各部の解説設計の沿革cadによる展開図

 そもそも 飛行船の製作は われわれ青年部近畿ブロックの会議で 酒を酌み交わしながらの席で キャンバスフェアへ向けての夢を語り合う中で 「夢の夢」として生まれ 会員の情報収集の結果 Xクラレの前川技術部長が飛行船にたいへんお詳しいという事がわかり ブロック研修会でお話だけでも お聞かせいただきたいと お願いしたところ すぐにご快諾いただきました。 飛行船製作から約1年前の 日本テントシート工業組合青年部会近畿ブロック研修会において ご講義いただき その席で 我々が「飛行船を作ってみたいのですが・・・・」という わがままを また2つ返事でお引き受け頂きました。それから 約1年に渡り 前川部長や足立様はじめXクラレの方々、 XスカイピアやX大阪造船所の方々にご指導いただき 無事完成をみました。 この間にお教えいただいたことがらのごく一部ですが みなさんへ受け売りさせていただきます。

構造は 大まかに分けて2種類あります。

硬式構造

有名なドイツのチェッペリン号やヒンデンブルク号のように 軽量な骨組みを用いて形状を保つ構造。

外皮はキャンバス等で形成し軽量ガス(当時は水素で 有名な火災事故を起こす原因になる)はガスバリア性のある内袋(羊の胃袋を縫い合わせて作られた球状の袋)に詰めて何個も並べて搭載されていた。

軟式構造

外皮の膜材の形状を内圧で安定させて形状を保つ形式で 外皮の膜材の性能が飛躍的な進歩を遂げた結果 最近の飛行船はほとんどがこの構造。

この構造の特徴は外皮がガスバリア性能を有する材料で作られ直接軽量ガス(ヘリウムガス)を充填するが、高度の変化による気圧の変動や気温の変化などに伴う ガス容積の変動を吸収するための空気袋(バロネット)を内側に設け これを動力ブロアで一定圧力に保つことで外皮の形状を安定させる。また バロネットにエンジン廃熱を入れて熱気球のように温度による浮力を利用する物もある。

今回製作した軟構造の飛行船についてもう少し詳しく ひけらかしてみよう。
各部の解説

まず、各部分の解説

エンベロ−プ

飛行船の外皮のことで、これにヘリウムガスを溜め、圧力によって形状を安定させるためガスバリア性が高く 高強度で軽量である事が要求される。ちなみに場合によっては内側にガスバリア用フィルム外側に高強度軽量膜材という2重構造で作られる事もある。今回使用した膜材は(株)クラレと(株)スカイピアによって開発されたKS26−200という製品でポリウレタンでエバ−ルフィルムとアラミド系のス−パ−繊維と紫外線除けカ−ボン等をサンドイッチして7層構造で本物の乗用飛行船用の膜材を使用した。

ちなみにガスバリア性能とは俗に言う気密性のことであるが一般のビニ−ル袋等は 一般には空気は漏れないと思われているが微細な穴があいているため少しずつ漏れているそうで それが 水素やヘリウムのように軽量な気体は酸素の30倍から1,600倍も漏れやすいので超気密性でないと 飛んでる間にヘリウムが逃げてしまって危なくて乗ってられないそうです。

KS26−200の諸元は膜厚185μm 重量196g/u破断強度(146/125)kg/3cm

こんな贅沢な素材を使わして頂きました事を感謝しております。

バロネット

バロネットはエンベロ−プ内のヘリウムガス容積が温度変化や天候や高度変化に伴う気圧変化で常時変動するためこれを吸収させるためエンベロ−プ内に空気を溜める内袋のことです。エンベロ−プ同様外気とヘリウムの境目となるためガスバリア性能も同等の物が要求されます。今回製作の飛行船は中央に1個だけですが本物では前後に1個づつ装備しその容量バランスで前後方向の姿勢制御を行うようです。

一般の無人飛行船にはこれを装備していない物も多く高度を上げて破裂する事故も結構あるようです。

バロネットの素材にはKS29−100というエバ−ルフィルムをポリウレタンでサンドイッチした素材を使いました。

KS29−100の諸元は膜厚80μm 重量100g/u破断強度(10/10)kg/3cm

エレベ−タ、ラダ−及び補助スラスタ−

水平及び垂直尾翼は飛行機同様方向性を安定させる安定板の部分からなり水平は上下方向 垂直は左右方向の制御を行う物であるが室内用飛行船の飛行速度を考えると垂直はともかく水平尾翼の舵はその機能を果たす事はなかった。また垂直尾翼も舵よりも補助スラスタ−の方が有効に働いていた。補助スラスタ−は2個装備し左右用にそれぞれ1機ずつ設けられた。このスラスタ−とはあまりなじみのない名前だが大型のフェリ−や客船が狭い港の中などでタグボ−トなしで旋回するために船首付近に進行方向と直角に取り付けられた駆動スクリュ−を呼ぶ名称です。これと同様に室内型飛行船は垂直尾翼に横向きの駆動力を持つファンを装備しています。最初素人考えでスラスタ−は1個で逆転させればいいのにと思ってご指導いただいた(株)スカイピアの草谷様に伺ったところ現在作られている高効率のプロペラは正転時には良く働くが逆転時には極端に効率が悪くて逆転には使えないそうです。なるほど納得致しました。

