呼ばれ全国的に普及しています。




なじみの環境
認知症の人は記憶障害が進み、判断が障害されてくると、現在の生活環境について総合的で的確な判断ができにくくなり、混乱することがあります。しかし昔の記憶はかなり残っており感情活動も活発なことが少なくありません。こうした残存能力に合わせて、親しみや安心感を抱くような「なじみの環境」を作ることで認知症の人が精神的に安定することがよくあります。特にグループホームやユニットケアはこうした事も意図した対応と言えます。病院のような殺風景な環境ではなく、少しでも家庭的な雰囲気と暖かみのある環境で認知症の人が生活を送れるように援助が望まれます。

ナン・スタディ
ナン・スタディThe Nun Studyは、アメリカ・ミネソタ州のマンカトのノートルダムの高齢のシスターを対象として、加齢による心身の機能やアルツハイマー病に関する追跡調査を行っている研究のことです。1986年に始まった研究は対象者の生活歴が正確に把握し、ほとんどの対象者は死亡するまで追跡でき、さらに、すべてのシスターが死後は脳を研究のために利用することを約束しています。ケンタッキー大学が中心となって行われているこの研究からアルツハイマー病と加齢に関する多くの知見が得られています。




認知症
認知症は高齢化する社会においてわが国だけでなく地球規模で大きく重い課題です。認知症は一つの病気ではなく状態を示します。「認知症」という用語は、2004年、厚生労働省が「痴呆」に代わる用語として使うように通知して以降、急速に普及し定着しました。

認知症の診断基準
認知症は記憶障害など認知機能の低下に関連した疾患群で高齢者に多くみられます。認知症という疾患があるわけではなく、精神状態を言い表す用語です。認知症であるかどうかの診断基準として、広く使われているのはアメリカ精神医学会が1994年に提唱した「精神障害の診断基準第4版(略称:DSM-W)」(表)および世界保健機関(WHO)が1990年に制定した「国際疾病分類第10版(略称:ICD-10)」があります。後者には判定項目の一つとして「症状が6カ月以上つづく」とあり、またアルツハイマー病による認知症、血管性認知症、その他による認知症、分類不能の認知症とに大分類されています。DSM-Wの方が実用的と考え、また世界的にもわが国でも広く使われている診断基準であります。
DSM-Wによる認知症の診断基準
DSM-Wには認知症そのものの診断基準はありません。アルツハイマー型認知症,血管性認知症(「脳血管性認知症」とはいわない)、ピック病による認知症などの診断基準が明記されえおり、そのうち共通する部分を認知症としての認知症の診断基準として扱います。それによると,以下の5つの条件をすべて満たした状態を認知症と診断します。
@記憶障害がある
記憶障害は,記憶の内容や程度は問いませんが,新しいことが覚えにくくなります。単なる記憶障害は加齢に伴って健康な高齢者でも認められます。
A失行・失認・失語・実行機能障害のどれかがある
○失行
失行とは,手足の運動障害や感覚障害がないにもかかわらず,目的にかなった行動ができにくい状態です。たとえば、箸を使って食物を口にうまく運べない、衣服の着脱がうまくできないなどです。
○失認
失認とは、視力障害はないにもかかわらず対象が何であるかを認識ができにくい状態をいいます。腕時計,花などが何であるかわからなくなり、別の物と誤認し腕時計を冷蔵庫に入れたり,花を食べようとしたりすることがあります。また、家族の顔がわかりにくくなり、妻を姉と見間違い、夫を父と見間違うことがあります。あるいは鏡に映った自分の顔が誰かわかならないこともあります。
○失語
話すことに関する筋肉などの運動障害はないにもかかわらず、自分から言葉が出にくい状態(運動性失語)または聞いた言葉の理解がしにくい状態(感覚性失語),または両者の状態をいいます。聞いた言葉や文章は理解できるのにもかかわらず自分では言いたい単語や文章として表現できなくて「あれ」とか「それ」という言葉が多くなります。逆に,自分からは話すことができても,相手の言っていることが理解できないこともあります。さらにこれら二つの状態―言葉が理解できず、また自分から言葉が出ない―の失語もあります。さらに失語には、読むことができない(失読)、字が書けない(失書)という状態が加わることもあります。脳血管障害によって舌やのどの動きの障害に伴う発語の障害(構音障害)は失語とは異なる障害です。
○実行機能障害
実行機能とは,人がある状況に置かれた時に,その状況を総合的に観察し,理解し、判断し,状況にふさわしい行動をとる機能のことです。たとえば,外出して道に迷った場合に、周囲を観察し自分の記憶を頼りに判断し目的地に着けるような行動をとることができにくくなるのが実行機能障害で,とくにアルツハイマー病の初期や軽度の認知症に現れやすい障害です。
B生活に支障が生じる
前述の@とAの状態は健康な高齢者にも認められることがありますが,これだけで認知症とはいいません。認知症とは,こうした障害のために日常生活,家庭生活,就労、社会生活,集団生活を営む上で支障が生じている状態のことです。言いかえると日常的な支援―見守りも含め―なくしては生活が営めない状態をいいます。要支援あるいは要介護の状態といえます。
C脳など身体的な原因があるか,あると推測できる
認知症の原因の多くはアルツハイマー病であり,脳血管障害ですが,こうした脳の器質的原因[6]あると判断できるか,あると推測できる場合のことです。その他、脳以外の身体的な原因によって認知症になったと判断できるか、推測できる場合も該当します。
D意識障害はない
認知症は意識がはっきりしている状態です。ぼんやりしている程度の軽い意識障害がある場合、認知症と疑われても認知症とは診断できません。
この以上のほかに認知症については以下のことが指摘できます。
○認知症は成人の精神疾患
DSM-Wの診断基準では,認知症は18歳以上で発症する成人の精神疾患であることです。すなわち,先天的あるいは18歳未満の小児期に発症した認知機能障害がある人が高齢者になっても認知症とはいいません。
○認知症は進行するとは限らない
認知症は進行性であるとは限りません。たしかにアルツハイマー病のように進行性の認知症がありますが,原因疾患によっては治るもの(例:慢性硬膜下血腫),よくなることもあるもの(例:脳血管性認知症),進行しないもの(例:頭部外傷による認知症)もあります。
○認知症は記憶や認知機能の障害である
認知症はあくまでも記憶や認知機能の障害であって,人が持っている精神活動の一つである感情,プライド,思い、期待、信念、信仰あるいは性格といった機能は残っていることが多いのです。

表 認知症の診断基準(DSM-W要約)

@記憶障害がある
A失行,失認,失語、実行機能障害のどれかある
B上記のため社会生活に支障をきたす
C上記の状態の脳などの身体的な原因があるか、あると推測できる
D意識障害はない

なお三宅は、認知症を以下のように簡単に定義しています。
「一度獲得した知的機能の低下により自立した生活が困難な状態」
 すなわち、認知症は成人の病気であり、記憶障害など知的機能の低下があり、しかも通常の老化に伴う記憶障害ではなく、自立した生活が困難になるほどの知的機能の低下した状態です。例えば、買い物に行って勘定ができにくくなる、道に迷うことが多くなるといった状態で、誰かが常時見守っていないことには生活が営めなくなった状態です。
ほどの状態です。例えば、買い物に行って勘定ができにくくなる、道に迷うことが多くなるといった状態で、誰かが常時見守っていないことには生活が営めなくなった状態です。
また「介護保険法」の第8条第16項では認知症を以下のとおり定義しています。
「脳血管疾患、アルツハイマー病その他の要因に基づく脳の器質的な変化により日常生活に支障が生じる程度にまで記憶機能及びその他の認知機能が低下した状態」

鑑別診断
○記憶関連状態・疾患
認知症の基本症状は記憶障害ですが,記憶障害を認める障害や疾患として以下のものがあります。これらは認知症ではありません。
生理的記憶障害
高齢者に最も多い記憶障害で加齢にともなう年相応な記憶障害です。健康な記憶障害ともよび良性健忘ともいいます。このタイプの記憶障害は、新しいことが覚えにくいことは認知症と同様ですが、新しくて大切なことは忘れることがあまりありません。朝食に何を食べかは忘れても食べたこと自体を忘れることはありません。
軽度認知障害
次の状態をみたす。
もの忘れの自覚がある/客観的に記憶障害がある/認知機能全般に大きな障害はない/日常生活に基本的な支障はない/認知症ではない。
認知症との違いは、もの忘れがひどいと本人が思っていてもまた客観的にそうであっても一人で生活を営むことはできる状態です。
健忘症  
健忘症は、文字通りもの記憶障害だけの状態です。交通事故での頭部外傷や脳梗塞に伴って、急に記憶障害が生じ、さっき聞いたこと、したこと、行ったことが覚えにくくなります。生理的記憶障害より多く日常生活に支障をきたすほどの記憶障害ですが、自分の記憶障害を理解できており、かつ注意ができます。
高次脳機能障害
交通事故などによる頭部外傷や脳血管障害の後遺症として記憶障害を伴う高次脳機能障]を認めることがあります。うつ状態、仮病などと誤解されることがあります。
以上の生理的記憶障害、軽度認知障害、健忘症、高次脳機能障害および認知症の5つの状態は連続的に関係しており明確に線引きして区分できるものでなく、境界領域の状態も少なくないのです。どちらに状態により近いかで判断し、時間をおいて経過を見ながら診断することも必要です。

○精神疾患
認知症と間違うことがあるいくつかの以下のような精神疾患があります。
うつ状態
うつ状態は,憂うつな気分,頭が重い,食欲がない,体がだるいといった身体的訴えが多く,不眠になりやすい状態です。注意が散漫になり,もの忘れが目立ちますが,日常生活で必要な基本的なことや新しいことも正確に覚えており,記憶障害はないか軽度です。
せん妄
意識障害があり、幻覚や妄想を伴う不穏状態です。高齢者では,肺炎や脱水症など身体疾患に伴い生じることが少なくありません。軽度の意識障害の場合,認知症と見間違うことがあります。
妄想症
多くは被害妄想です。「お金が盗まれた」「毒がばらまかれる」といった内容のことが多く,認知症高齢者の妄想と見間違うことがありますが,妄想は内容が長期間変わらず,また通常の説明や説得では変わることがありません。妄想はあっても記憶障害はなく,自立した生活は可能です。もっとも妄想のため,集団生活や地域での生活が混乱に陥りやすい傾向にあります。
幻覚妄想状態
「布団の上に猫が居る」「外で兄が待っている」など,通常あり得ない物が見えたり,あり得ないことを思い込んでいる状態が「幻覚妄想状態」です。薬の副作用として生じることもあります。
性格障害
性格障害は,精神疾患には含めない考え方もありますが,高齢者で性格的にかなり偏りがあり,通常の説得に応じないで時に自己中心的な生活を送り,家庭生活や集団生活が混乱する状態をいいます。記憶障害はありません。
統合失調症
若年期に発病し治癒することなく高齢者になった統合失調症の人は,幻覚や妄想を伴い認知障害を認め、社会生活を送ることが難しい場合もあります。発病の経過から認知症と区別できます。
知的障害
ダウン症のような先天的、または小児期の脳外傷や脳疾患などによる知的障害のある人が高齢者になった場合に,認知症と見間違うことがあります。障害の経過を知れば認知症と区別できます。
こうした認知症と区別すべきいくつかの疾患がありますが、認知症の人もうつ状態になり、せん妄になることが稀ではありません。二つの精神疾患が合併していることは経過からおおよそ判断でき、またその診断に基づきそれぞれの精神疾患への治療を行う必要があります。アルツハイマー病の人がうつ状態になったとき、アルツハイマー病の治療は難しいですが、うつ状態を治すことは不可能ではありません。

出現率
認知症の人がどれほどいるのかの調査は我が国では多く行われてきました。しかしその多くは地域での在宅の高齢者の認知症の頻度についてであって医療機関や介護施設での調査は少ない。ひとつの参考として、高齢者認知症の年齢階層別出現率と将来推計の図に示します。年齢階層別にみると高齢になればなるほど出現率が著しく高くなる傾向にあります。
なお65歳未満の若年期認知症については約4万あるいは8万という推計数があります。
原因疾患別にみると、高齢者ではアルツハイマー病が最も多く、脳血管障害がそれに続きます(図参照)。


認知症の原因
認知症は、アルツハイマー病や脳血管障害など脳の器質的疾患が基本的原因ですが、認知症という状態は脳の変化だけで決まるわけではありません。認知症の人の身体状態、精神状態、生活環境状態によっても左右されます。前者を1次要因、後者を2次要因と呼びます。認知症はこの1次要因と2次要因が合わさって決まるのです。

○1次要因
アルツハイマー病
アルツハイマー病は、脳の神経細胞の働きが低下し死滅する進行性退行性神経疾患です。初発症状は記憶障害で、何時とはなしに現れゆっくり進行します。記憶障害に判断の障害が加わり、認知機能が全般的あるいはまだら状に低下します。アルツハイマー病による認知症をアルツハイマー型認知症といいます
脳血管障害
脳血管障害は、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血に3疾患です。高齢者では脳梗塞が多い。脳血管障害は急に現れ重度の意識障害に陥りそのまま死に至ることもありますが、後遺症として片麻痺など運動障害を残すことが多い。初発から認知症を認めることは比較的稀で、脳血管障害の再発を繰り返すなかで認知症を認めることが多い。脳血管障害による認知症を、脳血管性認知症または血管性認知症とよびます。
その他
上記の2疾患の他に認知症の原因となる多種の脳の器質的疾患があります。頻度は低いのですが治る認知症、良くなる認知症、防げる認知症があります。
慢性硬膜下血腫
頭部打撲の後、頭蓋骨の内部にある硬膜の下に血腫が形成され意識障害、運動障害、認知障害などが生じる。早期に血腫を取り除けば認知症が治ることがある
頭部外傷
頭部を強く打つなどしたのち意識障害が生じ、その後回復してから認知症が現れることがある。症状は固定的である
正常脳圧水頭症
認知症、歩行障害、失禁を3症状とする脳脊髄液の循環障害による疾患で早期に循環障害を改善することで認知症が治ることもある
脳腫瘍
脳腫瘍の部位によっては認知症が現れる
低酸素脳症または無酸素脳症
窒息や一時的な心臓停止などにより脳の神経細胞が酸素欠乏状態になり認知症になることがある。症状は固定的である
前頭側頭変性症
この変性症による疾患のひとつがピック病で前頭側頭型認知症ともよぶ。が、生活や性格の変化が目立ち、その後認知症症状が現れる。高齢期より若年期の多い
レビー小体病
日内に変動する認知機能障害、パーキンソン様症状、幻視を3症状とする。レビー小体を脳に広く認め彌慢性レビ―小体病ともいう
パーキンソン病
運動障害などの神経症状が主な症状であるが進行すると認知症が現れることがある
進行性核上麻痺
眼球の運動障害、歩行障害など神経症状に加え認知症が認める
大脳皮質基底核変性症
ぎこちない運動、左右差のある震戦を認め、進行すると認知症が現れる
クロイツフェルト・ヤコブ病
異常プリオンによる伝染性疾患で歩行障害などの神経障害と認知症が現れ進行が早い
脳炎
ヘルペスウイルスなどによる脳炎の後遺症として認知症が現れることがある
エイズ
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による感染症で末期に認知症になることがある
アルコール症
長期に大量の飲酒を続けているとアルコール性認知症になることがあり、早期に断酒すれば改善する
その他
ビタミン欠病症、甲状腺機能低下症など「治る認知症」ではあるが、まれな認知症である
○2次要因
身体状態
発熱,脱水,貧血,甲状腺機能低下などの身体状態が,認知機能を低下させる要因となることがあります。例えば,下痢が続き脱水状態になると認知機能に影響し,認知症が悪化することがあります。その場合,水分の経口摂取や点滴補液だけで認知症がよくなることもあります。よりよい身体状態は認知症にはよい条件です。
精神状態
緊張,不安,焦燥,うつ状態,動揺などの精神状態の変化が,認知機能を低下させる要因となることがあります。例えば,入院して新しい環境になじめない認知症高齢者は,緊張し混乱するかもしれません。緊張や混乱は認知症高齢者に残存している認知機能を低下させ,認知症を悪化させます。精神的な安定,安心は,認知症高齢者には認知機能の維持のために大切です。
環境状態
認知症の人の環境状態とは,人的環境と物的環境――とに分けることができます。
人的環境
認知症高齢者を直接介護している人のことです。介護者が,認知症について理解があり,認知症を持った高齢者のことをよく知り,介護の知識と技術が適切であり,よい人間関係のなかで介護していることは,認知症高齢者によい影響を与え,認知機能をよりよく保つことになります。
物的環境
認知症高齢者が生活する場のことで,住みなれた家や和めるグループホームで生活することは,認知症によい影響を与えます。逆に,長く暮らした田舎の一軒家から都会のマンションの一室での生活を強いられることは,認知症には悪く影響します。人と居住環境とが相補的に働くことで,認知症高齢者はより安心した生活を営むことができ,認知症にもよい影響を及ぼします。
なお「環境の変化は認知症の人によくない」と言われることがありますが、よい環境から悪い環境への変化が好ましくないのであって、認知症に無理解で悪い人間関係のなかでの在宅介護という悪い環境から、認知症に理解があり余裕をもって介護できる老人ホームというよい環境への変化は好ましいことは言うまでもないでしょう。一概に環境の変化が悪いわけではありません。

診断
○問診
問診は、認知症の疑いのある人から、あるいは家族あるいはその人に詳しい介護職らから聞き取りで行います。この問診は重要な診断の要です。問診だけで認知症かどうか、認知症の原因疾患まで推測することができることがあるからです。問診の内容は、これまでの経過、とくに記憶障害がどのように始まり変化してたか、現在の状態が重要な情報になります。
○診察
医師が行う診察は、通常、血圧測定、心臓や呼吸の聴診のほかに、四肢の運動や感覚の障害の有無などを調べる神経学的診察[1]を行います。とくに神経学的診察は認知症の原因疾患を推測するのに役立ちます。
○検査
認知症に診断に関係する検査は、主なものとして血液検査、心理テストおよび画像検査があります。
○血液検査
血液検査は必ずしも重要な検査ではありませんが、認知症の原因になりうる状態や疾患の有無を判定するために以下の検査が行われます。
内分泌:甲状腺ホルモンなど/代謝:血糖、グリコヘモグロビン(HbA1c)/ビタミンB(ビタミンB12、葉酸)など/肝機能:GOT,GPT,γGTPなど/血液:赤血球数、ヘモグロビンなど/腎機能:BUN,Cre,電解質(Na,K,CL)など
○心理テスト
改訂版長谷川式簡易知能評価スケール(略称:HDS-R)またはミニメンタルステート検査(Mini Mental State Examination、略称:MMSE)のどちらかが行われます。介護保険では前者が汎用されますが、医療の分野では後者がよく行われます。どちらも点数でおおよそ認知症を判定できますが、認知症と診断するものではなく、診断の補助となる情報です。簡便な三宅式認知症テストもあります。
○画像検査
認知症は脳の器質的な変化による疾患で生じる状態であり、その診断に脳の画像検査はきわめて重要です。脳の画像検査としてはCT,MRI,PET, SPECTがありますが、このうち基本的に重要で負担の少ないCTとMRIは多くの医療機関で日常的に行われおり、さらに詳しい検査としてPETとSPECTがありますが、一部の医療機関でした行われていません。
○その他の検査
脳波検査
認知症に特異的な脳波のタイプはないが、認知症の診断の補助になることがある。痙攣を伴う認知機能の低下があるとてんかん性疾患と鑑別します。
脳脊髄液検査
正常圧水頭症が疑われる場合に行われます。また試験段階ですが、アルツハイマー病を示す物質を脳脊髄液中に検出して診断の補助とします。
こうした問診、診察、検査を通して、認知症の有無の判定だけでなく、原因疾患(1次要因)および2次要因の関わりなどについて判断します。明らかに認知症と診断でき、速やかに治療を始めることになる場合もありますが、アルツハイマー病などでは1回だけの診察や検査では診断が困難か保留しておことが望ましいこともあり、1週間あるいは1カ月後に再度、診察をしてより的確な診断を行うことが望ましいこともあります。特に軽度の記憶障害の場合、加齢によるものか、軽度認知障害か、初期のアルツハイマー病かの判断は慎重でなければなりません。

