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最も気に入っているアルバム、「Goodbye gentle land」は1987年に発売されている。はからずも、その中の一曲をたまたま耳にしただけでこのアルバムを買った。高校生の少ない小遣いで、見知らぬアーティストのアルバムを買うことは冒険だった。
ギターの前奏で1曲目"Hello Again"がはじまる。
この皮肉な曲はこのアルバムの中で一番僕の心をえぐる。
このやさしき国の中で
そのやさしさを 受けるため
ふりをするのが とても上手な
素直な よい子になろう
だめな大人の まねをしよう
しぐさや 言葉使いまで
素直に 受け入れた方が
この街は BIG GENTLE LAND
「Hello Again」
ゆるやかな旋律にのせた仁成のざらついたボーカル。この国をやさしき国と皮肉り、システムにのせられたように振る舞いながら、したたかに生きる。
やさしきこの街をうたいあげたこのアルバムのイントロダクションにふさわしい曲。
ペットショップで働き始めた MISS YOKO
が、売れ残っていくブルドッグに自分を重ね合わせ孤独を感じる"Bulldog"。仁成は
DON'T WORRY BABY タフに とMISS YOKOにエールを送る。
この曲が終わると、ECHOESを知るきっかけとなった曲、"Gentle Land"がはじまる。
Ah, TVをつけると 悪口ばかりですなおには笑えない
Ah, あふれるゴシップ ぼくらはだんだんやなやつになっていく
電車にはられた広告が その日の話題じゃ寂しすぎる
胸をはって歩いていたい Spirits of Gentle Land
「Gentle Land」
ツトムの叩くドラムのリズムに乗せて、10代後半くらいの視点でこの窮屈な街をストレートに歌い上げる。華やかさとは裏腹に誰もが一人であることを痛感させられる切ない gentle land。愛されたいと叫ぶ仁成にあわせて口ずさんでいる自分がいる。
この曲には原宿の歩行者天国で行われたストリートライブで構成されたプロモーションビデオがある。何度見たかわからない程繰り返し見た。
ヒロキが弾くInstrumentalの"Bazaar"で落ち着くと、次は"Tonight"
目の前に積み上げられていく真っ白なYシャツに焦燥感を感じる、クリーニング工場で働きはじめた主人公。そのYシャツとブルーカラーである自分との対比。
ハンガーに吊られた 洗いたてのシャツに なりたくはない
「Tonight」
"One Plus One"では短い曲で強烈なラブソングが唄われる。
"Air"はこのアルバムの中でもう一つの中核を形成している。
社会に出ていくにつれて、この街に漂う閉塞感に包まれていく。この曲を聴くと、がばっと窓を開けて、空を見上げて大きく息を吸ってみる。そんな気にさせられる。
そして"Sandy"。
サンディー 誰かを 殺す夢で 目が覚めた
君が 僕に内緒で ある日電話を変えた夜
「Sandy」
この曲は"One Plus One"の対極にあるラブソングなんだけど、"Sandy"の狂気は"One Plus One"の純愛の延長線上にあるような気もする。いずれにしてもこの2つのラブソングの歌詞は、辻仁成(ひとなり)の登場を予感させる。
次の"Let's Party"は、1曲目の"Hello Again"の別バージョン、僕らにこの街でうまくやれよと唄っているような気がする。そして"Red
Sun"へと続く。ふとすると環境ソングになってしまう歌詞だけど、この gentle な街をうたいあげたアルバムの中ではそれ以上の意味合いを感じる。
"Good-bye Blue Sky"
こんどは少し 長いお別れに なるかもしれない
どこかの街で みかけたら 声をかけてほしい
深くかぶった ハンチングの下
白い歯を光らせたら 合図さ
その時は もう一度 手を組んで 派手にやろう
「Good-bye Blue
Sky」
このラストの曲はいつも心を締め付ける。夢を追いかけ続けている boys & girls。みんなが「Hello Again」 のようにこの街を見透かして上手く渡っていけるわけじゃない。むしろここで唄われる3人のようにひたむきに生きている。苦い思い出、若き日の苦悩、夢やぶれた心、どこか自分に投影されるものがある気がする。
ECHOESの最後のライブ、日比谷野外音楽堂での最後はこの曲だった。トラブルがあったけどそこに集まった奴らは歌い続けた。
こんどは少し 長いお別れに なるかもしれない という歌詞を強く噛み締め、また手を組むんで派手にやる時が来るのまでの間の短いサヨナラをECHOESに告げた。
仁成が 「大切な"詩集"」 と言うこのアルバム、とても大事にしていきたい。 |