1Rokuoh-Sha
Anastigmat
非点収差のない平坦な像面が得られる色消しレンズであるためには、ペッツバールの条件により度(レンズの焦点距離の逆数)が凹レンズより強い凸レンズは屈折率も凹レンズより大きくなければならないが、アッベとショットによる研究の結果、1886年(明治19年)、屈折率と色の分散の度合いが相伴わない新種のガラスが誕生した(イエナガラス)。この新ガラスを用いた新色消しレンズは凸レンズ(新クラウンガラス)が凹レンズ(新フリントガラス)より屈折率が大きいので凸レンズの曲率をきつくしなくても凹レンズより屈折が大きくなり、分散は普通のフリントとクラウンの関係と同様である。新色消しレンズは非点収差を修正できたが球面収差の修正が不十分であった。イエナガラスを用いた新色消しレンズはアッベ博士により、まずツアイス社の顕微鏡の鏡玉に用いられた。新色消しレンズが写真鏡玉に初めて使われたのは1887年シュレーダーとミーテによってである。シュレーダー博士は(英)ロス社が製造したコンセントリック鏡玉を設計し、同じ年に(独)ミーテ博士も新色消しレンズを絞りを真ん中に置き対称に配置した複玉を設計しポーツダムのハートナック工場により製造された(ミーテの鏡玉に使われた新種ガラスは空気成分で腐食されやすく、じき市場から消えた)。ミーテ博士は新種ガラスを用いた鏡玉は、アスチグマット(非点収差)を修正できることによりこれを「アナスチグマット(非アスチグマット)」と冠名した。コンセントリック鏡玉とミーテ博士の鏡玉は非点収差は除かれたが他の収差は残っている。今日アナスチグマットレンズといえばザイデルの5収差全てを修正したものを指している。
ツアイス社のアナスチグマットは新旧の色消しレンズを組み合わせるものから出発したが、もし前玉(旧色消しレンズ)の外側の曲率と後玉(新色消しレンズ)の内側の曲率を等しくし、これを密着すれば単鏡玉のアナスチグマットとなり、かつ中央の2つのレンズを同一のガラスとすれば3枚貼り合せの単アナスチグマット鏡玉となるとルドルフ博士は構想し1891年(明治24年)、第6類アナスチグマットを設計する。また第6類の単鏡玉を絞りをはさんで対称に配置しさらに収差の修正を期した複玉として第6類Aアナスチグマットを設計する。特許を得て販売されるのは 1893年(明治26年)である。Anastigmat SerY は1895年(明治28年)Zeiss Anastigmat SerZが発売されるまでの2年間製造された。3枚張合せのアナスチグマットはわずかの期間で4枚張合せのアナスチグマットとなる。 3枚玉の単アナスチグマットの複式の使用についてゲルツ社が専売権を得てダブルアナスチグマット=ゲルツ第3類との名声を博した。良鏡玉ゲルツ第3類鏡玉を眼前にしてツアイス社のルドルフは3枚玉の第6類アナスチグマットをやめて4枚玉アナスチグマットである第7類を誕生させる。第7類は新旧色消し鏡玉を密着させ、中央を3枚に簡略せずに、収差の修正にかかる自由度を増やし、像面彎曲、非点収差の修正に厳密を期した鏡玉であり好評を博した。 新色消しレンズと旧色消しレンズを併せたアナスチグマット → 新旧色消しレンズを密着させ中央の2枚を1枚とした3枚玉の単アナスチグマットとその複玉(第6類及び第6類Aアナスチグマット) → 新旧色消しレンズを密着した4枚玉の単アナスチグマットとその複玉(第7類及び第7類Aアナスチグマット) 1895年 (明治28年)発売の 第7類アナスチグマットは第6類アナスチグマットが3枚貼合せの単アナスチグマットであったものを4枚貼合せとし改良したものである。Ser.Zの単アナスチグマットは絞りを凹面の前に置いてコマ、像面彎曲を減らしている。 Ser.Zaの前玉を単アナスチグマットとして使用するときは、同様に後玉と嵌め替える。複玉は同じ焦点距離の鏡玉を2つ用いた均斎式と後玉を短い焦点距離とした半均斎式とがある。第7類アナスチグマットは構造が複雑であり生産コストが高かった。そこで英国のロス社、仏国のクラウス社などがツアイスの免許のもとに生産をおこないアナスチグマットは市場に多々並んだため、ツアイスは自社のアナスチグマット鏡玉をプロターと称し、複玉である第7類aはダブルプロターと命名した。 第7類組合せ鏡玉 その後ツアイス社はボシュロム社などにライセンスを出し数社が製造を始めたため、1900年(明治33年)にツアイス社のアナスチグマットは特にProtar(初めの意)と命名された。小西本店は1894年 (明治27年)にツアイス社と輸入契約を結びアナスチグマットレンズの日本国内での普及に努めた。 |
1890年(明治23年) | Zeiss Anastigmat SerV |
前群2枚 後群2枚 | F 7.5 | 前群は屈折率の小さいクラウンと屈折率大きいフリントを張合せた色消しレンズ、後群はイエナガラスを用いて屈折率の大きいクラウンと屈折率の小さいフリントを張合せた新色消しレンズ。 絞りを中間に置き収差を打消しする。角度90度で迅速鏡玉 |
1890年(明治23年) | Zeiss Anastigmat SerW | 前群2枚 後群2枚 | F12.5 | 複写用に適す。1番からA7番は110度の広角鏡玉。 |