治療
認知症の治療とは、狭義には認知症の原因疾患(1次要因)の治療ですが、広義には身体状態、精神状態、環境状態の2次要因の改善を含めていいます。治療は、薬物療法,非薬物療法,及び外科的治療があります。
○薬物療法
薬物療法は、抗認知症薬、向精神薬、漢方薬など薬による治療です。
抗認知症薬
アルツハイマー病の薬物療法は、ドネペジル(商品名:アリセプト)、リバスチグミン(同イクセロン)、ガランタミン(同レミニール)があり、これはどれも脳内の神経伝達物質であるアセチルコリンを補なうものです。軽度から重度のアルツハイマー病に有効です。服用方法、効果、副作用において最も優れている薬はアリセプトと考えます。
この他に、アルツハイマー病の薬として前期の薬と作用が異なり対象を中程度から重度のアルツハイマー病とするメマンチン(商品名:メマリー)があります。
いずれもアルツハイマー病の進行を抑えたり治すものではなく、症状を一時的に改善するだけで効果期間も限られています。アミロイド蛋白の産生を阻害する作用のある根本的治療薬と思われる薬の臨床試験が行われています。
向精神薬
認知症の人の不安、うつ状態、不穏、幻覚、妄想、さらに不眠、あるいは暴力、徘徊などの認知症の随伴症状(認知症の心理行動症状(BPSD))に対する薬物療法として向精神薬があります。向精神薬は、抗精神病薬、抗不安薬、抗うつ薬、抗躁薬、睡眠導入薬の総称です(表1)。認知症の人の不安や幻覚などの精神症状に使われるのは当然としても、暴力、徘徊など認知症の人の介護上問題となる行動に対しても向精神薬、とくに抗精神病薬が広く使われています。しかし、有効なのかどうかの明確な証拠があるわけではなく、ときにいわゆる「問題行動」を抑えるという「管理的目的」あるいは「薬物的拘束」として使われることも少なくないので注意したい。向精神薬は、認知症の人、とくに認知症高齢者では眠気や転倒など副作用が起こりやすいので使う場合、少量から始めることが基本です。
抗精神病薬
本来、統合失調症の治療薬として開発され使われています。この抗精神病薬には、第1世代の定型型抗精神病薬と第2世代の非定型型抗精神病薬とがあります。BPSDにはもっぱら非定型抗精神病薬がよく使われます。
抗うつ薬
うつ状態の治療薬として以前から多種、使われてきましたが、近年、副作用が少ない抗うつ剤が高齢者にも使われています。認知症の人がうつ状態になることは少なくありません。
抗不安薬
不安障害、パニック障害、心理的外傷後ストレス障害(PTSD)などに使われる薬です。認知症の人の不安などにも有効なことがあります。
睡眠導入剤
不眠症によく使われる睡眠導入薬の多いくは抗不安薬と同類の薬です。効果時間によって使い分けます。
漢方薬
認知症の薬物療法のひとつとして、漢方薬による治療が試みられています。いくつかの漢方薬で効果を認めるという報告がありますが、その有効性が広く認められているわけではなく、現在、「認知症」の治療薬として承認されている漢方薬はなく、認知症にともなう精神症状などに処方されています。認知症の治療薬として研究され試みられている漢方薬の代表的のものとして、帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、八味地黄丸(はちみじおうがん)、釣藤散(ちょうとうさん)、抑肝散(よくかんさん)、抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぷはんげ)があります。
その他の薬
脳血管性認知症についてはその原因疾患である脳血管障害の治療は不可欠です。具体的には脳血管障害の危険因子である高血圧,糖尿病,高脂血症,心房細動などがあればその管理,治療を十分に行うことで,脳血管性認知症の進行を抑えることは不可能ではありません。このため降圧剤、糖尿病薬、抗高脂血症薬などが使われます。また脳梗塞の再発予防として抗血液凝固剤[3]を服用することも期待されていますが、まだ予防効果認知症ついては確立しているとはいえません。さらに最近の研究によれば、脳血管性認知症とは関係がないと思われていたアルツハイマー型認知症についても同じ危険因子高血圧,糖尿病,高脂血症,心房細動の管理、治療がアルツハイマー病の進行を抑える効果が認められつつあります。認知症の薬物療法として忘れてならないことは、認知症の2次要因でもある脱水の予防、治療として水分の経口摂取あるいは点滴による補液があります。
○非薬物療法
アルツハイマー病の根本治療薬がなく、認知症に決定的な治療薬がいまでないなかで、認知症の療法として,薬によらないさまざまな治療―非薬物療法―が試みられてきています。こうした療法の効果は必ずしも科学的に裏付けられてはいませんが,これらの療法を手法や意図するところは治療や介護に取り入れてよいと考えます。非薬物療法として代表的な回想法、音楽療法およびリアリティーオリエンテーションがあります。

名称

方法

根拠

備考

回想法

 

認知症の人とくに認知症高齢者が昔を回想する方法で、昔の新聞、結婚記念写真、日常生活で使った物などを材料に話題を展開する。

認知症の人は最近のこと覚えてなくても昔のことはよく覚えている。こうした記憶がしっかいした世界―昔の世界―について語り合うことで、情緒的に安定する。

楽しい、苦労した思い出を中心とし、嫌な思い出、思い出したくないことには触れない。

音楽療法

 

個々の認知症の人に相応しい音楽を知り、集団でまた個別に音楽を聴き歌い楽器を演奏する。

音楽は認知機能が低下しても感情、感性がよく残っている認知症の人に働きかけることによって精神的に安定を図る。

効果は一時的のことが多く、在宅や施設でバックグランドミュージックのように音楽を流す方法もある。民間団体の資格であるが音楽療法士がいる。

リアリティー・オリエンテーション(見当識療法)

認知症の人の現実(リアリティー)についての見当識(オリエンテーション)の改善を図る。時間、場所、人間関係などの健闘識の情報を繰り返し提供し認知機能の改善を図る。

認知機能が比較的保たれている認知症の人へ見当識に関する情報を繰り返し提供することで判断が改善し、精神的安定を図る。

進行した認知症の適応ではない。

動物療法(アニマルテラピーまたはペット療法)

もっとも馴染みがあり大人しく危害をくわえない犬がよく使われる。介護施設で飼ったり、ボランティアが連れてきて認知症の人との交流を図る。

認知症の人が犬などの動物を見たり触ることで、そこに喜びや楽しみを見出し精神的安定を図る。

 

認知症の人にふさわしい動物を選び、感染に注意する。動物を嫌いない人には行わない。

化粧療法(コスメティックテラピーまは美容療法)

自分の顔に無頓着になりやすい女性の認知症の人の化粧を補助する。

化粧することで違った自分の表情を知り、見直し、精神的な安定と活発を図る。

 

園芸療法(ガーデンテラピー)

介護施設や個人の畑や庭などで野菜を栽培し花を育てる。

草花、野菜、土に触れること、また草花の美しさを感じ、作ることの喜びを持つことで、認知症の人の精神的安定を図る。

 

芸術療法(アートテラピーまたは美術療法)

絵を描く、粘土細工をするあるいは美術館などでの絵画鑑賞を―通常、集団で―行う。

認知症の人が絵や粘土細工の創作過程での感触や創作する喜びを経験することで精神的な安定につなり、また作品を通して認知症の人の心を知ることにもなる。

「よい作品」を創ることが目的ではない。

アロマテラピー

 

アロマを部屋で昼間あるいは夜間に使う。

香りを通しての精神的安定を図ろうとする。不眠に有効、また臭覚を通して脳を刺激するとの方向がある。

認知症の人向けのアロマが開発、販売されている。

バリデーションテラピー

 

認知症の人の間違っていたり理解しがたい言動を受け容れながら、その背景を理解する試みを通して接する。

認知症の人の一見理解できないような言動にはそれなりの意味や背景があり、それを受容し理解する対応が認知症の人の精神的安定につながる。

英語Validationの音訳で、「確証」「妥当性確認」という意味がある。

○外科的治療
慢性硬膜下血腫では早期に血腫を除去する手術,正常圧水頭症では早期に脳室または脊髄腔から腹腔まで細いチューブを皮下に埋め込み脳脊髄液を流れを改善する手術(シャント術)などの脳外科的治療で認知症が治ることがあります。

認知症の経過
 
経過は認知症の1次要因の原因疾患によって異なります。アルツハイマー病では進行性で、若年期に発病するほど進行が早い傾向にあります。脳血管障害による認知症は再発を繰り返して段階的に進行することもあれば、あまり進行しないし、よくなることもあります。高齢者にある多発性脳梗塞では段階的に進行することがあります。その他の認知症の原因によって、治るものもあれば、進行しないが同じ状態が続くものもあり、急速に進んでしまうものもあります。
認知症の人の最期の状態も原因疾患によってさまざまであり、アルツハイマー病そのもので亡くなる場合、脳血管障害に肺炎を繰り返して亡くなる場合、認知症のは関係なくがんを併発して亡くなる場合などがあります


認知症の人の心理と心的世界
認知症の人の心理の基本は記憶障害とそれに伴うものですが、その心理についてはいくつかの特徴を挙げることができます。また認知症の人にみられる心の動き―心的世界―についても知っておくことで認知症の人の理解や介護に役立つでしょう。
心理
○記憶障害がある
認知症の人の基本的な障害は記憶障害です。記憶障害のない認知症はありません。この記憶障害は,加齢に伴う健康な高齢者の記憶障害とは異なります。健康な高齢者は新しいことは覚えにくくても,大切なことは覚えることができるし,頭で覚えにくいと紙に書くなどして自分の記憶を補うことができます。しかし,認知症の人は新しいことは覚えられなくなっており,しかも大切なことまで覚えられなくなります。そしてそうした状態にどう対処してよいか分かりにくくなっています。電話で聞いた大切な約束事をすっかり忘れしまうのです。この記憶障害は,さらに粗大なことまで忘れてしまうようになります。夕食を済ませたこと,子どもたちに会ったこと,旅行に行ったこと,連れ合いが亡くなったことをすべてすっかり忘れてしまいます。
こうした記憶障害のため,さっき見たこと,聞いたこと,言ったこと,行ったことを忘れ,あたかもその瞬間に生きているような状態になります。「さっき言ったでしょう」と言われても認知症の人は困るのです。何度も同じことを言うことがありますが,認知症の人にとってはその時初めて話しているつもりなのです。
○判断の障害がある
 記憶障害に伴い,判断能力も障害されます。この判断は、時系列的判断,抽象的判断,総合的判断に分けてその障害を理解することができます。
時系列的判断の障害
時系列的判断とは,時間の流れのなかで物事を判断することです。健康な高齢者は,例えば,朝に掃除して昼は買い物に行き夜はテレビを見ようと判断しながら生活を送るのですが,認知症の人は記憶障害があるので,この判断ができにくくなります。今食べているのが朝食なのか,昼食なのか,夕食なのかといった判断が,時間の流れのなかでできにくくなります。その時々に情報を提供しなければなりません。
抽象的判断の障害
抽象的判断とは,通院の目的,介護施設への入所の理由,人間関係など抽象的な事項に関する判断のことです。認知症の人はこの判断が障害されます。外出して交差点の信号を見て赤や青が点灯しているということは分かりますが,その色が何を意味するのかが理解できにくくなり,赤でも渡ってしまうことがあります。このように抽象的な事柄の判断ができにくくなり,具体的なことへのこだわりが強くなります。例えば,介護を受けるという抽象的なことは認知症の人には理解できにくい一方,具体的な金銭へのこだわりは強くなるようです。
こうした認知症の人には,その時々に具体的な情報を提供して判断してもらうようにします。ガスコンロの消し忘れが頻繁にある場合は,言葉で注意し説得するより,台所に「火の用心」と書いた紙を張っておくのがよいでしょう。
総合的判断の障害
総合的判断とは,認知症の人が置かれている状況を総合的に判断することですが,これが困難になります。例えば,トイレで排泄するには総合的な判断が求められます。尿意を催した時にどのくらい我慢できるか,トイレはどこにあり,どのくらい歩いたらたどり着けるかなどを総合的に判断しながらトイレに行って排泄することができにくくなり,部屋のごみ箱や廊下の隅に排泄してしまいます。したがって,情報はできるだけ分解して単純にします。「便所はこちら」と紙を張っておくだけで,認知症の人には役立つかもしれません。
○過去に生きる
認知症の人,特にアルツハイマー病の高齢者は発病以降の記憶がないだけでなく,発病時から古いことへとさかのぼって記憶が薄れていきます。このため,例えば80歳の高齢者が過去30年の記憶を失う状態になり,その人にとって過去30年はないに等しくなって,30年前すなわち50歳の過去に生きているような状態になります。このため,退職して20年以上になる男性高齢者が朝になると「会社に行く」とか,女性高齢者は夕方に「帰ってくる子どもに夕食の用意をしなければ」と言うことがあります。あるいは鏡に写った自分の姿を見ても,50歳の過去に生きている世界のなかでは,過去に生きる自分の姿と鏡に映った現実の自分の姿とが合わず,他人に対して語りかけるような行為をすることがあります。
こうした過去の世界に生きている高齢者にどう対応し介護したらよいかは一概にいえませんが,高齢者が生きている過去の世界を受け入れることによって精神的な安定が得られるのであれば,その世界を受容して対応する方がよいのではないかと考えます。「会社に行く」と言えば「そうですか」と返事するか,「そうですか,でも今日は日曜日で会社は休みですよ」と話しかけてみて納得することもあります。
○感情,思い,プライド,性格は残る
認知症はあくまでも認知機能の低下する状態であって,人の精神活動の一部である感情は残っていることが多くあります。さらには思いや期待,あるいはプライドは残っているものです。また,認知症の人は記憶障害で食べたことは忘れても,おいしいかったという感覚や満足感は残っているものです。こうした認知症の人の心を理解し,その心を支えることは認知症ケアにとても重要なことです。
なお,性格については,認知症になってもあまり変わらない場合,弱くなる場合,強くなる場合と人さまざまです。温和な性格の高齢者がより協調的になる場合もあれば,逆に自己中心的な性格に変わることもあります。この性格は,認知症の人のケアを困難にすることもあれば,容易にすることもあります。
認知症の人の心的世界
認知症の人は、認知機能は低下していますが認知症でありながら人としての心的世界を持ち、いろいろな心の動きがあると思われます。こうした心の状態は、持続的なこともあり、また一時的なこともあります。否定的な心の状態だけでなく、豊かな感情や周囲への思いやりを示すこともあります。また外出のとき服装を気にすることもあります。しかしこうした状態は認知症が進行、悪化すれば少なくなってきます。
○不安
記憶障害や判断力の低下で状況判断ができにくくなり今どこにいるのだろう、これからどうなるのだろう、家族に迷惑をかけないだろうかといった不安な気持ちが強くなり、しかもどうしてよいかわからずますます不安になるようです。
○うつ状態:認知機能が低下し、それまでできていたことができにくくなり、どうしてよいかもわからず、気持ちが落ち込んでくることがあります。とくにアルツハイマー病の初期に起こりやすい。
○執着
状況判断が低下し変化についてゆけなくなり変化を嫌い同じ状態であることを望むようになります。それだけ執着が強くなります。
○取り繕い
認知症の人が自分に不利なことがあり否定されるようなことがあってもそれを認めようとせず、「作話」的な話をしたりして自己正当化し自分が間違っていないかのうように取り繕うことがあります。
○怒り
自分に不利なことがあり状況判断が低下して混乱すると、怒りの感情を湧いてきます。手をあげたり、大声をあげたりします。これは一種の認知症の人なりの自己防衛的言動と思われます。
○無関心
認知症が進むと、自分のこと、周囲のことへの関心が薄らぎ、無関心な心理状態になります。服装が乱れていても気にならないし、失禁していても気ならなくなるのです。

認知症介護の基本
認知症の原因―1次要因や2次要因―や認知症の人の心理を理解することから認知症の人の介護の基本としていくつかを挙げることができます。
○認知症の人を知る
認知症の人はそれぞれ症状や認知機能が異なります。それぞれの方の認知症の状態や認知機能の内容を知っておくことです。どの程度の記憶障害があるのか,何を覚え何を忘れてしまうのか,何ができて何ができないのかを知ることです。さらに認知症の原因疾患についても知っておきます。アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症では経過も症状も異なるからです。認知症の2次要因についても,どのように関係しているか知っておきたいものです。認知症を知るだけでなく認知症という障害を持った高齢者を知ることです。どのような生活を送ってきたか,どのような性格の人なのか,何を思い、何を期待している人なのかを知ることです。
○残存能力に働きかける
認知症の人は自ら好んで認知症になったわけではなく,疾患によって認知機能が低下し,それまでできていたことができなくなったのです。このような高齢者は,何ができ何ができないかを判断し,できる範囲で生活を送り,できないことは無理にさせない方がよいと考えます。できなくなったことを無理にさせようとすることは認知症の人に負担をかけることになり,混乱し,うつ状態になりかねません。できることをすることで,認知症の人は安心もするでしょう。
○認知症の人の世界を受け入れる
アルツハイマー病の高齢者で過去の世界に生きているような状態になった場合,それに対して現実の世界を認識させ,現実の世界に戻すような働きかけを試みても,うまくいかずに認知症の人が混乱してしまうことがあります。むしろ認知症の人の生きている世界を受け入れた方が,落ち着くことが多いのです。このために,認知症の人の話していることが現実と乖離していても,とにかくそれを聞いて受け入れるような接し方が基本です。
○感情,思い,プライド,性格に配慮する
認知症は認知機能が低下した状態ですが,人としての感情は残っています。思いや期待やプライドも抱いています。そして自らの思いを適切に表現できず感情的に行動することが多くなります。認知症の人がどのようなことを思い,何を期待しているのか,どのようなプライドを持っているか,どのような性格の人なのかを知りながら話しかけ,接することです。したがって話の内容より話し方の方が大切になります。ゆっくりした話し方,丁寧な言葉遣い,思いやりのある態度などが大切です。
また,在宅でも介護施設でも,感情への働きかけを意図した雰囲気づくりが重要となります。適度に日常生活の雑音が聞こえて落ち着ける雰囲気,拘束感が少なく安心感があり和める雰囲気をつくることにも配慮しなければなりません。
○身体状態に配慮する
認知症の人は自らの身体状態を的確に訴えることができにくくなっています。たとえ胆嚢炎で腹痛があっても,「腹が痛い」とは言わないで,何となく元気がない,食欲がない,横になることが多いといった態度をとることがあります。このため介護者は認知症の人の身体的な変化に早期に気付かなければなりません。「どうですか」と質問するのではなく,「おなかが痛くありませんか」といった「はい」や「いいえ」で答えられるような質問をして確かめます。発病やけがの疑いがあれば,速やかに診察を依頼します。
 身体状態に注意する上で忘れてはならないことは,高血圧,糖尿病,高脂血症など慢性疾患を持った認知症の人が多いということです。こうした疾患の管理や治療を行うことも,大切な認知症介護です。特に脳血管性認知症の場合は,こうした疾患を適切に治療し脱水症を予防することで,認知症の進行を抑えたり,改善したりすることが可能だからです。
○安全を確保する
認知症の人は,視力や聴力の低下など身体機能と認知機能が低下しているために,自らの身の安全を守ることが下手になっています。このために転倒,火傷,溺水などが起こりやすくなります。 こうしたことを防ぐためにも,廊下を明るくする,階段に手すりを付ける,風呂の床を滑りにくくするなどします。また外出の際には特に道や車に注意します。
 しかし,安全を重視するあまり,高齢者の行動の自由を奪うことは避けなければなりません。介護保険制度下では身体拘束は原則禁止されています。認知症の人の身の安全と行動の自由を同時に保障することは容易なことではありませんが,両方のバランスのとれた介護の工夫が望まれます。
○周囲の人たちの理解と協力を得る
在宅では,特定の家族が介護を強いられている例がよくあります。しかし在宅で認知症の人を一人で介護することには困難が伴います。家族や近所など周囲の人たちの理解や協力を得ることで在宅介護が続けられるでしょう。
介護施設でもすべての職員が,認知症の人への共通の理解を持って協力しながら介護を続けることは重要です。
○地域のサービスを利用する
介護保険制度によって,ホームヘルプ,デイサービス,ショートステイなどの介護サービスの量が増えています。こうしたサービスをうまく利用することで,地域での生活が続けられるようにしたいものです。
ただし,地域で生活することが容易ではない認知症の人と家族が居ます。在宅での生活が困難になれば,速やかに介護施設での生活に切り替えた方が,本人にも家族にもよいことでしょう。
○地域の人的ネットワークを創る
認知症の人や家族を支援することは,一人の医療職や介護者ができるものではありません。地域で活動している多職種―医師,看護師,保健師,介護福祉士,社会福祉士,介護支援専門員など―と公的あるいは私的なネットワークをつくり,それを生かして在宅の認知症の人と家族を支えていきたいものです。また地域包括支援センターとの連携も必要でしょう。
○認知症の人の人権に配慮する
認知症の人は自らの生命・財産・尊厳・人権を守ることが難しい状況にあります。介護者は認知症の人の人権にも十分に配慮する必要があります。このために,日常生活自立支援事業,成年後見制度,高齢者虐待防止法を活用します。
○介護者自身のケア
認知症の人の介護は容易ではありません。理解に苦しむ言動に振り回され,報われない介護の日々が続くかもしれません。介護者自身が心身ともに疲労困憊すると余裕のある介護ができません。余裕のない介護は認知症の人へ適切な介護ができないばかりか,虐待を起こしかねません。介護者自身が自らの心身のケアに心がけることは,認知症の人にとってもよいことです。在宅の場合,デイサービスやショートステイ(注)を積極的に利用することは介護者自身のケアによいことです。

