はじめに

 

第1章 乗合バス事業の概況 

  (1)乗合バスの定義

  (2)事業者

  (3)輸送人員数

  (4)収支状況

 

第2章 過疎バスと路線維持政策

 (1)過疎バス維持政策の歴史

 (2)現状と問題点

 (3)廃止代替バス

 

第3章 規制緩和と生活路線

(1)需給調整政策と問題点

(2)規制緩和政策の論点

 (3)生活路線維持のための課題

 

第4章 これからのバス事業のありかた

 (1)バス事業者側の課題

(2)適切な行政の施策の必要性

(3)国の支援政策の見直し

 (4)バス利用者側の意識改革

 

おわりに                                                            

 

参考文献

 


 

はじめに

 

1997年3月、規制緩和推進計画が閣議了解され、この計画に基づき21世紀にはこれまでの交通政策が大転換されることになった。運輸分野への大幅な規制緩和・自由化という大きなうねりへの対応である。それは、既存業者への保護政策の廃止と自由競争、行政の最小限の関与という点にまとめられ、これらの政策によって乗合バス事業に大きな影響を与えることが予測されている。

 

その動きを待たずとも、過疎地域でのバス路線の廃止は増えている。これは1970年代からのモータリゼーション化にともない顕著になっている。

そのメカニズムは一般的には以下の通りである。自家用車がまだ一般家庭に普及していなかったころは交通機関はバスに限られており、そのためそれほど運行本数が多くない路線でもそれなりの乗客を確保することができていた。しかし、高度経済成長にともなう自家用車の普及により、過疎地域の住民が通勤や買い物などに乗合バスを利用せず自家用車を使う傾向が急激に増加した。そのためバス利用者は通学生や高齢者などいわゆる交通弱者に限られることになる。利用者の絶対数が減ることにより、バス事業者もコストダウンのため運行本数を減らすようになる。乗りたいときにバスがない、という不便な運行ダイヤは一般利用者のバス利用も敬遠させるようになる。利用者はバスに生活行動を合わせるのではなく、生活行動に合わない交通機関には利用価値を見出さない。そのためさらに採算が厳しくなり、ついには路線そのものが廃止されてしまう―。

 

利用者・運行本数の減少というこのような傾向は何もバスに限った問題ではなく、他の公共交通機関にもすでに及んでいるものである。特に顕著だった鉄道については1970年後半から国鉄赤字ローカル線83線区廃止の計画に始まり、国鉄再建法に基づく第1次から第3次までの特定地方交通線のバス転換及び第3セクター鉄道への引継ぎなどが行われすでにほぼ一段落している。しかし、国鉄やJRから第3セクターとして鉄道を存続させたり、建設中の新線を引き継いだ38社のうち平成9年度で黒字経営を続けているところはわずか7社で(注1)、ほとんどは経営の厳しいところが多い。

その理由としてはいくつかの原因が考えられる。第3セクター転換直後は地元の開業ブームや運行本数増加による利用者の底上げが実現したものの、その後住民レベルにおいては“マイレール意識”の減退や過疎化・少子化といった全国的な傾向による通学生の減少という問題、会社レベルとして転換にともなう運賃の大幅上昇や運行システム・貧弱な鉄道設備へ路盤強化など多額の投資負担、政策レベルにおいては転換後5年間の赤字補助の打ち切りや国鉄清算事業団からの設備の無償譲渡、また不況による旅客の減少といった問題なども複雑に絡んでおり、これらは一朝一夕に解決する問題ではない。そのため、今後は第3セクターという経営形態の見直しから最終的には鉄道の廃止を含めて検討される路線も出てくることが予想され、これからの動向が注目される。

また、第3セクター鉄道以外のローカル私鉄についても貨物輸送の廃止やモータリゼーション化にともなう旅客輸送の減少という問題はおおむね共通しており、すでに新潟交通や蒲原鉄道といった新潟県の2つの私鉄の平成11年3月末での廃止が予定されているところである。地方鉄道事業については採算が厳しい第3セクター鉄道や他の中小私鉄などの例から行政サイドも公的支援に消極的な場合が多く、廃止される線区が今後も出てくるであろうと予測される。

 

一方、離島航空・フェリーについては鉄道やバスと異なり代替輸送手段が存在しないので、現状が十分ではないとしても深刻な問題となってはいない。しかし今後規制緩和やビッグバンとよばれる競争の激化により不採算の路線を民間企業が抱え込むことが非常に大きな負担となることは確実である。航空事業については大手3社グループ以外の新規企業が東京−福岡・札幌間など利益が見こめるいわゆるドル箱路線へ参入する動きが活発化しており、いわゆる自由競争という名においてクリームスキーミング現象、いわゆる“いいとこどり”が黒字路線の利益で離島などの赤字路線をカバーするという内部補填システムを狂わせ、私企業が負担に耐えかねて離島交通から撤退し住民の生命線が失われてしまうことが十分に予想される。

 

ところで、乗合バスの利用者数減少という問題は過疎地域だけでなく、都心部でも起きている。鉄道などと比べた相対的な運賃の高さと交通渋滞によるバスダイヤの恒常的遅延が自家用車との競争力を失わせ、バス離れを深刻化させている。地下鉄など高速軌道鉄道は乗客数が横ばい、または増加傾向であるのとは対照的に乗合バス乗客数の減少傾向が止まらない状況である。表@を見てもわかるように、自家用車を含めた自動車全体の輸送量は増加しているにもかかわらず、乗合バスは約3%づつ減少し続けている。

 

輸送人員 (億人)

輸送人キロ (億人キロ)

7年度

8年度

7/6

8/7

7年度

8年度

7/6

8/7

自動車

612.7

615.4

101.5

100.4

9,174.20

9,317.20

101.5

101.6

バス

76.2

74.9

97.1

98.3

972.9

948.9

97.3

97.5

営業用

60.1

58.5

97.1

97.4

739.1

723.8

98.9

97.9

うち乗合

57.6

56

96.9

97.3

306.3

293.4

96.1

95.8

うち貸切

2.5

2.5

100.3

99.6

432.8

430.3

101

99.4

表@ 輸送機関別国内旅客輸送量 (平成9年度版運輸白書 134ページより作成)

 