水平垂直の尾翼は(株)スカイピアの草谷様の製作で発泡スチロ−ルの3次元切削加工品で軽量化のために中空加工まで行う念の入れ様でさすがプロの作りはすごいもんだなあと感心致しました。

バロネットブロア−

バロネットに空気をためてヘリウムの容積変動を吸収することは上に述べましたが この状態では 空気の抜けた風船同様ぶよぶよで押されるとへこんだまま元に戻らない状態です。そこで 飛行船の形状を維持するためにバロネットを一定圧で膨らませておく必要がありこの働きをするのが バロネットブロア−です。軟式飛行船は使用時には常にバロネットブロア−を回しておかなければならないという宿命を持っています。

双発ダクテッドプロペラ

メインの推進駆動装置で左右に各1機あり前後方向に推進角度を自由に変えられるものです。今回使用したものは 高効率高出力の電動モ−タ−に高効率ファンファンフ−ドを装備した本格的なダクテッドプロペラです。

カテナリ−カ−テン

カテナリ−カ−テンは本物の飛行船がゴンドラの重量をエンベロ−プ全体にバランス良く配分し変形を防ぐためのものです。

今回の飛行船にはカテナリ−カ−テンは付けませんでしたがバロネットを釣り下げて重量の偏りを防ぐために頂点に2ヶ所のフックを取り付けました。

ボ−キャップ

飛行船の係留時にこの先端部のフックを地上に立てたマスト(支柱)の先端の360度自由に回転するポストに固定する。これは風向きによって飛行船が無理なく風下方向に回転出来るようになっています。またボ−キャップ先端からはヨ−ラインと呼ばれるロ−プを下げており着陸の際に地上支援員が これを持って誘導係留を行うためのものです。

今回の製作機には軽量化のため付けませんでした。係留は室内で風の心配が無いので立体トラスの屋根面空間部分にベルトを2本掛け渡しその中央にゴンドラが収まる係留ベッドに係留することとしました。

 

各部分の解説は以上です。

設計の沿革

飛行船の設計の沿革

@基本構想

設計コンセプトはキャンバスフェア’95の会場であるインテックス大阪1号館の館内を回遊飛行出来るもので、広い会場内において存在感のあるもの。まず、全長は5mに設定して、全長対直径比を(大型飛行船の通常値)3:1にすると 直径1.6mとなる。

 

A1回目の設計

この諸元を基に第1回目の設計に入った。

この結果エンベロープ容積 6.03   エンベロープ表面積19.79       

予想される浮力は 5.4kg以下であり、エンベロープ、バロネット合わせて4kg以下でないと飛ばない事が解りますが、予定していたエンベロープ素材は200g/u

  従ってエンベロープのみの自重で4kgちかい重量となるため、実用的でない事が解り諸元を変更して2回目の設計に入る。 1回目設計図(JW_CAD)1回目設計図(dxf)

 

B2回目の設計

表面積対浮力の効率を良くするために 直径を思い切って2.5mに変更して再設計を行った。前から2mの位置を最大直径として、前後に半楕円を2つ合わせた形状とし、表面積と容積を計算した結果

エンベロープ容積16.35  エンベロープ表面積34.786 

となり、エンベロープ重量6.96kg 浮力がバロネット容積を1割として14.715kgとなり約7.7kgの余裕となる、この結果を携えてゴンドラ及び駆動部を製作していただく飛行船製作会社のスカイピアの技術者 草谷様と協議した結果、もう少し余裕浮力が欲しいと言うことで、次の設計へ

 

C3回目(最終)の設計

 飛行させる会場の条件等から前回の諸元をそのままに形状を変更して、もっと効率を上げる。即ち、もっとズングリムックリに変更する事が課題であった。そこで、前回分の最大直径部から前半分はそのままにして、後ろ半分の半楕円を取りやめ、最大直径部からテーパーで絞っていき後端は半球形とすることで効率向上を計ることにしました。

この結果エンベロープ容積17.9998  エンベロープ表面積37.5478 エンベロープ重量7.51kg 

3回目設計図(JW_CAD)3回目設計図(dxf)

D重心位置と浮心位置の計算

エンベロープを100mm単位に分割して表面積と容積を求めていく、これと前端から、部分中心位置までの距離を掛けてそれぞれの総和を求める。こうして浮力(容積)モーメント、 重量(表面積)モーメントの総和を求める。総浮力(容積)モーメントを総浮力で割ると2,538.5mmになる。ということは浮心位置は前端から 2,538.5mmと言うことになる。重心も同様に総重量(表面積)モーメントを総重量で割ると 2,566.3mmになり、前から2,566.3mmが重心位置です。これはあくまで概算ですが。