予防
認知症の予防は認知症の原因疾患により異なります。アルツハイマー病など認知症に関する危険因子についての多くの調査研究の報告がなされており、予防の方法も明らかになりつつあります。こうしたなかで、高血圧、糖尿病、高脂血症、喫煙などが危険因子とされ、ビタミンCやE、葉酸、運動、少量の飲酒、趣味を持つことなどが保護因子とされています。→予防

認知症の人
認知症の人とは認知症という障害をもった人間という意味です。医療分野では「認知症患者」という表現が多いが、介護分野では「認知症の人」がふさわしい表現です。したがって「認知症介護」ではなく「認知症の人の介護」という言い方がよい。認知症という障害をもった人間を支援することで認知症についてだけでなく、認知症をもった人についても理解が不可欠となります。英語でもDementia patientよりPeople with Dementiaという言い方が多い。

認知機能
人が外界から五感を通して得た情報を記憶、判断、統合などの機能でもって対称や状況を認め知る心理機能。

認知予備力
英語のcognitive reserveの訳語で認知機能予備力ともいいます。人が見かけ上持っている認知機能以上に潜在的にもっている認知機能のことです。この予備力によって認知機能の低下を防いだり、またたとえアルツハイマー病になっても症状が軽くなる傾向にあるとされています。これは死後解剖で脳に多くのアミロイド斑を認めていても生前、アルツハイマー病の症状がほとんどないか、軽度である事例が少なくないことから考えられた概念でもあります。この認知予備力は教育やライフスタイルによって強くできるとも考えられています。

認知症障害評価
英語でDisability Assessment for Dementia(略称:DAD)といい、着衣、食事、電話、外出、金銭管理など10項目について「行った」「行わなかったか」で評価します。英語版DAD(pdf)

認知症の人と家族の会
認知症の人と家族の会
認知症に関わる介護家族を中心としたわが国唯一の全国的な公益社団法人です。1980年に京都で介護家族ら有志により「呆け老人をかかえる家族の会」として発足し、2010年6月現在、全国47都道府県に支部があり、会員数約1万人である[6]。主な活動は以下のとおりです。
○家族の集い
家族の会の基本的な活動で、支部によって毎月あるいは3月に1回開催している。家族の介護の苦しみや悩みを語り合い、同じような状況に置かれた介護家族が互いに理解し支え合い、また情報交換する場でもあります。               
○会報
本部から月刊「ぽーれぽーれ」を発行しています。会報は、介護家族への精神的な支え、情報提供、また認知症の理解を広める情報誌となっています。これにあわせ支部でも独自の支部だよりを発行し身近な情報を提供しています。
○電話相談
平日、全国を対象として通話料無料の電話相談を行っています。相談員は主に介護経験のある家族で、その体験を踏まえた相談に特徴があるが、相談の向上のため独自の研修を繰り返しています。
○研究集会
認知症に関わる専門職、ボランティア、介護家族らが互いの壁を取り払って一堂に会する「認知症の人と家族への援助を進める全国研究集会」を1985年以降、毎年開催しています。
○調査
認知症にかかわるさまざまな調査を主に会員を対象に行っている。在宅介護、若年期認知症、「不適切と思われるケア」、「拘束」、家族会活動、介護保険の利用実態などわが国で初めての調査もあります。
E国や自治体への要望
家族の会の独自の調査などをもとにして厚生労働省への要望を重ねています。1982年の最初の要望のときは「ねたきり老人なみを福祉を」でした。その後、認知症高齢者対策の拡充、若年期認知症の人や家族への社会的サービスの充実、介護保険に拡充などの要望を行ってきました。 
○国際交流
各国の国レベルのアルツハイマー病など認知症に関わる民間団体で組織されている「国際アルツハイマー病協会Alzheimer’s Disease International」に1982年に加盟し、各国との情報交換、国際会議への代表団の派遣を行ってきました。2004年には「国際アルツハイマー病協会第20回国際会議・京都・2004」を京都で開催し66の国と地域から4000人以上の参加者があり、この会議でわが国で初めて、アルツハイマー病の人が参加者の前で思いを語りました。
○啓発活動
認知症の人と介護家族への理解を求めてさまざまな啓蒙的な講演会を開催しています。とくに国際アルツハイマー病協会の地球規模の啓発活動である「世界アルツハイマーデーWorld Alzheimer's Day 」を毎年9月に全国一斉に街頭活動や講演会を行い理解を深めています。
H若年期認知症の人と家族や認知症本人への支援
 2000年から若年期認知症の人と家族への支援を、また2004年から認知症本人への支援に取り組んでいます。 
公益社団法人「認知症の人と家族の会」の本部事務局の所在地などは以下のとおり。
〒602-8143京都市上京区堀川丸太町下る京都社会福祉会館
TEL:075-811-8195  FAX:075-811-8188
E-mail:office@alzheimer.or.jp
サイト:www.alzheimer.or.jp 

認知症看護認定看護師
日本看護協会は、1997年から特定分野の看護知識や技術に優れた看護のできる認定看護師の制度を始めたが、2006年からは認知症の分野をこの制度に含め、協会の規定の条件を満たした看護師を認知症看護認定看護師といいます。2010年4月現在、94名と少ない。

認知症ケア専門士
日本認知症ケア学会が認知症ケアの質の向上を目指して専門的な知識と経験と技術を有する認知症ケアの専門士制度で2005年から始めました。対象者は、3年以上の実務経験がある人で、学会の規定による試験を合格すると資格を得ることができます。2010年4月現在専門士は2万人以上いる。この資格を持つことで特典はなく、むしろ介護福祉士らが自らの認知症介護のレベルを高めることを目指して取得するものと考えられます。

認知症サポーター
厚生労働省が2005年度から開始した「認知症を知り地域をつくる10ヵ年」構想の一環として「認知症サポーター100万人キャラバン」は始めました。都道府県や市区町村などは認知症サポーターを養成する講座の講師(キャラバン・メイト)に認知症介護指導者研修修了者などを対象として養成し、このキャラバン・メイトが認知症サポーターの養成講座を開催します。この講座には誰もが受けることができる受講することで認知症サポーターになれます。認知症サポーターは、認知症の人と家族のための地域づくりや日々地域で認知症の人の理解者、支援者としての地域での役割が期待されています。2014年3月末現在で、全国に約449万人にサポーターがいます。

認知症短期集中リハビリテーション
介護老人保健施設、介護療養型医療施設、および通所リハビリテーションでMMSEまたはHDS-Rが5から25点の認知症の人に、医師または医師の指示を受けた理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が学習療法、回想法など認知症の非薬物療法を行います。認知症の進行予防、意欲や活動性が高まる、ADLが向上する、BPSDが改善するなどの効果があるとされています。退所または通所開始日から3カ月以内に行うと介護報酬を請求できます。

認知症ケアマッピング
認知症ケアマッピングは、英語のDementia Care Mapping (DCM)のことで、認知症の人の介護について認知症の人の行動を観察し記録することによって介護者側の介護の質を評価する方法です。1980年代にイギリスで開発されました。DCMは研修を受けた「マッパー」とよばれる専門職が認知症の人をおおよそ5分おきに6時間観察します。本人の行動を歩行や会話など25に分類された「行動カテゴリー」に基づき、状態を非常によい「+5」から非常に悪い「-5」の数値で現します。こうした客観的に数値化された状態の変化でもって介護に質を評価し介護の向上につなげようとするものです。


認知症の人のためのケアマネジメントセンター方式
認知症介護研究・研修センターで開発されたので単に「センター方式」ともよばれ、認知症の人を評価しケアプランを立てるための方式です。認知症の人の尊厳、利用者本位、安心、生の充実、自立支援、リハビリテーション、安全・健康・予防、包括支援などを視点として、「基本情報」「暮らしの情報」「心身の情報」「生活機能情報」「24時間アセスメントまとめ」の5つシートを使って行います。
認知症介護研究研修東京センターケアマネジメント推進室

認知症疾患医療センター
従来の「老人性認知症センター」に代わり2008年から国の施策として都道府県および政令指定都市に設置されている認知症を専門とする医療センターで、認知症医療に関する地域の中核的役割を担っており全国に146カ所配置されている(2012年2月現在)。このセンターの役割は,認知症の鑑別診断,BPSD(認知症の行動心理症状)への対応,身体合併症への対応などです。設置要件は、専任の専門医(日本老年精神医学会または日本認知症学会)または認知症医療に係わる経験が5年以上の医師,および専任の臨床心理技術者や精神保健福祉士などがそれぞれ1人以上配置されていること,CTやMRIを有していること,精神科病床と身体合併症の急性期入院治療を行える一般病床の両方を有していることなどです。また,一般医師への専門的医療相談、研修会,地域の連携協議会の開催なども事業としています。

認知症疾患治療病棟
以前「老人性認知症疾患治療病棟」と呼ばれた病棟で高齢者には限定しないことで2008年に現在の名称に改まりました。施設基準は、精神神病に併設され常勤の精神科医,作業療法士,精神保健福祉士または臨床心理士および介護にかかわる職員の2割が看護師で,生活機能回復訓練室などがある。集中的な治療が必要とされるBPSDが著しい認知症患者とされるが、介護保険施設である「老人性認知症疾患療養病棟」との違いが明確ではありません。

認知症コールセンター
認知症コールセンターは2009年度に始まった国の事業で、都道府県と政令市で行われ相談事業。相談員は、委託を受けた専門職や「認知症の人と家族の会」支部会員などである。群馬県の場合の設置規定は以下のとおり。
群馬県認知症コールセンター
今後の高齢化の進展に伴い、認知症高齢者の増加が見込まれており、認知症対策の充実は急務となっています。群馬県では、認知症の人やその家族、関係者等が抱える様々な不安を軽減するため、認知症高齢者等の介護の経験者が、介護に関する悩みなどについて電話で相談に応じる「群馬県認知症コールセンター」を開設しております。
1.設置場所
前橋市亀泉町1−26(群馬県介護研修センター内)
2.相談窓口
(1)電話番号 
 027−269−4432
(2)FAX番号 
 027−264−3522
(3)Eメール 
 kaigoken@pref.gunma.lg.jp
3.相談日及び相談受付時間
(1)相談日  月曜日から金曜日(祝日、年末年始を除く)
(2)受付時間  午前9時00分から午後5時00分まで
4.事業内容
(1)認知症の人やその家族、関係者からの介護に関する悩みなどについて、電話による相談に応じます。
(2)電話による相談が難しい場合や相談受付時間以外には、ファックス及びメールによる相談を受け付けます。
(回答は、相談受付日の翌日以降となります。)
(3)相談内容・相談者の希望等に応じて、群馬県認知症疾患医療センター、地域包括支援センター、介護サービス事業者、医療機関、各市町村介護保険・高齢者福祉担当課等適切な関係機関が行う支援へ適切につなぎます。
(4)地域包括支援センター、市町村等の相談体制の支援に資するため、定期的な情報提供などにより連携を図ります。
5.相談料
無料(通信等に要する費用は相談者負担となります。)
6.特色
(1)全国で唯一、県直営方式によるコールセンターであること。
※全国の設置状況〜平成21年度末現在、設置22府県すべてが委託方式
(2)相談員は、認知症高齢者等の介護の経験を有する介護研修センター職員であること。

認知症連携担当者
2009年度より導入された専門職で地域包括支援センターに勤務します。業務は、認知症の人や関係者などの相談および支援、認知症疾患医療センターや権利擁護に関する関係団体等との連携を図りネットワークの構築、若年性認知症に関する相談や支援などとされています。まだ人数が少なく、その役割も不明確で、地域で十分に活用されているとはいえないようです。

認知症地域支援推進員
国の2011年度からの認知症地域支援施策推進事業の一環として行う「市町村認知症施策総合推進事業」は認知症になっても住み慣れた地域で生活を継続するため医療・介護・生活支援を行うサービスの有機的連携を目指したものですが、この事業のなかで「認知症地域支援推進員」が地域包括支援センターなどに置かれます。この推進員は次の要件を満たした者がなれます。@ 認知症の医療や介護における専門的知識及び経験を有する医師、保健師、看護師、作業療法士、精神保健福祉士、社会福祉士、介護福祉士
A 上記@以外で認知症の介護や医療における専門的知識及び経験を有する者として市町村が認めた者(例:認知症介護指導者養成研修修了者 等)
なお、それまでの「認知症連携担当者」を活用することができます。
推進員は以下の業務を行います。
○認知症の人に対し、状態に応じた適切なサービスが提供されるよう、地域包括支援センター、認知症疾患医療センター等の認知症専門医療機関、介護サービス従業者や認知症サポーターなど、地域において認知症の人を支援する関係者の連携を図る。
○認知症地域支援推進員を中心に地域の実情に応じて各市町村内の認知症の人やその家族を支援する事業を実施する。

認とも
認知症カフェなどを通じて顔なじみになったボランティアで一定の資質を有する者が、認知症地域支援推進員の企画・調整の下、認知症の人の居宅を訪問して、一緒に過ごす取り組みで、2016年度から始まる。

認知症コーディネーター
多職種が連携して認知症の人と家族の支援体制を構築するため関係機関の調整や専門的助言を行う職種で、一定の研修を受けた後、地域包括支援センターや認知症疾患医療センターに配置され、以下の支援を行います。
○専門職等に対する困難事例への相談対応や助言、○地域ネットワークの構築・活用、専門職同士の連携支援、○地域資源情報の提供、○必要に応じ、地域ケア会議へ参加、○地域への啓発活動。

認知症サポート医
厚生労働省が2008年に始めた事業で、医師の認知症対応能力の向上と認知症に関する企画立案に必要な知識の習得と目的として、国立長寿医療センターに委託して都道府県などが実施する研修を受けた医師とします。認知症サポート医は、かかりつけ医の認知症対応力の向上を図るための研修などを行い医師会や地域包括支援センターとの連携へ協力します。認知症サポート医は都道府県などのサイトで公表されています。

認認介護
「老老介護」「病病介護」と同類の四文字熟語による問題となる在宅介護の一面を表現したものです。介護する側の人が認知症ではあるが認知機能が軽度でなければ成り立たない介護ですが、軽度であるがために介護者の認知症を見逃すこともあります。認知症の状態を早期に把握し対応をとらないと、介護を受けている人の認知症の状態が悪化さえることになりかねません。孤立した「認認介護」が続けられると、介護する認知症の人の虐待に発展し、最悪の場合、餓死、殺人といった状況に追い込まれるでしょう。今後も、在宅の高齢夫婦が増えることを考慮すると、そのなかに「認認介護」が増えることは十分に予測されます。こうした人たちが介護保険を利用している場合は、夫婦の生活状態、被介護者だけでなく介護者の認知機能のチェックが重要となり、介護保険を利用していないような場合は、困難な面もありますが、地域包括支援センターの役割、介入が期待されます。

日本認知症ケア学会
日本認知症ケア学会は2000年6月の設立された認知症ケアに関する多専門職による学術団体で、認知症の人のケアに関する学際的な研究の推進、ケア技術の教育、社会啓発活動等を通じて、質の高いケアを実現し、認知症高齢者および介護者等の生活の質を高め、豊かな高齢社会の創造に資することを目的とし、学会、学術雑誌の発行のほか、研修会、認知症ケア専門士の認定などの活動を行っています。 会員数は16,264名(2010年4月現在)。

認知症介護研究研修センター
認知症の介護に関する研究および研修を行うセンターとして2000年から2001年にかけて仙台市、東京都、大府市に開設された。センターの業務は、認知症の人の介護に関わる研究と研修事業で、後者として「認知症介護指導者」の養成研修を行っている。サイト:仙台センター 東京センター 大府センター

認知症専門職
認知症の社会的対策として人材の養成は重要です。わが国における認知症に関わる専門職の養成は以下のとおり行われています。
○日本老年精神医学会認定専門医
日本老年精神医学会が規定した条件を満たした医師に与える認定称号で、専門医は老年精神全般にわたる専門医であり、認知症に特定されてはいないが、ほとんどの専門医が認知症医療に精通していると思われます。学会のサイトで専門医を探すことができます。
○認知症看護認定看護師
日本看護協会は、1997年から特定分野の看護知識や技術に優れた看護のできる認定看護師の制度を始めたが、2006年からは認知症の分野をこの制度に含め、協会の規定の条件を満たした看護師を認知症看護認定看護師といいます。2010年4月現在、94名と少ない。
○認知症介護指導者
全国に3か所ある認知症介護研究研修センターで規定の研修コースを修了した者が受けています。指導者は認知症の人への地域全体の介護サービスの充実を図ることが期待されており、認知症サポーターの養成に関わったりしているが、役割を十分発揮するにはいたっていないようです。
○認知症ケア専門士
日本認知症ケア学会が認知症ケアの質の向上を目指して専門的な知識と経験と技術を有する認知症ケアの専門士制度で2005年から始めました。対象者は、3年以上の実務経験がある人で、学会の規定による試験を合格すると資格を得ることができる。2010年4月現在専門士は2万人以上いる。この資格を持つことで特典はなく、むしろ介護福祉士らが自らの認知症介護のレベルを高めることを目指して取得するものと考える。

認知症の本人 
認知症の人は、もの忘れが激しく、訳のわからないことをして家族を困らせる厄介者との先入観や偏見が長く続いた時期が我が国にもありました。その後、認知症の人にも人間としての感情があり、思いや期待やプライドがあることに気づき始め介護の在り方が変わり始めました。しかし、認知症の人自身からその思いを聞くという姿勢は乏しかったようです。こうしたなかで認知症の人の思いを聞き出そうとする取り組みがありました。1993年頃、出雲市で開業していた高橋幸雄医師は高齢者デイケア施設「エスポアール小山」でそれを実践しましたが、全国に普及することはありませんでした。
その頃、アメリカではアルツハイマー病の人自身の体験記「Living in the Labyrinth(和訳題名:迷路に生きる)」が出版され、それまでの認知症の人へのイメージを一新しました。さらに、2001年、ニュージーランドで開催された国際アルツハイマー病協会の国際会議で
オーストラリアの認知症の人、クリスティーン・ブライデン氏が多くの参加者の前で自らの思いを語りました。ブライデンさんが書いた本(日本訳タイトル「私は誰になっていくの?」)が紹介されるとわが国でも認知症の人への考え方が大きく変貌しました。それを決定づけたのが2004年、京都で開催された国際アルツハイマー病協会の国際会議でアルツハイマー病の越智俊二さんが多くの聴衆の前で自らの思いを語ったことです。
これを契機に、認知症の人本人を中心として活動―「本人会議」―が広がり、わが国の新たな認知症活動が始まりました。2006年、全国から7人の認知症の本人が集まって、「本人会議」(写真)を行い、認知症・本人の思いとして以下の「本人会議アピール文」を社会に発信しました。認知症の本人交流ページ「だいじょうぶネット」