このように、特に乗合バスを中心とした公共交通機関が危機に陥っている現状をふまえ、住民の足を確保するために、いわゆる生活路線といわれる乗合バスを中心に現在の乗合バス事業の実情をまとめ、今後決定されるであろう政府の交通政策と今後なされるべき事業者側と利用者側の改善策、地方自治体のなすべき役割などについてまとめていく。

 

脚注

 1 運輸省ホームページ「平成9年度第三セクター鉄道等の経営成績について」

(http://www.motnet.go.jp/KOHO98/SANSEKU_.htm)

 

 

 


 

第1章 乗合バス事業の概況

 

(1)乗合バスの定義

 まず、乗合バスとはなにか。いわゆる乗合バス事業とは、道路運送法第3条イ号によって定められた「一般乗合旅客自動車運送事業(路線を定めて定期に運行する自動車により乗合旅客を運送する一般旅客自動車運送事業)」のことである。すなわち、路線があらかじめ定まっており、しかも定期的に特定の利用者ではなく一般の旅客を運送することを必要としている。さらに、事業を行うには同法4条1項により「運輸大臣の免許を受けなければならない」とされている。つまり、免許を得ないで営業を目的とした乗合バス事業、いわゆる白ナンバーバスについては違法なものとなる。

 乗合バス事業は誰でも参入できるわけではなく、同法6条1項において事業免許については路線単位に輸送需要に対して適切であること(1号)、供給輸送力が輸送需要量に対し不均衡でとならないものであること(2号)、公益上必要であること(5号)などの審査条件が定められている。もちろんこれらの基準は6条2項において形式的画一的にではなく、路線または事業区域の実情に沿うようにつとめなければならない、と免許申請に対して柔軟な対処を求めている。

運賃についても第9条によって運輸大臣の認可を得る必要があり、運賃を変更するについても同様である。認可される運賃とは、能率的な経営のもとにおける適正な原価を償いかつ適正な利潤を含むもの(第2項1号)であり、他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれのない(同項4号)ものでなければならない、と定められている。

 これらのことにより、道路運送法の基本的な趣旨は乗合バス事業を行政の適切な指導のもとに事業者間での競争をさけ、事業者が適正な利潤を得ることにより経営が安定し、それが公共交通の維持につながる、というシステムを目指しているものととらえることができる。

 

(2)事業者

乗合バス事業者とは、経営体系や規模などによって分類される。運輸省では保有バス台数が30台以上の事業者を、調査対象の“一般乗合バス事業者”とし、白書や統計データに使用している。平成9年度の運輸省の調査によると、地方自治体が特別の部署を設置して直接運営する公営事業者が32者、旧国鉄から引き継がれたJR直営・分離バス会社も含めた民営事業者191社の合計223社(注2)がその対象となっている。この数字は近年すこしづつ増加する傾向にあるが、これは民営事業者が経営効率化のために分社化を進めているため、という側面がある。また、保有バス台数が30台未満の運輸省の調査対象に入らない小規模事業者・自治体直営なども含めるとその数はもっと大きいものになり、平成4年度で公営50、民営343社の合計393社が乗合バス事業を行っており(注3)、こちらの数字も増加傾向にある。

 

(3)輸送人員数

全国の乗合バスの輸送人員数は表Aの通り平成9年度で約51億人、平成8年度と比べ約3.8%の減少となり、7年連続での減少となった。グラフ@を見てもわかるように、戦後から昭和40年度までは乗合バスが地方において重要な交通機関となり、事業者も路線網を拡大していったことにより特に昭和38年から39年にかけては約20%の増加を示すなど順調に規模を拡大させ、100億人の大台を超えるところまで増加してきていたが、昭和44年をピークに減少を続けており、現在は最盛期の約半分程度までに減っている。バブル景気のころには3大都市圏で若干の持ち直しが起こったが、近年の輸送人員数の減少というトレンドは続いており、特に3大都市圏以外の地域、つまり地方中小都市及び過疎地域での減少が激しいことがわかる。

 

    年度

経営形態

前年度比

(%)

前年度比

(%)

前年度比

(%)

前年度比

(%)

民 営

4,096

4.9

3,971

3.1

3,830

3.6

3,665

4.3

公 営

1,607

3.4

1,575

2.0

1,529

2.9

1,489

2.6

合 計

5,703

4.5

5,546

2.8

5,359

3.4

5,154

3.8

(単位:百万人)

表A 輸送人員の推移 (注2)

グラフ@ 乗合バス輸送人員の推移 (注4)

 

 

 

(4)収支状況

道路運送法第9条2項1号によって、適正な利潤を得られる程度の運賃体系が設定されているのにもかかわらず、表Bのように実際には利用者の減少やコストの増大などにより一般乗合バスで黒字の路線系統数の割合は約3割ににすぎず、表Cのように事業者別で見ると平成9年度では民営の21社のみが黒字で、ほか170社とすべての公営事業者32社は赤字となっている。黒字事業者に民営バスが多いのは、大手私鉄系列の事業者が大都市を中心にした採算の取れる基幹路線を抱え込んでいるためであり、一方、公営バスが赤字経営であり経常収支率が悪いのは、であるのは、第4章で後述のように収入におけるコストの割合が高いことが大きな原因と考えられる。公営バスの従業員は地方自治体に所属する公務員という位置付けであり、民間企業に比べ雇用関係が硬直化しているため人件費の占める割合が民営バスに比べ高いからである。また自治体直営であるだけに住民福祉の観点から不採算路線を抱え込まざるをえない状況も一因である。

 

系統数

営業収入

営業費用

営業損益

公営

黒字系統

1,162 (3%)

700

577

123

赤字系統

4,179 (11%)

1,621

2,390

769

5,341 (14%)

2,321

2,967

646

民営

黒字系統

10,560 (28%)

3,548

2,642

906

赤字系統

22,251 (58%)

3,420

4,955

1,535

32,811 (86%)

6,968

7,597

629

合計

黒字系統

11,722 (31%)

4,248

3,219

1,029

赤字系統

26,430 (69%)

5,041

7,345

2,304

38,152 (100%)

9,289

10,564

1,275

(単位:億円)

表B 平成8年度 全国の乗合バス事業の系統別収支試算 (注5)

 

収入

支出

損益

経常収支率

(%)

事 業 者 数

黒字

赤字

民営

7,363

7,982

619

92.2

21

170

191

公営

2,508

3,171

663

79.1

0

32

32

9,871

11,153

1,282

88.5

21

202

223

(単位:億円)

