初代タイガーマスク

評伝

(注:1996年9月3日執筆。現状と一部そぐわない部分もあります)



「IIIタイプ」マスク。83年6月より引退まで着用

永遠に語り継がれる伝説の虎

力道山、アントニオ猪木、初代タイガーマスク、大仁田厚。
日本プロレス界で、後進に強い影響を与えたビッグ4はこの4人だろう。
初代タイガー、佐山サトルの偉大さは改めて述べる必要はない。タイガーマスクとしての活動はわずか2年4ヵ月に過ぎないが、その間に永遠に語り継がれる不滅の金字塔を打ち立てた、不世出の天才プロレスラーである。
タイガーは、日本マットで独特の開花を遂げたジュニアヘビー級というジャンルを根づかせた
彼はまず、技術面で画期的な革新を遂げた。先駆者である藤波辰巳(現・辰爾)、グラン浜田は主としてルチャ・リブレの技を紹介することに専念していたが、タイガーは天才的な運動神経を基に、それらを塗り替えた数々の「4次元殺法」を生み出したのである。過去の異種格闘技戦経験から、ムエタイ流のキックを導入したことも新鮮だった。加えて、今日では当たり前になっているハイスパート・レスリングを普及させたのもタイガーだった。エンターテナーとしての天性のセンスに支えられた彼の試合は常にエキサイティングであり、数々の名勝負を生み出した。
プロレス村的話題でいえば、NWA世界とWWFの両ジュニアヘビー級王座を同時に保持したことは間違いなく歴史的な偉業である。アメリカに2回、メキシコに4回招かれ、現地のファンを驚倒させてのけた。アメリカの専門誌のモースト・ポピュラー・ランキングには数ヶ月に渡り、「TIGERMASK」の名が載り続けた。アメリカにもメキシコにも、タイガーマスクを模したレスラーが何人も出現した。これほどまでにワールドワイドな評価を得た日本人レスラーは、空前絶後と言っていい。
アイドル・マスクマンという分野を確立させた功績も見逃せない。タイガーがいなければ、2代目以後はもとより、獣神サンダー・ライガーも、ウルティモ・ドラゴンも、ザ・グレート・サスケも生まれることはなかっただろう。先駆者としてのミル・マスカラス、ザ・デストロイヤーは認めるにせよ、タイガーの存在はマスクマン、ペイント・レスラーといったキャラクターを、日本のファンに受け入れさせた嚆矢とも言える。
タイガーは84年、ザ・タイガースーパー・タイガーとして第1次UWFに転じ、いわゆるシューティング路線を推進する。キックと関節技を主体にしたスタイルで、日本マット始まって以来の衝撃となったUWF革命を展開したのだ。この点もまた、タイガーの偉大な業績のひとつに数えねばならない。今日のリングスやパンクラスはもとより、K−1を始めとする一連の格闘技人気の源流も、元をただせばここにつながるのである。
あの頃、金曜8時のテレビには常に、タイガーの姿があった。子供たちを始めお茶の間での知名度は高く、全国的に空前の新日本プロレス・ブーム、タイガーマスク・ブームを巻き起こしていたものだ。
それほどの偉大なレスラーだっただけに、引退後の一部の言動は残念でならない。詳述は控えるが、誤解や行き違いはあったにせよ、結果的にプロレス界とファンとを敵に回すことになってしまった。私たちはタイガーマスクの名を口にするとき、いまなお愛憎ないまぜた複雑な感情を覚えずにはいられないのである。

96年6月より着用の白銀マスク。デザインは「伝説タイプ」と同じ

晩節を汚すこと勿れ

そんなタイガーが突然、プロレス界にカムバックした。エキジビションにとどまらず、本格的な試合出場も始めた。確かに、あの4次元殺法を再び目の当たりにできることは、私たち往時を知るファンにとって大きな喜びである。また、経営難に悩む一部インディペンデント団体にとって、全国的な集客力をもつタイガーの存在は、まさに救世主といえるだろう。
しかし、現在のタイガーのコンディションは今日のハードなファイトスタイルに対応できるものではない。全身コスチュームで覆い隠しているとはいえ、100キロもの体重をしょっているのだ。到底、往年のスタミナ、スピードを維持できるはずがない。最近の試合では、これがあの華麗だった虎戦士かと嘆きたくなるようなファイトに終始したこともある。
まして13年間ものブランクの間、日本マットの技術水準は格段に進化しているのだ。往年をなぞったファイトだけで、目の肥えた現在のファンを納得させるのは難しい。シューティングスタイルに転ずるという選択肢もあるが、拒否反応を示す人も少なくないことは、96年6月30日の横浜アリーナ大会で証明されてしまった。
ファンがレトロ感覚で楽しんでいるうちはいい。しかしそれが飽きられた時、タイガーはいったいどうするつもりなのだろう。みちのくプロレスで活躍する愛弟子・4代目タイガーへのマイナスも無視できない。
カムバックの理由は「シューティングの借財を返すため」だという。アルバイト的感覚でリングに上がるいまのタイガーに、疑問を覚えるファンも少なくないのではないだろうか。佐山はタイガーの肖像権を買い取り、グッズの販売や自主興行も手がける計画というが。
彼は「あと5年はやれる」と豪語する。いずれにしても、往年の輝かしい伝説にこれ以上泥を塗ることだけはないよう、切に望みたい。




年譜

国内シングル全戦績
初代タイガーマスク

ザ・タイガー/スーパー・タイガー/復活初代タイガーマスク/タイガーキング

初代タイガーマスク・海外全戦績
(HOT DOG Igarashiさん提供)

覆面の変遷

テレビ放送試合リスト
(虎四郎さん提供)



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