○本人同士で話し合う場を作りたい
1.仲間と出会い、話したい。助け合って進みたい。
2.わたしたちのいろいろな体験を情報交換したい。
3.仲間の役に立ち、はげまし合いたい。
○認知症であることをわかってください
4.認知症のために何が起こっているか、どんな気持ちで暮らしているかわかってほしい。
5.認知症を早く診断し、これからのことを一緒にささえてほしい。
6.いい薬の開発にお金をかけ、優先度の高い薬が早く必要です。
○わたしたちのこころを聴いてください
7.わたしはわたしとして生きて行きたい。
8.わたしなりの楽しみがある。
9.どんな支えが必要か、まずは、わたしたちにきいてほしい。
10.少しの支えがあれば、できることがたくさんあります。
11.できないことで、だめだと決めつけないで。
○自分たちの意向を施策に反映してほしい
12.あたり前に暮らせるサービスを。
13.自分たちの力を活かして働きつづけ、収入を得る機会がほしい。
14.家族を楽にしてほしい。
○家族へ
15.わたしたちなりに、家族を支えたいことをわかってほしい。
16.家族に感謝していることを伝えたい。
○仲間たちへ
17.暗く深刻にならずに、割り切って。ユーモアを持ちましょう。

認知症カフェ
認知症の人やその家族を支える場所として認知症カフェ(アルツハイマーカフェともいう)が世界的に普及しています。1997年、オランダで始められた取り組みで、我が国では滋賀県の「藤本クリニック」の「もの忘れカフェ」が最初です。2014年からは厚生労働省の「認知症施策推進5か年計画(通称:オレンジプラン)」で普及が図られています。カフェでは、認知症の人と家族に加え、専門職、ボランティアが集い、語り合い、思いを共有し、情報交換し、学習する場となります。

認知症ケアパス
「認知症の状態経過等に応じた適切なサービスの選択・提供に資する道筋」あるいは「地域での認知症ケアのため認知症の人の情報を共有する媒体」との定義もあるが、我が国での定義は一定しない。社会保障審議会などで認知症対応としてケアパスの作成が望ましいとされている。なおイギリスのNHSでdementia care pathwayが推奨されている。
参考
○Older Adult Dementia - Care Pathway(図下)
○「今後の認知症施策の方向性について」(平成24年6月18日 厚生労働省認知症施策検討プロジェクトチームの)で提唱されたケアパス(図下)
『認知症ケアパス作成のための手引き』財形福祉協会2013年(pdf11.4M)

「認知症施策推進5か年計画」
厚生労働省が2012年9月に公表した2013年度から2017年度までの認知症に関わる計画で「オレンジプラン」と通称します。その骨子は以下のとおり。
1.標準的な認知症ケアパスの作成・普及
2.早期診断・早期対応
「 認知症サポート医養成研修」、「認知症初期集中支援チーム」(地域包括支援センター等に配置し家庭訪問を行いアセスメント家族支援等を行う)の設置など。
3.地域での生活を支える医療サービスの構築
「認知症の薬物治療に関するガイドライン」の策定、「退院支援・地域連携クリティカルパス」の作成など。
4.地域での生活を支える介護サービスの構築
5.地域での日常生活・家族の支援の強化
「認知症地域支援推進員」、「 認知症サポーター」、「市民後見人の育成・支援組織の体制整備」、「認知症カフェ」(認知症の人と家族、地域住民、専門職等の誰もが参加でき、集う場)の普及など。
6.若年性認知症施策の強化
「若年性認知症支援のハンドブックの作成」「若年性認知症の人の意見交換会」など。
7.医療・介護サービスを担う人材の育成
「認知症ライフサポートモデル」(認知症ケアモデル)の策定、「認知症介護実践リーダー研修」「認知症介護指導者養成研修」など。

認知症施策推進総合戦略
2015年1月厚生労働省が公表した2017年度以降の認知症政策で副題を「認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて」としています(通称:新オレンジプラン)。基本的考え方を「認知症の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で自分らしく暮らし続けることができる社会の実現を目指す」とし、以下の7つの柱を掲げています。
@認知症への理解を深めるための普及・啓発の推進
A認知症の容態に応じた適時・適切な医療・介護等の提供
B若年性認知症施策の強化
C認知症の人の介護者への支援
D認知症の人を含む高齢者にやさしい地域づくりの推進
E認知症の予防法、診断法、治療法、リハビリテーションモデル、介護モデル等の研究開発及びその成果の普及の推進
F認知症の人やその家族の視点の重視

日常生活自立支援事業
1999年10月から「「地域福祉権利擁護事業」として、市町村で開始した制度で、認知症の人、知的障害者、精神障害者などが対象です。事業の内容は、相談と援助で、援助としては「福祉サービスの利用援助」「住宅改造、居住家屋の賃借、日常生活上の消費契約及び住民票の届出等の行政手続に関する援助」などです。実施主体は、都道府県社会福祉協議会及び指定都市社会福祉協議会ですが、窓口業務は市区町村社会福祉協議会等が実施しています。本人、家族、代理人などが相談、申請し、これに応じて相談、調査等を行い、支援計画を作成し、契約を結びます。これに基づき生活支援員が援助にあたります。援助は金銭管理にとどまらず福祉サービスなどの内容の確認も含まれます。しかし認知症の人との契約が必要であること、サービスを受ける場合に利用料がかかることなどから、また事業自体がよく知られてないことから利用者は限られているのが現状です。 2007年4月より「日常生活自立支援事業」に名称変更しました。
なお、2011年度末で利用契約件数は約3万7000件で、このうち認知症高齢者が52%を占めています。

日本アルツハイマー病脳画像診断先導的研究
アルツハイマー病薬の臨床試験に画像診断や血液診断などの客観的な検査データが欠かせないとして、健常高齢者、軽度認知障害、軽症アルツハイマー病の人を定期的に検査し評価基準づくりを行うことを目的として2008年から全国600名の被験者を募集し、2〜3年間にわたって診察や検査を行っています。英語名:Japanese Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative(略称:J-ADNI)。J-ADNIのサイト

日常生活能力
歩く、食べる、排泄するなど日常生活上の能力のこと。ADL(Activities of Daily Life)と略することが多い。認知症の人は、認知障害によりこの日常生活能力が低下することが少なくありません。さらに身体疾患や障害が加わってこの能力が一層低下します。日常生活能力について広く認められ使用されている基準はありませんが、起立、移動、食事、排泄、洗顔、入浴、着替など項目別に段階付けしたいろいろな基準が使われています。簡単のものとして厚生労働省の「障害老人の日常生活自立度(寝たきり度)」判定基準」があり、自立のJから自力では寝返りもうてないC2までに分類されています。

障害老人の日常生活自立度(寝たきり度)判定基準

生活自立

ランク

何らかの障害等を有するが、日常生活はほぼ自立しており独力で外出する

1.交通機関等を利用して外出する
2.隣近所へなら外出する

準寝たきり

ランク

屋内での生活は概ね自立しているが、介助なしには外出しない

1.介助により外出し、日中はほとんどベッドから離れて生活する
2.外出の頻度が少なく、日中も寝たり起きたりの生活をしている

寝たきり

 

ランク

屋内での生活は何らかの介助を要し、日中もベッド上での生活が主体であるが、座位を保つ

1.車いすに移乗し、食事、排泄はベッドから離れて行う
2.介助により車いすに移乗する

ランク

1日中ベッド上で過ごし、排泄、食事、着替において介助を要する

1.自力で寝返りをうつ
2.自力では寝返りもうたない

(平成3年11月18日 老健第102−2号 厚生省大臣官房老人保健福祉部長通知 )

人間関係
 認知症の状態や介護には人間関係が影響します。認知症の人と直接介護している人との人間関係が、認知症になる以前から好ましい関係にあれば認知症の人はその関係になかで生活を送り精神的にも安定しやすいが、人間関係が悪いと、介護者に依存的になったり拒否的になったりして精神的に不安定な状態に置かれやすい。この認知症の人と介護者との人間関係を理性的、情緒的、倫理的、法的、経済的、文化的、宗教的など分けてみることもできます。




「盗まれた」
認知症の人のなかで「通帳が盗まれた」「現金を入れたバックが盗まれた」と言ことがあります。
書状
「しまっていた通帳がない」ことを繰り返しているうちに「嫁が盗んだ」「隣の人が盗んだ」と言うまでになることがありうます。「そんなことはない」と説得しても効果がないことが多く、見つかっても「誰かが返したのだ」と自分の物忘れや非を認めようとしません。介護者や時には孫まで非難が及ぶことがあります。さらに助けを求めて、交番に行くこともあります。
背景
認知症の人で大切な物の置き場所を忘れることがあります。大切なものですから心配でたまりません。自分が置き場所を忘れたとは思いつつ、他人が悪い、泥棒が居るとみたくなるようです。その結果「盗まれた」というようです。認知症でなく妄想症の人でも同様の言動がありますが、この場合は認知機能の低下はなく、被害妄想的な発想によると思われます。
対応
明らかに間違っていると思っても「そうですか」と聞くことです。説得は避けた方がよい。その後「そうは思いませんが、探してみましょう」と言ってみまる。見つかっても「よかった」の一言でよいでしょう。説得や非難はしない方がよい。とはいっても、毎日世話をしている介護者が「おまえが盗んだ」と言われるととても辛く、このような対応ができるものではないかもしれません。




ねたきり様状態
以前「ねたきり老人」という用語がよく使われましたが、最近はあまり使われません。しかし重度の認知症の人のなかには、常時臥床あるいは臥床する時間が長い人がいます。座位で過ごすこともできないことはないのですが、認知症の人には苦痛を伴うこともあり臥床の方が楽なことがあります。こうした状態を「ねたきり様状態」とよんでもよいでしょう。もっとも、介護がしやすいからと車椅子やソファーに座れるのに、ねかせている場合もあります。ねたきり様あるいはねかせきり状態は、精神活動の低下、食欲低下、便秘、褥創、四肢関節の拘縮などを招きやすいので、出来るだけ避けることが好ましのですが、認知症の人に負担になれば臥床でも、四肢関節の拘縮を避けたりする工夫をしなければなりません。


ネットワーク
地域で認知症の人と家族を支える支援を輪あるいは網の目のことです。本人と家族を中心に医師、看護師、介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員(ケアマネジャー)、はボランティアなどの人の輪と訪問診療、訪問看護、訪問介護、デイサービスなどのサービスの輪がそれぞれの専門性を生かしながら地域で連携をもった支援のネットワークはとても重要です。このネットワークにはそれをまとめる役―コーディネータ―は欠かせませんが、介護支援専門員がなることが多くなってようです。(右図はネットワークと一例)




脳血管障害 
脳血管系疾患
脳血管は脳に酸素や栄養を送る血管のことで、心臓から枝分かれした総頸動脈は,さらに分かれた内頸動脈が頭蓋内に入り3つの血管(前大脳動脈,中大脳動脈,後大脳動脈)となります。これとは別のルートで,脳へは椎骨動脈からも血液が送られ,これらの血管は脳底動脈でつながっています。脳動脈は脳の細胞に酸素や栄養を渡した後,脳静脈へとつながり血液は心臓に戻ります。脳はその重量のわりに多くの血液が流れ,多くの酸素と栄養が送られています。脳は人間の身体で最も発達し最も重要な臓器です。脳細胞は大きく分けて神経細胞とそれを取り巻き神経細胞の機能を支えるグリア細胞(または神経膠細胞)がありますが,神経細胞は1分間酸素が遮断されると死滅するといわれています。
日本人では脳の血管のうち比較的細い血管の動脈硬化などにより脳血管障害が起こりますが,脳血管障害は,血管が詰まる脳梗塞,破れる脳出血,及び先天的にある動脈瘤の破裂によるくも膜下出血の3つの疾患を総称したものです。
脳血管障害は日本人の65歳以上の高齢者の死因で第3位(2009年)を占めているだけでなく,高齢者の運動障害や認知症などの精神障害の原因の多くを占め,高齢者が介護を受けるようになる主な原因疾患でもあります。
このため脳血管障害は,予防,早期発見,早期治療,早期リハビリテーション,再発予防という,一貫して継続した医療が欠かせません。
○脳梗塞
脳の動脈が詰まることでそれより抹消の脳細胞が酸素低下あるいは無酸素状態になり脳細胞が死滅あるいは死滅に近い状態になります。脳梗塞は次の二つの原因で起こります。
血栓性脳梗塞:動脈硬化に伴い動脈が狭くなり血流を著しく低下あるいは止まる状態よる脳梗塞。
塞栓性脳梗塞:心臓や頸動脈の内壁でできた血栓がそれより抹消にある脳の動脈にとび動脈の詰まらせる状態の脳梗塞
また脳梗塞は次のような起こり方があります。
ラクナ梗塞:細い脳の動脈が詰まった状態の梗塞を意味で、高齢者の脳梗塞に少なくありません。
多発性脳梗塞:通常、細い脳動脈が複数個所で梗塞を起こしますが、一度に起こすのではなく、繰り返して起こすのですが、最初は症状がなく(無症候性脳梗塞)、そのうち症状が現れるようになります。高齢者の脳血管性認知症はこのタイプがあり、徐々にゆっくり認知症が現れ増悪するので、アルツハイマー病と見間違うことがありますが、MRIなどの検査が判別することは不可能ではありません。
一過性脳虚血発作:一時的の脳梗塞を起こしそれに伴う症状―意識低下、片麻痺など―があるが、通常、24時間以内に完全に症状がなくなる脳梗塞です。
症状
脳梗塞の脳動脈の部位によって症状はまちまちで、太い脳血管が詰まると速やかに死亡することもあり、細い血管が詰まると症状がないこともあります。通常は次のような症状が現れ、これに認知症が伴うことがあります。また当初、軽度の運動麻痺だけだったのが時間とともに麻痺が強くなり意識低下をきたすと言った増悪することもあり、意識低下している状態であったが意識がはっきりし、軽い運動麻痺だけが残るという経過をたどることもあります。
運動麻痺:右か左の一方の上下肢あるいは上肢だけ下肢だけの運動機能が低下する
感覚麻痺:通常、右か左の一方の上下肢あるいは上肢だけ下肢だけの感覚機能の低下。運動麻痺を伴うこともある。
発語障害:通常は発語に関連した咽頭部や喉頭部の運動障害に伴うもので、発語が不明瞭になる状態。右ききの人で右片運動麻痺があると伴うやすい
視力障害:視野の右半分あるいは左半分が見えないことがある
歩行障害:運動麻痺がなくても並行機能の障害の伴って、歩きにくい、転倒しやすいことがある、
意識障害:通常、太い脳動脈の梗塞で広範囲な脳細胞の死滅により長期にわたる意識消失が起こり、遷延性意識障害[1]になることもあるが、軽度の意識障害があるがその後、清明になることもある
認知機能障害:記憶、判断、理解などの障害が現れ認知症になることもあるが、認知症が続くこともあれば、認知症を認めなくなることもある。また脳梗塞を繰り返すなかで段階的に認知機能が低下し、さらに認知症になることも稀ではありません。
その他の症状:失語、失認、失行などの症状が現れることもある
検査
脳梗塞の診断は、神経学的診察とCTやMRIの画像検査で行います。
神経学的診察:意識レベル、四肢の運動機能や感覚機能、膝蓋腱反射、バビンスキー反射[2]など病的反射などの有無と程度を観察する、古典的ではあるが不可欠な診察です。 
画像検査:通常は簡便なCTを行い、その後MRIを追加して脳梗塞の部位や広がり具合を見ます。脳梗塞早期には変化が乏しいことがあります。またCTの画像検査では脳動脈を3次元画像として観察でき、梗塞を起こしている血管の部位が特定できることもあります。
発症時からの経過,治療中の疾患,これまでの疾患を意識が清明であれば本人から,しかし多くは家族や介護している人たらから聞きます。次に,意識レベル,瞳孔の光に対する反応,四肢の反射などの診察を行います。また,最も重要な検査として,頭部単純CTをできるだけ早く行います。ただし梗塞が小さいか,発症早期(6時間以内)には,CT上の変化を認めにくいことがあります。また,高齢者では古い脳梗塞と新しいものとを区別しなければならないこともあります。必要があれば,MRIも行います。全身状態を把握しておくため,血液検査,胸部レントゲン撮影,心電図検査も基本的に行います。
治療
脳梗塞と治療とは発症直後からの急性期治療と症状が安定する時期からのリハビリテーションとがあります。
急性期治療
「血栓溶解療法」が最も基本的な治療です。とくに発症3時間以内に行うアルテプラーゼ(rt-PA)を静脈内に注射する方法がもっとも有効な治療法です。しかし、脳出血など特に高齢者では起こしやすいので、脳血管障害の急性期治療を専門とする医療機関で受けるようにします。適切にこの療法がおこなわれると、運動麻痺などが完全に治ることも稀ではありません。その他の血栓溶解剤、血液を固まりにくくする抗凝固剤、脳保護剤などの投与も試みられます。
リハビリテーション
急性期治療が終了してからではなく、症状が安定してくると、速やかにリハビリテーションが開始されます。運動麻痺を起こした四肢を理学療法士らが他動的に動かすことで筋肉委縮を防ぎます。さらに症状が安定すると理学療法士による座位保持、起立、歩行なだの理学療法、作業療法士による指を使う、箸を使うなどの作業療法、言語障害があると言語聴覚士による言語療法がおこなわれます。運動機能などが安定してもさらに長期にわたる維持的リハビリテーションも行われます。
予防
脳梗塞になりやすい危険因子―高血圧、高脂血症、糖尿病、心房細動など―の管理、治療がもっとも重要な予防方法です。このためには健診などを受けて、こうした危険因子の有無を知らなければなりません。危険因子があると、疾患の程度により、食事、運動などの日常生活での予防、さらに降圧剤などの薬の服用を行い、定期的に診察、検査を受けて適切に管理、治療されているかチェックします。こうした危険因子に対して十分な予防を試みても脳梗塞の発症を完全に防げるものではありません。このため手のしびれ、不明瞭bなことば、ふたつきなど脳梗塞を疑わせる症状があると、速やかに受診し早期の治療を受けることで治癒あるいは後遺症の軽度化につなげることができます。脳梗塞で重要なことが再発の予防です。このため危険因子の管理、治療とともに、少量のアスピリンなどの服用が再発予防を目的として行われます。もっとも脳梗塞による認知症の予防につながるとの根拠はありませんが、試みる価値はあるでしょう。また水分を十分摂ることが脳梗塞の予防につながることも銘記しておきたいことです。
○脳出血
脳出血は広義に頭蓋骨内での出血―頭蓋内出血―ですが、狭義にはくも膜下出血や硬膜下出血と区別し脳内出血のことをいいます。脳出血は、出血部位や出血量によって症状や予後はまちまちです。大量の出血があると即死状態あるいは遷延性意識障害なることもあれば、少量の出血で部位によっては症状がないこともあります。脳出血は脳梗塞以上に生死にかかわる半面、脳動脈が詰まるわけでではなく脳細胞への損傷が軽く済むことともあります。また危険因子は脳梗塞とおなじですが、とくに高血圧は最も重要な危険因子です。
症状
脳出血は脳梗塞による症状と似ているものも少なくありません。出血の部位や量により即死状態から症状がないこともあります。また脳出血による認知機能の低下や認知症が現れることもあります。
検査
脳出血の診断も、脳梗塞と同じように神経学的診察とCTやMRIの画像検査で行います。脳梗塞と異なり画像検査はCTでも発症初期から出血像を確認でき診断は容易です。
治療
脳出血の治療は脳梗塞とは異なり、血圧の上昇があれば降圧剤の点滴投与で適度に下げます。さらに脳圧が亢進していると脳ヘルニアにやる致命的状態が避けるため緊急に頭蓋骨の一部が除去して脳圧を下げる手術―開頭術―を行います。リハビリテーションについては脳梗塞と基本的に同じです。
予防
脳出血になりやすい危険因子は基本的に脳梗塞と同じですが、とりわけ高血圧が原因として重要です。予防も各自の血圧を知り,高血圧があれば、食事や運動など日常生活面で注意し、必要があれば降圧剤を服用します
○くも膜下出血
クモ膜下出血は、脳を直接に覆う軟膜とそれを取り巻くクモ膜とのの空間を「クモ膜下腔」といい脳脊髄液で充満していますが、この部分への出血のことです(図2)。この出血は、脳動脈に先天的にできる袋―動脈瘤―あるいは先天的にできる脳動静脈奇形―動脈から静脈へ直接つながる網状血管―が破裂して起こります。高齢者にも若年者にも起こる脳血管障害のひとつです。
症状
出血の部位や血液量によってさまざまですが、多くの場合、急に起こる激しい嘔吐や頭痛がこの病気の特徴的な症状です。さらに出血量が多量であると、脳内出血の場合と同様で意識消失や、脳ヘルニアを起こして致死的状態になるか生活指導と遷延性意識障害の状態になることも稀ではありません。意識障害が軽く破裂する脳動脈の部位によっては、四肢の運動麻痺、視力障害、眼球運動障害などを起こすころがあります。さらにくも膜下出血は再出血することもあり、発症後1週間から2週間の間に脳動脈の収縮する(血管攣縮(れんしゅく))が起こり、それより末梢の動脈領域に血液の流れが途絶え、より重篤な状態を起こすことも稀ではなく、致死的状態に陥ることもあります。
検査
緊急時に簡単に行える頭部単純CTが最も重要な検査で、これでほぼ診断できます。さらにCTの3次元画像検査を行い動脈瘤の部位や大きさを確認できます。さらに詳しく調べるため脳血管造影を行います。両側の頸動脈から造影剤を注入してレントゲン撮影動脈瘤を確認します。最近はCTによる検査が多くなっていますが,動脈瘤を正確に把握するには脳血管造影は最も適した方法です。
治療
動脈瘤破裂後48時間以内に脳外科的治療として開頭し動脈瘤の柄の部分をクリップで止める手術(クリッピング術),あるいは大腿動脈からカテーテルを入れてその先端を動脈瘤の根元まで送り動脈瘤のなかにプラスチック製のコイルを充満させて出血を止め再出血を予防する方法(血管内コイル塞栓術)があります。最近は,後者が患者への身体的負担が少なく開頭手術による合併症がないので第一選択の方法となりつつあります。
これらは意識障害が軽度で脳圧を下げてから行うと効果的ですが,意識障害が重度では手術を行えません。また,予後が悪く遷延性意識障害になるか死亡することも少なくありません。
動脈瘤の再破裂を予防するため,血圧を低めに維持する必要もあります。四肢のけいれんや脳浮腫に対しての治療も同時に行います。くも膜下出血後の脳動脈の攣縮(れんしゅく)による血管狭窄は,脳を虚血状態にして長期間の意識障害(遷延性意識障害)に陥ることがあり,死亡することもあります。
くも膜下出血が軽度であれば後遺症は通常ないか軽度です。しかしクリッピング術を行った場合の手術による後遺症,脳浮腫や脳血管の攣縮の後遺症に伴う運動障害や認知症があらわれることがあり,作業学療法や作業療法などのリハビリテーションを行います。
予防
脳動脈瘤の発症を予測することは難しいですが,「脳ドック」が普及するなかで,被験者に負担をかけないで症状のない破裂してない脳動脈瘤が見つけることが可能になっています。発見された動脈瘤の破裂を予防のための手術については統一した基準はありません。高齢者では,余命や手術による合併症を考慮すると積極的な予防目的の手術が行われることはありません。