表C 平成9年度 収支状況の推移  (注2)

 

脚注

 2 運輸省ホームページ「乗合バスの収支状況について」

(http://www.motnet.go.jp/KOHO98/NORIAIBUS_.htm)

 3 日本のバス名鑑・路線バス編(日本バス友の会) 241ページ

4 運輸省ホームページ「乗合バス事業の規制緩和、生活路線維持についての検討状況

 〜運輸政策審議会自動車交通部会バス小委員会中間報告〜」

(http://www.motnet.go.jp/koho98/bustax2-1_.htm)

 5 同上 (http://www.motnet.go.jp/koho98/bustax2-1_.htm)

 


第2章 過疎バスの路線維持政策

 さて、具体的に過疎バスとはどういうものか。乗合バスの採算というものは1kmあたりの平均乗車密度によって計ることができる。一般的には15人という数字が基準となり、それ以下の乗合バス路線は不採算路線であるといわれている。つまり、過疎バスというのは平均乗車密度が15人以下であり、なおかつ他に代替すべき公共交通機関の存在しない過疎地域を運行する路線バスといえる。

 

(1)過疎バス維持政策の歴史

 急激なモータリゼーション化にともない昭和40年代前半をピークとして乗合バスの利用者数が頭打ちから減少傾向を示すにあたって、バス事業者の赤字が急激に拡大し、休・廃止される路線が続出、“地方バスの危機”といわれるようになった。

ここでまず、過疎バスを定義するのに必要な“生活路線”についてまとめてみる。生活路線とは観光を主目的としたものや高速バスなど都市間を結ぶ路線以外の、通勤・通学・生活のために主に沿線地域住民のために利用される路線バスのことをいう。生活路線は平均乗車密度と運行回数によって以下のように3種類に分類される。

第1種生活路線・・・平均乗車密度が15人以上、もしくは1日の運行回数が11回以上の路線

第2種生活路線・・・平均乗車密度が5〜15人でかつ1日の運行回数が10回以下の路線

第3種生活路線・・・平均乗車密度が5人未満の路線

(『現代の交通政策を問う』57・70ページより作成)

 第1種については地域住民にとって必要な交通手段であり、事業者自らの採算において路線を維持すること、と定められている。一方、第2種及び第3種は路線単独では赤字であるが、都道府県知事が必要と認めた路線であり、運行費の補助などを通じて維持していくべき路線とされている。

 乗合バスに対する公的な支援政策は、1966年度から離島や辺地などを対象にした車両購入費補助から始まった。1969年度には赤字の一部を補助する路線維持費補助が追加され、翌1970年度には民営バス廃止後の市町村代替バスについての車両購入費補助が始まる。

 1972年度には地方のバス存続運動に応えるべく“地方バス路線運行維持対策要綱”がとりまとめられ、第2種生活路線に対して都道府県と国が赤字額を補助するという制度ができた。これにより、都道府県を主体とする現在の補助制度の骨格が形成されたといえる。

 1975年度からは、それまで補助制度のなかった第3種生活路線についても補助制度が定められたが、1980年度からは第3種生活路線の補助を3年間でうち切るという方針が決まり、国が住民の足の確保という責任を放棄するということで大きな問題とされた。

その後、1985年度には補助金の算定基準など若干の手直しがされたが、基本的な枠組み

は維持されながら現在まで至っている。

 

(2)過疎バス維持政策の現状と問題点

 現在の地方バス路線運行維持対策要綱は、以下の通りである。

補助対象の事業者・・バス事業で赤字であり、かつ配当率が8%以下の事業者に限定

第2種生活路線

第3種生活路線

(『現代の交通問題』205ページより作成)

 第3種生活路線について市町村の負担割合が多いのは、路線沿線の市町村にも欠損補助の分担をさせることにより危機感を持たせるとともに、受益者負担の割合を多くする意味あいがある。さらに第3種に指定されると3年間以内に第2種へ復帰しなければその時点で補助は打ち切られてしまうという厳しい条件がついており、無制限に路線維持のための補助は受けることができない。すなわち、事業者としては路線の廃止という手段をとるしかなく、その後は地元の自治体が代替バスなどを模索せざるをえない。

 これまで、地方バス路線維持費補助に基づいた国と地方公共団体合わせての補助金の額は表Dのようにおよそ200億円程度の金額で推移しているが、これだけの金額をもってしても表Aのように1200億円にも及ぶ赤字を穴埋めするにはいたらず、兼業部門の収益や資産処分をしたり、累積赤字として処理している。また地方自治体独自の補助金などを頼りにしているケースもある。つまり、過疎バスを維持するための政策としての路線維持費補助は、赤字をカバーできないほど不十分なものであるといわざるをえない。

現在のバス事業の欠損補助制度は、「路線補助の名称を掲げながら、実質は赤字バス事業に対する事業者補助という性質を持つこと」(注6)に限界がある。つまり、赤字路線において事業者が経営努力をすることによって黒字に転換されると、補助金が受けられなくなってしまうという問題である。それは、公的補助がうち切られることによる収入減少分が他の路線へとしわ寄せされ、運賃を上乗せせざるをえないという状況に陥らせることになるからである。また、このような制度では一時的には経営効率化努力を高め公費の節約効果を期待できるが、限界がある効率化を上回るペースでの乗客の減少などで再び補助対象に転落してしまうと状況の改善はほとんど不可能になってしまい、さらに多くの補助金を投入せざるをえない状況に陥ることが予想される。さらに、他の兼営する事業で利益をあげ、会社全体としての経営がうまくいっている場合、つまり配当率が8%を超えるような場合にも補助は受けられない。

 つまり、現行制度はいわば「優良事業者(の乗客)に対し補助制度上のペナルティを課す」(注7)という問題をはらんでいる。

 

年度

 5

 6

 7

 8

 9

9年度実績の内訳

 2種

 車両

 3種

99

101

89

87

88

73

8

7

都道府県

100

104

90

87

88

73

8

7

市町村

40

40

24

23

27

13

0

14

合 計

239

245

203

197

203

159

16

28

(単位:億円)

表D 最近5年間の地方バス路線維持費補助制度による国及び地方公共団体の補助金推移 (注8)

 