1890年(明治23年) | Zeiss Anastigmat SerX | 前群2枚 後群2枚 | F18 | 1番から5番は角度110度の広角。その他は90度の広角。 |
1891年(明治24年) | Zeiss Anastigmat SerVa | 前群2枚 後群2枚 | F 9 | 像面彎曲を極度に除く。角度97度。 |
1891年(明治24年) | Zeiss Anastigmat SerT | 前群2枚 後群3枚 | F 4.5 | 2群4枚のプロターの後群を3枚張合せに変更したレンズ。3枚張合せレンズはイエナガラスを用いアッベ数がちいさな凹レンズを中央にし、凸凹凸の順に屈折率が大きくなるよう配列。75度 |
1891年(明治24年) | Zeiss Anastigmat SerU | 前群2枚 後群3枚 | F 6.3 | 同上 85度 |
1893年(明治26年) | Zeiss Anastigmat SerUa | 前群2枚 後群3枚 | F 8 | 同上 75度 |
1893年(明治26年) | Zeiss Anastigmat SerY | 3枚貼合せ | F14.5 | SerZの製造により生産中止。 |
1893年(明治26年) | Zeiss Anastigmat SerYa | 前群3枚 後群3枚 | 3枚張合せ色消しレンズ2つを絞りを中央に置き対称に配置。SerZの製造により生産中止。 | |
1895年(明治28年) | Zeiss Anastigmat SerZ | 4枚貼合せ | F12.5 | SerYの改良品。角度85度。 色消しレンズと新色消しレンズ(イエナガラス)を接合した4枚張合せレンズ。 |
1895年(明治28年) | Zeiss Anastigmat SerZa | 前群4枚 後群4枚 | F6.3 | 角度80度。4枚張合せレンズを絞りを中央に置き対称に配置。 同じレンズを2つを前群、後群に使うZaは収差がよく打消されるが、焦点距離が異なるSerZレンズ2つを組立てて使う「組換写真レンズセット」も発売され、焦点距離の長い方のレンズを前に装し使用した(F6.3〜7.7)。 |
前玉と後玉を同一とする複玉(アプラナート)としないで、収差が相反する二種のレンズを使い、互いに打消すよう考案したのはシュタインハイルのアンチプラネットであるが、ルドルフ博士はこの考案にもとづき新旧の色消しレンズを使うことにより互いの収差を打消しあうように鏡玉の設計をおこなった。 |
1891年(明治24年)Anastigmat SerUは1893年(明治26年)SerUaにとってかわられるが1897(明治30年)小西本店目録にはAnastigmat SerUが載っている。 |
1900年Zeiss Anastigmat は Protar に名称変更された。 Anastgmat T Anastgmat Uha Anastgmat Ua → Protar Anastgmat V Anastgmat Va → Protar Anastgmat V Anastgmat W Anastgmat X → Protar Anastgmat V Anastgmat Ya Anastgmat Z → Protar Anastgmat V Anastgmat Za → Double Protar Anastgmat V ------------------------------------------- Anastgmat TaはPlanar Anastgmat Tb はUnar Anastgmat TcはTessar 1901年(明治34年)小西本店「写真月報」のプロター(旧称アナスチグマット)の広告。 |
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第3類アナスチグマット | ||||||
ザイス第3類 アナスチグマット鏡玉3番 Anastigmat Ser.V
F4.2 15 cm 二枚掛 ザイス第3類 アナスチグマット鏡玉4番 Anastigmat Ser.V F4.2 19.5cm カビネ ザイス第3類 アナスチグマット鏡玉6番 Anastigmat Ser.V F4.2 25 cm 5吋×8吋 ザイス第3類 アナスチグマット鏡玉8番 Anastigmat Ser.V F4.2 44 cm 八ツ切 |
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第3類aアナスチグマット | ||||||
ザイスA3類 アナスチグマット鏡玉1番 Anastigmat Ser.Va F 9