脳血管性認知症
脳血管性認知症は脳梗塞、脳出血、くも膜下出血の脳血管障害による認知症。DSM-W(DSM
-Wでは脳血管性認知症とはいわず血管性認知症という)では認知症の状態にくわえ「局在性神経徴候や症状または臨床検査の証拠が認知症に病因的関連を有すると判断される脳血管性疾患を示す」を条件としています。
わが国では脳血管性認知症はアルツハイマー型認知症が多いとされてきましたが、最近の調査ではアルツハイマー病より頻度が少なくなっています。脳血管性認知症の診断は容易なようで注意しなければならないことがあります。脳梗塞がそれによる片麻痺がある、さらに認知症があれば脳血管性認知症と診断してよいわけではありません。認知症の原因は脳梗塞ではなくアルツハイマー病かもしれないからです。このため脳血管障害の経過と認知症の経過とから判断しなければなりません。もっとも後期高齢者に多い多発性脳梗塞では発症時期のはっきりせず経過も緩慢なこともあり、アルツハイマー病との判別が難しいことがあります。脳血管性認知症は、脳梗塞などで発症するわけですが当初から認知症を発症することは少なく再発を繰り返すなかで認知症が次第に現れることが多い。したがって脳血管性認知症は、その危険因子―高血圧、糖尿病、高脂血症、心房細動など―を管理すれば予防も進行防止も可能な認知症です。また少量アスピリンを服用することで脳血管性認知症の悪化を防ぐとする説もあります。

脳循環代謝改善剤 
脳血管障害による脳の神経細胞の代謝低下や脳循環障害による心身の症状を改善するものとしてわが国でのみ広く使用されていました。ホパテに始まるこの種の薬は、その効果が国際的に認められた薬ではなく、効果は曖昧で認知症に効果があるとは書かれていないにもかかわらず、診療上、脳血管性認知症に広く使われていました。当時は他に代わる薬がなく、医療保険の処方で医療機関の収入につながり、しかも副作用が比較的少ないなどの背景から、適応が拡大解釈され汎用、乱用された経過があります。これに対してその薬剤費が無視できないほど高騰したことなどかあら、厚生省は「薬理学的に有効であるが、医療的な有用性は認められない」との理由で保険診療の薬剤からほとんど削除され、次の薬が残っているのが現状です(2010年8月現在)。適応は脳血管障害による意欲低下、運動機能低下などとされていますが、これらの薬も保険薬から末梢されることでしょう。
アマンタジン(商品名:シンメトレル)/イフェンプロジル(商品名:セロクラール)/イブジラスト (商品名: ケタス)/ニセルゴリン(商品名:サアミオン)/チアプリド(商品名:グラマリール )

脳腫瘍
脳腫瘍には良性と悪性がありますが、脳内で生じる腫瘍で認知機能も含め脳の機能に影響を与えます。また認知症の原因となった腫瘍を早期に発見し治療することで認知症が治ることもあります。
○症状 
脳腫瘍の症状はその腫瘍がある部位による症状と容積が限られている頭蓋内に増大する腫瘍があることによる症状―脳圧亢進症状―とがあります。
局所症状:四肢の運動麻痺、眼球運動麻痺、視力障害、失認、失語、認知機能の低下、認知症など
脳圧亢進症状:嘔気、嘔吐、頭痛など
○原因 
良性腫瘍
脳内に原発する脳腫瘍は腫瘍としては良性でも容積が限られている頭蓋内にできること、あるいは脳神経[1]を圧迫するなど重篤な症状を示すことがあり、早期発見、早期治療が必要である。高齢者も最も多い良性の脳腫瘍は髄膜にできる髄膜腫です。
悪性腫瘍
高齢者では多くの場合肺がん、乳がんなどが脳に転移した転移性悪性腫瘍が多い。多くの場合、根本的治療は困難であです。
○検査
症状および頭部CTやMRIによって診断は困難ではありません。
○治療
良性脳腫瘍の場合、脳外科的に摘出します。悪性の場合は、放射線療法や抗ガン剤による化学療法を行いますが、高齢者の意思や生活の質を考慮して治療方法を決めます。
なお悪性脳腫瘍への放射線療法の副作用として記憶障害、認知症が現れることがあります。




排尿障害
尿の排泄には、大脳の中枢神経から尿道の括約筋にいたるさまざまな神経や筋肉が目的にかなって共同的に働いています。このどこかの部分の神経や筋肉がが障害されると排尿障害が起こります。脳血管障害では排泄の司る中枢神経が障害されて起こる場合(失禁)、アルツハイマー病での認知機能の低下による場合(失禁)、脊椎の骨折に伴う脊髄損傷による場合(膀胱に多量の尿の貯留)、骨盤内手術時の神経損傷による場合(随意排尿困難)、膀胱炎による場合(頻尿)、膀胱括約筋の筋力低下による場合(失禁)、薬による排尿障害(尿閉)などがあります。排尿障害は、全く尿がでない尿閉、膀胱の多量の尿がたまって始めて起こる排尿(溢尿)、意思に関係なく排尿する失禁などの形あります。
認知症の場合は失禁のことが多いが、わかりやすいトイレの場所、使いやすい便器、トイレの近くで寝起きする、定期的なトイレ誘導、安心パンツなど症状や程度に応じて多面的な工夫が必要です。さらに男性では前立腺肥大による尿閉、女性では神経性膀胱による頻尿が加わることが多いので、薬や手術による治療を試みます。

パーキンソン病
パーキンソン病は,中枢神経のなかの脳幹部の黒質のドーパミンという神経伝達物質が減少するために起こる進行性の疾患です。手が震える振戦と筋肉の動きが硬くなる筋固縮が主な症状ですが、その他多様な症状があります。パーキンソン病とよく似た症状を示す脳血管障害,脳腫瘍,抗精神病薬などの薬物などによる状態をパーキンソン症候群あるいはパーキンソニズムと呼び,パーキンソン病とは区別します。パーキンソン病は,加齢が関与し高齢者に多く,長期にわたり徐々に進行しますが,抗パーキンソン剤で症状がかなり改善し進行を遅らせることができる疾患です。パーキンソン病がかなり進行した時期に認知症が現れることがあります。
○症状
パーキンソン病の症状は多彩で,進行に伴い変化し運動障害が進行し最終的に「ねたきり様状態」になり,認知症を示すことも少なくありません。
振戦:安静時にも手が震え,箸を持つなど行動すると震えが強くなる
筋固縮:四肢の筋肉が硬くなる
行動緩慢:行動が緩慢になる
小幅歩行:小幅で不安定な歩行
突出姿勢:止ろうとしてもすぐには止まれない
姿勢障害:立ち上がろうとすると正しい姿勢がとれない前屈の姿勢
仮面様表情:表情が硬く無表情になる
構音障害:声が小さく発語不明瞭となる
書字障害:書くと震える,小さい字になる
自律神経障害:便秘や排尿障害など
その他:不眠,うつ状態、認知症など
検査
パーキンソン病に特別な検査はありません。主に症状や神経学的所見から診断します。症状が似た他の中枢性の神経系疾患やパーキンソン症候群との区別のため,頭部単純CTや血液検査をします。また高齢者では服薬している薬物について必ず調べます。抗精神病薬が同じような症状を起こすことが多いからです。
治療
減少したドーパミンを補う薬など作用の異なる多種類の抗パーキンソン剤が症状や進行度に合わせて使われます。効果は、に劇的に症状を改善し,安定した歩行ができるようになることもあります。しかしパーキンソン病は基本的に進行性の神経疾患であり,次第に薬が効かなくなります。なお,抗パーキンソン剤を服用すると,副作用として壁に虫がはっているなどの幻視が生じやすくなります。

ハンチントン病
脳内の線条体と呼ばれる部分にある細胞が失われることによって中年期に起こる進行性で遺伝性の神経疾患です。1800年代後半にアメリカのハンチントン医師が報告したので名前がついています。「ハンチントン舞踏病」と言われていましたが、舞踏様の症状が共通するものではないのでハンチントン病と呼ぶようになりました。意思のとおりに動けないこと(舞踏様など不随意運動)、不安定な感情、そして認知症が主な症状です

徘徊
徘徊は認知症の人のBPSDとして対応が困難なことが多くまた生命に危険にさらされる重大な状態です。三宅は「徘徊は目的があるかあるいはないと思われる不適切な移動行動」と定義しています。要因として、通いなれた通路の様子がかわる、家に居ずらい雰囲気、昔に生きて「幻の家」に帰るという思い、あるいは入院、入所による環境の変化などがあります。認知症の人によかけるのが「家に帰る」という徘徊です。
○症状
認知症の人のなかには、長く住み慣れた家にいても「家に帰る」と言い張ることがあります。夕方に「お世話になりました.家に帰らせていただきます」とときに他人行儀な丁寧な言い方ですでに存在しない自分が生まれた家に帰ろうとするのです。外出して道に迷うこともあり危険です。
○背景
認知症の人が病院や介護施設に居て「家に帰る」というのは、抽象的判断が障害されているためと理解しやすいのですが、自分の家居て、なにか雰囲気が違い居心地が悪くて「家に帰る」と言うようです。これは認知症の人にみられる「昔に生きている」という精神状態から、理解できると思われます。80歳の認知症高齢者が過去30年の記憶がなくなるか曖昧になると記憶の確かな50歳の昔に生きることになります。生きている過去と現実とが合わなくなり幻の家に帰ろうとするのです。
○対応
「家に帰る」と言われると家族は驚きますが、認知症の人に説得を試みてよいがあまり効果がないかもしれません。簡単ではないかもしれませんが、できるだけ居心地がよい雰囲気作りや気を紛らわせるようなことを試みます。こうしても「家に帰る」と言ったらそれを受け入れるしかないでしょう。外出してもらい,家族は後をついて歩いてみます。認知症の人が歩き疲れた頃を見計らって「今夜は遅いから私の家に泊まりませんか」と  
て「家に帰りましょう」あるいは「私の家に泊まりませんか」と話しかけてみましょう。同じことを毎日繰り返すかもしれません。
こうしたことが繰り返されれば、ポケットに連絡先の電話番号の書いた紙を入れる、靴の側面に電話番号を書く、あるいは地元の警察に届ける、さらに地域に徘徊高齢者早期発見ネットワークがあれば登録するなどしておきます。

徘徊高齢者早期発見システム 
1990年代前半に北海道釧路地区で凍死した認知症高齢者の事例があり、地域住民の要請に応えて導入されたのが始まりです。その後、全国各地の警察署管内で普及した地域のシステムとなり「SOS早期発見ネットワーク」などとも呼ばれていました。昨今は、市区町村が中心となり、警察署、社会福祉協議会、保健所、消防署、バスやタクシーの交通機関、ガソリンスタンド、コンビニエンスストアなど地域の諸団体や企業が加盟・連携して徘徊する認知症の人を早期に発見し保護し生命を守ろうとする取り組みです。システムのある地域に住む介護家族が徘徊時またはそのおそれがあると市区町村に届けておくことよって、徘徊で行方不明になった時システムに参加する団体などに事例がファックスや携帯メールで連絡され早期発見につなげます。このシステムを導入することで徘徊する認知症の人が早期に発見される事例があるだけでなく、認知症の人と家族のかかえる問題について地域的の認識が拡がるといった効果もあげています。なおシステムのない地域ではもっぱら警察署が徘徊する認知症の人に対応しています。警察庁の報告によると、2013年に全国の警察署が受理したアルツハイマー病など認知症によると思われる行方不明者の人数は約1万300人で、そのほとんどが発見・保護されていますが、死亡で発見された人は359人です。こうしたシステムは市区町村の地域を対象となっており、認知症の人が地域外に出た時の対応が難しい。実際、認知症の人は電車で遠方に行ってしまうことがあり、全国規模の早期発見システムの構築が待たれます。
なおアメリカでは、アルツハイマー病協会がSafe Return(安全帰宅)という全国的な早期発見早期保護のサービスを提供しています。低料金の登録料でペンダントやブレスレットが渡され、全国どこにいても24時間体制で連絡を受け付けています。

長谷川式簡易知能評価スケール
わが国で認知症の判別に最も汎用されている知的機能を判定する心理テストです。1974年に長谷川和夫(認知症高齢者介護研究研修東京センター長)が開発・発表し、その後1991年に改訂版(略称:HDSーR)が発表されました。9の質問項目で20点以下を認知症と判断する比較的簡単で多くの人に短時間で行える利点があります。また経過を追って認知症の状態の変化を把握することに利用することもできます。なおテストを行う時は被験者にできるだけ目的を説明しておく必要があり、説明できない時でも慎重に行うことです。その理由は、テストであるために認知症の人が試されているという印象を与え、テストを拒否したり非協力的になることがあるからです。また質問項目があまりに簡単であるために正解できる場合もできない場合も被験者の感情を害しやすいからです。こうしたテストの問題点を知りながら注意を払って慎重に行いたいものです。このテストの点数だけで認知症の判定は避けるべきで診断を補助する資料であり、診断は臨床的に行われるものです。このテストは簡便で正解率が約90%と言われ優れたものですが、後から開発発表されたよく似たミニメンタルステート検査(MMSE)が世界的に広く使われていることなどから、日本でも医療分野ではHDS−Rは使われことが少なくなりつつあり、専ら介護保険の関係で使われています。

パーソン・センタード・ケア
パーソンセンタードケア
パーソンセンタードケア(またはパーソン・センタード・ケア)は英語のPerson-centered Careの音訳語で、「その人中心のケア」という意味で、近年、主に認知症の人のケアの基本として重視されています。このケアはイギリスの心理学者が提唱したもので、認知症の人が認知症という障害をもちながら一個の人間と生きていることとその価値を認め、その人が生きている世界を受けいれながら、その人の思いや望ましいことを理解し、生活環境を整備しながらふさわしい個別的なケアを行おうとするものです。認知症の人がケアの主人公であり、具体的には以下のような方針にそったケアがパーソンセンタードケアといいます。
認知症の人をよく知る
尊敬の念を持ち、認知症で劣った人としてみなさない
認知症の人の思いにそって対応する
できないことでなく、できることに注目する
介護者の思いや考え方を強制しない
障害のあったコミュニケーションを試みる
介護する人―介護される人の関係ではなく協働的なパートナー関係を創る
その人にとって有意義な意味ある日常生活を送る
興味のない活動に参加を強制しない
失敗しても受け止め、補い、責めない
BPSDはそれなりに意味があり、原因や背景を理解し抑えるだけの対応は避ける
パーソンセンタードケア研究会

バリデーション
認知症の人が間違った行動、理解しがたい言動でもそれを受け容れながら、その背景を理解するように試みながら接します。認知症の人の一見理解できないような言動にはそれなりの意味や背景があり、それを受容し理解する対応によって認知症の人の精神的安定につながります。英語Validationの音訳語で、「確証」「妥当性確認」という意味があります。具体的には以下のような試みをします。
センタリング(精神の統一、集中)
事実に基づいた言葉を使う
リフレージング(本人の言うことを繰り返す)
極端な表現を使う(最悪、最善の状態を想像させる)
反対のことを想像する
レミニシング(思い出話をする)
真心をこめたアイコンタクトを保つ
曖昧な表現を使う
はっきりとした低い、優しい声で話す
ミラーリング(相手の動きや感情に合わせる)
満たされていない人間的欲求と行動を結びつける
好きな感覚を用いる
タッチング(ふれる)
音楽を使う 
公認日本バリデーション協会




ピック病
前頭側頭型認知症

ビンスワンガー病
ビンスワンガー型白質脳症ともいうビンスワンガー病は、高血圧や脳の動脈硬化などにより脳の血流障害のため大脳白質(脳表面より深い部分)が広範に障害されることによって認知症が現れることがあります。急性に発症することもあり、徐々に進行することもあります。記憶障害、うつ状態、意欲の低下など精神症状のほかに、神経症状としては、緩慢な動作、小刻み歩行などがみられます。頭部CTでは側脳室の周囲に対称性の広範な低吸収域がみられます。