(3)廃止代替バス

 第3種生活路線に認定されて3年が経過し、輸送人員数が向上せず第2種路線へ復帰できなかった場合には補助金が打ち切られてしまう。事業者としても公共性という論理だけで大きな赤字を抱えるわけにもいかないので、路線の廃止を選択するしかない。そのため、第3種生活路線の路線の沿線自治体では、事前に輸送人員の調査日を知らせ路線を維持させるための利用を呼びかける、いわゆるサクラ乗車を勧めるケースもある。しかし、そのような努力もむなしく輸送人員数の向上がなされず、事業者による路線の維持が困難になったときは、廃止をそのまま待つか、あるいは自治体自らが路線バスを運行するしか方法はない。ここでは、自治体がとるべき最後の手段である廃止代替バスについて簡単に整理しておく。

 

@2つの廃止代替バスの方法

 自治体が乗合バス事業を手がけるにあたっては、いわゆる20条バスと81条バスといわれる2つの方法がある。

 20条バスとは貸切代替バスともよばれる。地方自治体は一般乗合旅客自動車運送事業者ではないから、乗合バス事業を直接手がけることはできない。しかし、道路運送法20条の「一般貸切旅客自動車運送事業を経営する者は、次の場合を除き、乗合旅客の運送をしてはならない。一.(省略)、二. 一般乗合旅客自動車運送事業者によることが困難な場合において、運輸大臣の許可を受けたとき」という規定を利用し、乗合バス事業者では路線を運営できない、すなわち撤退する路線において、地方自治体が貸切バス事業者に路線の運行を委託し、路線を維持するという方法である。

一方、80条バスとは自主運行バスともよばれ、道路運送法第80条1の「自家用車は、有償で運送のように供してはならない。ただし、災害のため緊急を要するとき、または公共の福祉を確保するためにやむを得ない場合であって運輸大臣の許可を得たときは、この限りではない」というただし書きの部分の解釈によって、公共の福祉の一環として公共交通を自治体自らが運営する方法である。

A廃止代替路線の現状と問題点

20条バスは、輸送規模が大きくない路線では地元企業振興のためタクシー業者などに委託して小型バスを運行させる例もあるが、多くの場合乗合バス事業者は貸切バス事業も兼営しているので、同じ事業者に委託されることが多い(注9)。81条バスは地方自治体自らが小型バスを購入もしくはリースし、運転手は自治体職員の中で免許保有者を配置転換させたり、新たに委嘱して運行させる。

20条バスは同じ事業者に委託されると、路線や停留所、運行ダイヤの設定について転換前を踏襲する例が多い。限られた委託金で運行させるため、民間企業である委託事業者はコスト意識を徹底させたスリムな運営を期待できる。しかし、外見は代替前とあまり変わらないので利用者からも変化に気づきにくく、“マイ・バス”の意識を高揚させる効果はあまり期待できない。さらに廃止前の不便なままのダイヤが温存され、真の利用者のためのサービスが提供されない場合もある。

80条バスは自治体自らが運行するので地元利用者のニーズにあった運行体系を“政策”として作ることができるが、それが逆に必要のない路線・ダイヤの設定などの過剰サービスにつながったり、コスト意識の低下を生ずる可能性があり、さらに収支を償うために総じて高運賃となるケースが多い。また、自家用車で運行するので、運転手も営業用の第二種自動車運転免許を取る必要もなく、事業者としての安全運行管理が不充分になる恐れがある。

また、どちらの方法にも共通する問題として、代替路線以外に新たに路線を設定した“単独運行路線”は国からの補助金の対象外であるので、利用者のニーズにこたえようとすると逆に負担となってしまうという問題点が指摘されている。(注10)

かつては80条バスが主であったが、1980年に廃止代替バスについても補助金が交付されることになったので、最近はバス運営のノウハウを持つバス事業者や地元のタクシー事業者に委託する21条バスに転換させるケースが多くなっている。

 

脚注

  6 『現代の交通問題』 207ページ 2行〜4行

  7  同上     212ページ 3行〜4行

 8 運輸省ホームページ「乗合バス事業の規制緩和、生活路線維持についての検討状況 

〜運輸政策審議会自動車交通部会バス小委員会中間報告〜」

(http://www.motnet.go.jp/koho98/bustax2-1_.htm)

 9 『現代交通政策』 161ページより

10 『交通権 現代社会の移動の権利』 156〜157ページより

 

 


 

第3章 需給調整と規制緩和

 これまでの政策の主眼はもちろん乗合バスの保護・育成にあったのは間違いない。乗合バス事業者の経営が悪化して公共交通体系が崩れてしまうのを傍観するわけにはいかないので、厳しい参入規制など需給調整といわれる事前指導型の政策を行ってきたのであるが、規制緩和の波が交通分野にまで及ぶにつれて、2001年度までに乗合バス事業にも市場原理を導入しようと需給調整を撤廃する方針が定まっている。しかしながら、生活路線の存続に大きな影響も与えることになるので、現在慎重に検討がなされている段階である。ここでは、これまでに運輸省運輸政策審議会で行われた議論の内容を元に、まとめていく。

 

(1)需給調整政策と問題点

 需給調整とは、安定かつ良質な運輸サービスを供給するため、これまで交通需要と供給のバランスを判断し、新規参入について一定の制限を行うことである。すなわち運輸政策審議会第16回総合部会答申において、

によるサービスの確保を通じて安全かつ良質な運輸サービスを安定的に供給し、国民の利便の確保を図ることを目的として行われてきたものである。この政策は、右肩上がりの経済に対応した適正な輸送力の確保及び運輸サービスの質の確保等を図る上で効果があった

(注11「生活交通の維持方策に関する基本的な考え方について」より)

と述べられているように、高度成長にともなう生活水準の向上により国民の行動範囲が広域化し、必然的に乗合バスなど公共交通に対する需要の増大するにおいては、需給調整は機能を果たしてきた。

しかし、社会全般において事前規制から事後チェック型への移行を進める規制緩和の波が交通分野にも押し寄せるにあたって、需給調整政策は既存のサービスの質の確保を図るという面で引き続き機能しうるとしても、

等が阻害され、結果的に利用者の利便の確保が困難になるおそれも出てきた

(注11「生活交通の維持方策に関する基本的な考え方について」より)

という弊害が指摘されるようになっている。

 

 