(株)スカイピアの草谷様から、各装備部品の重量計画を送って頂き、これを基にゴンドラ位置、バロネット位置を決定し重心計画図(図1−2)を作成し、これを基に製作図の作成に入った。

 

E形状解析と展開図、裁断図の作成

形状は断面を最大直径部分から前に半楕円をまた後ろにテーパーで絞って半円を連結したものとし、断面図を作ります。

これに前部から、100mm刻みに半径を表示し、この間の表面長さを表面沿いに計測しています。此の数値から容積と、18分割展開図を求めます。

まず、容積は各部分の半径からその部分の断面積を求め、それに厚みの100mmを掛けて部分容積を求めて、これらを合計して総容積を求めます。(あくまでも概算ですが)

次に展開図(別図1−3)はテールとノーズのキャップを対辺距離227mmの正18角形(18角形とした時に30mmのバーで押さえられる大きさから逆算)として断面形状線が中心線より 113.5mmの線と交差する点から100mmの線までの表面長さ、そこから次の100mm線までの距離、・・・というふうに形状線上に表示された長さを順次直交座標の横軸に取っていき、展開図の基準線を作り、ここに各点の外周長さ(半径×2×3.14)の18分の1の半分の長さ(外周長÷18÷2=外周長÷36)をプロットしていき、展開図の半分ができます。こうして作った展開図の外周部分を、5mm外側(展開図の外周線と直角方向に5mmのところに)に平行線を引き、此の線を中心線を軸に反転複写し生地の裁断図ができます。前後のキャップは対辺距離227mmに継ぎ幅10mm(片方5mmづつ)を足して対辺237mmとします。

 

F部品取付位置の指定

こうして作った裁断図原型に各種部品位置を落とし込んでいきます。部品は殆どが係留用その他のフック類で、他に覗き窓、ゴンドラベース、バロネット取付部、ガスバルブ等です。部品位置の割り出しは、前後方向は形状解析図(断面図)に外観図を重ねて、各部品の表面線上の位置を割り出しこれを展開図に導き、次に横方向位置を正面図上から展開図上の縦軸位置を割り出して、落とし込んでいきます。

Gバロネット(空気袋)の形状

バロネットは屋外用飛行船並に30% の容積を持たせることになり、スカイピアの草谷氏と協議してバロネットファンの送圧に不安があるということで一つの試みとして、スプリング材を仕込んで自己展開する力を内蔵させようという発想から、ピラミッドを丸く膨らませたようなお椀型を2つ合わせた形にして、ピラミッドの稜線に スプリング材を入れることにし、最終試作時に実験した結果、見事に失敗しました。時間に余裕があれば再挑戦したかった・・・と敗将の弁。(でも、この発想自体はヘリコプターのように常時バロネットファンを駆動する宿命から飛行船を解放し、燃料効率を良くするために研究の必要があると思っています。)本番製作では、この影響で容積効率は悪いが縫製の楽なこの形状を引きずってしまいました。−−もっと時間が欲しかった。

 cadによる展開図

GIFでは分かりにくいのでこちらをどうぞ→jw_cadのファイル dxfのファイル

飛行船図面

 

ごちゃごちゃした図面ですが最終設計の姿図(側面)です。この図を基に表面積計算、容量計算、重心位置浮心位置の算出(上図に記入)及び縫製栽断図や部品取付け位置図(下図)を作成しました。

以下に 姿図から 栽断図部品取付け位置図の作成手順をご説明します。但し JW_CADを用いての手順です。

@上図のように 側面外形に両端部分は50mmピッチ中央部分は100mmピッチに縦線を配置して 各部の半径を JW_CADの寸法値コマンドで表示していきます。

A外形線に沿って 縦線との交点間の距離をやはり寸法値コマンドで表示していきます。

B @で表示した 寸法を回転コピ−コマンドで 縦向きにして測定・表計算コマンドで 18*2分割の円周値を一括して求めます。(36分割の定数:3.14/18:で値を数値の分コピ−しコマンド「A群*B群」で一括計算)

C姿図上方に 18分割展開図作成用に基準線(水平)と 中心から Aで求めた表面長さで 複線(平行線)を引き展開図のベッドが出来ます。

D各縦線に対応する 18分割の円周の半分の値(Bで求めた数値)を仮点・距離コマンドで仮点として表示していきます。

E Dで求めた仮点を曲線・スプラインコマンドで展開図の片方の線を求め この線を ウエルダ−押さえ幅の1/2の寸法だけ外側に複線コマンドでオフセットしこの線を 基準線(水平)に対して反転複写して栽断形状を求めます。

なお 船首及び船尾の丸い蓋はウエルダ−の小さい金型が30mmの長さだったのでウエルダ−の内径を1辺40mmの正18角形として設計しましたが 実際の製作時には 滋賀県の方々がかなり苦労されたようです。

以上が わかりにくいかもしれませんが展開図の作成方法です。