BPSD
認知症の人の言動を表す用語として、「問題行動」が使われていました。しかし「問題行動」とは誰にとっての問題なのか、立場によって異なり、適切な用語ではないとして使われなくなりつつあります。これに代わるものとして「行動障害」という用語が使われるようになりました。しかし、この「行動障害」も、認知症の人の言動すべてを、とくに幻覚や妄想などの精神症状を言い表してはいないとして「認知症の行動・心理症状」(英語のBehavioral and Psychological Symptoms of Dementiaの訳語で、BPSDと略称される)が、世界的にも日本国内でも、広く使われるようになりました。BPSDは、国際老年精神医学会が1999年の会議で正式に採用した用語で、「認知症の人にみられる、知覚、思考、気分または行動の障害による症状」と定義されていますが、主な症状は表のとおりです。BPSDは認知症の基本的状態である記憶障害を中心として認知機能障害を含めない、この障害に伴って生じる行動と心理の状態のことです。わが国では、認知症の人の原稿言動を表す用語として、「周辺症状」または「随伴症状」があります。BPSDは、これらとほぼ同じ意味の用語として使ってよいでしょう。
BPSDは、認知症の人の自身にとって好ましい状態ではなく、介護を困難にする大きな要因です。BPSDはコントロールすることが不可能ではありません。BPSDを理解することがより好ましいと介護につながり、認知症の人本人にとってもよりよい状態に変えることが不可能でないのです。
BPSDの要因
BPSDの状態は、認知症の原因疾患のアルツハイマー病や脳血管障害による認知機能の状態にもよりますが、認知症の人の身体要因、心理要因、環境要因によっても左右されます。
身体要因
身体要因として、発熱、脱水、貧血、甲状腺機能低下、聴力や視力の低下などがありあます。たとえば、下痢がつづき十分な水分が摂れなくて脱水状態になると認知機能が低下し混乱が生じやすくなります。あるいは高齢者に聴力や視力の低下が多いが、適切に情報を得ることが難しくなり、錯覚、幻覚、妄想が生じることもあります。BPSDを認めたとき、こうした身体要因があるかどうかについての評価は不可欠です。身体疾患に治療として使われている薬が要因のこともあります。
精神要因
認知症の人の性格もBPSDに関係します。発病前の性格が認知症になって変化することがあります。認知機能の低下により性格の発現をコントロールすることが難しくなり、几帳面な性格の人はますます几帳面になり些細なこことにこだわることで介護が困難になることもあります。猜疑心の強い性格の人が認知症になってますます人を疑うことが嵩じて被害妄想的になることがあります。また、認知症になるまえから不安神経症などの精神障害があると、これも認知症の人のBPSDに影響します。紹介した事例はこれに該当すると考えます。
精神要因として無視できないのが認知症の人が服用する薬の影響です。抗精神病薬、抗不安剤、睡眠導入剤などの向精神薬がBPSDを生じさせることは稀ではありません。アルツハイマー病のわが国唯一の薬であるアリセプトで興奮、焦燥といった症状を生むことがあります。BPSDの要因として疑わしい薬は止めてみることです。
環境要因
環境要因は人的要因と物的要因とに分けることができます。
人的要因とは、認知症の人を直接に介護している人のことです。この介護者が、認知症について正しく理解し、認知症の人という人をよく知り、よりよい人間関係になかで、認知症の人に相応しい介護ができることは認知症の人の精神的安定につながり、BPSDが少なくなるでしょう。認知症の人は介護してくれる人が自ら選ぶことができないので、介護者自身あるいは周囲の人が、人的要因によってBPSDが生じているかどうかの判断することが必要なことがあります。介護施設では担当の介護者を代えることはできても、在宅では不可能なことが多く、介護家族に認知症の理解を深めてもらい、余裕のある介護ができるようにデイサービスやショートステイの利用を勧めるのもよいでしょう。
物的要因とは、認知症の人が生活する居住環境のことで、グループホームなどは認知症の人が心和める居住環境でBPSDを少なくすることにつながります。しかし、事例のように田舎から都会のマンションに住むとか、肺炎のため入病することによる居住環境の変化によりBPSDが生じやすくなります。このように居住環境の変化自体でBPSDが生じるのはなく、適切な環境から不適切な環境への変化によりBPSDが生じることが多いのです。環境の変化が一概に好ましくないのではなく、「よい環境」から「悪い環境」に変化することがBPSDを生じさせる可能性が高いのです。

BPSDの主な症状
行動症状
活動的障害(焦燥、不穏、多動、徘徊など)、言語的・身体的攻撃性、食欲・摂食障害、睡眠・覚醒障害
心理症状
感情障害(不安、易刺激性、抑うつ、情緒不安定など)、無関心、妄想と誤認、幻覚

PEAP
Professional Environmental Assessment Protocol(専門的環境支援指針)の略語。アメリカの建築家ワイズマンらが開発されました施設で生活する認知症の人に望ましい環境についての指針です。この日本版では、施設環境を8つの次元に分けて、各次元について34の項目、さらに小項目が示されて具体的な環境設定の方法が示されています。なおPEAPの考え方として、施設における物理的環境は単独では存在せず、ケアやプログラム、入居者の機能などの脈の中で理解、評価されるべきとしています。
PEAP日本版3:認知症高齢者への環境支援のための指針(pdf300K)

皮質基底核変性症大脳皮質基底核変性症

非薬物療法認知症非薬物療法




副次症状 
認知症の人の記憶障害など中核症状に対して、不穏、徘徊、うつ状態などを副次症状と言います。ただし、周辺症状、随伴症状あるいはBPSDが主に使われ、副次症状という用語が使われる頻度は少ないようです。

不眠症
不眠に悩む高齢者は多い。加齢に伴い一般的に睡眠時間が短くなるという睡眠サイクルの変化に加え,睡眠を妨げる関節痛や頻尿など身体疾患などによる不眠も多いです。不眠はこのように複合的な要因による状態であり,主観的な症状でもあります。4時間程度睡眠を取れば満足する高齢者もいれば,8時間眠っていても不眠を訴える高齢者も居ます。
○不眠症の型
不眠症はその状態によって4つの型に分けることができます。
入眠困難型
床について眠ろうとおもってもなかなか寝つけない。 
浅い睡眠型
睡眠時間としては長いが,何度も覚醒する。早く寝つけるが夜間何度も目が醒めて,しばらくするとまた眠ってしまう。熟睡感が得にくい。
○早期覚醒型
入眠しやすく夜間もよく眠っているが早く目覚めてしまう。外が明るくなるのが遅い冬季に不眠の訴えが強くなる。
○熟睡不全感型
よく眠っているはずだが,本人の熟睡感が得られない。
 実際の不眠症はこれら4つの型が混在したものであり,どれが主たる状態かで不眠症の治療は異なります。
○要因
不眠症は,身体要因と精神要因と生活環境要因が混在して起こります。
身体要因としては,夜間の頻尿,呼吸困難,咳,疼痛,かゆみなどの身体疾患や状態があり,これらのために眠れないことが高齢者には少なくないので,これらの症状に対する治療は不眠症の治療には欠かせません。
精神要因としては,認知症,うつ状態,幻覚妄想状態などの精神疾患からの不安,混乱,緊張,幻覚,妄想などがあり,これらによっても不眠が助長されます。
生活環境要因としては,身体を動かす機会が少ないような昼間の過ごし方,不適切な枕やベッドなどの寝具,明るすぎる照明,騒音,狭い住居などを挙げることができます。
○治療
不眠症には睡眠剤を服用すればよいというものではありません。不眠症の型とその要因について把握し,総合的な対応のなかで睡眠剤の使用を位置付けます。
まず,不眠症の原因になり得る身体疾患があれば,その治療を行います。これだけで不眠症が治ることも多いです。特に女性高齢者では夜間頻尿による不眠症が多く,頻尿がなくなれば不眠も治まります。また,精神疾患が不眠の原因となっている高齢者には,精神要因としてのうつ状態や不安神経症などの治療を行います。抗うつ剤や抗不安剤の服用で不眠症が改善するでしょう。不眠症に環境が関与している高齢者は,昼間の過ごし方,寝具,部屋など,日常生活や住居環境などについて原因と思われるものがあれば改善を試みます。生活環境要因の改善は不眠症の治療に重要です。昼間できるだけ身体を動かし適度に疲労させ,昼寝は避けます。夕食後は入浴してさらに疲労感を増し,少量の寝酒も場合によってはよいです。床について眠ろうと努力してもかえって眠りにくいので,眠気を催してから床に入るようにします。その際,冬季は寝具が冷たいと眠りにくいので少し温めておくのも有効です。
睡眠剤による治療は,身体面,精神面,生活環境面の改善を試みても不眠症が続く場合に服用します。現在の睡眠剤はほとんどが睡眠導入剤で自然な睡眠に導くもので,朝まで効いているわけではありません。したがって朝目を覚ました時に脱力感が少なく,高齢者には転倒につながらないので,服用しても構いません。
睡眠剤はその効果時間が多種多様ですが,不眠症の型によって使い分け,また服用の方法を工夫します。睡眠剤を服用し始めたらやめられなくなるということはありません。ただし,高齢者によっては睡眠剤がないと眠れないのではという心配から来る精神的な依存が生じることはあります。
睡眠剤の副作用で多いのが脱力感で,睡眠剤が効いている夜間に目が覚め床に立ち上がる時に,転倒し骨折することがあります。特に認知症高齢者では注意が必要です。

不潔な行為
認知症の人が汚れたままの下着をしまったり、便でトイレや寝具を汚したりといった不潔な行為があり、介護に困難は容易ではありません。
背景
こうした不潔な行為は、認知症の人自身も不潔であることがわかっていても、どうしてよいか総合的な判断が障害されているために適切な処理ができないことから起こると思われます。例えば、失禁して下着を汚した場合、それを洗濯物として出せばよいのかわからない、恥ずかしいといった気持ちは残っているので早く押し入れにしまってしまうことになります。また洋式便器では排泄したものがいつまでも便器にとどまっているのは認知症の人には不可解でそれを処理したくなるのですがその方法が間違ってしまい結果的に便器や周囲を汚してしまいます。これも総合的な判断が障害されてはいるが感情は残っているという背景にあると思われます。あるいは自分の大便を紙に包んで持っていることもありますが、これは何が食べれる物と錯覚しているか、失認のためのよる行為と思われます。
対応
こうした不潔な行為はそれなりに理由や背景があるので、単に認知症だから不潔行為をすると短絡的に考えない方がよいし理由を知ることから介護の工夫が生まれてくるはずです。
汚れた下着は早めに変えるのがよいのですが、「汚れたから変えましょう」というのでは認知症の人のプライドを傷つけるかもしれません。「洗った下着があります。履き代えたら気持ちがよいと思いますが」とさりげなく変えてしまうのがよいでしょう。便器を汚すのであれば自動的に洗浄してする機器を便所に設置するのも一つの方法です。

 
不適切なケア
認知症の人は不適切なケアを受けやすいが、不適切なケアの広く認められた定義はありません。虐待や身体拘束を含む認知症の人にとって問題とすべきケアと考えますが、不適切かどうかは主観的な要素も含まれるでしょう。認知症の人と家族の会が1997年に行った調査では介護家族からみて認知症の人の各種のサービスを利用するなかで過去5年の間で約64%の家族が「不適切と思われケア」を経験していることがわかりました。この調査では不適切なケアについては家族の判断にまかせました。
不適切なケアは虐待や身体拘束と重複する部分もありますが、精神面、身体面、施設設備など居住環境面、経済面、医療面、法的な面など幅広くケアを捉えるのがよい。精神面での不適切なケアとは、軽蔑した呼称、介護者の暴言や無視などであり、身体面では、ベッドや車椅子へ抑制、回数の少ない排泄介助、少ないオムツ交換、痛みなど身体的な訴えへの不適切な処置、受診の遅れなどであり、居住面ではプライバシーのない大部屋、居室でのポータブルトイレ、騒音などであり、経済面では本人の望まない買い物、所得に相応しいサービスを受けさせないこと、財産管理の不備などであり、法的な面では認知症の人の人権侵害やその放置などと考えます。
この不適切なケアは在宅でも家族よって行われることもあります。
認知症の人にとって行われていることが適切かどうかの判断基準として「不適切なケア」は適切な用語です。

福祉サービス利用援助事業
「日常生活自立支援事業」の一環で福祉サービスの利用等に関して援助する。対象者は判断能力が不十分な者であり、かつ本事業の契約の内容について判断し得る能力を有していると認められる者です。実施主体は都道府県社会福祉協議会又は指定都市社会福祉協議会です。




ベビーブーマー
英語のBaby boomerのことで、一般的に、1946年から1964年の間に生まれたアメリカ人のことです。2003年で約7600万人、全アメリカ人口の約29%を占めます。日本の団塊の世代にあたるとみてよいでしょう。この世代の多くは、育児と親の介護の二重の負担があり、高齢化しても社会保障が乏しいアメリカで高齢期になった自分の生活を困窮するおそれがある世代として危惧されています。




訪問介護 
介護保険では訪問介護職(ホームヘルパー)の業務です。訪問介護は、介護の内容で身体介護と身辺介護に、介護時間で滞在型と巡回型に分けることができます。訪問介護は在宅介護の要と言えますが、認知症の人を対象とした場合、一人暮らしの認知症の人への訪問介護、家族が居る場合は認知症の人の入浴を家族と一緒にしたり、散歩したりしますが、家族の介護上の苦労話を聞くことも重要と思われます。現在ほとんどの訪問介護員は、介護福祉士か厚生労働省の規定による介護研修を終了した者が従事しています。なお訪問介護は訪問介護員が一人で、しかも一人暮らしの認知症の人を訪問する場合、金銭の不適切な授受や金銭の詐取などの事件が起きており、密室の訪問介護の危険性への対応が欠かせません。ところでホームヘルパーはなかば和製英語です。

訪問看護 
訪問看護は看護師による在宅医療です。訪問看護は、訪問看護ステーションの普及などとともに全国的に広く行われるようになりました。介護保険購入前は医療保険で行われていましたが、介護保険導入後はもっぱら介護保険のサービスとして行われ、必要に応じて医療保険でも行える業務です。ただし訪問看護は医師の指示に基づけて提供されるという制限があります。
訪問看護の対象者として認知症の人も少なくありません。訪問看護は、看護師による観察評価、看護、介護家族への介護指導などですが、生活の場で認知症の人をみながら介護家族の話を聞き相談に応じることもできます。また在宅のターミナルケアでも訪問看護は欠かせません。訪問看護師は認知症や介護家族の心理の理解、介護家族との人間関係も大切となります。さらに訪問診療、訪問介護などとの連携も重要です。
社団法人全国訪問看護事業協会

訪問診療
医師が、患者や家族の了解を得て、医師の計画のもとに定期的に患者宅を訪問し診療する行為です。不定期に緊急または臨時に訪問し診療する往診と分けていますが、これは保険診療上の扱いの違いであって、診療行為の実態はあまり違いはありません。通院が困難な認知症の人への訪問診療は介護家族にとって助かるだけでなく、訪問することで医師は認知症の人と家族の生活の場を知ることができ、介護家族の相談に応じ、介護環境を知ることで家族により具体的に助言などできる利点があります。
医療保険の制度である「在宅療養支援診療所」では24時間体制の在宅診療が行われています。

保健師   
保健師は、地域保健の要となる専門職であり保健所および市区町村に置かれています。幼児から高齢者まで活動対象と幅広く、その一つとして認知症の人があります。外出も容易ではない介護家族にとって保健師の訪問は助かでしょう。また生活の場で介護のありのままを見ながら相談ができます。しかし訪問介護職、訪問看護師による訪問が普及するなかで保健師の訪問や介護相談の役割は相対的に低下していると思われます。また地域包括支援センターでの役割も期待されていますが、保健師が従事することは少ない。
しかし保健師の本来の活動は保健であり病気の予防です。認知症についてもその予防活動を行うことが保健師の役割でしょう。認知症の予防について科学的裏づけが蓄積されつつあるのなかで、それに基づいた地域的な認知症予防活動に取り組むこともその役割となりつつあると思います。

ポジトロン断層法
英語のpositron emission tomographyの略称でPETともよびます。放射性のある糖を含む注射液を静脈内投与し、放出される陽電子を検出して脳などの代謝や血流を断層画像として調べる検査です。アルツハイマー病では脳の代謝が減少しているのでより正確な診断ができます。がんの検査にも広く使われていますが、検査を行っている医療機関は限られています。

包括型地域生活支援プログラム
語源の英語Assertive Community Treatmentの略語 ACTがよく使われます。1970年代のアメリカで公立精神病院の閉鎖に伴い病院のスタッフのチームが退院患者を地域で支援する体制を整えたのが始まりといわれている。我が国では2003年に国立精神・神経センターのある千葉県の地域で日本版ACT(ACT-J)が試みられ、統合失調症などの重い精神障害者を対象とし、精神科医、看護師、作業療法士、カウンセラーなどがチームで24時間365日の対応し、生活訓練、就労支援などを行います。なお認知症についての取り組みは世界的にも我が国でも少ないようです。


                                             


まだら認知症
認知症の人は認知機能が低下していますが、記憶、判断、学習、見当識などの機能が同じように低下するわけではなく、低下の仕方にばらつきがあります。最近の出来事はほとんど覚えていないが、昔のことは鮮明に覚えている認知症の人がいます。食事の食べ方は乱れているが、字はしっかり書くことができる認知症の人がいます。こうしたまだら状の認知症に対しては、しっかした部分―残存機能―に目を向け尊重し、できない部分には理解し支えていく対応が求められます
 
慢性硬膜下血腫
高齢者が転倒したりして頭部を打撲する場合、頭蓋骨の内側にある硬膜の内側に血腫ができることがあります。頭部外傷後ただちに血腫ができる急性硬膜下血腫と頭部外傷後、1週間から1カ月後までに徐々に硬膜下に血腫が増大し、次第に症状が現れる慢性硬膜下血腫があります。
○症状
発症はゆっくりしており,症状の変化や進行に気付きにくいことさえあります。身体症状としては,ふたつき,頭痛,嘔気、嘔吐、四肢の運動麻痺などで,さらに進行すると意識障害が発現します。精神症状としては,集中力の低下,記憶障害,認知機能の低下、認知症などです。
○原因
頭部の強い打撲により硬膜下の静脈が損傷を受け出血し、これが徐々に血腫を形成します。通常、血腫だけで、脳損傷―脳挫傷―を伴いません。
○検査と診断
頭部単純CTで頭蓋骨の内側に三日月型または凸レンズ型の陰影を認めます(写真1)。血腫が大きいと脳を圧迫と脳が一方へ偏位するのを認めることがあります。頭部外傷、症状および画像検査から診断は難しくはありません。
○治療
症状がある慢性硬膜下血腫は脳外科的治療の適応であり,高齢者にも安全な脳外科手術です。症状のない硬膜下血腫については必ずしも手術の必要はありません。手術は頭部の局所麻酔で頭蓋骨に孔を開け,ここから血腫を洗浄して除去する方法をとります。早期に手術が行われると劇的に症状が改善し,認知症もなくなり、リハビリテーションも必要がなく、以前の生活に戻ることができます。




ミニメンタルステート検査
英語のMini Mental State Examination(MMSE)の訳語で、認知症の簡易判定検査として1975年、アメリカンのフォルスタインFolsteinらが開発したものです。30点満点で11の質問からなり、見当識、記憶力、計算力、言語的能力、図形的能力などを調べます。27〜30点:正常値、22〜26点:軽度認知障害の疑い、21点以下:認知症の疑いとします。日本の長谷川が開発した簡易知能評価スケールHDSに似て、これに1年遅くれて発表されたものですが、英文報告されたこともあり、現在世界中で最も広く使われている認知症の判定の簡易心理テストですが、手作業などがあり、HDSの方が優れていると考えます。