つまり、運輸政策審議会自動車交通部会バス小委員会の中間報告において、

  1. 乗合バス事業者間の競争が制限的となり、結果として非効率な事業者も温存されてきたのではないか
  2. 厳しい競争にさらされている他の事業分野の民間企業と比べて、全般的に見て真に効率的な事業経営がなされてきたのか
  3. 事業者の創意工夫による新しいサービス提供や低廉な運賃提供、さらには弾力的な運賃設定など利用者ニーズに的確に対応してきたのか
  4. 本来民間企業として営まれている乗合バス事業者に対して、公共性の名のもとに、現在のような形での内部補助のシステムを半ば強制してきたため、結果として営利サービスになじまないような赤字路線を多く抱えさせることとなり、事業意欲を減退させてきたのではないか

(注12『I.今日までの乗合バス事業規制の考え方』より)

という4つの問題点が指摘されている。

 1.においては限定的に競争が起きている都心部(例えば各始点から運行される系統は1社独占であっても、駅から続くメインストリートは各社のバスが乗り入れている状態など)、または競争を起こす必要がないほど需要の少ない過疎地域においては個々の視点から見て問題とすべきではないないだろうが、多くのバス事業者はエリアごとに区割りがされており、全社的な競争状態にないことは事実である。ただ、これまで「競争をなくし事業者の経営を安定させることによる公共交通の維持」を主眼においていて、ある程度の成果はあったことも事実である。

2.も確かに真に効率的であったかどうかは疑問が残るのであるが、乗合バス事業は第4章で後述のように人件費が原価の3/4を占める労働集約的な産業であり、バスの運転手なくしては運営できないのであるから、効率化の余地はあるとしてもこれを劇的に改善することは不可能であろう。

3.については運賃・サービスにおいて利用者の不満も高く、ニーズに的確に対応してきたとはいえない。しかしその動きは各地で少しずつ進みつつある。

4.については、乗合バスは営利サービスでもあり公共サービスの役割も担うという不可分な2面性を同時に持っていることが、大きな問題点である。これまでの内部補助システムを中心とした考え方は、乗合バスを営利事業であるという認識にウェイトを置き、できるだけ公的な補助を必要としない状況を維持しようとしてきたわけであるが、逆に都市部の黒字路線に過大な負担をかけ、競争力の低下をまねいてしまったのである。(注13)

 

 

 

(2)規制緩和の論点

 そこで、規制緩和によるバス事業への本格的な市場原理の導入が検討されるようになってきた。

 現状のバス路線の独占という形態を崩し、複数の事業者が競争できる環境を作るため参入規制の撤廃が考えられている。参入規制をなくす方法として、需給調整の廃止を全国一律に実施する方法と、輸送需要が大きな地域と小さな地域に分けて段階的に実施するという2つの方法が考えられる。

まず、前者の全国一律の実施という方法は、「『営利サービスとして成り立つ分野』か『営利サービスとしては成り立たない分野』かについて、乗合バス事業者の自主的な経営判断に委ねるという意味で、規制緩和の本来の趣旨に最もかなうもの」(注14)であるとともに、段階的に実施する方法に比べ適用地域と非適用地域との間での不公平や地域間の複雑な調整問題等が発生しないというメリットがある。しかし、この方法は採算性の悪い路線からの撤退が短期間に相当数生じて、住民の日常生活に支障をきたす地域が多くなるという問題がまず浮かんでくる。これに対しては、

  1. これまでにも赤字路線は相当整理されてきており、現在残っている路線は企業経営の観点から維持されてきているものも多いと考えられるので、短期間に相次いで廃止されるようなことはないのではないか
  2. 今後、子会社化、管理の受委託等の経営効率化や輸送需要に見合った路線の再編整理、新たなサービス提供が実施されれば、収支の改善も期待でき、営業損益上の赤字はそれほど大きくならない
  3. 仮にに現状の乗合バス路線の廃止が生じても、乗合タクシー等新たな輸送形態の導入やスクールバス等との一体的運行などの工夫や、それらを導入しやすくするための方策を検討し、地方公共団体や住民の協力を得て実施していけば、利用面での不便はそれほど大きくならず、現在の乗合バス路線の維持にこだわる必要はない

(注15『III.今後の乗合バス事業の規制緩和及び生活路線維持についての

考え方に関する主な議論』より)

との反論がある。

 後者の段階的実施については、あくまで例外的にとられる手段ではあるけれども、乗合バス路線廃止の急増を防ぎ、生活交通の維持のための公的補助の所要額を一定程度に抑制することができる効果が期待される。しかし、地域を区分・選定する指標等を客観化することが難しく、また、どのような決め方をしても越境路線の取扱いや、実態の変化に基準を柔軟に対応させられるのか、不透明である。また、このような地域の選定にあたっては、地方公共団体の判断が尊重されることになろうが、特段の手当てなく、地方公共団体の財政負担が増加するようなことが懸念されれば、規制緩和対象地域として選定されることに消極的となり、実効性が上がらないのではないかという問題も予測される。

 上記のように、どちらの考え方にもメリット・デメリットが存在しており、どちらの方法をとるにしても、デメリットをある程度埋めることができるような施策は必要になる。

 

(3)生活路線維持のための課題

しかし、参入規制と表裏一体の問題である退出規制においても、「事業の参入について規制緩和を行うならば、事業からの退出についても、それに見合った規制緩和を行うことは当然のことであり、それが事業全体の活性化につながる」(注11)ことも見逃すことはできない。ただし、退出の自由が無制限に認められれば多くが赤字である生活路線が廃止される可能性がきわめて高く、適切な公的補助のないまま退出を容認することは合理的ではない。また、乗合バスの公共性という観点からも、事業者の一方的な退出も適切でないといえる。

 

@退出規制撤廃にともなう措置 

現在、退出のルールづくりが検討されているが、おおむね以下のような議論がなされている。

  1. 乗合バス事業者は自社の経営上の判断として、退出を希望する路線を選び、国または地方公共団体にその旨を通知する。退出後の当該地域住民の生活交通の在り方を関係者が協議する期間を要するため、事業者の退出の通知は、退出の一定期間前に関係者になされ、かつ、この期間が終了するまでの間は運行が継続されることが必要であろう
  2. 退出後の生活交通の在り方(例えば、当該路線を維持するか否か、維持する場合の方策等)を関係者で協議する場合、都道府県が主体となって、関係地方公共団体、事業者、国を主たるメンバーとする地域協議会(仮称)を設置し協議することが適切であろう。また、この協議会での検討状況について、広く住民に周知し、理解を求めることが適当である
  3. もちろん、地域協議会での協議結果が乗合バス事業者の経営判断を拘束することも適切ではなく、例えば、地方公共団体がバス運行の継続を希望して一定の公的補助を提示した場合でも、事業者の経営判断として十分でないと判断する場合には、当該事業者の退出は自由であることが適切であろう

