統合失調症の病理学


〜 これまで私につきあってくれた全ての統合失調症患者さんへ 〜
〜 感謝と敬意と親愛の気持ちをこめて捧げます 〜

統合失調症についてのQ&Aはこちら

ご意見・感想はメールGUEST BOOK

YASU-Qの研究テーマに戻る


はじめに

ご利用に際しての注意 (必読!)

伝統的な精神医学から

精神分析学的な立場から
  • 古典的な精神分析理論では
  • 対象関係論 その1
  • 対象関係論 その2
  • ラカン派の立場から その1
  • ラカン派の立場から その2

ファントム理論
  • ファントム理論について
  • ファントム空間と座標軸について
  • ファントム機能の異常
  • 統合失調症の症状への適用

認知科学的な立場から

ハードの問題?ソフトの問題?OSの問題?

「統計」のウソ

最後に

参考文献

ホームページへ

YASU-Qの研究テーマに戻る


目次に戻る

はじめに



あなたは実際にこの病気の患者さんに会ったことがありますか?

この病気の有病率*は,国を問わず大体0.5〜2%であり,決して珍しい病気ではありません。と言うか,ありふれた病気です。最近多い多いと大騒ぎされる「結核」や,だれでも耳にしたことのある「メニエル氏病」の有病率は0.02〜0.05%とこの病気の10分の1以下ですし,胃潰瘍・十二指腸潰瘍を併せた「消化性潰瘍」の有病率は1〜2%,「喘息」が3%ですから,大体これらの病気と同じくらい「よくある病気」ということになります。ですから,確かにあなたは患者さんと毎日どこかで出会っているはずです。そうと気づいていないだけで。

「有病率」:ある時点での総人口に対する患者さんの人数の比。有病率1%というのは,「人口100人のうちその病気の患者さんが1人いる」ということ。

以前よく医学生や看護学生さんの病棟実習に立ち会いましたが,彼らは異口同音に「実際に患者さんに会って話してみると全然普通の人でビックリした」と言います。もちろん実習に付きあってくれる患者さんというのは経過の長い安定した患者さんがほとんどなので,彼らがもっと重症の患者さんに接していれば違う感想を持ったかもしれません。しかし,閉鎖病棟から何年も出たことがないというような患者さんでも,症状以外の話は結構普通にできます。私には今でも友人付き合いしているこの病気の患者さんがいますが,彼もわずかに症状は残っているものの他は全然普通の人です。

彼らは誤解され差別されるべき存在ではありません。またヘンに美化されるべき存在でもありません。彼らは普通の人です。統合失調症という病を負いそれに悩まされているだけで,一人の人間として私たちと本質的に何も変わるところはありません。私は小さいときから喘息という持病に悩まされ,常に一定のハンデを負ってきましたが,喘息ではない人と別に本質的に変わるところはありません。それと同じことです。

しかし彼らが統合失調症という病を負っていることは事実です。そしてこの病気が簡単な病気ではないことも。

「統合失調症って何なんだろう」「患者さんは非患者とどこが違うのだろう」「患者さんを悩ませる精神症状はどこから来るのだろう」これがYASU-Qの素朴な疑問です。私には難解な精神病理学の用語を理解し正確に使いこなす頭脳はありませんし,動物モデルから得られた生物学的な理論をそのまま患者さんに適用するほどの割り切りもできません。

以下にあげていく色々な理論,考え方はYASU-Q自身のこれまでに勉強してきた患者さんの世界へのアプローチ方法です。そして,これらはみな私と同じような疑問を持った精神科医たちが患者さんの世界を理解するために実際にたどった道のりでもあります。
私達の勉強はまだまだ途中ですが,もしよろしければあなたもご一緒にどうですか? もちろん患者さんご自身も大歓迎ですよ。


目次に戻る

ご利用に際しての注意

  1. 統合失調症の病理に関する様々な理論・仮説をYASU-Q個人の独断で選択,解説を試みています。
    はじめに」に書いてある通り,患者さんの世界をより理解するため,また患者さんの世界を理解しようとしてきた先人の業績を紹介することが目的です。

  2. なるべく間違いのないように心がけていますが,何せ私アホですので...(笑)。また,主観入りまくり・思想的に偏りまくりの部分もあります。学術目的でのご利用は避けられた方が賢明です。

  3. 精神科医YASU-QのHP」内のコンテンツです。転載・引用方法,免責事項などはサイト全体のものが適用されます。検索エンジンやどっかからの直リンで来られた方はできれば一度こちらに目をお通し下さい。
    また,言うまでもなくこのコンテンツもリンクフリーですが,ファイル名などコロコロ変わりますので,もう少し上位のファイルかホームページにリンクする方が賢明でしょう。

  4. 精神症状に関する生々しい描写を含みます。今,調子が良くない方はご利用をひかえられた方が良いでしょう

  5. 自己診断を推奨するものではありません。あなたの精神症状や病気に関する判断は,必ず実際の主治医に相談して下さい。ネット上の情報だけで自己診断を試みることは非常に危険なことです