三宅式簡易認知症判定テスト 
このテストは「年齢」と「生年月日」の2項目を聞くだけで,おおよそ認知症か否かの判断ができる簡便なテストです。これは高齢者に試されているという印象を与えないで,かつ認知症をおおよそ判断できます。テストの方法は,通常の会話のなかに質問を組み込みます。まず年齢を聞いて,正確に答えられれば,テストは終わりです。年齢が答えられなければ,問い詰めないで、質問を切り替え「ところでお生まれは」と生年月日を聞きます。これも答えられないと問い詰めないで「昭和生まれですか,大正生まれですか」と質問を変え,テストは終わります。例外はありますが、年齢が言えないとほぼ認知症と判断してよい。

認知症 ×
年齢 × ×
生年月日 ×




昔に生きる
認知症高齢者,特にアルツハイマー病の高齢者は発病以降の記憶が失われているだけでなく,発病時から古いことへとさかのぼって記憶が薄れていきます。このため,例えば80歳の高齢者が過去30年の記憶を失う状態になり,その人にとって過去30年はないに等しくなって,30年前すなわち50歳の過去に生きているような状態になります。このため,退職して20年以上になる男性高齢者が朝になると「会社に行く」とか,女性高齢者は夕方に「帰ってくる子どもに夕食の用意をしなければ」と言うことがあります。あるいは鏡に写った自分の姿を見ても,50歳の過去に生きている世界のなかでは,過去に生きる自分の姿と鏡に映った現実の自分の姿とが合わず,他人に対して語りかけるような行為をすることがあります。
 こうした過去の世界に生きている高齢者にどう対応し介護したらよいかは一概にいえませんが,高齢者が生きている過去の世界を受け入れることによって精神的な安定が得られるのであれば,その世界を受容して対応する方がよいのではないかと考えます。「会社に行く」と言えば「そうですか」と返事するか,「そうですか,でも今日は日曜日で会社は休みですよ」と話しかけてみて納得することもあります。

無酸素脳症
低酸素脳症




メマンチン
Memantineと呼ばれアリセプトなどのアセチールコリンエステラーゼ阻害剤とは異なり神経伝達物質のグルタミン酸に関係するNMDA (N-methyl-D-aspartic acid)レセプター阻害剤で、中等度から重度のアルツハイマー病の有効とされる薬剤です。我が国では商品名メマリーとして使用されています。アリセプトと併用するとより有効とする報告もあります。

メマリー
メマンチン




妄想症  
 妄想症(パラノイア、妄想性障害などともいう)は,妄想だけをもって高齢者に多い精神疾患です。妄想の内容は被害妄想が多く,「物が盗まれる」「毒がばらまかれている」などです。高齢者自身は、自分が被害を受けていると被害意識を強く持っており,通常の説明や説得で納得するものではありません。妄想症は,人生のなかで性格的に猜疑心が強い傾向が作られ、それが発展したものと考えられます。妄想症は,一人暮し女性高齢者に目立ちます。女性が男性より長生きし、一人暮らしが多いというだけでは説明つかないものです。この一人暮しについては,猜疑心の強い性格のために、配偶者、子供、兄弟姉妹らから疎まれ、別居、離婚などの結果、一人暮しになることが多いと考えられます。
○症状
「物が盗まれる」「食べ物に毒がまかれている」「家から追い出そうとしている」といった内容の被害妄想がほとんどで,誇大妄想は稀です。また幻聴、幻視などの幻覚を伴うことはあまりありません。妄想の内容は比較的に一定しており長期に及びます。通常の説明や説得には納得して、考えを改めるということはほとんどありません。しかし、高齢者自身も妄想に思い悩まされ、生活が混乱しやすく、周囲の人―信頼できる―に,助けを求め、交番などのたびたび相談に行くこともありますが、しかし警察官も訴えがおかしいと気づいて相手にしなくなり、お金を「盗んだ、盗まない」と近隣の人とトラブルが多くなり、居ずらくなって転居することもありますが、転居先でもまたトラブルを起こして同じことも繰り返すのも妄想症の特徴といえます。介護施設で生活する高齢者でも同じような言動をとり、同居者や施設内の高齢者とトラブルが絶えないこともあります。
○原因
生来あるいは人生のなかで形成されてきた猜疑心が強い性格的傾向が背景にあると考えられます。猜疑心が強い性格は自己防衛的ともいえ、常に自分は正しい周囲が間違っていると疑い、被害を受けないような言動をとり続けることで、家族内でも「味方」が少なくなり「敵」多くなり、ますます自己防衛的に強い被害意識を長く持ち続けることで頑なで周囲との妥協を認めない妄想―被害妄想―を持つにようになったと考えられます。
○診断
妄想症のための検査はなく経過と症状から診断します。記憶障害もなく、薬物などによる比較的短期間の幻覚妄想状態ともことなり、比較的長い妄想だけで生活の混乱が生じている状態です。診断基準はDSM-Wの「妄想性障害」によります。なお認知症、幻覚妄想状態との鑑別も行いますが、認知症高齢者が妄想を抱くことは少なくありませんが、これは記憶障害などの認知機能の低下に伴うものです。
○治療
妄想症は、本人が一方的に被害を受けているなどと思い込んでいるので,通常の説明や説得は効果がありません。治療の基本は高齢者の訴えをまず聴きくことです。明らかにおかしい,間違った,在りえない、ばかばかしいこととわかっていても。とにかく傾聴します。聴くことで妄想症の高齢者がそれまで誰にもわかってくれないといった孤立感を和らげ,自分ことをわかってくれる人がいるという安堵感を与えることになるかもしれません。
しかし聴いているばかりでは高齢者の言い分や妄想を受け入れことになりかねないので,同時に婉曲に否定しておく必要があります。たとえば「それは大変ですね、とても困っておられるようですね。でも私にはそのようなことはないように思うのですが」などと話しかけてみます。しかし長年かかって形成された妄想が一朝一夕で消退してしまうものではありません。こうした信頼関係のようなもの、頼りにしている、されているといった人間関係を保つことで、高齢者が妄想をもっていても、それによる不安は、周囲とのトラブルは減るかもしれません。
聴力障害や視力障害の著しい高齢者は強い妄想が固定しやすいので,ゆっくり耳もとで穏やかに話しかけるようにします。
薬物療法として抗精神病薬を使うことがありますが、本人が拒否すること多く、「夜ゆっくり休める薬です」とだまして飲まそうとしたり、液体状の抗精神病薬を服用させてみることもありますが、こうした服薬はあまり続かず、また効果はあまりありません。
しかしながら、妄想症の高齢者の対応は困難な例が多く,近所とのトラブル,施設でのトラブルのために精神科病院へ入院せざるをえないこともあります。

問題行動 
認知症の人の介護で「問題行動」という言い方をされることがあります。「何度も同じことを聞かれる」「お金がなくなったと問い詰められる」「食べ終わったとたん、食べてないと食事を要求する」「家に帰ると言い張る」などの言動を「問題行動」と呼ぶことがあります。確かにこうした言動で介護者は困惑し、介護者にとっては「問題行動」でしょう。しかし認知症の人がなぜそうした「問題行動」をとるのか、介護者の無理解や不適切な対応、生活環境などがその行動の原因になってはいないだろうか立場を変えて考えてみる必要があります。
 例えば、失禁は介護者にとってよく遭遇する認知症の人の「問題行動」です。さらにオムツをあてがうと認知症の人は一生懸命取り外そうとするかもしれません。この行動は、介護者からみると「問題行動」でしょうが、認知症の人からみると不愉快なオムツをあてがわれたことが「問題行動」かもしれません。
  このように介護者と認知症の人のそれぞれの立場で「問題行動」の捉え方が異なり、またある介護者にとって「問題行動」は別に介護者にとってはそうでないこともあります。このため客観的な「問題行動」というものはなく、介護者と認知症の人の間でのことであるため、より客観的な概念として「認知症の行動および心理的症状(BPSD)」という用語がふさわしい。

もの忘れ外来
認知症を専門的に診る外来診療として「もの忘れ外来」「メモリークリニック」あるいは「認知症外来」などと称する診療を行っている医療機関が増えている。これらは制度としてはなく医療機関が独自に行っているもので、精神科、神経内科、老年科あるいは脳神経外科の医師が担当している。この外来の多くでは、問診、診察、画像検査、心理テスト、血液検査などを組み合わせて行っている。認知症やその原因疾患の診断、あるいは他の精神疾患との鑑別などに加え治療を行っている。この外来が普及することで、アルツハイマー病の初期、あるいは軽度の認知症の人自身が受診する機会が増え、初期診断・早期治療が行われるようになってきた。もっとも、もの忘れ外来の診療内容や質にはばらつきがあり医療機関による対応もまちまちである。
「全国物忘れ外来一覧」(2014年版)




夜間せん妄
夜間に起こるせん妄のことですが、夜間に意味不明のことを言う、落ち着かないなどの言動が夜間に起こりやすいのでこの用語が使われているようですが、せん妄は軽度も含め意識障害が伴う幻覚・妄想の状態で不穏になる状態のことで、意識障害がなく単に不穏というだけで夜間せん妄と言っている例が少なくないようで、適切な使い方ではありません。
確かに認知症の人にとって夜間は認識、判断がしにくい時間帯であり、せん妄のような状態になるか、せん妄の状態がさらに悪化しやすいと考えられます。せん妄の原因―脱水など―の有無を確認しながら、その原因治療と部屋を真っ暗にしなしなどの環境面の工夫と、できるだけ安心してもらうような話しかけ、場合によっては抗精神病薬が有効なこともあります。

薬物療法
認知症の薬物療法は、抗認知症薬、向精神薬、漢方薬など薬による治療です。
○抗認知症薬
わが国で使える抗認知症薬はアルツハイマー病薬のドネペジル(商品名:アリセプト)だけです。これはアルツハイマー病により減少する神経伝達物質[2]のアセチルコリンという物質を破壊するアセチルコリンエステラーゼという酵素の働きを阻害する働きがあり,結果的にアセチルコリンが増えることで、認知機能が改善します。しかし,すべてのアルツハイマー病の人に効くわけではなく、またその効果は一時的ー長くて2年ほどーで,アルツハイマー病の進行そのものを抑えるものではありません。副作用として嘔吐,下痢なんど消化器症状が主で、なかには不穏、興奮など精神症状の副作用もありますが、その頻度は比較的少ない。実際の服用方法は、初めに1日1回、効果がなく副作用の有無の観察と副作用を軽減するために3mgを2週間服用します。副作用がなければ1日1回5mgを服用します。これで効果がなければ1日1回10mgの錠剤に増やこともあります。薬の形状は、錠剤のほかに細粒剤、口腔内崩壊錠(D錠)、ゼリー剤があります。
○向精神薬
認知症の人の不安、うつ状態、不穏、幻覚、妄想、さらに不眠、あるいは暴力、徘徊などの認知症の随伴症状(認知症の心理行動症状(BPSD))に対する薬物療法として向精神薬があります。向精神薬は、抗精神病薬、抗不安薬、抗うつ薬、抗躁薬、睡眠導入薬の総称です。認知症の人の不安や幻覚などの精神症状に使われるのは当然としても、暴力、徘徊など認知症の人の介護上問題となる行動に対しても向精神薬、とくに抗精神病薬が広く使われています。しかし、有効なのかどうかの明確な証拠があるわけではなく、ときにいわゆる「問題行動」を抑えるという「管理的目的」あるいは「薬物的拘束」として使われることも少なくないので注意したい。向精神薬は、認知症の人、とくに認知症高齢者では眠気や転倒など副作用が起こりやすいので使う場合、少量から始めることが基本です。
抗精神病薬
本来、統合失調症の治療薬として開発され使われています。この抗精神病薬には、第1世代の定型型抗精神病薬と第2世代の非定型型抗精神病薬とがあります。BPSDにはもっぱら非定型抗精神病薬がよく使われます。
抗うつ薬
うつ状態の治療薬として以前から多種、使われてきましたが、近年、副作用が少ない抗うつ剤が高齢者にも使われています。認知症の人がうつ状態になることは少なくありません。
抗不安薬
不安障害、パニック障害、心理的外傷後ストレス障害(PTSD)などに使われる薬です。認知症の人の不安などにも有効なことがあります。
睡眠導入剤
不眠症によく使われる睡眠導入薬の多いくは抗不安薬と同類の薬です。効果時間によって使い分けます。
○漢方薬
認知症の薬物療法のひとつとして、漢方薬による治療が試みられています。いくつかの漢方薬で効果を認めるという報告がありますが、その有効性が広く認められているわけではなく、現在、「認知症」の治療薬として承認されている漢方薬はなく、認知症にともなう精神症状などに処方されています。認知症の治療薬として研究され試みられている漢方薬の代表的のものとして、帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、八味地黄丸(はちみじおうがん)、釣藤散(ちょうとうさん)、抑肝散(よくかんさん)、抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぷはんげ)があります。
○その他の薬剤
脳血管性認知症についてはその原因疾患である脳血管障害の治療は不可欠です。具体的には脳血管障害の危険因子である高血圧,糖尿病,高脂血症,心房細動などがあればその管理,治療を十分に行うことで,脳血管性認知症の進行を抑えることは不可能ではありません。このため降圧剤、糖尿病薬、抗高脂血症薬などが使われます。また脳梗塞の再発予防として抗血液凝固剤を服用することも期待されていますが、まだ予防効果認知症ついては確立しているとはいえません。さらに最近の研究によれば、脳血管性認知症とは関係がないと思われていたアルツハイマー型認知症についても同じ危険因子高血圧,糖尿病,高脂血症,心房細動の管理、治療がアルツハイマー病の進行を抑える効果が認められつつあります。認知症の薬物療法として忘れてならないことは、認知症の2次要因でもある脱水の予防、治療として水分の経口摂取あるいは点滴による補液があります。




有料老人ホーム
老人福祉法に規定された高齢者向けの生活面のサービスを提供するが、老人福祉法の老人福祉施設に該当しない施設です。2008年10月現在、全国で3 400施設(入居者数約14万人)です。サービスは、家事等の生活支援、食事、健康管理、介護などが提供されるが、サービス内容で「介護付き」「住宅型」「健康型」に分け、権利形態で「利用権方式」「終身賃貸借方式」「賃貸借方式」に分かれます。また入居者がデイサービスなどの介護保険サービスを利用することは可能です。認知症については施設内で認知症高齢者とそうでない高齢者とを分離して対応したり、認知症専用の介護付き有料老人ホームもあります。

夕暮れ症候群
認知症の人のなかに、夕方になると落ち着かなくなり、「家に帰る」と言ったり、幻覚・妄想が出やすくなることを夕暮れ症候群(英語でSundown Syndromeという)と言います。夕暮れは一日のうちのなかで人を不安にしやすい時間帯です。このときに記憶や判断が低下している認知症の人が精神的に不安定になりやすいことが症状に背景にあると思われます。

ユニットケア

認知症の人を集団で画一的に介護することの弊害を反省し、グループホームの有効性のなかから、わが国の既存の特別養護老人ホームなどの介護施設で高齢者や認知症の人を小グループに分けて介護することです。大規模施設を小規模に分割し、各グループで個々の認知症の人に合わせた配慮や介護が行える利点があります。2000年に導入されたグループケアユニットの国の基準では、設備要件として、○グループの定員は個室か2人部屋の場合は10人程度、3,4人部屋の場合は15人程度とする ○グループごとに談話スペース、食堂を備え、台所とトイレも出来る限りグループごとに備えるとされています。なおCare Unitという英語はあるがユニットケアは和製英語です。




予防
○科学的予防に関する知見が増えている
こうしたなかでこの10年の間、アルツハイマー病と脳血管性認知症の危険因子、保護因子に関する数多くの疫学的調査の報告がされてきました。調査は、北アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリア、日本で行われてきました。日本では福岡県久山町の調査が世界的に有名です。こうした調査から「科学的に裏付けられた予防方法」が明らかになりつつあります。その予防方法は特別なものでも高価な方法でもなく日常生活のなかで活かせるものが少なくないのです。
なお、予防医学的には予防とは、1次予防(発病そのもの予防)、2次予防(早期発見・早期治療による予防)、3次予防(進行した病気でも治療で完治する予防)をいいます。認知症の予防については、発症を遅らせることも予防のひとつとみなさることがあります。
○危険因子について
認知症の「危険因子」については、私たちがコントロールできる因子とコントロールできない因子があります。
コントロールできない危険因子
アルツハイマー病については、加齢、性別(男性より女性がなりやすい)、遺伝の3つが危険因子として挙げられています。これらは、私たちにはコントロールできない因子で予防には役立ちません。遺伝については、稀な家族性にアルツハイマー病がありますが、同じ遺伝でも注目されているのがアポリポ蛋白(E4型)で、アルツハイマー病になりやすいことがわかっています。しかしこの遺伝子を持っているからといって必ず発病するわけではありません。アルツハイマー病は、遺伝的な要因と環境要因とで決まる複合的な原因で発病すると理解されています。 コントロールできる危険因子
アルツハイマー病や脳血管性認知症の環境要因としての危険因子の多くがコントロール可能なものです。
高血圧
フィンランドの研究者が1972年から地域住民約2300人について26年間追跡した調査によると、最高血圧が160mmHg以上だった人は、140mmHg以下の正常血圧の人より2.3倍アルツハイマー病になりやすいことを認めました。高血圧がアルツハイマー病の危険因子の一つであることはこのほかの調査でも明らかにされています。また脳血管性認知症についても同じような関係が認められています。
高脂血症
ホノルル在住の日系アメリカ人3555人を1960年半ばから追跡したアメリカの研究者は高脂血症の人ほど脳血管性認知症になりやすいことを認めました。他の研究によると高脂血症はアルツハイマー病の危険因子でもある報告されています。
糖尿病
九州大学の研究者が福岡県久山町で1985年から行った追跡調査によると、糖尿病の人はそうでない人より約3倍アルツハイマー病になりやすいことを認めました。欧米の他の調査でも同様の傾向を認めています。
喫煙
オランダ・エラスムス医療センターの研究グループは、1990年から55歳以上で6870人について喫煙中、喫煙経験あり、喫煙経験ないグループに分けて追跡調査をしたところ、喫煙する人ほどアルツハイマー病になりやすいことを明らかにしました。特にアポリポ蛋白(E4型)遺伝子のない人についてこの関係が強いことがわかりました。
このほか危険因子として、肥満、頭部打撲などが認められています。以前、アルツハイマー病と脳血管性認知症は全く別の病気と考えられていましたが、こうした調査からアルツハイマー病と脳血管性認知症の危険因子がよく似ていることから、アルツハイマー病の発病に血管の変化が関係していることが示唆され、またアルツハイマー病には生活習慣病的な部分があるとみなすこともできます。しかし、これらの危険因子をすべて予防できたとしても認知症の発病を完全に防げるわけではありません。
○保護因子について
認知症になりにくい因子―保護因子―についても世界各地での地域住民を対象にした疫学調査から多くの報告がなされています。
適量の飲酒
オランダのエラスムス大学の研究グループによると、1990年から地域在住の55歳以上の5369人について飲酒と認知症発病の関係について追跡調査したところ、少量の飲酒をする人は飲酒しない人より42%認知症になりにくいことを認めました。ここでいう少量の飲酒とは、ビールでいうと350cc程度のことです。飲酒と認知症の関係は、アメリカ、オーストラリア、デンマーク、フランスからも同様の報告があります。オランダの調査ではアルコールの種類は関係がありませんでしたが、ワインがよいという報告もあります。少量の飲酒が認知症の予防につながるのは、アルコールが動脈硬化の予防や脳の神経伝達物質を増加させる作用があるためではないかと推測されています。