(注16『III.今後の乗合バス事業の規制緩和及び生活路線維持についての

考え方に関する主な議論』より)

すなわち、赤字の乗合バス路線の維持するには国と地方公共団体の協議によって公的な支援がなされることが必要だが、一定の公的補助がなされる場合でも事業者の過重負担になるような場合は、撤退もやむを得ない措置であり、別な形式での維持を検討する必要がある、ということである。確かに、参入規制の撤廃は黒字路線の利益を減少させ、内部補助システムを弱体化させるものであり、赤字路線を現在のまま抱え込ませることには限界がある。

A公的補助のあり方

 そこで、乗合バスの維持のために行政の果たすべき役割は大きい。事業者にすべて任せるのではなく、維持すべき路線の形態・範囲、輸送サービスの水準等については、地域の実情や住民のニーズに通じている地方公共団体が主として決定することが適切であり、例えば、事業者が退出を希望する路線のうち、地域住民の安定した生活の確保のために輸送サービスを引き続き維持する必要があると判断されるものについては、地方公共団体が生活交通と判断した上で、事後の対策を講じることが適切であろう。

 さらに、今後何らかの公的支援が必要になる乗合バスが増加すると予想されるが、地域の足を維持するための地方財源の増加が大幅となることが予測されるため、地方財源の手当てについての検討が行われるべきである。一方、国家財政が厳しい状況ではあるが、国として維持することが適切であると考える輸送サービスについては支援する方向を基本としつつ、さらなる制度の拡充が求められている。

 

脚注

11 運輸省ホームページ「運輸政策審議会第16回総合部会答申」

(http://www.motnet.go.jp/koho98/UNSOGO16-21_.htm)

12 運輸省ホームページ「乗合バス事業の規制緩和、生活路線維持についての検討状況

 〜運輸政策審議会自動車交通部会バス小委員会中間報告〜」

(http://www.motnet.go.jp/koho98/BUSTAX2-1_.htm)

13 『現代の交通問題』 208ページより

14 同上 (http://www.motnet.go.jp/koho98/BUSTAX2-2_.htm)

15 同上 (http://www.motnet.go.jp/koho98/BUSTAX2-3_.htm)

 


 

第4章 これからのバス事業のありかた

 規制緩和が避けられない現状において、今後の過疎バスについては、現状を放置していたのでは環境が好転するどころか悪化していくのは間違いない。そのためにはバス事業者・国・地方自治体・利用者の四者がそれぞれ有機的に対策を模索していかなければならない。

 

(1)バス事業者側の課題

@サービス改善

過疎バス路線はそれまでの営業実績と営業コストをふまえてバスの本数を必要最低限まで減らし、もしくは最低限以下でしか運行しないケースがままある。それが“利用者のバスを使いたい”というインセンティブを著しく減少させている。この点に関しては第三セクター鉄道の例を参考にできるのではないか。

国鉄もしくはJRから引き継がれた第三セクター鉄道各社は転換前を大幅に上回る本数の列車を運行させ、もしくは駅を増設することによって利用者の増加をなしえることに成功したケースが多い。単に開業ブームとかたづけるのではなく、これは赤字路線の経営に苦しんだ旧国鉄が列車を増発して利用者増加を図り赤字を減らそうとする積極策ではなく、安易に本数を減らすことによってコストを削減し赤字を減らそうとした消極策をとっていたためで、旧国鉄時代の不便なダイヤを刷新し、いつでも乗れるようなダイヤを編成したことによって、転換にともなう運賃の上昇というマイナス要因を上回るだけの沿線住民の利用インセンティブが大幅に向上した結果である。

もちろん、鉄道とバスは利用体系が異なるので単純に当てはめることはできないが、潜在的な利用者層を獲得することが必要な公共交通において、ある程度に参考になろう。バスの場合は鉄道と違って大規模な設備を自前で持つ必要性が少ないので、利用実態に合った系統の設定や停留所の設置がしやすい。過疎バスについては多くの路線において停留所以外でも乗降ができる自由乗降バス、いわゆるフリーバス区間が設定されているので停留所の多少が利用者数の大幅な増加につながるわけではない。そのため利用インセンティブ向上のためには利用しやすいバスダイヤの設定が不可欠になってくる。もちろんどのような工夫をしても利用者数の向上が期待できないほどの人口密度なりの利用状況であれば走らせるだけ赤字になるのが明白なのでむやみに取るべき方策ではないが、潜在的な利用者が見こめるにもかかわらず不便なダイヤのせいで利用インセンティブが働かない路線では、運行本数の増加という方法を考えるべきであろう。

 

また、利用者層の大きな部分を占めるのが老人やからだの不自由な人、子供などの弱者であるバスにおいて、バス自体がそういった層にやさしくない乗り物になっている点も見逃せない。まず、現在のバスは車床が高く、乗りこむにあたって一般的に2段のステップを使わなければならないが、そのステップは高く、乗り降りの際には非常な苦労や危険が伴う。これを改善するために、現在ノンステップバスやワンステップバスなど車床が低く道路からそのまま乗りこめ、あるいは1段で済むような乗りやすい低床式バス、あるいはスロープを設け停車時に車高を低くする設備を持った車いす対応バスの導入が都心部を中心に始まりつつある。これら低床式バスはふつうのバスに比べコストが高く導入は一部に限られているが、利用者が交通弱者に偏りがちな過疎バス路線にも積極的に導入すべきであろう。現在、複数の事業者が共通規格の低床式バスを発注することによるコストダウンを図る動きがあり(注16)、特に老朽化したバスに偏りやすい過疎路線にも人にやさしいバスが導入されることになれば、利用インセンティブの向上に大きく役立つだろう。

 

A運賃体系の再検討

また、バスの運賃は他の公共交通機関に比べ一般的に運賃水準が高いといわれている。適正な利潤を得るために認可された運賃設定ではあるが、それが高コストとの印象を利用者に抱かせ、利用者の減少、経営悪化によるさらなる値上げ・・という悪循環を繰り返すことになり、乗合バスの危機的状況の原因ともなっている。

