3代目タイガーマスク

評伝


デビューからしばらくは初代の「八切」タイプを着用

もがき苦しんだ若き虎

3代目タイガーマスクは失敗作だったと断じねばならない。それは、金本浩二という一人の若手レスラーが周囲の思惑の中で自分を見失い、ひたすらもがき苦しんだ過程であった。
92年初頭。3代目タイガーの企画は唐突に持ち上がった。この年、新日本プロレスは創立20周年を迎え、記念イベントを連発していた。その一環である3月1日、横浜アリーナ大会では坂口征二&ストロング金剛、ヤマハ・ブラザースといったところを復活させ、新日の歴史をたどるエキジビションを計画。3代目タイガーもそのひとつで、あくまで一夜限りのイベントとして構想されたものだった。タイガー役には当初獣神サンダー・ライガーを予定したが、WCW遠征のためキャンセルとなり、代わって選ばれたのが金本だった。
3代目タイガーはこの試合で、初代そっくりの虎殺法を連発。敗れたとはいえファンの喝采を浴びる。金本本人も「今後もたまにやりたい」と色気を見せ、大阪や広島でのビッグマッチに再登場。技だけでなく、初代タイガーのひとつひとつの動きを忠実に再現したことが人気を呼び、単なるゲスト出場に止めるには引っ込みのつかないところに来ていた。
金本は翌年初めにメキシコUWAに発ち、キング・リーと名乗ってマスクマンとしてのファイトを積む。遠征はわずか4ヵ月で切り上げられ、5月の福岡ドーム大会に凱旋、3代目タイガーマスクとして正式デビューを飾る。それもライガーにフォール勝ちという破格の扱いであり、フロントがいかに期待をかけていたかがわかる。しかし試合後、ライガーは余裕たっぷりの発言を残し、タイガーが格下であることを印象づけた。ファンの認識も同様で、タイガーがライガーの地位を揺るがすほどの存在とは思われていなかった。
8月のG1。「両国7番勝負」と名づけられた企画の緒戦で負傷したタイガーは、ファンの前で泣き叫ぶ姿まで見せてしまい、途中欠場する。次のシリーズで復帰するものの、ライガー、ブラック・タイガー(2代目)、折原昌夫といったところに連敗。再び戦線を離脱する。翌年1月の東京ドーム大会でライガーに三度挑戦して敗れ、試合後にマスクを投げ捨てた。メキシコAAAでの再修行を積むも、新日が初代タイガーの復帰を画策していたことに強く反発、遂には7月、素顔でやり直すことを宣言するに至るのである。

94年7月、最後の試合で着用したカラフルなマスク

地に落ちた「タイガーマスク」

3代目タイガーに求められたのは、とどのつまり初代のコピーでしかなかった。一介の若手レスラーに過ぎず、自分なりのファイトスタイルも確立できていなかったが故に、彼はビデオを見ては初代の動きを真似るしかなかった。いみじくも92年5月、私がライガーにインタビューした折、タイガーについて「まだまだ見様見真似」と切り捨てている。そしてこのスタイルが本人のやりたかったものでは必ずしもなかったことは、黒のショートタイツにこだわる現在の彼を見れば自明だ。
飛んだり跳ねたりのアイドル・マスクマンを演じ続けることに疲れたタイガーは、ある時期からヒール志向を強める。目の吊り上がったマスクを被り、キックを主体に時にはイスまで手にする「冷たい虎」である。この方向は面白い可能性を孕んでいたとは思う。原作のマンガでもタイガーマスクは当初、「虎の穴」が育てた悪役レスラーであり、全米で「黄色い悪魔」と恐れられた存在だった。新日ではかつて、同じように四苦八苦していたザ・コブラがヒールの道を選ぶことで、逆にファンに受け入れられた例もある。しかしこのスタイルもまた彼本来のものではなく、さながら初代の再来を要求する周囲への反発ないし抵抗から、半ば破れかぶれで選んだ姿のように見えた。
なにより3代目タイガーは、まだあまりにも力不足だった。デビューからわずか2年半のレスラーである。本来なら前座で勝ったり負けたりを繰り返しているはずの時期だ。マスクをかぶっただけで、世界一のレベルを誇る新日ジュニア戦線に放り込まれて、通用するはずがない。
失敗の要因をいまひとつ挙げるなら、やはりライガーの存在がある。同じ団体に、ジュニアのアイドル・マスクマンは2人もいらないのである。そして、時間をかけてジュニアのトップとしての地位をつかみ、ファンの絶大な信頼を勝ち得たライガーと、すべての面で未熟だったタイガーとでは勝負にならなかった。タイガーにとってライガーを超えることが至上課題であったが、それは難しすぎる。ライガーもある意味、タイガーの存在とそれをプッシュするフロントを面白く思っていなかったようで、タイガーを徹頭徹尾格下扱いする一方、海外マットへの進出をほのめかしたりもしていた。このあたり、いろいろな思惑が見え隠れする。
3代目タイガーは苦しみ、悩み、疲れ果てた末にマスクを捨てた。金本はいまも、タイガー時代に触れられるのを嫌がるという。
そして、黄金のマスクにもたっぷりと手垢がついた。正体不明の虎戦士が活躍できる時代ではもはやないことを、ファンもマスコミも熟知してしまった。かつてあれほど輝かしかったタイガーマスクという名は完全に地に堕ち、いまや永遠に封印されるしかないかのように見えた。そう、4代目が登場するまでは。



年譜

国内シングル全戦績

覆面の変遷



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