フランスのボルドー大学の研究グループは、地域在宅の68歳以上の認知症のない人1674人について調査開始時の1991年に食事内容について調べ7年間、追跡調査しました。アルツハイマー病に発病した人と発病しなかった人と比べたところ、1週間に1回以上、魚または海産物を食べる人の方がアルツハイマー病になりにくいことを認めました。同じような調査報告は、アメリカ、日本でもあります。魚の認知症予防効果は魚の脂肪酸が脳の炎症を抑える働きが関与するものと推測されています。
葉酸
アメリカのカルフォルニア大学アービン校の研究グループは、メリーランド州の地域住民を対象に10年余りの追跡調査から、葉酸を1日400μg以上摂るとアルツハイマー病になる危険性を55%下げることを認めています。葉酸のほかに、ビタミンE,ビタミンB6を多く摂る人ほどアルツハイマー病の発病が少ないことも認めていますが、葉酸との関係が最も強いと報告されています。これは、アルツハイマー病の原因とされるアミロイド蛋白を増やし、動脈硬化にも関係するホモシスチンという物質を葉酸が低下させる作用があるためとされています。葉酸の多い食品として、バナナ、オレンジ、葉もの野菜、アスパラガス、ブロッコリーなどがあります。
このほか、運動、趣味、教育、社会活動、地中海風食事、カレー、野菜や果物のジュース、緑茶などが疫学調査から認知症の保護因子として挙げられています。危険因子と同じで、これらの保護因子をすべて守ったとしてもアルツハイマー病など認知症を完全に防ぐことができるわけではありませんが、発病を少なくする可能性はあります。

現在まで指摘されている認知症の危険因子と保護因子

○危険因子
コントロールできない危険因子
年齢:アルツハイマー病は加齢と共に増加する
性別:アルツハイマー病は男性より女性に多い
遺伝:一部のアルツハイマー病は遺伝する
アポリポ蛋白E4:この蛋白をもっている人はアルツハイマー病になりやすい
コントロールできる危険因子
高血圧:アルツハイマー病と脳血管認知症の因子
高脂血症:脳血管性認知症とアルツハイマー病
糖尿病:アルツハイマー病と脳血管性認知症
肥満:アルツハイマー病(女性)
メタボリック・シンドローム:認知機能低下
ホモシスティン:アルツハイマー病
タバコ:アルツハイマー病など認知症
頭部外傷:アルツハイマー病など認知症
悲観的姿勢:認知症
アルミニウム、ストレス、その他(有機溶剤、農薬、電磁波)について明らかでない。アルミニウムは通常の日常生活での暴露では危険因子とはならない
○保護因子
魚:認知症
ビタミン
 EとC併用:アルツハイマー病
 葉酸:認知機能低下
 ニコチン酸:アルツハイマー病と認知機能低下   
抗炎症剤:アルツハイマー病
女性ホルモン:アルツハイマー病
飲酒(適量):認知症
運動:アルツハイマー病
趣味:認知症
教育:(10代にIQが高い人)認知症
職業歴、銀杏エキス、ニコチン、セレン、カレー、野菜ジュースの保護因子については不明。 

脳を守る10の方法(アメリカ・アルツハイマー病協会

 頭が第一
健康は脳からです。最も大切な身体の一部である脳を大切にしよう。
脳の健康は心臓から
心臓によいことは脳にもよい。心臓病、高血圧、糖尿病、脳卒中にならないためにできることを毎日続けよう。これらの病気があるとアルツハイマー病になりやすい。
身体の値のチェックを
体重、血圧、コレステロール、血糖の値をチェックしてよくしよう。
脳に栄養を
脂肪が少なく抗酸化物(ビタミンEなど)の多い食品を摂ろう。
体を動かす
身体の運動は血液の流れをよくし脳細胞を刺激することになるかもしれない。1日30分歩くなど心と体を活発にしよう。
心のジョギングを
いろいろなことに関心をもって脳の活き活きさせると脳細胞とその繋がりの余裕が生まれます。読む、書く、ゲームをする、新しいことを学んでみよう。
他の人とのつながりを
身体と心と社会の3つの要素を組み合わせた余暇活動は、認知症を防ぐ最もよい方法かもしれません。人と付き合い、会話を交わし、ボランティアをし、クラブに加わり、学習してみよう。
頭の怪我をしない
頭の怪我をしないように注意しよう。車に乗る時はシートベルトを、自転車の乗るときはヘルメットを、家の中で転倒しないように整理整頓しよう。
健康な習慣を
不健康な習慣を避け、タバコを止め、飲み過ぎないようにしよう。
前向けに考え今日から始めよう 明日のあなたを守るために今日からできることをしよう。

抑制
身体拘束禁止に関連して「抑制」という用語が使われるが、拘束との違いが明確ではありません。三宅は、「ベッドや車椅子などに身体を直接縛る行為を抑止」とし、「抑制も含め各階ごとの鍵をかけるなどの行動の自由を奪う行為を拘束」としています。認知症の人への抑制については、上川病院が全国的に初めて抑制しない医療を導入し「全国抑制廃止研究会」を発足させています。




ライフスタイル
Life Style の音訳語で、生活様式などと訳されている。衣食住、嗜好、娯楽など日常生活の送り方などを示すが、通常、労働は含まれないようです。認知症の人の介護ではそれまでのライフスタイルを知ることは大切であり、認知症の危険因子や保護因子などにライフスタイル―食事、運動、喫煙、飲酒など―が強く関与していることがわかってきました。





リアリティーオリエンテーション
現実を意味するリアリティー(Reality)と見当識を意味するオリエンテーション(Orientation)を合わせた英語の音訳語で「見当識療法」ともいいます。認知機能が低下した認知症の人は場所、時間などに関する見当識も低下しており、それを補強することでより認知症の人がより自立し安心できる日常生活を送れるようにする療法です。この療法には、「24時間方式リアリティーオリエンテーションと」と「教室方式リアリティーオリエンテーション」とがあります。
○24時間方式
自宅、介護施設などのホールや食堂など目につきやすい所に掲示板を置き、施設名、施設長名、日付などの情報を提供しようとするものです。また24時間の生活のなかで、施設内放送で日付や時間を伝えたり、会話のなかに場所、季節、時間などを面に関する言葉を意識的に盛り込んで話しかけるようにします。
○教室方式
認知機能がおおよそ同じ程度の認知症の人が数名ほど30分ほ静かな部屋に集まり、日常の会話をしながら、ボードを使って日付、施設名などを繰り返し伝え覚えてもらうことで見当識を高めようとします。
非薬物治療としては最も早くから試みられたリアリティーオリエンテーションは記憶障害が強い認知症の人には相応しくない療法として見なされ、忘れかけられていましたが、最近、初期アルツハイマー病など軽度の認知障害の人への有効性がみなおされつつあります。

流動性機能
人の知的機能を便宜的に「流動性機能」と「結晶性機能」とに分けることができます。このうち流動性機能とは、時間に関係して変化する状況を臨機応変に把握し対応する知的機能のことです。例えば、道路を渡る状況を想定すると、信号、横断歩道の長さ、自分の歩く能力、周囲の車の状況などの情報を集め総合的に判断しなければなりません。あるいは新しい電化製品を使う時には、それまで使いなれていた古い製品の扱い方法から新しい製品にふさわしく方法を整理し学習しておく必要があります。こうした知的機能は健康な高齢者でも低下しますが、認知症の人ではとの低下が顕著になります。認知症の人が新しく老人ホームへ入所した時、流動性機能が求められるものですが、機能が低下している混乱しやすくなります。低下している流動性機能を補うような対応―施設内の場所の表示など―が求められます。

リビングウイル
英語のLiving Willのこと。→生前遺言

リバースモーゲージ
Reverse mortgageの音訳語で、リバースは反対、モーゲッジは担保という意味で、通常のローンでは自宅を担保に多額のローン契約し、所有者が返済しますが、リバースモーゲッジでは自宅を担保に金融機関などから年金のように一定額の収入を得ることができます。
高額の不動産を所有している高齢者の現金収入が少ないことへの支援として生まれた制度で、金融機関のほかに自治体が行っているところもあります。死亡時に自宅の評価額と受け取った総額が同じによあるに調整し、金融機関が契約者の自宅を引き取ります。ただし、支払いが満額になったとき生存しているとこの制度による収入はなくなり、不動産もなくなります。

臨床試験
薬剤開発では、効果があると思われる物質を動物実験で効果、副作用、体内代謝などについて調べます。この実験で効果と安全性を確かめられると、人に対する試験を行います。これを臨床試験または治験といいます。この試験は3相の段階をえて行われます。第1相の試験は、薬剤を少数の健康な人を対象に安全性や人体での代謝などを調べます。これで安全が確認されると第2相試験で、物質の有効性、安全性、投与量などを調べます。これで安全で有効と確認されると、第3相試験移り、同意を得た多くの患者(300人から500人)を対象として有効性や安全性を確認します。科学的な判定を行うため偽薬も使う2重盲検法で行われ、服用している人も服用を指示した医師も結果を判定する人もどの患者が試験中の物質と偽薬のどちらを服用しているかわからないようにしています。これで有効性が確認されると通常、国の機関の承認を得て、製造、販売されますが、販売後も製薬会社がはるかに多くの患者に使われるため、特に副作用について追跡調査を義務づけられています。これを第4相試験と呼ぶことがあります。こうした臨床試験をえて実際に薬剤として使われる物質は開発中の物質のごく一部です。我が国では創薬のレベルは高いが、臨床試験を行う環境が整わなく、外国で有効性が確かめられている薬剤でも国内で使えなかったり、有望な物質があっても国内で臨床試験が的確に行えない環境にあります。アリセプトは後者の例です。

リバスチグミン
Rivastigminは、アリセプトと同じアセチルコリン分解酵素阻害剤で、軽度から中程度のアルツハイマー病に有効とされています。日本では貼付剤(商品名:イクセロンパッチまたはリバスタッチパッチ)として使用される。

臨床認知症評価
Clinical Dementia Rate(CDR)の訳語。記憶、見当識、判断力など7項目の評価で認知症なし、疑い、軽度、中等度、高度の5分類する評価方法。日常生活面からの臨床的な認知症評価として汎用されています。
CDR(日本語版)(pdf300K)

療養型医療施設
医療保険の養型医療施設と介護保険の療養型医療施設があり、後者を「介護療養型医療施設」と称する医療機関で、2008年10月現在、施設数は2252施設(入院者数約99万人)であります。医療職は常勤で複数の医師および看護師らです。この施設には、身体疾患や精神疾患で状態が比較的安定しているが医療的対応が必要な要介護認定を受けた入院するが、医療の必要性が曖昧で高齢者の社会的入院が少なくないと思われます。また医療保険によるものと介護保険によるものとの区分も曖昧です。認知症については、老人性認知症患者療養病棟以外の施設では特別な取り組みは少ないようです。

リバスタッチパッチ
リバスチグミン




(該当用語なし)




レビー小体病
レビー小体病は、認知機能の障害などを示す進行性神経疾患で、典型的には日内に変動する認知機能、幻視、パーキンソン様症状を3症状とし、脳細胞にレビー小体を広く認めます。このレビー小体病による認知症をレビー小体型認知症(Dementia with Lewy Bodies:略称DLB)といい、認知症のなかで数%から10数%を占めとされています。
○症状
日内変動する認知機能
記憶障害などの認知機能障害が1日のうちで変化しやすい。午前中は比較的正しい判断をするが、午後になると記憶があいまいになり混乱しやすくあります。また良い日もあれば悪い日もあるいった変化もあります。
幻視
「隣の部屋に人の姿が見える」「ベッドの上に猫が見える」など、とくに人物がありありとみえる幻視が特徴的です。本人もおかしいと思うこともあります。
パーキンソン病様症状
手の震顫、小幅歩行、身体が固いなどパーキンソン病に似た運動障害を認めます。レビー小体病はパーキンソン病との区別が難しい場合もありますが、通常、パーキンソン病の場合はパーキンソン病の運動障害の進行してから認知機能が低下することがありますが、レビー小体病の場合は、運動障害が軽いときに認知機能の低下を認めるという違いがあります
その他の症状
気分の変動があり、穏やかな状態もあれば無気力、あるいは不穏になるあということも一日のうちで繰り返しています。また起立性低血圧、便秘、尿失禁などの症状を示すこともあります。
○原因
蛋白質のレビー小体は、パーキンソン病では脳幹などで神経細胞に認められが、レビー小体病では脳皮質など脳の表面の神経細胞に広く見られます。この物質がどのような作用をするかよくわかっていません。
○診断
通常は3つの症状があればレビー小体病あるいはレビー小体型認知症と診断できます。
アルツハイマー病やパーキンソン病と紛らわしい場合がありますが、経過と症状から鑑別診断は困難ではないでしょう。
○治療
抗アルツハイマー病薬のアリセプトが有効との報告もあるが、承認された適応ではありません。パーキンソン病様症状には抗パーキンソン病剤をつかいますが、これが幻視を悪化させることもあります。また幻視に抗精神病薬を使う場合は副作用が現れやすく、少量から使う注意が必要です。

レスパイトケア
→休息ケア

レミニール
ガランタミン


 

老人 
 高齢者と同じ意味で使われることがありますが、三宅は「加齢に伴う心身の機能の低下により自立した生活が困難な人」と定義し、65歳以上の高齢者とは区別しています。すなわち疾患ではなく加齢に伴う心身の変化−関節の変形、白内障、記憶障害など−により自分一人では生活を営むことができにくくなった状態の人で、機能面からみたのが老人で、暦年齢でみたのが高齢者です。この定義により高齢者と老人に関わる集団を「非高齢老人」「高齢老人」非老人高齢者」の3つに分類することができます。高齢社会のおいて「非老人高齢者」が増えることが望ましいともいえます。

老人ホーム 
わが国の老人ホーム(高齢者入居施設)は、特別養護老人ホーム、養護老人ホーム、経費老人ホーム(A型およびB型)、ケアハウス、有料老人ホームがあります。これらは老人福祉法に基づくもので、特別養護老人ホームは介護保険施設でもあります。これらの施設で認知症の人が介護を受けながら生活をしていますが、このうち特別養護老人ホームで定員数では最も多い。養護老人ホーム、経費老人ホームあるいは有料老人ホームに軽度の認知症の人が生活しています。2008年10月現在の施設種類別施設数と定員数(カッコ内)は、特別養護老人ホーム6015施設(416052人)、養護老人ホーム964(66239)、経費老人ホーム2094(88059)、有料老人ホーム3 400(176935)。このうち、養護老人ホームおよび経費老人ホームのほとんど増減がありません。

老人性認知症疾患治療病棟
→認知症疾患治療病棟

老人性認知症疾患療養病棟
介護保険の介護療養型医療施設のひとつで、在宅などで対応困難なBPSDがあり要介護認定を受けた認知症高齢者を入院させて療養管理、看護、医学的管理のもとで介護や機能訓練などを提供する介護施設です。施設基準として、精神科医1名、看護師、介護職、作業療法士、精神保健福祉士またはこれに準ずる者、および介護支援専門員を置くことになっています。病棟数は老人性認知症疾患治療病棟より多いが、役割分担が曖昧です。

老人精神保健相談 
高齢者精神保健相談ともよばれている保健所などで行われている相談事業です。前以って家族らから保健所へ相談があった事例や、保健師が訪問によって把握して事例などが決められた日時に開催され介護家族らが相談に訪れる。通常精神科医が相談を担当しています。
決められた日時に保健所に行くことは介護家族にとって必ずしも容易ではないことなどから、相談活動は保健所によってばらつきがあるようです。しかしこの相談をきっかっけに保健師や精神保健福祉士に事例が引き継がれることもあり、介護家族の家族会が開催している保健所もあります。





ワクチン療法
アルツハイマー病の原因と考えられているベータアミロイド蛋白は、脳の神経細胞の機能を低下させ、死滅させてアルツハイマー病が起こるとされています。この原因となる蛋白の産生を抑えたり取り除くことでアルツハイマー病を根本的に治療しようとするのがワクチン療法です。
アイルランドの製薬会社エラン社の医師らは遺伝子組み替えによって作られた脳にこの蛋白が蓄積しやすいアルツハイマー病に似たアルツハイマー病マウスの動物実験で、この蛋白に対して抗原性のある物質(ワクチン)を投与しました。生後6週間のから投与したマウスで、アミロイド蛋白の産生を阻害され生後1年後から投与したマウスでは消退するという研究結果を1999年報告しました。このワクチンを投与したマウスの方が投与しなかったマウスより記憶障害が少なかったと翌年に報告されました。これらをもとにエラン社は2000年に臨床試験(第1相)を始めワクチンの人への安全性と期待した生体反応があることが確かめられたので、さらに360人について第2相の臨床試験を開始しました。しかし重篤な副作用として脳炎で死亡する人が出たため2002年に試験を中止しました。この試験で死亡した人の脳を調べたところベータアミロイドの減少を認め、効果が確認されています。こうした経過からとからエラン社などはより副作用の少ないワクチン―BapineuzumabおよびSolanezumab―を開発し現在、臨床試験第3相が進められています。しかし、最近、その効果について疑問視されるようになりました。


数字

10/66認知症調査グループ
中低所得国の認知症の疫学調査を行っている研究グループです。1998年にインド・コーチンで開催された国際アルツハイマー病協会Alzheimer’s Disease Internationalの国際会議の際に結成され、イギリスのマーチン・プリンス教授(写真)が中心となり、各国での認知症の有病率、家族の介護負担などの調査研究が進め、そのデータをもとに各国のアルツハイマー病協会が政府などに要望活動を行っています。また地球規模の認知症の人の推計数も明らかにしています。10/66の意味は、世界の認知症の人の66%が住む中低所得国に世界の研究費の10%しか使われていないことを言い表した数値です。
The 10/66 Dementia Research Group

100人会議
正式には「認知症になっても安心して暮らせる町づくり100人会議」といいます。2005年7月に堀田力氏を議長とする100の個人または団体からなる会議で、以下の宣言を採択し、「認知症を知り地域をつくる」キャンペーンを推進することにしています。
1.わたしたちは、認知症を自分のこととしてとらえ、学びます。
2.わたしたちは、認知症の人の不安や混乱した気持ちを理解するように務めます。
3.わたしたちは、認知症の人が自由に町に出かけられるように応援します。
4.わたしたちは、認知症の人や家族が笑顔で暮らしていけるよう、いっしょに考えます。
5.わたしたちは、市民や企業人としてできることを行い、安心して暮らせる町づくりをめざします。


略語英語
ADI:Alzheimer's Disease International(国際アルツハイマー病協会)→国際アルツハイマー病協会
ADL:Activities of Daily Life(日常生活能力)→日常生活能力
AIDS:Acquired Immune Deficiency Syndrome(後天性免疫不全疾患)→エイズ
AACD:Aging-associated Cognitive Decline(加齢関連認知低下)→加齢関連認知低下
ACT:Assertive Community Treatment→包括型地域生活支援プログラム
BPSD:Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia(認知症の行動と心理症状)→BPSD
CDR:Clinical Dementia Rate(臨床認知症評価)→CDR
CBD:Cortico-Basal Degeneration→大脳皮質基底核変性症
CT:Computer Tomography(コンピューター断層撮影法)→CT
DAD:Disability Assessment for Dementia→認知症障害評価
DASN:Dementia Advocacy and Support Network Internationa→国際認知症擁護支援ネットワーク
DCM:Dementia Care Mapping→認知症ケアマッピング
DSM−W:Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders , 4th edition(精神障害の診断と統計の手引き、第4版)→DSM-W
FAST:Functional Assessment Staging(アルツハイマー病の機能評価ステージ)→行動評価
HDS-R:Hasegawa's Dementia Scale Revised(改訂版長谷川式簡易知能評価スケール)→長谷川式簡易知能評価スケール
IPA:International Psychogeriatric Association→国際老年精神医学会
J-ADNI :Japanese Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative→日本アルツハイマー病脳画像診断先導的研究
MCI:Mild Cognitive Impairment(軽度認知障害)→軽度認知障害
MMSE:Mini Mental State Examination(ミニメンタルステート検査)→ミニメンタルステート検査
MRI:Magnetic Resonance Imaging(磁気共鳴イメージング)→MRI
PEAP:Professional Environmental Assessment Protocol(専門的環境支援指針)→PEAP
PET:Positron Emission Tomography(ポジトロン断層法)→ポジトロン断層法
PPA: Primary Progressive Aphasia (原発性進行性失語症)→原発性進行性失語症
PSP:Progressive Supranuclear Palsy(進行性核上麻痺)→進行性核上麻痺
SPECT:Single photon Emission Computed Tomography(単一光子放射断層撮影)→単一光子放射断層撮影