しかし全国各地で距離区分を細分化し初乗り運賃を100円に下げ短距離客を取り込もうと試みる事業者が増えており、減収分を乗客増でカバーできるようになったケースが報告された。また、さらにこれを進め初乗りに限らず運賃体系の値下げにまで踏み切った事業者も現れている。(注17)また、定期券所有者に同伴する乗客に運賃を値下げする“環境定期券制度(各事業者によって名称は異なる)”を設け利用者の増加を図る事業者も増えてきている。利用者が少ないから運賃が高くても仕方がない、という安易な考え方ではなく、利用者を増やすための運賃のあり方を検討する必要があるだろう。

 

B事業者自体の改革

乗合バス事業は、表Eのようにその経費の70%以上を人件費で占める労働集約的な産業である。「バス運営に必要とされる労働力確保は、高水準かつ固定的人件費を発生させる」(注18)ため、人件費の削減はそのままコストの削減に直結する。そのため、民営バス会社では乗合バス事業をエリアごと、もしくは不採算路線別に新たな会社を設立して事業を移管する“分社化”が進められている。これは、硬直的な労働者の給与体系を改めるため、分社することによって事業者規模を細分化し、規模に合った給与体系を設定することによって人件費を削減するとともにより、地域に密着した事業を展開することを期待するものである。また、公営事業者においては現業部門の労働者もその自治体の地方公務員給与体系に準じた水準になっており、これが民営事業者に比べより人件費の経費に占める割合を多くさせることになり、経営を圧迫させている。そのため、現業部門の労働者の給与水準を民営事業者の水準に引き下げるといった改革も始まりつつある。

しかし現状の乗合バス労働者は、各事業者で合理化を進めるために一人あたりの労働拘束時間が増えており、労働条件は決して恵まれたものではない、その上さらに分社などによって給与水準まで低下させることは、労働者の負担が増えることにもなる、とも指摘されており、労働組合からの反発も覚悟しなければならない。

 

費 目

収入に対する割合

原価に占める割合

民営

公営

計(平均)

民営

公営

計(平均)

人 件 費

79.3

95.5

83.4

73.1

75.5

73.8

燃料油脂費

5.7

4.3

5.4

5.3

3.4

4.8

その他諸経費

23.4

26.6

24.2

21.6

21.1

21.4

108.4

126.4

113

100

100

100

(単位:%)

表E 平成9年度 人件費及び諸経費の収入に対する割合及び原価に占める割合 (注19)

 

(2)適切な地元行政の施策の必要性

しかし、これら事業者側の努力のみで乗合バス問題が解決されるほどやさしいものではない。特に経営の厳しい事業者では新たな設備投資どころか現状の運賃でもやっていけないので、新たな施策を打ち出せぬままじり貧の状況に陥るケースもある。「自家用車と乗合バスのあいだには一種の上級材と下級材にあたる関係が見られるから、乗合バス側のサービス改善によって自家用車からの利用再転換を実現することは一般的にいってかなり困難である」(注20)とも指摘されており、公共交通機関であるバスを優先させる行政の施策が求められている。

行政がバス事業者と共同でバスの日などを設け公共交通機関を利用しようというキャンペーンを行っていたりするが、この効果はほとんど現れていない。利用者はスローガンで動くのではなく、より現実的な方法が模索されよう。

すでに定期券購入補助などは多くの自治体で行われており、利用者の金銭負担を軽減させることによる利用継続を図っている。また国の地方バス路線維持費補助制度のほかに自治体が単独で補助金を支出し、路線維持のため直接的なサポート続けるケースもある。これを進めてしまえば最終的には自治体が直営するバスになってしまうが、自治体の費用負担が大きすぎるのでこれは最終的な手段といえよう。つまり、廃止後の方策を考える治療より廃止させないための予防に重点を置いた施策を取る必要がある。

 

(3)国の支援政策の見直し

平成8年度において、すべての路線の営業収入から営業費用を引いた損益は表Bのようにマイナス1200億円にも上っている。つまり、毎年200億円程度の補助金では欠損を埋めるには全く不十分であり、この傾向は今後とも続くであろう。ローカル交通の分野において採算を重視した市場競争的な考え方はもとより通用しない。つまり、国は過疎バスを営利事業の一側面ととらえるのではなく、社会福祉と同様に住民の生活に最低限必要なミニマムととらえるのであれば、補助システムを質・量ともに拡充させていかねばならない。しかし、そのミニマムを国が画一的に全国一律に求めることは慎重を要する。地元が求めるミニマムの形は当然に異なっているからであり、「『自らの地域における交通体系は当該地域の住民が選ぶ』という住民自治の原則に立って、一定の地域運輸に関する政策立案と管理権限を総合的に地方自治体に移管」(注21)することも視野に入れた抜本的な改革が必要であろう。今後、生活路線維持のために国・都道府県・地方自治体と事業者を交えた協議会に基づいて話し合いが行われるであろうが、できるだけ地域の意向に沿った形での支援策がとられることが望まれる。

 また、公的補助にのありかたについてもその効率化を図るための枠組みを整備すべきであるとの意見がある。例えば、補助金の額を複数の事業者に入札させ、より低い金額を提示できた事業者に公的補助を行う補助金入札制は、事業者の経営努力をより活性化するとともに、新規の事業参入を期待できるといわれている。この制度はすでにイギリスで実施されていて、「小規模の事業者が入札に応じるケースに加えて、既存大手が0ポンドで落札するケースも多かった。後者のケースは、事業者が直接の費用と収入のみから見れば不採算である路線を(他者に取られるよりは)維持しようとする、防衛的企業行動への動機づけが強力であることを示している」(注22)という報告がなされていることからも、過疎バス路線維持に効果的であると期待されている。

また、乗合バスにこだわらず、文部省が管轄するスクールバス、厚生省が管轄する福祉バス・病院バスなど特定の行政目的で補助されている交通サービスとの一体的な運用を促進するため各省での連携をより一層進めるべきであろう。(注23)

現在の“地方バス路線維持費補助制度”とは、運輸省が定めた単なる制度に過ぎないという根本的な問題がある。生活路線維持を制度的にバックアップし、充実させる法律の整備が求められる。(注24)

 