12 cm ザイスA3類 アナスチグマット鏡玉2番 Anastigmat Ser.Va F 9 15 cm ザイスA3類 アナスチグマット鏡玉3番 Anastigmat Ser.Va F 9 17.2cm 二枚掛 ザイスA3類 アナスチグマット鏡玉4番 Anastigmat Ser.Va F 9 19.5cm カビネ ザイスA3類 アナスチグマット鏡玉5番 Anastigmat Ser.Va F 9 23 cm 5吋×8吋 ザイスA3類 アナスチグマット鏡玉6番 Anastigmat Ser.Va F 9 27.2cm 八ツ切 ザイスA3類 アナスチグマット鏡玉7番 Anastigmat Ser.Va F 9 31.7cm 第5類アナスチグマット ザイス第5類 アナスチグマット鏡玉 1番 Anastigmat Ser.V F18 8.6cm 手札 ザイス第5類 アナスチグマット鏡玉 2番 Anastigmat Ser.V F18 11.2cm カビネ ザイス第5類 アナスチグマット鏡玉 3番 Anastigmat Ser.V F18 14.1cm 5吋×7吋 ザイス第5類 アナスチグマット鏡玉 4番 Anastigmat Ser.V F18 18.2cm 5吋×8吋 ザイス第5類 アナスチグマット鏡玉 5番 Anastigmat Ser.V F18 21.2cm 8ツ切 ザイス第5類 アナスチグマット鏡玉 6番 Anastigmat Ser.V F18 26.5cm 6ツ切 ザイス第5類 アナスチグマット鏡玉 7番 Anastigmat Ser.V F18 31.5cm 4ツ切 ザイス第5類 アナスチグマット鏡玉A7番 Anastigmat Ser.V F18 39 cm ザイス第5類 アナスチグマット鏡玉 8番 Anastigmat Ser.V F18 46 cm ザイス第5類 アナスチグマット鏡玉 9番 Anastigmat Ser.V F18 63.2cm ザイス第5類 アナスチグマット鏡玉 10番 Anastigmat Ser.V F18 94.7cm 第2類aアナスチグマット ザイスA2類 アナスチグマット鏡玉1番 Anastigmat Ser.Ua F 8 11 cm ザイスA2類 アナスチグマット鏡玉2番 Anastigmat Ser.Ua F 8 13.6cm ザイスA2類 アナスチグマット鏡玉3番 Anastigmat Ser.Ua F 8 16.7cm 二枚掛 ザイスA2類 アナスチグマット鏡玉4番 Anastigmat Ser.Ua F 8 20.5cm カビネ ザイスA2類 アナスチグマット鏡玉5番 Anastigmat Ser.Ua F 8 24.4cm 5吋×8吋 ザイスA2類 アナスチグマット鏡玉6番 Anastigmat Ser.Ua F 8 29.5cm 8ツ切 ザイスA2類 アナスチグマット鏡玉7番 Anastigmat Ser.Ua F 8 43.3cm 第7類アナスチグマット
第7類aアナスチグマット
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再び3枚接合レンズを製造 |
ProtarSer.W F12.5(Anastigmat Ser.Wではない) | Double Protar Ser.W F6.3-F7 |
ザイス第4類1番 Protar Ser.W F12.5 15 cm 手札 ザイス第4類2番 Protar Ser.W F12.5 19 cm カビネ ザイス第4類3番 Protar Ser.W F12.5 23 cm 5吋×7吋 ザイス第4類4番 Protar Ser.W F12.5 25 cm 8ツ切 ザイス第4類5番 Protar Ser.W F12.5 30 cm 6ツ切 ザイス第4類6番 Protar Ser.W F12.5 35 cm 4ツ切 ザイス第4類7番 Protar Ser.W F12.5 43 cm ザイス第4類8番 Protar Ser.W F12.5 50 cm ザイス第4類9番 Protar Ser.W F12.5 60 cm ザイス第4類10番 Protar Ser.W F12.5 70 cm |
ザイス第4類 1番 1番 Double protar F6.3 8.7cm ザイス第4類 2番 1番 Double protar F7 9.6cm ザイス第4類 2番 2番 Double protar F6.3 10.8cm ザイス第4類 3番 2番 Double protar F7 11.8cm ザイス第4類 3番 3番 Double protar F6.3 13 cm 手札 ザイス第4類 4番 3番 Double protar F7 13.6cm 手札 ザイス第4類 4番 4番 Double protar F6.3 14.3cm 手札 ザイス第4類 5番 4番 Double protar F7 15.7cm カビネ ザイス第4類 5番 5番 Double protar F6.3 17.3cm カビネ ザイス第4類 6番 5番 Double protar F7 18.6cm 5吋×7吋 ザイス第4類 6番 6番 Double protar F6.3 20.2cm 5吋×7吋 ザイス第4類 7番 6番 Double protar F7 22.3cm 5吋×7吋 ザイス第4類 7番 7番 Double protar F6.3 25 cm 5吋×8吋 ザイス第4類 8番 7番 Double protar F7 26.7cm 8ツ切 ザイス第4類 8番 8番 Double protar F6.3 29 cm 8ツ切 ザイス第4類 9番 8番 Double protar F7 31.6cm 6ツ切 ザイス第4類 9番 9番 Double protar F6.3 35 cm 6ツ切 ザイス第4類10番 9番 Double protar F7 37.5cm 4ツ切 ザイス第4類10番10番 Double protar F6.3 40.7cm 4ツ切 |