Henry Purcell: "Abdelazer or Moor's Revenge" Incidental Music
ヘンリー・パーセル(Henry Purcell、1659-1695年:今年生誕350年)は17世紀に活躍したイギリスの作曲家。イタリアやフランスの影響を受けつつ、独自の音楽を生み出したことで知られている。彼はそこで自らの才能を惜しみなく発揮し、もっとも優秀なイギリス人の作曲家の1人として知られている。
ウェストミンスターに生まれ、少年期には王室付属礼拝堂少年声楽隊の一員として、後には王室付きの調律師として活躍し、更に18歳の若さで王室弦楽団の常任作曲家の地位にまで上り詰めたという偉才の人物である。僅か36年でその生涯を終えるまでにも、ウェストミンスター寺院や王室礼拝堂などのオルガン奏者を歴任すると同時に祝賀音楽や劇場の付随音楽、合唱曲などの作曲を通して名声を高め、国王付きの音楽家にまで登りつめた。
この短い生涯の間に彼が残した曲はおよそ400曲以上あるが、どれもエリザベス朝時代のイギリス音楽が持つ諸要素と、彼が取り入れたイタリア・フランスの風が巧く融合し、自由奔放な彼独特の世界観を醸し出している。
「アブデラザール」付随音楽(組曲)
イギリスの女性劇作家・小説家であるアフラ・ベーン(1640-89)の劇作品「アブデラザール、もしくはムーア人の復讐」に付けられた音楽。アブデラザールとは、この劇の主人公であるムーア人(ヨーロッパ人が、北西アフリカに住むイスラム教徒をさした呼称)の名前。アフリカ北西部・フェスの君主であった父をスペイン国王によって殺され、幼くしてその庇護下に入ったアブデラザールは、
やがて策略をめぐらせてスペイン王家に対する復讐を果たそうとする。彼は次々と邪魔者を排除し、ついにはスペイン国王の座にまで就こうとするが、最後には腹心の部下に裏切られ非業の死を遂げる。アブデラザールをはじめ、多くの人間の思惑が交錯する複雑なストーリーである。
ヘンリー・パーセルによる付随音楽にはこうした、どす黒いストーリーにふさわしい陰鬱とした雰囲気も感じられるが、それ以上にパーセルの持ち味の、その独特の典雅な調べの美しさ、気品がただよっている。組曲は9曲からなるが、第2曲目のロンドはベンジャミン・ブリテンの有名な「青少年のための管弦楽入門−パーセルの主題による変奏曲とフーガ」の主題として親しまれている。