 (4)バス利用者側の意識改革

最後に、利用者からも公共交通機関としてのバス路線について考え、行動していかなければならない。バスは住民にとって当然あるべきもの、ととらえられがちである。しかし、事業者側にとっては営利を目的とした行動を取ろうとする以上、赤字路線を内部補填で維持するのにも限度がある。2001年以降の規制緩和で今まで以上に赤字路線からの撤退の動きが活発になるだろう。そのため、利用者を含めた地域住民からも積極的にバスを利用する運動を進め、自分たちの足という認識を高めるとともに、事業者に対して積極的な意思表示をする必要がある。たとえ少ないバスの本数でも、それを住民にとって使いやすいような時間帯に合わせるように要請したり、事業者の経営や路線の収支状況などを事業者との意見交換をし現状を理解することによって、利用者側も危機意識を持ちバス路線維持のための盛り上がりを期待することができる。

より積極的に、運行経費の一部を路線沿線住民が負担する利用者クラブ的な組織も考慮されるべきであるとの意見もある(注25)。これは、普段バスを利用しない住民にとっては負担であるが、利用する可能性がゼロではないのだから、例えば水道料金の基本料金にあたる部分を地域で広く薄く負担させることにより、維持を図ろうというものである。

弘前大学の田中重好教授が「(路線バスをシビルミニマムと考えれば、利用者負担ではなく)住民の負担と参加、そして広域自治体連合の枠組みの中で運行維持を検討しなければならない」(注26)と話しているように、これまで事業者と行政にまかせきりだった過疎バス問題について、利用者を交えた真剣な協議が求められよう。

 

脚注

16 日本経済新聞 18面 1997年12月4日付夕刊

17 河北新報 社説 1998年9月28日付朝刊

18 『現代の交通問題』 203ページ 13行〜14行

19 運輸省ホームページ「乗合バスの収支状況について」

(http://www.motnet.go.jp/KOHO98/NORIAIBUS_.htm)

20 『現代の交通問題』 201ページ 9行〜12行

21 『現代の交通政策』 69ページ 13行〜15行

22 『現代交通政策』 161ページ 21行〜25行

23 『現代の交通政策を問う』 69ページより

24  同上 67ページより

25 『現代の交通問題』 212ページより

26 日本経済新聞 31面 1998年9月17日付朝刊

 

 


 

おわりに

 

1980年後半以降、“交通権”という概念が認知されるようになってきた。これは、交通権を憲法25条の生存権と22条の移転の自由などを結合し、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利の一部ととらえようという考えで、そのためには乗合バスが利用できる環境も権利として認められるべきである、というものである(注27)。この考え方は国鉄の分割・民営化に反対するための理論として用いられたが、民営化によって危惧されたローカル線廃止は民営化後10年が経過しても3つの線区(注28)しかされなかったことにより、効率を追求する民間的経営が即地方交通の危機とはならないことは実証された。しかし、この考え方そのものは非常に重要なものである。すなわち公共交通機関としての鉄道にはバスという費用節約的な代替手段が用意されているが、バスにはそれがない。(注29)

乗合バスは“最後の公共交通”とも言われる。つまり、陸上交通において自力で他地域にアクセスすることのできない人間が頼ることのできる最後の手段である乗合バスは、あるという事実だけでも地元住民に大きな存在感・安心感をもたらす効果がある。非効率だからという経済面のみでとらえるのではなく、心理的な面をも考慮する必要があるだろう。

一方で、無原則に交通権をふりかざすことは公共交通に適さないレベルの需要しかない地域までカバーせねばならず、非常に不効率な運営を強いられ、都市部との悪平等、つまり公的資金の無駄遣いが生じるとの指摘もある。

乗合バスの存在は、都心部や郊外地域ではエネルギー・環境対策として、あるいは空洞化した中心市街地の活性化手段としても見なおされている。ITS(Intelligence Transit System)という高度道路交通システムの開発が進められており、都心部において乗合バスを基幹交通手段にするための研究が進められているし、パークアンドバスライドといった市街地周辺に駐車場を作りそこから中心部へのアクセスを乗合バスに移行させることにより渋滞の緩和や自動車排気ガス公害を低減させようという試みは大都市を中心に始まっている。また、地元商店街や自治体が運行費用を負担して100円ワンコイン、あるいは無料で中心市街地を循環する買い物バスを運行する都市も増加し、利用者の反応も上々である(注30)。このように、需要が見こめるような地域で適切な政策・活性化手段がとられれば“乗合バスの復権”はある程度果たされるだろう。

しかし、過疎地域においては将来の展望は決して明るくはなく、抜本的な解決法も存在しない。それゆえ今後は福祉的な側面を重視した対策が求められる。

 

運輸政策審議会の乗合バスに関する規制緩和及び生活路線維持のための方策に関する答申は平成10年度内になされる予定である。21世紀に向けて、今後とも乗合バスが存続されるような政策が施行されることを願ってやまない。

 

脚注

27 『喜怒哀楽の交通学』 165ページより

28 深名線(名寄−深川)、函館本線上砂川支線(砂川−上砂川)…JR北海道

    美祢線(大嶺−南大嶺)…JR西日本

29 『現代の交通問題』 210ページより

30 釧路市では1998年6月より通産省の商店街駐車対策モデル事業の一環として

   市街地を循環する無料バスが運行されており、好評を得ている。

北海道新聞道東版25面 1998年12月4日朝刊

 

 


 

参考文献

 

本稿の執筆にあたり、章末に記載したものも含め、以下の書籍を参考にした。

 

<統計資料>

運輸白書 平成9年度版 (運輸省)

 

<書籍>

『都市と地域の交通問題』 編 安部誠治/自治体問題研究所 (自治体研究社)

『現代日本の交通産業』 編 中西健一 (晃洋書房)

『現代の交通問題―交通政策と交通産業―』 編著 中西健一 (ミネルヴァ書房)

『日本のバス名鑑・路線バス編』 (日本バス友の会)

『喜怒哀楽の交通学』 著 日比野正己 (大月書店)

『現代の交通政策を問う』 編著 平井都士夫・柴田悦子 (法律文化社)

『現代交通政策』 編 藤井彌太郎・中条潮 (東京大学出版会)

『交通権 現代社会の移動の権利』 編 交通権学会 (日本経済評論社)

 

<雑誌>

『過疎交通の切り札 市町村バスの動向』(鈴木文彦) 

鉄道ジャーナル1995年4月号 (鉄道ジャーナル社)

 

<インターネット>

運輸省ホームページ(http://www.motnet.go.jp/