  6. 現在は一部のコンテンツのみ完成しています。残りの項目は予告編です(笑)。今後ボ〜チボチ書き上げていく予定ですので気長〜にお待ち下さい。

  7. 文中に出てくる症例は全てYASU-Qの創作です。実在の症例・人物・組織などとは全く関係ありません。


目次に戻る

「統計」のウソ


精神生理学的研究に限らず,およそ科学的な研究というのは,基本的には

  1. 何らかの仮説を立てる
  2. 仮説の検証をするための実験系を考える
  3. 実験を行う
  4. 実験結果に基づき仮説の(真か偽かの)検証をする

という手続きによってなされます。医学上の研究も「科学」である以上,この手順で行われますし,論文の記述も基本的にこの流れにそってなされます。そしてこの一番大事な

  1. 実験結果に基づき仮説の(真か偽かの)検証をする

際に重要な役割を果たすのが「統計学」なのです。

-------------------------------------------------------------

例えばここでAという数字が(脳内のドーパミンの量でも,ある種の脳波の値でも何でもいいです)統合失調症の原因と大きな関係がありそうだ,と考えたとします。このAという数字と統合失調症との関係を研究しようとすると,次のような手順を踏むことになります。

  1. 統合失調症患者ではAの値が亢進しておりこれが統合失調症発症と関係している(仮説)
  2. 健常者10名と統合失調症患者10名からAの値を測定し比較する(実験計画)
  3. Aの値を測定する(実験)
  4. 得られた測定値の差を健常者と統合失調症患者とで統計学的に検証する(仮説検証)

で,実際に下記のようなAの測定値が得られたとします。

健常者Aの値 統合失調症患者Aの値
H.M.さん1.5T.H.さん1.9
T.T.さん0.7D.W.さん2.6
F.A.さん3.2I.F.さん3.6
S.O.さん1.1R.S.さん4.3
K.S.さん2.3S.S.さん0.5
T.K.さん4.5K.E.さん3.4
M.M.さん0.9S.K.さん2.9
A.Y.さん1.4I.I.さん3.7
A.A.さん2.0K.Y.さん3.9
R.U.さん1.2T.S.さん4.1

単純に両者の平均値を比べると健常者は1.88,統合失調症患者さんは3.09ですから統合失調症患者さんの方が高いように見えますが,T.K.さんのように健常者でも値が高い人やS.S.さんのように患者さんでも値が低い人がいますので,一概に患者さんの値が高いとも言えません。そこで,統計学の登場です。
この場合は,「患者群の平均値と健常者群の平均値に実は差はない」という仮説を立ててこの仮説がどのくらいの「可能性で」成立するか・しないかを調べるわけです。調べる計算法はいくつかあります。実際に計算してみると,Studentという人が開発した"t検定"ではこの仮説は96.7%の確率で棄却されます。またMannとWhitneyという人達の開発した"U検定"という方法では95.1%の確率で棄却されます。
つまりいずれにせよ95%以上の確率で「両者の平均値にはやっぱり差がある」→「統合失調症患者ではAの値が亢進している」という最初の仮説が成立することになってしまいます。そしてたいていの論文ではこれだけの根拠で「統合失調症患者ではAの値が明らかに亢進しており,これは分裂病の発症に大きく関与していると考えられる」とまで結論付けます。

-------------------------------------------------------------

当然ながらここには大きなウソが潜んでいます。

まず最初に,統計で得られた結果はあくまで「可能性」の世界にあるということです。上の例でいきますと,確かに95%以上の確率で「統合失調症患者でAの値が高い」という仮説は成立しますが,真実が残り5%の方に存在する可能性は決して否定できません(こういう誤りを統計学では「タイプ1のエラー」といいます)。また1つの仮説を検証するために複数回数の統計計算を用いれば,その回数だけタイプ1のエラーを犯す可能性が高くなります。
事実,実験に参加した人たち全員の中で最もAの値の高かった人は健常者のT.K.さんであり,最も低かった人は患者さんであるS.S.さんだったのです。彼らの存在は「統計」によって無視されてしまいます。

また,仮にAの数字と統合失調症発症とが関係していたとしても,「風が吹けば桶屋がもうかる」式に両者の間に様々な別の要因が介在している可能性があります。例えば「Aの数字はBという因子に影響し,BはC因子とD因子に影響する。Bには他にE因子とF因子が影響を与え,EはC因子にも影響しており,DはF因子に影響する。C因子はさらにG因子とH因子を介して,I因子に影響しこのI因子が発症を規定する」のような場合(ちょっと複雑すぎますが),Aの値が最終的な発症と関係すると言っても,その関係は非常に遠いもので,むしろI因子やB因子の方がよっぽど重要です。

研究者達はえてしてこの種の誤りを犯しがちですし,一般の人たちもまた,この種の常に間違っている可能性を含んだ学説を,権威あるJournalに載っている結果だから・権威ある先生の言うことだからとよく確かめもせず信じてしまいがちです。

目次に戻る


 

参考文献

伝統的な精神医学から
精神分析学的な立場から

ファントム理論

認知科学的な立場から

ハードの問題?ソフトの問題?OSの問題?

目次に戻る


ホームページへ

Copyright (C) by YASU−Q